第28話「清く可憐な少女達」
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前回のあらすじ。
箱の中から女の子が二人現れた。
「誰なんだお前ら!?」
「それはこっちの台詞ーっ!! いきなり扉を壊して入ってきて、部屋の中漁ってきたのはそっちでしょー!!」
派手な格好の少女がそう言ってくる。どうやら、俺達が来る前に先客が居たらしい。
二人の服装は、この学校の制服。それと校章を見る限り二年生のようだ。つまり俺の先輩に当たる。
まあ、重要なのはそこではない。今は、この二人についての情報を探るとしよう。
「まずは……何でそんな場所に隠れていたんですか?」
「そりゃ隠れますよ。倉庫にいたら突然扉を壊そうとしてくる輩が現れたんですから。他に逃げ場もなかったですし」
「確かに」
俺は納得した。この倉庫、窓には鉄格子がかかっていて移動が出来ない。もし、俺が逆の立場だったら同じことをしていたかもしれない。
「さあ、今度は私達が質問する番です」
「すぐに襲ってこないってことは、貴方は私達の敵じゃないってことかな?」
「勿論ですよ。俺は争い事が嫌いですからね」
「……その魔物達は、貴方の仲間なんですか?」
眼鏡をかけた知的そうな少女が、そう尋ねてくる。
……体育館では上手くスキルのことを隠したけど、この状況だ。誤魔化すのは無理だろう。
「お二人は、職業やスキルのことはご存知ですか?」
「はい。やっぱり、それは例の不思議な力によるものなんですね」
説明する手間が省けたな。
「まあ、そういうことです。俺は、魔物を使役して自分の仲間に加えられる能力が使えるんです」
「えー! 何それ便利ー!」
「……お二人も似た力を使えますよね? さっきの段ボール、バリアみたいなのが張られていたんですよ」
そう。俺が手をかざした時、奇妙な電撃が走った。あれは、きっと『スキル』によるものだ。
そして、そこで転げ回っているアーサー。一緒のうちに斬撃を浴びせられたあの不可思議な現象も、スキルによるものに違いない。
体育館へ赴いた際に、俺以外にも不思議な力を扱える者達が大勢いると知った。でも、それがどんな種類があるのか。何が出来るのかは知らない。
俺は、二人に対してなるべく平和的に接することにした。もしかしたら、この二人。滅茶苦茶凄い能力を持っているかもしれないからな。敵対して返り討ちにあったら面倒だ。
「みんな。俺は、このお二人と少し話がしたい。俺が呼ぶまで外へ待機していてくれ」
取り敢えず、大勢を引き連れていたら相手に警戒されてしまうと思い、アーサーとラムレイ、そして懐に隠れているスラタロウ以外の仲間を倉庫から退出させることにした。
全員が出ていくのを見届けてから、改めて二人に向き直る。
「まずは、自己紹介からしましょうか。俺は、二階堂翼。一年生です」
「はい、知っています。さっき、会長に挨拶しに来ていましたね」
「あれ? 見ていたんですか?」
「……憶えていない? 私達も、生徒会のメンバーですよ。会長と今後の方針について話し合っていました」
あー。そう言えば、居たなーこんな人達。確かに、会長さんとなんか揉めていたような気がする。
えーっと、なんて名前だったっけ? 名前を聞いたような気がするんだけど……忘れちゃったな。
「いやいや、すいません。俺、人の顔を覚えるのが苦手で……。お二人のお名前を教えていただけませんか?」
「はいはーい! 私、飯塚ぱん子だよーっ! よろしくねー翼くん!」
「定峰ありさです。よろしくお願いします」
えーっとえーっと。……イイツカ先輩とサダミネ先輩、か。
くそ、憶えづらいぜ。一日に色んな人の名前を聞いて、そろそろ俺の脳のキャパシティーが超える頃だ!
待てよ。この二人、憶えやすい下の名前をしているな。よし! これで辛うじて憶えられる!
「パン子先輩に、アリサ先輩ですね。まあ、折角こうして出会えたことですし、情報交換も兼ねてゆっくりお話ししましょう」
俺はそう言って、片付けの際に発見したパイプ椅子を用意して、二人に座るよう勧める。
二人が椅子に腰掛けてから、俺も腰を下ろす。
「それにしても、お二人はどうしてここに? 他の生徒達は、みんな学校の外へ逃げて行きましたよ」
まあ、大半が魔物の襲撃でやられまくっていたけどな。
「私達、先生や他のみんなが逃げられるように魔物と戦ってたんだー。頑張って頑張って……結構倒したつもりなんだけどねー、流石に敵の数が多過ぎてさー。逃げてきちゃった」
「ぱん子、ぶっちゃけ過ぎ。……体育館を襲ってきた魔物は強敵でした。特に、腕を巨大化するあの豚の魔物は、我々の戦力を遥かに上回る力を持っていた」
「わかります。強いですよねオーク」
「オーク? あの豚の魔物の名前ですか?」
「はい。種族名?って言うんですかね。まあ、それはともかく。彼奴の戦闘能力の高さは俺も重々承知しています」
とはいえ、今の俺は既にオークをスナッチ出来るくらいLVが上がっている。もしかしたら、あの強いオークだって仲間に出来るかもしれない。
「あ、でも翼くんは魔物を仲間にすることが出来るんだよね? だったら、そのオークって魔物も手懐けられるんじゃない?」
パン子先輩も同じことを考えたようだ。先輩達からしてみれば、俺が魔物を暴れさせないようにしてくれるなら、被害も抑えられて大助かりだろう。
確かに、あのオークを仲間に出来るなら俺にとっても魅力的だ。学校内での脅威を一つ排除することにもなるし。
「確かに、俺なら出来るかもしれませんね。そのオークは今どこに?」
「うーん? 会長と唄歌ちゃんと別行動をしてから、どこに行ったのかはわかんない。まだ体育館にいるかも?」
「その後の二人がどうなったかも気になります。無事だと良いのですが……」
強オークの行方は不明。会長と……唄歌? 誰? まあ、その人達がどうなったのかもわからないと。
どうする? 強オークを探すか?
……いや、探索には時間がかかる。あまり余計なことに時間を費やしていると、屋上の件で対応が遅れてしまう。今でこそ、安全圏に隠れているけど、いずれはまたあそこに戻ることになるんだ。
リリーと羽の少女。あの二人を放置しておくのはあまりに危険だからな。
「とは言っても、あの二人に対抗する手段が思い付かないんだよなぁ……」
「……? どうしたの翼くん」
「んっ、ああすいません。ちょっと考え事をしていました」
どうやら思考が口に出てしまったようだ。うっかりうっかり。
「考え事って?」
「はい。実は俺、一つ大きな問題を抱えていましてね。この学校内での脅威となる相手の話です」
俺は、現在校舎の屋上にて二人の強力な魔物が争い合っていることを二人に説明した。隠すようなことでもなかったし、協力を仰げないかと思っての発言だ。
「そう、ですか。まだそんな強い魔物が近くにいたんですね」
「俺は、彼奴らに対抗する手段を探しています。二人の魔物の内、一人は数時間前に校庭で起きたあの大虐殺を引き起こした羽の少女。彼奴と交渉出来れば今回の事件、引いてはこの町で何が起こっているのか。それらについての有力な情報が得られるかもしれないんです」
「……翼くんは、そのために行動していたの? こんな魔物だらけの場所でたった一人で? スゴイじゃん!!」
パン子先輩が、感心したように俺を見た。どうやら先輩は、俺が皆のことを思って危険を顧みず情報収集をしていたと思ったらしい。
しかし、それは早とちりだ。俺は、そんな良い奴じゃない。俺が羽の少女と対峙する理由は、あくまで自分自身のためだ。
当初、俺は学校を離れて町へ出るつもりだった。しかし強オークと遭遇し、今の戦力では外出活動は厳しいと思い知らされた。そこで更なる強化を目指しつつ、状況理解のために情報を集め出した。しかししかし、今度は仲間だった白蜘蛛がパワーアップしてパーティーから脱退するわ、そしてそんな彼女と同等な魔物が現れるわで、もう戦闘能力のインフレが激しいってなった。
俺は痛感したね。自らの立場の低さを。
このままでは、俺は搾取される側。弱肉強食の言葉通り、強者に食われてしまう。
……そんな事は、俺のプライドが許せない。ジャイアントキリングを果たしてやるぜ!
ならば、虎穴に入らずんば虎子を得ず。それがハイリスクな行いだとしても、大きな利益を生むために命を賭ける必要があるだろう。
まずは、現段階で最強格であるあの二人との接触。そのための交渉材料を集めなければならない。
「そうだ。お二人共、俺に協力してくれませんか?」
「えっ?」
「俺はこの後、また屋上に戻るつもりです。その際、少しでも彼奴に対抗できる人手が欲しいんです」
まあ、「盾くらいにはなるかな?」と思っての提案だ。それでも無いよりはマシだし、二人も職業とスキルを持っているならそれ以上の成果だって期待出来る。
駄目で元々。俺は、二人に頭を下げてお願いする。
「お願いします。お二人の力を貸していただけませんか?」
「う、うーん。しかし、私達も逸れた生徒達を探さないといけませんからね……」
「ええー!? いいじゃんありさぁ! 翼くんに協力してあげようよー!」
アリサ先輩とパン子先輩。二人の意見が分かれた。
「……ぱん子。相手は、オークよりも強い魔物って話よ。関わらない方が良いわ」
「翼くんを一人にはしておけないよ!」
「今は身の安全が最優先でしょ。リスクを犯さず、まずは人を集めて改めて学校内からの脱出を……」
「でも、一年生の翼くんが頑張っているのに、先輩の私達が何もしないなんて……。それに私達は、生徒のための生徒会執行部メンバーなんでしょ? 翼くんだって、私達が守るべき生徒だよ」
「くっ! でも、それじゃあぱん子の身に危険が……」
「大丈夫っ! いざとなっても戦えるし、翼くんも付いてきてくれるなら心強いし!」
「っ!? …………翼くん翼くんって、ぱん子はそんなに彼のことを信用しているの? 私よりも?」
二人の口論は続く。
俺は、その様子を黙って眺めていた。
「えっ。どうしたのありさ。そんなに怖い顔して?」
「……別に。ただ、初対面にしては随分彼を気に入っていると思っただけ」
「だって、普通なら怖くて縮こまっちゃうような状況なのに、それでもみんなのために動くってなかなか出来ることじゃないじゃん! そういう人って私、応援したくなるっていうかー!」
「そ、そうなんだ。ぱん子は、そういう男の人が好みなんだ。へ〜……」
「……あれれー? もしかしてありさ、妬いてるー?」
「なっ! そ、そんなはずないでしょう!!」
「え〜本当に〜?」
「当たり前よっ! なんで私がそんな、そんな……妬いてる訳が……心配する訳が……あ、ううぅぅぅ……」
その時、突然アリサ先輩は顔を俯かせて呻き出した。
そして、俺が「何事だろう?」と思った次の瞬間。アリサ先輩とパン子先輩、二人を四方から囲う配置で黒い石が何処からともなく現れた。
その石は、眩いばかりに発光したかと思うと、青白いバリアのようなものが発生し、二人をドーム状に覆い始めたのだ。
「あ、ありさっ!?」
驚くパン子先輩。
直後、アリサ先輩は側にいた彼女を両腕で思い切り抱きしめた。
「ま、待ってよありさ! ちょっと!?」
「うぇええええええん!! ぱん子がいなくなるなんて嫌だぁああああああ!!」
アリサ先輩がぱん子先輩を抱擁しながら泣き出した。さっきまでの知的なイメージは微塵もなく、まるで母親と離れ離れになる赤ん坊のように叫んでいる。
「ぱん子ぉ〜っ!! 何処にも行かないでぇぇっ!! 大好きだからっ!! 愛しているからっ!! ずっと私の側にいていよぉ〜ぱん子ぉおおおおおっ!!」
「あ〜もう、わかったから! ごめんて悪かったって! ちょ、力強すぎッ! お、落ち着いてありさっ! 落ち着いってったら〜!!」
青白いバリアは、色を失い透明になる。なので、ここから二人の様子ははっきり見えるのだが、なかなかの状況になっている。
アリサ先輩が思いの限り力一杯抱きつき、ぱん子先輩は彼女の腕が腹に食い込んで苦しそうだ。助けてあげようにもバリアがあって入れないので、俺はただ傍観することしか出来なかった。
まあ、取り敢えずあれだ。俺が二人のやりとりを見て、思い浮かんだことは一つだ。
「この二人…………仲良いな〜」
「ちょ……し、死ぬ。死ぬからやめてって、あり……………………ガクッ」
アリサ先輩の致死性のある抱擁に耐え切なかったのか、パン子先輩は気を失った。
号泣するアリサ先輩は、その事に気づかずまだ抱き締め続けていた。彼女が落ち着き止むまで、もう少し時間が掛かりそうだ。
(……これは。凄い人たちっと出会ってしまったようだな)
俺は人知れずそう思った。
結局、俺が再び二人と会話できるようになったのは、それから三十分後のことだった。
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