第72話「散歩」
「御主人様。ボク、外行きたい」
「いいぜ。少し出歩くか」
等というやり取りを行った。
確かに、ずっと部屋に引き篭もっているのは不健康だし、少し外の空気を吸いに行くのも悪くない。
「そうだ。折角だし、例のショッピングモールへと向かってみよう」
「行こうよ行こう!」
所謂、敵城視察というやつだ。
ホテルを出て、スキル『浮遊』で空を揺蕩い、ショッピングモールの近くまで移動する。
俺は、誰にも見られないように注意を払いながら地面に降り立ち、隠密系のスキルを発動していく。
「スキル『透明化』、スキル『猫足』、スキル『無声』……発動」
世界が滅んで四日目。その間、一万体を超える数の魔物をスナッチ&合成して獲得してきたスキル。
それらを存分に発揮して、いざ潜入調査だ!
(これは良い。全然バレないぞ)
俺は、隠密系スキルの優秀さに感動した。
警備員の横を素通りしても全く気付かれない。
ちょっと試しに隣に立ってみても……まるでこちらに無反応である。
(ちょっと手でも振ってみるか。おーい!)
「んっ? なんだ?」
あ、やべっ。流石に気付かれた。
警戒心を強めた警備員を避けながら、俺はそそくさとゲートを通り過ぎて内部へと潜入する。
(危ない危ない。ちょっと遊び過ぎたな。まあ、いい感じのスリルを体験出来たし良しとしよう)
裏口から入れる従業員専用廊下を突き進んでいくと、店舗が立ち並ぶ表へと出られた。
店舗は全部閉まっているようだが、人の姿はチラホラ見える。避難民達だ。
元々、このショッピングモールに居た人達が魔物に怯えてここで籠もっているのだろう。
(とはいえ、あれから四日が経ったというのもあって皆それほど憂鬱としていないな。魔物の脅威は未だ薄れていないものの、『慣れてきた』んだ)
人間は、慣れる生き物である。
どれだけ環境が変化しても、一週間、一ヶ月と時間が経てば適応していく。
それが人命を脅かす魔物という怪物の出現だろうとも、月日の流れが恐怖を忘れさせるのだ。
(建物の内部は、荒らされた形跡無し。つまり、魔物の侵入を許していないのか)
しかしこれだけでかい建物を守るとなると、相当広い防衛網を引かなければならないはず。だが、それにしては外の警備員が少ないような気がした。
いや、そもそもこのショッピングモールの周囲には、魔物の姿が見当たらなかった。
コスモスが言っていた。『魔物は、人間が多い場所に集中する』と。
そもそも人間を狩るように命令を下しているらしいので、これだけ人が集まっている建物付近に魔物が居ないというのは少し奇妙だ。
「御主人様御主人様」
(ん?)
見ると、スラタロウが俺の肩をチョイチョイ突いていた。
俺はスキル『無声』を解除して、スラタロウに返事をする。
「どうした?」
「あのねあのね。なんかこの場所、『ぞわっ!』てする。なんか、体がムズムズするよ」
「なんだって?」
よく見ると、スラタロウはその小さくなった体を落ち着かない様子でクネクネとさせていた。
「俺は特に何ともないけど、何でムズムズするか原因は分かるか?」
「あのね。こう……体が痒くなる感じ」
「なるほど。……なるほど?」
よく分からん。
でも、あれか。アレルギー反応的なやつか。
俺も、スギ花粉アレルギーだか何となく理解できるよ。ああいう感じね。
「なるほどなるほど。この不可解な現象……おそらくスキルの仕業だ」
この世界が可笑しくなってから、不可解な現象が起きる原因とは『魔物』か『スキル』であると大体想像が付く。
もしかすると、その痒みが原因でこの付近に魔物が近寄らないのか?
だとすれば、この建物の何処かにそのスキルを保有する『異能者』が居るはずだ。
「探してみるか。スラタロウ、少し我慢出来るか?」
「頑張る」
良い子だ。本当に健気な奴だぜこいつは。
さあ、そうと決まれば探索開始だ。なるべく人に気づかれないように接触を控えて移動していき、『異能者』を見つけていく。
探索を続けていると、やがて人が集まる場所へと辿り着いた。
フードコートだ。人々がテーブル席に座って談笑している。
「御主人様! あの人! それっぽい感じするよ!」
「……あれか」
スラタロウは、『アトラスの大斧』のスキル『第六感』で通常とは異なる感知手段を会得している。だからスラタロウの『感』は、馬鹿にできない。
スラタロウが指した方向にいた人物。それは、明るいドレスに身を包んだ少女だった。
年齢は、小学生くらいに見える。しかし、服装からしてお嬢様っぽい。金持ちの身なりだ。
その少女は、テーブル席に一人で座っていて、携帯ゲームで遊んでいた。
(何をプレイしているのかな。……あっ! この子、『スナッチモンスター』やってる!!)
俺は、驚き、喜びに満ち溢れる。まさか、こんな所に俺と同じスナモントレーナーが居るとは。
しかし、この子が件の『異能者』か……。
もし、俺の計画を邪魔する存在だったらいっそ消してしまおうと思ったけど、うーん。好きなものを共有する仲間に手を出すのは忍びないな。それに、まだ子供だ。
少し考えて、俺は少女と直接話してみる事にした。
何せ、スナモンが好きな奴に悪い人はいないからな。話し合えばお互いに良い結果を残せるはずさ。
という訳で、俺は少女とは反対席の椅子に座り、スキル『透明化』を解除。
たちまち、俺の姿が透明から元の姿へと戻っていく。
「こんにちは」
俺が元気良く声を掛けると、少女はゲーム画面から視線を逸らし、俺の方を見た。
彼女からしてみれば、誰も居なかったはずの向かい席に知らない間に人が座っていて驚いている事だろう。
しかし、少女は少し戸惑った表情を見せた後、佇まいを直すと俺に挨拶をする。
「こんにちは。貴方誰ですかは?」
「俺は、二階堂翼。スナッチモンスター、好きなのかな?」
「はい。その、お友達から教えてもらいました」
「へーそうなんだ! 良い友達を持ったね!」
俺がそう言うと、少女は明るい笑顔を浮かべた。
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