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第94話「調査開始」

 警察署に辿り着いた私達は、そこで行われている異常な光景を再び垣間見る事になった。

 明らかに正気を失っている人々。眼は血走り、雄叫びを上げて目の前にいる人間を攻撃している。まるで獣のようだ。

 この光景は、先に来ていた越智さんと青年も目撃していた。


「なんだ、こりゃあ? 一体どうなってやがる」

「…………」


 あまりの出来事に、二人も混乱していた。

 私には、これがただの諍い故による暴動であるとは思えなかった。つい数日前まで、平穏な生活をしていた人達が突然こんな殺戮が出来るようになるはずがない。それも、こんな大勢が。

 具体的には言えないけど、何か作為のようなものを感じる。そんな気がした。


「仕方ないわね」


 すると越智さんは、バイクの後部座席から降りて暴走する人々の方へとゆっくり歩き始めた。

 そして大きく息を吸い込んだかと思うと、全員に届くような声で一言。


「『止まって』」


 その瞬間殺し合いをする人々は、突然その動きを『止めた』。まるで時間でも止められたかのようにピッタリと。

 動きを止めた人達自身、何故このような事になっているのか分からず戸惑っているのが窺える。


「うっ……な、長くは保たないから、今のうちになんとかして!」

「なんとかって言われてもよぉ……」


 青年は、唸る。

 動きを止められても、これだけの人数を完全に無力化するには時間も人手でも足りない。人を停止させる力に効果時間があるなら、のんびりもしていられないのだろう。

 でもリリーなら、短時間で全員を拘束する事が出来る!


「リリー、お願い!」

「みー!」


 リリーは、指先から蜘蛛糸を放出して停止する人々を次々と拘束していく。

 その巧みな手捌きによって、あっという間に全員ぐるぐる巻き。指先一つ簡単には動かせない格好に仕上げてくれた。


「ありがとうリリー!」

「みー!」


 私が感謝を述べると、リリーは甘えるように私の体に飛びついてきた。

 さて、これでこれ以上の被害は増えないはず。ひとまずは、安全だろう。


「……蜘蛛の糸?」

「越智。彼奴ら何者だ?」

「だから知らないわよ。私が知りたいくらい」

「……まあ良い。取り敢えず、こいつらから事情を聞き出す」


 そう言って青年は、蜘蛛糸で拘束されて倒れる一人の男性に近付いた。


「う、動けねえっ! 解けっ!! 糸を解けよ!!」

「おいお前。なんでこんな事をしたんだ?」

「解け!! 解けっ!! 殺す!! 殺すッ!! 殺ォスッッ!!!!」

「ちっ。埒が明かねえな」


 男性は、発狂していてまともに会話出来る雰囲気ではない。

 他の人達も、この男性と同じような症状だ。皆、怒りに任せて罵声を喚き散らしている。


「どうなの?」

「こいつら全員、明らかに普通の状態じゃあねえ。こんな風になった原因があるはずだ」

「原因。事故とは思えないけど……」

「何にせよ、調べてみりゃあ分かる事だ」


 越智さんと青年は、この事件について二人で動き始めた。

 私達はどうしよう? 正直この事件の真相は気になるけれど、それは本来の目的とは関係ない話。

 ……でも、事件の調査に協力すれば越智さんが私達のことを信頼してくれるかもしれない。


「リリー。私達も、この事件を調べてみよう」

「みー」


 さあ、とはいえどうしたものだろう。こんな意味不明な事件、何から手を付けたら良いのか。

 取り敢えず聴き込み? でも、ここに居る人達は冷静さを無くしている様子だし。

 うーん。暴走してなくて、情報を持ってそうな人を探してみようかな。

 私とリリーは警察署の敷地へと入った。

 昨日ここへ来た時には、ここにも幾人かが歩いていたけれど今は誰一人として見当たらない。


「避難所の中なら、誰か居るよね」


 私は、昨日も訪れた避難所の扉を開く。


「オオオオオオオオオオオッ!!」


 突如、中に居た中年男性が私目掛けて走り寄ってきた。

 咄嗟の出来事に、私は体を硬直させる。


「みー!」


 リリーが私を庇って前に出てくれた。

 中年男性は、ナイフのような物を持って突き刺してきたけれど、リリーの『鉄の皮膚』がそれを防いだ。その後、蜘蛛糸で中年男性を拘束してなんとか事なきを得た。


「な、何だったのっ?」

「みー」


 私達は、避難所の中を見る。

 そこには、血を流し倒れる人間の死体が幾つも転がっていた。おそらく、ここへ避難してきた人達だ。

 ただ昨日目撃した数と合わないので、他の人達は逃げたのかな?


「こんな所にまで被害が……。生きている人は、居ないみたいだね」


 何処かに事件の手掛かりは無いかと、私とリリーはこの避難所内を調査してみた。

 けれど、所詮は素人。探偵のような洞察力を持っている訳ではないので、大した情報はえら得ない。

 それよりも気になるのは、コスモスの姿が見当たらない事だった。

 あの子、花江さんを探す為先にここへ来ているはずなのに。何処へ行ってしまったのだろうか?


「うーん。ここはもう探せるところが無さそうだし、他の場所を見に行こうか」

「みー」


 私達の調査は続く。

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