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第65話「それぞれの想い」

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 二階堂達が食堂に集まっていた頃、そこから少し離れた場所に一人の男が居た。

 全身コートの巨漢。背丈二メートルを遥かに超える一般的な人間とは思えない体躯の持ち主だ。

 男は、電波が通じなくなったはずのこの地で、遠くにいる仲間と連絡をとっていた。


『……で、こっちはそんな感じ。引き続き、キングの足取りを追ってみるわ』


 通信の相手は、女性……それも年若い少女のものだった。

 男は、少女の話を一通り聞き終えると一言。


「翌日には合流する」

『……アンタは、相変わらず言葉足らずね。他に何か言う事ないの?』

「他に?」

『5W1H、報連相が欠如してんのよ。それと、こんなに頑張っている私への感謝の言葉』

「必要な事は話しているつもりだ」

『嘘つけ! アンタは、基本的に説明不足でしょうが!!』


 通信から怒鳴り声が鳴り響いて、男は思わず仰け反った。


「……すまん」

『ハァ、もういいわ。それで、アンタは何か情報ないの? まさか収穫無しって事はないわよね』

「ああ、モンスターマスターの使い手と遭遇した」

『ふーん。………………ハァ!!?』


 少女の驚嘆する声が破れんばかりに響いて、男はさっきよりも仰け反った。


『あ、アンタ。どさくさに紛れてとんでもない事言わなかった?』

「モンスターマスターの使い手と遭遇した。……と言った」

『重要事項をサラッと言うな! だからアンタは駄目なのよ!』

「むぅ」

『モンスターマスターって、あらゆるモンスターを支配する最強の職業じゃない。その力があれば……』


 少女はそれだけ言うと、しばらく沈黙し出す。通信越しなので断定出来ないが、おそらく何かを考えているようだ。


『その話、もっと詳しく……ああ待って。やっぱり、合流してから話しましょう』

「了解した」

『良い!? 今すぐ私の元へ来る事! その後、メンバー全員に情報共有するわ! 分かったわね!?』

「了解した」


 男の返事の後、通信は切れた。

 彼は、「ふぅ」と息を吐く。


「やはり慣れんな」


 男は、昔から口下手で、そのせいで組織でも浮いた存在だった。

 本人もその事を自覚しているものの、なかなか改善出来ないと嘆き、男は再びため息を吐く。


「だがいずれにせよ、俺は……ただやるだけだ」


 男には、ある決意があった。

 何モノにも変えられない、揺るがざる固い決意が。


「キング。お前をこの手で殺すまで、俺は絶対に諦めんぞ」


 そう呟いて、男は夜の世界へと消えていった。


 *****


「ふ〜む。……なるほど」


 一方、とある場所では一人の美女が考え耽っていた。

 彼女の名は、クイーン。

 二階堂と接触し、そして翻弄する未だ謎の人物だ。


「二階堂翼、いずれ彼はより強大な力を得る事でしょう。あのモンスターマスターの使い手が、まさかこの程度とは思えませんし」


 彼女には、目的があった。

 その為に、彼女は二階堂を利用しようとしている。


「まあ、今はもう少し泳がせるとしましょうか」


 魔物の襲来。全てが始まってから、まだ一日目。

 決断するにも行動するにも、時期尚早であると彼女は思った。


「……はぁ」


 ふと溢れた溜息が、夜の風と共に吹かれ、消えていく。

 彼女の瞳の奥には、どこか哀愁のようなものが潜んでいる。……そんな風に見えた。


 *****


 一方、その頃。


「はぁ、はぁ、……よ、ようやくここまで来れた」


 夜の街中。

 視界も悪く、魔物が至る所で現れる場所を進む一人の少女がいた。


「とは言っても、避難所までまだまだ……夜明けまでには到着したいけど、間に合うかな……」


 少女は、今日は眠らずに目的地まで移動しようと考えていた。

 日の出を待たず、ここまで急ぐのには理由があった。


「……会長を、危険に晒す訳にはいかないもんね」


 そう言って少女は視線を向ける。

 その先には、少女が三葉坂高校から運んできた、一人の青年がいた。

 九頭龍健司。三葉坂高校の現生徒会長である。

 彼は、目蓋を深く閉じて横になっていた。死んでいるのではない。ただ、気を失っているだけだ。


「ああ、それにしても夢みたい! まさか私なんかが、会長とお守り出来る好機に恵まれるなんて!」


 校内では魔物が現れ、多くの死者が出た。街へ出てみれば様々な場所で崩壊の音と悲鳴が響き渡る、まさに地獄のような空間。

 しかし、少女は幸せだった。魔物とか、死ぬとか、少女にとってはどうでも良かったのだ。

 憧れの九頭龍会長と一緒に居られる。それだけで少女は満たされていた。


「それに……定峰ありさと飯塚ぱん子。あの邪魔な二人も始末出来たし」


 途端に、少女の瞳が怪しく光る。


「会長に纏わり付く害虫共……。いつか殺してやろうとは思っていたけど、丁度良いタイミングで現れてくれたなぁ。あははっ、やっぱり今日の私はツいてるかも!」


 体育館で彼女達を殺したのは、この少女だった。

 定峰ありさ。飯塚ぱん子。

 九頭龍健司と同じく生徒会メンバーであるこの二人。自分ではない他の女子が彼と接近している事を、少女は好ましく思っていなかった。

 だから、殺した。特に躊躇する事もなく。


「これで、残っている女子メンバーは皇唄歌だけか。それ以外に他に会長と近しい女性……いやいや、それは後回しにしよう」


 少女は、身を前の乗り出して会長の顔を覗き込む。


「……今は、会長のお側にいられるこの瞬間を堪能しよう」


 瞬きする事すら勿体ないのか、少女は一切目蓋を閉じる事なく会長を凝視する。


「アハっ。大丈夫ですよ、会長。何があろうとも、私が貴方をお守りしますから。ずっと、いつまでも……」


 少女の瞳。

 その奥底では、見紛う事のない狂気の色が滲み出ていた。

これにて第一章完結です。

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