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EとFの違いは線一本  作者: HSI
11/11

ていうか、嫌だったらぶんなぐってるし

「よしよし」


穏やかな陽気が降り注ぐ明るい部屋の中。

フィオナはタップリと日干しされたフカフカのベッドの上で

自身の腰に腕を巻きつけてくる少女の艶やかな黒髪を優しく撫でていた。


エレナがこんな風になるのは本当に久しぶりの事で騎士団にいた頃を懐かしく思ってしまう。


昼頃に馬で1人アディントン邸に乗りつけたエレナはそのまま

フィオナに縋り付いて、後はずっとこの状態だった。


今日は土曜でケビンとのんびりピクニックにでも行こうと思っていたのだが

この調子だと無理そうだなぁと静かに布団にシミをつくる妹をのんびりと慰めた。


「エレナどうしたの?何がそんなに悲しいの?」


聞いて答える時と答えない時があるが、今回は答えたくないらしい。


やがて日が傾きかけた頃になってようやくエレナはフィオナから体を離した。


「明日の夕方に学校に送ってあげるから、

のんびりするといいよ」


ケビンが人の良さそうな顔でエレナに声をかけると幾分か調子を取り戻したのか、ありがとう、とエレナも返事をした。


「エレナ、今日は一緒に寝ましょ?」


そう言うとエレナは嬉しそうにうん、とはにかんだ。

ここまで弱り切ったエレナは本当に珍しい。


ケビンを寝室から追い出しキングサイズの布団に一緒に潜り込む。


「久しぶりだね」

「久しぶりねぇ」


「寒くない?」

「暖かいわぁ」


「急にきてごめんね」

「私も急に行くからいいんじゃない?」


確かに、と笑うエレナの顔をフィオナは優しく包み込んだ。

フィオナの指先は今日は先端までしっかり暖まっていた。


「キースと何かあった?」


エレナが答えに窮している。答えた様なものだ。


「酷いことされたの?」

「されてないよ」


「意地悪なこと言われた?」

「言われてない」


「浮気された?」

「そもそも付き合ってない」


「ふっちゃった?」

「…ふっちゃった」


キースは何と答えたのだろうか。

結婚していても食らいつくような男がエレナが一度断ったくらいであっさり諦めるとは思えない。


「そんなに泣くくらいなら断らなければいいのに」

「…でも嘘は付きたくなかったから」


騙したままキースを選ぶことも

あのままキースをかわし続けることもエレナにはできなかった。


悲しいけれどこれで良かったように思える。

昨日が金曜で本当に良かった。

あのまま次の日に顔を合わせるのはあまりにキツイ。


久しぶりに走らせた馬上は心地よかった。

帰りの送りはケビンが申し出てくれたが断ってまた馬を走らせよう。


「エレナは正直に生きすぎね。嘘なんて幾らでもついていいのよ」

「嘘をつくと疲れるからさ」


嘘はつかれる。生まれてこのかたずっと大きな嘘をついていて

早くそこから解放されたかった。

フィオナが当主にさえなれば解放されるのにそれが許されない。


「私ってワガママだ」

「私もワガママよ?」


可愛い服が欲しいとか

素敵な男性とお喋りしたいとか

フィオナの願いは年頃の女の子なら誰もが思う願いだ。

エレナからすればワガママにも入らない。


「姉さんのそれはワガママに入らない」

「エレナのそれもワガママに入らないわ」


まるで鏡でも映したように同じ顔をした二人は静まり返った部屋の中で秘密ごとを囁くように笑いあってふざけあう。


片方は右腕に大きな傷跡をつけて

片方は傷ひとつない真っ白な両腕を妹に巻きつけて


やがて静かな寝息を立て始めたのはどちらからか


静かに夜が2人を包んだ






「やあ、久しぶりだね」


「早朝に申し訳ありません。…いますよね?」


まあまあ入って、と促すときちんとお辞儀をしつつ入って来るあたり相変わらず隙がないと苦笑する。


「大分疲れているようだったからまだ暫くは寝ているんじゃないかな?お茶でも飲んでゆっくりと待つといい」


僕も話相手がいなくて退屈だったんだとケビンが笑えばお気遣いありがとう御座いますと丁寧に返される。

これで18歳なのだから公爵家というのは本当に厳しい世界だ。


「何だか昨日一昨日と大変だったみたいだね?こちらにも話が来ていたよ」


カールトン伯爵デニス=クラークが過去の殺傷事件に関わっていたことが明るみに出た事。

彼の証言により元婚約者のレイノルズ侯爵リタ=ハーリーンが計画に関与していた事。


それぞれの家が事が公になる前にと騎士団、国王、そしてランカスター公爵家に泣きついた事により

デニスは退院してから国境沿いの警備兵に、リタは修道院の中で最も規則が厳しいとされる院に入る事となった。


キースがそれらを全て片付けてから漸くエレナの元を訪れたらまさかの不在。

馬車を出した形跡もなく近くを出かけているのかと半日待ったが帰る気配すらなく、

寮母に確認をしたら土日共に外出許可を取っているという。


プリフェクトであるエレナは外出先を告げなければいけない義務がないためどこに行ったのかは誰も把握していなかった。


最悪の事態も想定したが部屋に忍び込んだ覆面が言うには月曜の用意はきちんとしてあったと言う。


最後の最後にアディントン伯爵の事を思い出したあたりキースも相当慌てていた。


まず最初にここを疑うべきだった。

伯爵家と侯爵家を潰すよりこっちの方がよほどキースの心労にこたえた。


今回の騒ぎはハーツフォーン家の内部事情を知っているケビンには話しやすい。

もろもろの事情も重ねつつ説明をしていると扉が急に開いてネグリジェ姿のフィオナが現れた。


「あら、ヘタレのナイト様がお出ましねぇ」


呆れて物も言えないキースをしり目に

部屋に入るときはノックをするんだよ、とのんびり注意をするケビン。


そもそもネグリジェ姿はどうなんだと突っ込むのもバカらしくてやめた。


「おはようフィオナ。エレナはどこかな?」


「まだ寝ているわぁ。昨日ここまで馬で

1人で来たから流石に疲れたみたい」


「馬…」


危機感の無さと言うか思い切りの良さにキースは軽く目眩を覚えた。やはりこの2人は姉妹だ。






頰がくすぐったい。


今日は日曜の筈だからもう少し寝かせてほしいと無視を決め込むも今度は髪を撫でられて流石にうっとおしくなる。


「早く起きないとキースが入って来ちゃうわよぉ」


予想していなかった単語に目が一気に覚醒した。


「え?」


「だから、キースが入って来ちゃうわよ」


ニコニコとネグリジェ姿で笑うフィオナに

はぁ?と問いかければもう下にいると言う。


「何でキースがここにいるの」


「さあ何ででしょう?」


ニコリと微笑むフィオナと一緒に服を着替える。

来た時の服を探したら洗濯にまわしちゃったと言われて

今日どうやって帰るんだと愕然とした。

流石にスカートであの距離を馬ではかけられない。


そんな人の気も知らずにあれよあれよとフィオナ好みの

フワリとしたシフォン素材のパステルカラーのワンピースを

着せられてこれを来て帰るのか…と若干気が遠くなった。


ダメではない。ダメではないが良くもない。


欠伸を噛み殺しながら応接間に向かうと成る程確かに金色の髪が僅かに見える。

昨日フィオナに散々甘えておいて良かったと胸を撫で下ろした。

多分金曜の夜のままだったら今頃全力でエスケープしていた。


「おはようケビン」

「おはようエレナ」


「おはようキース、さま」


咄嗟にどう呼んでいいかわからずに取り敢えず様をつけると

ピクリと眉を上げたもののそれ以上は何も言わずに

おはよう、とだけ返された。


結局朝食だけ食べるとキースに引きずられて直ぐに帰ることになった。

帰りの馬車の中でデニスとリタに関する話を聞かされて

任せっきりでごめんと言ったらむしろ俺のやりたいようにやれてスッキリしたと特に気にした風でもなかった。


「エレナ、君はなんでそこまで姉に尽くす?」


話が終わったところでポツリとキースが問いかけてきた。


フィオナの長女としての居場所を奪った罪悪感が当時は大きかった。

嘘をつくのも疲れていたし、何よりフィオナが好きだったからあるべき場所に返したかった。


尽くしている、

と言うよりエレナにとって良いようにしていただけだ


「君が俺を選ばないのは俺が利用するに値しない男だからか?」


「はあ?何でそうなるの」


「そうだろう?俺の代わりに怪我をしたのも俺に近づいたのもフィオナの病を治し、長女に戻すため。

ならフィオナの病が治り、長女に戻った今俺の価値はゼロになった」


「そんな事言ってない」


だが事実じゃないかと言われてぐうの音も出なくなる。

確かにエレナがもうキースに近寄る理由はないのだ。


「俺の事を散々利用しておいてフィオナが落ち着いたからもういりませんは流石に酷いんじゃないか?」


「ちがう!」


それは違う。それならそもそもこの学園に戻ってきた時からキースと話す理由なんてなかった。

あの時既にフィオナは本来あるべき位置に戻っていたのだから。


「じゃあ何でプロポーズを断ったんだ?

まだ利用価値があるなら断る必要なんてないだろう?」


「利用しようだなんて思ってない…」


我ながら説得力のない発言だと泣きそうになる。

昨日散々泣いたから涙腺がまだ緩んでいるのだ。


「キースの事利用するような女と一緒になって欲しくなかった」


「 俺はそんなの気にしていない。利用するならいくらでもして構わない」


そんなのダメだ。

そんな悲しい事を言わないでほしい。


キースはエレナの理想だった。

公爵家の跡取りとして生まれて、自分の立場に一切の不満も漏らさず完璧にその地位を確立し、

それに相応しい立ち居振る舞いも心得ていた。


「キースは私が理想とする当主の跡取りそのものだったから 」


いつもキースを見ていたしいつもキースのやり方を探っていた。

初めて会った時からずっとキースがお手本だった。


「ずっと利用してたよ。私がフィオナとしてある為に。

ごめんねキース。ずっと騙しててごめん」


涙が後から後から零れ落ちるのがわかるがもう拭っても無駄な程の量だとわかっているので流れるままに放置した。


「俺に悪いと思っている?」


「思ってる。ずっと思ってた」


「俺に悪いと思う程度には俺のことは好きだと思っていいか」


「好きだよ。最初に会った時からずっと好きだよ」


だからお手本にしたのだから。


キースが馬車の中で組んでいた足を崩した。

先ほどまで斜め前に座っていたのを正面に移動して坐り直すのをエレナは伏し目がちにただ見ていた。


「フィオナは、好きで、罪悪感があるから尽くすんだろう?」


「うん」


「俺の事も好きで、罪悪感があるなら、俺にも尽くしてくれ」


「…わかった」


キースの言う事は確かに理にかなってる、気がする。


でもフィオナを傷つけるような事は出来ないと言ったらそんな意味のない事はしないと一蹴された。


「俺と結婚を前提に付き合ってくれ」


呑めるよな?と言われてわかったと答えたら微妙な顔をされた。


「俺が好き?」


「好きだよ」


もう特に隠す事もない。

素直に答えると横抱きに膝に乗せられて抱きしめられた。


「フィオナと俺と、どっちの方が好き?」


「フィオナ」


「…」


即答するとそうか、とまるで宝物を触るみたいに丁寧に髪を撫でられる。


まだ静かに流れる涙をキースの唇が掬い取っていった。

自由にさせているとそのまま唇に口付けられた。


抵抗せずにおとなしくしていると少し不安げな顔をされる。

本当に嫌な事は俺相手でも抵抗してくれ、と耳元で囁かれた。


別にキースにされて嫌な事はそんなにないと答えたら口元を押さえて暫く停止していた。


嫌なら絶対に言えよ、と

言いながらキースが再度唇を寄せてくる。


むしろずっとしたかったから嬉しいと答えたらキツく抱きしめられた

完読ありがとうございました。

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