第32話「消失したヒロイン」
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俺は、探索中に出会った二人の先輩方、そして仲間の魔物達と共に本校舎へ戻っていた。コトノハさんと合流して、屋上で戦っていた二人の魔物を仲裁するためにだ。
しかし、コトノハさんも、屋上にいた魔物達も姿を消していた。代わりに俺達の視界に飛び込んできたのは、無残に変わり果てた本校舎の上階。
四階の天井は完全に底抜け、屋上だった場所は完全に崩壊している。辺り一面瓦礫の山だらけで、歩き進むのも難しい有り様だ。
「うわぁ…………凄い」
「これは、酷いですね。本校舎の方から大きな音がしたのは気付いていましたが……ここまでの状況になっていたとは」
「本当。俺が少し離れていた間に何が起こったんでしょうねー」
俺は、仲間達に指示を出して、コトノハさんとリリーの捜索をさせた。
しかし、それらしい人影は見当たらないとのことだった。
「うーん。見張りを解除したのは失敗だったかな。見失った」
「どうするの?」
「どうしましょう?」
目先にあったはずの目標が消失し、次に何をするのかわからなくなった。
ポジティブに考えるのなら、「強敵を相手しなくて良くなったラッキー!」と言ったところなのだろうけど。問題を先送りにしてしまった感が否めない。
取り敢えず、コトノハさんとリリー、羽の少女の捜索は必要だろう。それから、戦力の増強と、周辺の制圧。また魔物が増えたみたいだから数を減らしていかないと。
「ゾンビ映画でお馴染みのバリケードでも作ります? 幸い人手はそれなりにありますよ」
「良いねー。拠点は何処にするの? この校舎全部?」
「この校舎は……ちょっとやめときましょう。半壊していて危ないですし」
元々、茶道部を拠点にするつもりだったけど、蜘蛛の巣が邪魔で入れない。リリーがいないと除けれないようだし、別の拠点を作る必要があるな。
「まあ、私的には拠点作るより、困っている人を助けたいって感じだけどさー」
「そうですね。まだ逃げ惑っている人達が近くにいるはずです。出来るだけ救出をしなくては」
はぁー流石生徒会メンバー。こんな時でも人命救助か。
しかし、俺は自己中心主義者。他人の命など犬にでもくれてやれ、と言った精神の持ち主だ。それに知らない奴らがあまり増えると、隠キャな俺の肩身が狭くなる。
よし。適当なこと喋って言いくるめよう。
「先輩方。気持ちはわかりますが、外には俺達の手には及ばない桁外れに強い魔物がいます。この惨状を見ればわかっていただけると思いますが」
そう言って俺達は辺りを見渡す。
どちらを向いても砂埃と瓦礫だらけ。そこ彼処に見慣れた机や椅子、教壇にホワイトボードにロッカー……どれも散乱しており、痛ましさすら感じられる。
とても、今日の昼頃まで普通の教室だったとは思えないくらい破壊されていた。
「校舎一つ、こんな事にしてしまう奴が何処かに潜んでいるんです。迂闊に歩き回るのはあまりにも危険です」
「だけど」
「まずは俺達の基盤を安定させなければ人助けするのもままなりません。拠点を作り、安全圏を確保しておくべきです」
「……二階堂くんの言う通りかも知れませんね。ミイラ取りがミイラになる可能性もあります」
アリサ先輩は、納得してくれたようだ。
パン子先輩は、小骨が刺さったような表情をしていた。まだ受け入れてくれない様子である。
「でも、それなら強い味方がいてくれた方が心強いよねー」
「……まあ、そうですね」
「ならさー。戦えるメンバーを探して仲間になってもらおうよー。その方が色々と助けるしー」
「誰か、アテがあるんですか?」
「うん! 会長を探そうよ会長!」
会長。なるほど、会長さんか。あの凍らせたりしていた人だな。
えーっと、名前なんて言ったっけ。……忘れた。
「多分、旧校舎の辺りにいると思うんだよね! 会長がいてくれたら、頭も良いし強いし、きっと力になってくれるよ!」
「会長……無事でしょうか? 私達を逃すため、最後までオーク達と戦っていましたが」
「もう死んでいたりしてね」
「縁起でもないこと言わないの」
「生きているか死んでいるかの確認だけでも出来たら良いなーって。生きていたらラッキーだし、死んでいたらまあ、仕方がない。で、途中で困っている人を見つけたら助ける! ……って言う感じでどうかな?」
「どうかな? と、言われても……」
要するに会長さんを助けて他の人も助けたいってことなんだな。パン子先輩は。
正義感に溢れた人だぜ。それに、どうやら余程会長さんのことを信頼しているらしい。
うーむ。そんなに信頼されているなら見つけてみるのも有り……か?
仮に拠点を作ったとして、そこに引き籠もっていても状況は改善されない。だから何かしらの行動を起こすべきという考えは同意できる。
外を探索して、情報を集める。それは今までと変わりない。ただ、そこに「人助け」と言う項目が増えただけだ。
(どうせこの人達も『切り捨て』だ。協力するフリをしつつ、利用出来るだけ利用して、状況が悪くなったら逃げれば良いか)
「わかりました。旧校舎方面に向かい、会長を見つけ出しましょう」
「やった!」
パン子先輩は、喜び声を上げて俺の両手を握り締めた。ほのかに温かい感触が手の甲から伝わってくる。
やはり、可愛い子と触れ合うのは良いな。向こうでアリサ先輩が恨めしそうな眼で俺のことを見てくるけど。
「んじゃ、早速出発しましょう。善は急げです」
会長の安否は不明。もしまだ生きているのなら、死んでしまう前にさっさと動かなくては。
俺達は、本校舎を離れて旧校舎方面へと向かった。
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