第21話「ヒロインの経緯」
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別行動をしていたコトノハさんは、かなりの量の食料を手に入れてくれた。全校生徒千人を超える三葉坂高等学校の食堂だけあり、数百人に食べさせる材料が冷蔵庫や倉庫に保管されていたのだ。
これだけあれば、しばらくは食うのに困らないだろう。二人だけならな。しかし、俺達の仲間にはモンスター達がいた。
「こいつら、食事とかするのかな? おいアーサー。ちくわ食べるか?」
俺は、食料の中からちくわを一本取り出すとゴブリンのアーサーに向けて突き出した。しかし、アーサーは首を振ってそれを口にするのを断った。
なら生肉ならどうだ? と、渡してみるがこれもダメ。その他、食べられそうな物を見せてみたが、アーサーはその全てを拒否したのだった。
「うーん困ったな。モンスターの餌がわからない。…………人を襲っていたし、人肉なら或いは…………」
「いやいやいや」
まあでも、流石の俺も人間の死体から肉を削ぎ落とす度胸はないな。そもそも、死んだ奴らはみんなゾンビになっちゃった訳だし。
はぁ!! なら、生きた人間から肉を!?
…………まあ、冗談はこれくらいにして。仕方ないので、アーサー達の餌の用意をするのは後回しにするとしよう。
「さあ、コトノハさん。そろそろ本題に入ろうか。情報交換の時間だ。二人で別々に行動していた一、二時間で何があったのかを教え合おうじゃないか」
「うん」
「では、まずは俺から話そう」
俺は、コトノハさんにこれまであった出来事を話した。
校内のグラウンドでスメラギ先輩達と出会ったこと。その後、生存者が集まる体育館に向かったこと。そこにいた人達も、自分と同じような不思議な力を使えたこと。
生徒会が今後の方針について揉めていたことや、屋上で遭遇したオーク達が現れたことなど、俺が知り得たことを出来る限り伝えた。
但し、スメラギ先輩から教えてもらった『モンスター襲来の直前にグラウンドに現れた羽の生えた少女』については、コトノハさんには黙っておくことにした。
「……とまあ、俺からはこんな感じかな。今後は、生存者の生徒達や先生達、それとオークのような強力なモンスターがどんな風に動くのかを警戒していく必要がありそうだ」
「そうだね」
「よし。では、次はコトノハさんが話してもらう番だ。差し当たって、まずはリリーの件について説明してくれると嬉しいんだけど」
俺は、白蜘蛛から白髪少女となった仲間リリーがいる方に視線を向けた。リリーは、ミニチュアサイズとなったスラタロウを手にして弄んでいる。みょんみょん捏ねたりにゅーにゅー引っ張ったり……。
「えーっと……。この子のことを話す前に、まずは私達が今までの間に何があったのかを話すけど、良い?」
「ああ、もちろん」
「二階堂くんと別行動を取った後、私とリリーはすぐに食堂に向かった。その道中、出来るだけモンスターと遭遇するのは避けて移動してたんだけど、何体かは見つかっちゃって。でも、リリーがいてくれたからなんとかなったよ。蜘蛛の糸を吐いたり炎を吐き出したり……二階堂くんからこの子を借りられて本当によかった。ありがとう」
「そっかそっか。リリーは、きちんと仕事を果たしていたんだな!」
「……そして、私達が食堂にたどり着いた時。そこには、変な人が立っていた」
「んっ?」
コトノハさんは、話し続ける。
彼女は、リリーと共に食堂に向かった際に、そこで奇妙な中年と出会ったのだと言う。山のように大きな体、季節感のない大きなコートを羽織り、食堂の受け渡し場所の前に立っていたのだと。
その怪しい風貌。一眼で学校関係者ではないとわかるその不審人物がコトノハさんを見つけた時、彼はこう言ったそうだ。
「お前、料理は作れるか?」と。
「私はその時、『はい』って答えた。そして、料理を作ってくれって頼まれたから、厨房に入ったの」
「えっ? そいつの言う通りに従ったの?」
「だ、だって、反発したら何されるかわからなかったし。私の説明が下手だから分かりづらいんだろうけど、その人凄く怖そうでさ……」
「あーまあ、別に悪かったとは言わないよ。多分、俺がその場にいたらすぐさま逃げていただろうから。俺、料理出来ないし」
しかし、不審者か。そう言えば、この事件が起こる直前に不審者騒動があったんだ。だから、全校生徒が一同に集められたんだっけ。
その不審者は、今頃どうしているのだろうか? まさか、コトノハさんがあったその人が例の……。
「それで? コトノハさんは、その人に料理を作ったの?」
「う、うん。材料があったから、得意の炒飯を作ってあげた。沢山用意したんだけどその人、まるで飲み物みたいに全部食べちゃって。あれは驚いたしたなぁ〜……。それで、その人が『美味かった。お礼を渡したい』って言って、私にこれをくれたの」
そう言ってコトノハさんが見せてくれたのは、青い水晶のペンダントだった。
「何だこれ? 水晶?」
「その人は、『君はプレイヤーではないようだが、もし君が『天上の力』を手にした時、その水晶が役に立つだろう』って」
「天上の……力……」
「うん。それからその人は、私達を残して食堂を離れていったよ。やらなきゃいけないことが残っているんだって」
……コトノハさんが教えてくれた情報。何やら重要そうな内容だな。謎の不審者か。だけど、彼女が言ったことが全て真実だと断定するのは軽率過ぎるな。
コトノハさんには、疑惑がある。それを払拭出来ない限り、安易に信じ込むのは危険だ。
「それで? 肝心のリリーが進化した件まだわかっていないんだけど」
「えっと。その人から受け取っていた物は、実は二つあったんだ。もう一つは、紫色の小さな玉……だったんだけど、食べられちゃった」
「食べられた?」
俺とコトノハさんは、ふとリリーの方を振り向く。
リリーは、スラタロウで弄るのに飽きたのか、今度はアーサーやラムレイに蜘蛛の糸を巻きつけて遊んでいた。物凄く強くなったせいか、仲間達にとんでもないジャイアニズムを発揮している。恐ろしい子だ。
「私が目を離した隙にこう、パクッと。そしたら、突然リリーが白い光に包まれて……気付いたらいまの姿になっていたんだ」
「何だそれ? その玉って、もしかしてそういうアイテムだったとか?」
『スナモン』でも、仲間にしたモンスターを強くするアイテムは沢山あった。そしてその内に、「モンスターの経験値を上昇させる」アイテムというのがある。
俺のゲーマーとしての憶測によれば、リリーの進化の秘密はレベル。『ホワイトスパイダー』から『スパイダーガール』となる一定値までレベルが上がったことで、リリーは進化したんだ。その根拠の一つに、スキル『魔物鑑定』でリリーの経験値が一気に上がっていたことがわかっている。
上昇した数値は、約1万。おそらく、その紫の玉の効果に違いないだろう。食べることで経験値を手に入れるアイテム……。
「そんなアイテムが、もっと手に入れば大きな戦力になる。その人がどこに向かったのかわからない?」
「さあ……。でも、口ぶりから察するに、この校内で何かをするつもりだと思う。だから、まだ何処かにいるのかも」
「うーん。この学校結構広いから、探し回るのは一苦労だな。外には、まだモンスターがいるし…………いや、待てよ」
俺は、ある重要なことに気付いた。
今までは、オークなどの強いモンスターを警戒して迂闊には動けなかった。しかし、俺には今強力な仲間がいるじゃないか!
「そうだよリリー! お前の力であのオーク達を蹴散らしてやろうぜ! そうしてこの校内を制圧して、ここに平和を作ろうじゃないか!」
リリーのステータスは、圧倒的だった。あのLV20のオークを遥かに上回るくらいに。これだけの戦力が手中にあれば怖い物なしだ!
俺は、棚からぼた餅を得た気分で、最高の仲間リリーに呼び掛けて、手を差し伸べた。
「…………みー」
ふいっ、と。
リリーは、俺が差し出した手を拒否するかのようにそっぽを向いた。
「…………えっ? あれ、リリー?」
すると、リリーは立ち上がり、トテトテと歩き出して俺の向かい側の席に座っていたコトノハさんの方へ近寄ったのだ。
そして、リリーは彼女の隣に座り、甘えるようにその体を寄り掛からせたのである。
「ん……これは、まさかっ!」
「二階堂くん?」
「俺の仲間が…………寝取られたぁ!?」
そう言って、俺は激しくを声を轟かせるのだった。
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