第76話「お着替え」
「みー!」
「オオー。良いじゃないッスか先輩」
地下の倉庫。
リリーを変装させる為、そこにあった衣服を見繕った。
長い白髪は、団子のように纏めてその上に帽子を被せる。次に、赤目を隠す為に眼鏡を掛けさせればある程度は目立たなくなった。
後は、現代人に適した格好に着替えさせれば、どこからどう見ても人間の子供にしか見えない。
「これはアレだな。ボーイッシュファッションってやつか? 言ノ葉杏里のセンスが見えたな」
「うっ……。だ、駄目だった? 私、あんまりお洒落とか気にした事なくてさ……」
「いやいや、リリー先輩に良く似合っていると思うぞ」
「みー」
「ホラッ。先輩も喜んでいる」
よ、良かった。
「……コスモスは、可愛い服装だね。その格好も凄く良いと思う」
「んっ、そうか?」
私がリリーの衣服を選んでいる間、コスモスも自分で衣服を探して着替えていた。
彼女が選んだのは、白と黒のロリータファッション。正直意外だ。
コスモスは男勝りなので、男子っぽい格好をすると思っていた。
「人間の美的センスとか分かんねーから適当に選んだが、違和感が無いなら何よりだ」
「みー」
(これはこれで目立つ格好だと思うけど……まあ、良いか)
こうして、無事着替えを終えた私達は目的地へ向かう為にホテルを出た。
警察署へは、ここから徒歩で四十分くらいの場所にある。その道中、きっと魔物と遭遇するだろうけれど、リリーとコスモスが居てくれたら安心だ。
「……私も、戦える力があったら良かったんだけどね」
「アー、そう言えば言ノ葉杏里は『無能者』だったなー」
私の独り言に、コスモスが反応する。
今この世界では、人間が魔物を倒せば『異能者』になれるらしい。しかし、ごく稀に魔物を倒しても『異能者』になれない者が居るそうだ。コスモス曰く、そういう人達の事を『無能者』というらしい。
『無能者』とは、異能の力を得られていない。若しくは、得られなかった人達の総称。
以前、私は二階堂くんの勧めで魔物退治を実行した。魔物を倒して『異能者』になる為だ。二階堂くん自身が試したという『蝿叩き』を私もやってみたのだけれど、結果は不発。私は、異能の力を得られなかった。
つまり私は、『無能者』という事だ。
「みーみー」
「気を落とすなって。二階堂の旦那も言っていたが、人には向き不向きがあるんだと。そういう意味では、言ノ葉杏里は戦闘向きの感じではなさそうだし」
二人に励まされてしまった。
いけない。変にしょげていると気を遣わせてしまう。
魔物と言っても、こんな小さい子達に弱気は見せられない。しっかりしていないと。
「そ、そうだ。これから向かう警察署って、今はどんな感じになっているのかな? 確か、コスモスは前に行った事があるんだよね」
「アア確かに。二階堂の旦那に言われて敵城視察……じゃなくて、様子を伺いに行ったな。建物の周りにはバリケードが作られていて、警備員が何人も居た。ガラス窓にも板が打たれていたっけ。オレのしもべは雑魚が殆どだから、その程度の防衛網でも十分対処出来るだろう」
コスモスの話を聞きながら、頭の中でイメージを作っていく。
「だが、やはり雰囲気は悪いな。ここに限った話じゃないが」
「そっか」
「ある意味当然か。毎日毎日拠点を襲われて、しかも幾ら倒しても無限に湧いてくる。そんな状況で何日も引き篭もっていれば精神もすり減るってもんだ」
「みー」
コスモスの言い分はもっともだ。
ただ気になるのは、その魔物を従えているのがこの子だという点なんだけど……。
「ねえ。如何にかして魔物達に人間を襲わせないようにする事は出来ないのかな?」
「前にも言ったけど無理。確かにオレの権限なら一時的に奴らを止めることは出来る。だが、もし他の隊長達にその事が知られたら、オレの隊長としての立場が危ぶまれる。最悪、オメエらとの関係が明るみになって始末されちまうかも」
「みー」
「……オレが死んだら、『代わり』が一番隊隊長の座につくだろう。そうしたら再び人間の虐殺が始まる。結局、根本的な解決にはならねーんだよ」
「……そっか」
別エリアの魔物は、このエリアの魔物達よりもずっと強いらしい。
もし、私達の存在がバレて別エリアの魔物達がここへ干渉するような事があれば、今以上に悲惨な出来事が待っているかも知れない。私達にとっても、ここに住む人達にとっても、それは避けねばならない事だ。
「奴らに対抗出来る『力』を手に入れるまで、下手な行動はとるべきじゃねー。その為に、二階堂の旦那も動いている」
「みー」
「えっ。『彼奴は信用出来ない』? ……まあ、リリー先輩が旦那を嫌っているのは知ってますけど。何れにせよ、現状オレらが出来る事は無いッス」
「うーん。でも、このまま黙って見ているのもなんか……」
「なんだ、言ノ葉杏里。オメエ、そんなに正義感の溢れる奴だったか?」
「そういう訳じゃないけど……」
私には、他人を救う力も崇高な理念も無い。
ただ、やっぱり困っている人が居たら放っておくのは嫌だ。例えお節介だろうとも、誰かを助けたいって思う気持ちは、人間として当たり前の考え方だと思うから。それが深刻な事、命に関わるような事なら尚更だ。
非力なのは分かっている。けれどだからこそ、今やれる事は精一杯やろう。
私は、そう決心した。
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