第64話「自己中の生き様」
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本日のラスボス。《巨獣》グレートオークを撃破した俺達は、疲れ切った体を癒すため本校舎の方へと戻ってきていた。
まあ、然しながら本校舎はリリーとインセクトキッズの戦いで滅茶苦茶に破壊されてしまっている。……全壊した旧校舎よりはマシだろうが、それでもいつ崩落するか分からない建物に入るのは危ない。
という訳で、俺達は本校舎の近くにある食堂へと拠点を移した。ここなら割と広いから大勢が入れる。魔物が何人か泊まれるスペースも作れるだろう。
「いや〜、それにしても長い一日だったね〜。みんなお疲れ様!」
「お、お疲れ様……」
俺が労いの言葉をかけると、コトノハさんがおずおずといった様子で返してくれた。
「人生ってのは長く、その中で多くの出来事に巡り合うらしいけど、まさか今日みたいな日が訪れるなんて思っていなかったよ。魔物が現れて世界が滅ぶなんてさぁ〜」
「はぇーそう聞くと人間ってのも色々大変そうッスねー。旦那」
「お前だお前。この事件の主犯はお前」
「ウッス」
インセクトキッズが他人事のように俺の話を聞きながらジュースをちびちび飲んでいた。そもそもの原因だというのに凄く呑気そうだ。
あと、関係ないけどこいつジュース飲めるのな。魔物は食事をしないと思っていたけど、必ずしもそういう訳ではないらしい。
「みー」
「ん、何ッスかリリー先輩? あー、そう言えば先輩には色々と迷惑掛けたっけか。いや、殺し合いは迷惑とは違うかー?」
「……先輩?」
「ああ。一応先輩後輩の仲じゃないッスか、リリー先輩とオレって。だから、敬意を示さないとって思ったんッスよ。やっぱ上下関係って大事ッスからねー」
「は、はぁ。……なんか、急に友好的になっていてちょっと怖いな」
コトノハさんは、どうもインセクトキッズに苦手意識を持っているようだ。ついさっきまで殺し合っていたんだから当然と言えば当然だけど。
しかし今は、魔物使役の力で俺の仲間になっているんだ。もうこいつと争い合う事はないだろう。
……多分。
「まあ、インセクトキッズから情報を聞き出してやりたいのは山々なんだけど……今日はもう疲れた。諸々の事は明日やる」
やりたくない事はやらない。
自分に正直に生きるのが、良い人生を歩むコツだと俺は思っている。
「みんなも、今日は疲れただろう。明日に備えてゆっくり休んでくれ」
そう言って俺は、仲間達の居る方へ視線を向けた。
「ギャギャー!」
「バウッ!」
「アーサー、ラムレイ。お前達とは、数々の戦いを共に生き抜き、最後まで俺に付いてきてくれたな」
モンスターマスターの力を手に入れて、最初に仲間にしたのがアーサーだった。
それから数え切れないくらいの仲間が出来たが、結局最後まで残ったのはごく僅か。その中でもラムレイは、アーサーの良きパートナーとして様々な場面で協力し合っていた。
「ッ! ッ!」
「スラタロウ。俺の身を誰よりも守ってくれた、本当に頼りになる奴だ」
実際、スラタロウこそが今回のMVPなのではないだろうか。
盾役としての役割は勿論、サポート役としてもかなり貢献していた。いずれ、ちゃんとした御褒美を渡そうと考えているくらいだ。
「ぐるるっ」
「ごぅぅっ」
「おおっ、先輩方。まさか死んで俺達の仲間になるとは思いませんでした」
パン子先輩とアリサ先輩。二人とは体育館で初対面後に、部室棟で偶然会ってから一緒に行動した。
優しくて人に尽くす性格で、俺とは馬が合わないなーと感じていたけど、グレートオーク戦ではとても頼りになってくれた。
……それにしても、二人が殺された要因が未だ不明なのが気掛かりだ。今後の憂いを排除する意味でも、いずれきちんと調査した方が良いかもしれない。
「ヴォオオ……」
「そしてお前。お前とは……? あれ、誰だっけ?」
何やら知らないゾンビが混じっていた。いや、何処かで見覚えがあるんだけど……。
タニグチ ヒカルLV13
HP160/160
ATK22+18
DEF12
経験値2542
スキル
毒の牙、HP自動回復、仲間を呼ぶ
「タ、タニグチヒカル!!」
凄く懐かしい名前がステータス画面を通じて表示された。ずっと見ないと思っていたら、一体いつの間に戻ってきていたんだ!?
……仲間欄に名前だけは記されていたから、何処かで生きているだろうとは思っていたけどさ。
「ヴォアア……」
「タニグチ。まあお前も、初期メンバーの一員ではあるよな。うん、よくぞ生き残ってくれた」
あんまり役に立った記憶は無いけど、戦場では時に『生存力』が重要視される事もある。そういう意味では、タニグチヒカルはよく頑張ったと言えるだろう。あんまり役に立った記憶は無いけど。
「ぐる! ぐるる!」
「ああ。パン子先輩、そんなにがっつかなくても食料は沢山ありますから」
パン子先輩は、先の戦いで大量のエネルギーを消費した。そのせいで体が縮んでしまったので、今は失った分を取り戻すため食事を摂っている。
「……食べると元の姿に戻るんだっけ?」
「そうそう。スキルっていうのは不思議なもんだね〜」
「スキルだけじゃない。魔物も、世界も、私達が知っていた常識は大きく変わってしまった」
「そんな非常識な生活が明日も続くんだよな〜。ははっ、ワクワクするね!」
「……楽しんでいる?」
「え? 楽しくない? この世界がゲームみたいになって、俺は凄く興奮しているよ」
男なら、誰もが妄想するんじゃなかろうか?
自分がゲーム世界の主人公になって、戦ったり冒険したりして英雄になる。……そんな夢のような体験をさ。
今、俺達はそんな世界の中心に居る。これで楽しまないなんて損だ!
「……やっぱり、二階堂くんはよく分からないや」
「まあ、価値観は人それぞれだ。俺の趣味嗜好に、コトノハさんが付き合う必要はないから安心してよ」
俺には俺のルールがある。
しかし、それを他人に強要するのは『違う』。人間は、それぞれの生き方があり、全く同じというのは決してあり得ないのだから。
それに、今では魔物という新しい知的生命体が現れている。こいつらは、人間とはまるで異なる生物だ。当然、生き方だって大きく違ってくるだろう。
「このチョコレートっていう人間の餌。美味いッスねー。リリー先輩もどうッスか?」
「みー」
……なんて考えていたのだが、俺の正面にいるインセクトキッズとリリー。この二人は、隣同士で座りながら何やら楽しそうにしていた。その様子は、意外にも人間の少女と変わらぬように見えた。
(うーん。俺は、まだまだ魔物という存在が分かっていないって事だな。今後の為にももっと調べといた方が良さそうだ。……ていうか、この二人仲良いなー)
昨日の敵は今日の友。
そうは言うけど、あれだけ死闘を繰り広げていた二人がこんなにも穏やかに会話出来ているというのは正直驚きだ。
「みー。みみーみー」
「いや、何言ってんのか全然わかんねーッス先輩」
……どうやら会話は成立していないらしい。
実際、リリーと連絡を取り合う手段を考えないと面倒だな。「みーみー」言われても、内容が全く理解出来ん。
「あ、そうだ。大事なことを忘れていた。インセクトキッズの名前を決めないと」
インセクトキッズは、学校の生徒や教師達を殺しまくった主犯。
……と言ってもそれに関しては別にどうでも良い。それに今や、こいつは俺の仲間である。今後も共に活動していくのなら、親睦を深めると言う意味でも名前くらい付けてあげた方が良いだろう。
「そんな訳でコトノハさん。名付けをお願いするよ」
「え、また私?」
「見た目は人間の女の子だからさ。可愛い名前を決めてあげてよ」
「う、うーん」
コトノハさんは、しばし首を捻って考え続けた。チョコレートを頬張るインセクトキッズをじぃーっと見つめている。
そして、何か思い浮かんだのか彼女はポツリと呟く。
「……『コスモス』。この子の茶色い髪が、秋に咲くチョコレートコスモスみたいに見えたから」
「ほぉ、リリーと同じ花の名前から取ったのか。良いんじゃないかな」
チョコレートコスモス、っていう品種がどんな花なのか俺は知らない。でも、何となく雰囲気的に良いと思った。雰囲気的に。
「よし! 今日からお前の名前は、コスモスだ!」
「ハイ。何だかわかんねーッスけど、受け取れるもんは受け取ります」
インセクトキッズ、改めコスモスはそんな風に返事をした。あまり、関心が無いように見える。
魔物にとっては、名前というのはその程度の認識なのだろうか? でも、相手を呼ぶ時に便利だし、やはり呼び名は重要だろう。
「ふわぁ〜。眠くなってきたな〜」
ふと、俺は思わず大きな欠伸をしてしまった。良い加減、寝る準備をしたい気分だ。
明日も、今日のような忙しい一日を過ごす以上、今のうちに体力を回復しておかないと後に支障が出る。
「そんじゃまあ、今日はこの辺でお開きにしようか。俺は、向こうで寝支度を進めるよ」
「あ……うん」
「じゃあ、お休み」
俺はそう言って、一人移動を始めた。
男女別々のスペースを設ける必要があるからな。比率を考えて、女子達は広い場所を。少数派の俺が狭い端の方に寝床を作るべきだろう。
さて、では布団などを用意して……ああ、お風呂入ってなかったな〜。まあ、いいか。明日、朝一番にシャワー室を使おう。
「二階堂くん」
すると、背後からコトノハさんが俺に話しかけてきた。
俺はそっと振り返る。
「どうしたの?」
「……いつまで続くのかな、この世界」
「…………」
「もう、今までの日常には戻れないのかな?」
「さあね。でも、気持ち的な問題だと思うよ? コトノハさんがどう思っているか分かんないけど、人生っていうのは基本楽しいものなんだ。だから、もし今が不幸だと感じているなら、取り敢えずしっかり生きればいい。それから如何に幸せに過ごせるかを考えるのさ」
世界が滅んだとかどうとか、関係無いんだ。
人間には幸せになって良い権利がある。だから自分の幸福の最大化を常に考え続けて、より良い人生を歩む。
何よりも己を尊重し、高めて、楽しく、幸福に……自由気儘に生きていく。
それこそが、『自己中心主義者』二階堂翼の生き様だ。
「しっかり生きる……か」
「ん?」
「私、少しだけ生きる気力が湧いてきたかも。勿論、不安ではあるけど……しっかり生きて、私も私なりの幸せを見つけてみるよ」
「はっはっは! その意気だ!」
俺は、口を大きく開いて笑った。コトノハさんも、口角を少し上げて笑みを浮かべる。
三葉坂高校。
人間にとって地獄のような場所となったこの地で、それでも確かに、人々の笑い声が上がっていた。
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