第33話「少女達の実力」
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「ああ、そうだ。先輩方、旧校舎方面へ向かう前に少し寄り道して良いですか?」
「どうしたの?」
「いえ、彼処に見えるの分かりますか? 校門前の方です」
俺は、目的の場所を指差す。
校門前には、外からやってきた魔物が多数集まっていた。
さっき見かけた際にはそれなりの数の生徒や教師の姿があったが、今はもう誰もいない。生きている奴らはな。代わりに、血塗れになって倒れている者達が何人か確認出来た。
後のいなくなっている奴らは、何とか無事脱出できたんだろう。いやー、良かった良かった。
……あれ? そういえば、そこにある死体達はゾンビ化していないんだな。何でだろう?
まあ、良いか。今はそれよりやりたい用事があるんだ。
「彼処に、魔物が沢山いるのが見えますね? 彼奴らを倒して、経験値を手に入れようと思うんです」
「こ、こんな時にですか? 一刻も早く会長を見つけにいくべきでは……」
「いやいや、アリサ先輩。よく言うじゃないですか。『急がば回れ』、って。向こうで何が起こるか分かりませんし、少しでも戦力を上げておくべきですよ」
正直な話、俺は会長の救出はそこまで重要視していない。
俺にとって一番の重要及び障害とは、あの『羽の少女』だ。
奴を倒せるだけの戦力を準備しなくては、おちおち夜も眠れない。経験値は稼げる時に稼いでおかないと。
「そうだ。折角だし、お二人の戦いぶりも拝見したいです。俺達はパーティーな訳ですし、お互いの強さを把握しておくことは大事でしょう。それに魔物の駆除は、結果的に学校内の安全にも繋がりますしね」
「し、しかし。あれだけの数を相手するには、我々だけでは厳しいのでは?」
「はっはっは! あの程度の数、この数時間で何度も撃退していますよ。まあ、見ていてください」
伊達に、雑魚敵無双してきていない。先輩方に、格好良いところ見せてやるぜ!
さて、まずはうちのエースを回復してやるか。
仲間を素材にして、アーサーに経験値を注入。
「合成!」
アーサーLV20
HP145/145
ATK27+21
DEF14
経験値7131
スキル
無し
LVが上昇したことで、アーサーのHPは全回復。
ラムレイの背中の上で担がれていたアーサーは、見違えるかのように元気になった。
「ギャギャ!」
「あー、きみゴメンね? いきなり斬りつけちゃったりして」
「安心してくださいパン子先輩。うちのアーサーは、全身斬り刻まれたくらいで根に持つような器の小さいオスではありません。……そうだろう? アーサー」
「ギャ、ギャゥ……」
アーサーは、何か言いたげな表情を浮かべたが、生憎俺には魔物の言語を理解できない。
さあさあ、アーサーを全回復させたところで、続いてスナッチで敵陣を混乱させますか。セオリー通りに行きましょう。
「スナッチ!」
魔物の群れの周囲に漆黒の鎖が出現し、数体の魔物を縛る。そうして使役された魔物達は、一斉に近くにいる別の魔物に攻撃を仕掛けた。
仲間が突然暴れ出し、魔物の群れは大騒ぎだ。伊達に数が多いだけあり、ああも入り乱れては最早誰が味方か敵かわかるまい。
スキル『魔物使役』は、楽に暴動を起こせる……言わば『簡易的暴動装置』とでも呼ぶべきか。
敵を味方にできる以上、俺にとって数的不利は『不利』ではないのだ。
「ご覧いただけましたか? これが俺の力です」
「…………これは、凄まじいですね。まさか、さっきの鎖で魔物を仲間にしたんですか?」
「そう。それが俺のスキル。色々な制約はありますけどね」
スキルの詳細について、いちいち細かく説明する気はない。
情報開示は、極力控えたいし、何より説明するのが面倒臭い。
「次はお二人の番です。華麗な闘いっぷりを見せてください!」
「よーし任せてよ!」
そう言ってパン子先輩は、手の中から刃渡り五十センチはある大きな包丁を出現させた。アーサーを斬り刻んだ武器と同じものだ。
「私だって戦えるってことを見せてやるんだから!」
「あまり張り切り過ぎないでよ。……私は、サポート重視の能力なので前線には出られません」
「壁役ですもんね。上々ですよ! では、アリサ先輩は俺と一緒に後衛にいましょう。……みんな、パン子先輩のサポートは任せたぞ」
今回は、先輩方の戦闘力調査の意味もある。だから先陣を切るのはパン子先輩だ。
仲間には、そんなパン子先輩が死なないようにしてもらうとしよう。
さあ、開戦だ。包丁を手にしたパン子先輩が、勢い良く敵陣へと突っ込む。その後ろを、俺の仲間達が続く。
直進し、パン子先輩は二体の魔物を標的に選ぶ。
「賽の目斬り!」
瞬間、大きな包丁が目にも留まらぬ速さで振られると同時に、彼女の正面にいた二体の魔物が『四角く』斬られた。
「はぁ?」
俺は、思わずまの抜けた声を漏らした。
まるで野菜を手頃なサイズに切るかの如し。魔物の肉体が、約1㎤のブロック形へとバラバラとなったのだ。
様子を見ていた俺も、速過ぎて何が起こったのか理解するのに時間がかかってしまう。
そして、俺が呆然と眺めている間にもパン子先輩は次の標的を見据えていた。
「そぎ切り!」
今度は包丁を寝かせて、斜めに一閃。
魔物の肩から反対の腰元まで真っ直ぐと斬り傷が刻まれ、奴の胴体は呆気なく離れ離れとなった。
これで既に三体撃破。……えっ? 強くね?
「な、何ですか何ですか? 滅茶苦茶強いですよあの人。一人で全部倒せちゃうんじゃないですか?」
「そうでもないんですよ。実は」
俺がパン子先輩の圧倒的強さに驚いていると、アリサ先輩がそう言った。
直後、驚くべきことが起こった。
包丁を振り回して魔物を倒していったパン子先輩。そんな彼女の体から蒸気のようなものが蔓延し出したのである。
「あ、まずい。もうエネルギー切れだ」
パン子先輩が呟く。
その間にも、蒸気は絶え間なく上がっており、このままだと彼女の体から全ての水分が抜け落ちてしまうのではないかと心配になってしまう。心なしか、体が徐々に縮んでいるようにも見えた。
……いや。
いや、違う。実際に小さくなっていた。
少し離れた位置からでも、よく確認出来る。
パン子先輩の身長は、俺の目測では約160㎝だった。
それが、今では二回りは縮んでいるのだ。120〜130㎝くらいに。
「えっ。どういう事ですか?」
「パン子のスキルですよ。体内のエネルギーを効率良く消費し、通常以上のパワーを発揮するスキル。但し、規定値を超えるエネルギーを使うと、使用者の体が小さくなってしまいます。再びエネルギーを摂取すれば元に戻りますが」
エネルギー? ……さっきのは、SPを消費する感じの必殺技ってことかな? そして今は、SP残量が限界を迎えてしまったと。
「陣地形成!」
続いて、アリサ先輩がスキルを発動。
小さくなったパン子先輩を中心に、四方から白の碁石が出現する。碁石の点と点が結ぶように線が引かれて、内部を守るバリアが形成された。
「私のスキルは、先程説明した通り。不可侵の陣地を作ることが出来ます。しかし、範囲は狭く、一つの陣地しか作ることが出来ません。……今は、考えなしに突っ込んでいったあの子を守るのが精一杯です」
「因みに、アリサ先輩の攻撃手段は?」
「そういった用途のスキルは持っていませんね」
「なるほど。大体わかりました」
アタッカーとディフェンダー。それぞれには、欠点があったという訳だ。
パン子先輩が敵を二、三体撃破したとしても、その後エネルギー切れを起こして弱体化してしまう。そうなってしまうと、他に攻撃手段のないアリサ先輩は彼女を抱えて逃げるか、今のように陣地を作って立て篭るしかない。
(彼女達が倉庫に隠れていた理由がわかったな。複数の敵を倒せないからだったんだ。二人だけで外を彷徨いて魔物に囲まれでもされたら対処のしようがないんだ)
もっと敵が少数か、他にも仲間がいてくれたらやりようはあったんだろうけど、この二人だけではまともな戦法を行うのは難しそうだ。
……ということは、この二人は仲間の合流を急いでいるに違いない。脱出するにせよ、生徒達を救出するにせよ、彼女達だけでは実行が困難だから。会長という信頼できる仲間を求めているのはそのためだろう。
(この情報は、今後上手く利用出来そうな気がするな。……取り敢えず考えるのは後だ。今は、目の前にいる魔物の殲滅を優先しよう)
「アリサ先輩は、そのままパン子先輩を守っていてください。こいつらは、俺の仲間達が何とかしますから!」
俺は一歩、前へ進む。
その瞬間、敵の魔物達が一斉に俺の方を振り向いた。
奴らの瞳からは、明かな敵意の光が点っている。どうやら俺のことを、排除すべき相手だと判断しているようだ。
「仲間を斬られて怒っているのか? それとも、仲間が暴れた原因が俺だと気付いている? ……まあ、どうでも良いか」
スキルを発動する。
俺の周囲に、無数の漆黒の鎖が現れた。
「生憎、お前らは既に乗り越えた障害だ。道端に転がる小石に躓くほど、俺はマヌケな人間じゃない」
直後、敵の魔物達が一斉に俺に飛び掛かった。
俺は、魔物達を標的にする。
「スナッチ」
言葉と同時に、漆黒の鎖が放たれた。
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