失われた王冠とアキト国への帰還
『大地の王冠』はここで終了です。今後については後書きに挙げておきます。
ベヒモスは断末魔の悲鳴を上げることすらなく左右に別れて倒れる。
「えっ、ぐっ!!?」
まさか、1撃でベヒモスを倒せると思っていなかったハルが驚きの声を上げた直後、魔力の減少による立ち眩みが起きて片膝をつく。
慌ててデュランダルとアイギスを【アイテムボックス】に収納し、そのまま予備のショートソードと魔力を回復させる魔法薬を取り出した。
魔法薬を呑み干し、ショートソードを杖にしてなんとか立ち上がる。【天断】を発動した時に、デュランダルの影響かハルが想定していた以上に魔力を持っていかれたらしい。
「ば、馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!?あのベヒモスが倒されたじゃと!?そんな馬鹿なぁぁぁっ!!!」
テオバルド4世は切り札であったベヒモスが倒されてしまい恐慌状態に陥っていた。グンドルフはテオバルド4世に見向きもせずにハルの方を眺めている。
そのタイミングで、レナードとセシリアがふらつきながらも立ち上がった。それを見てテオバルド4世が「ひいっ」と情けない悲鳴をあげる。
「グ、グンドルフ、あ奴らを何とかせい!満身創痍じゃ。お、おまえならば・・・」
怯えるテオバルド4世がグンドルフの名を呼び喚き散らす。じっとハルの様子を観察していたグンドルフがようやくテオバルド4世の方に向き直った。
「ご安心ください陛下。すぐに終わりますゆえ」
グンドルフがテオバルド4世に頭を下げる。その態度はそれまでと違いどこか目の前の男を馬鹿にしているかのようだった。
しかし、パニックに陥って判断能力が落ちていたテオバルド4世はそのことに気が付かなかったらしい。そのままグンドルフに捲し立てるように命令を飛ばしている。
「は、早うあ奴らを余の前から消せグンドルフ!!早う!はよ――ぐふっ!!?」
「「「なっ!?」」」
テオバルド4世が自分の胸元に視線を落とす。そこには太い氷の槍が突き刺さり、豪奢な衣服に赤い血が広がっていくところだった。
「ごぶっ、な、何を!!?」
信じられないといった表情でテオバルド4世は傍らに立つグンドルフを見上げる。グンドルフは普段フードに隠れされている整った顔に、冷たい笑みを浮かべていた。
「お疲れ様でした陛下。あなたはもう用済みです。ごゆっくりお休みください」
「グ、グンドルフ!!貴様ぁぁ!」
次の瞬間、テオバルド4世にいくつもの氷の槍が突き立てられた。テオバルド4世は白目を剥き、体を小さく痙攣させた後、完全に動かなくなった。
「ふう。やれやれ、これでようやくあの不快な男から解放される。実にいい気分だ」
「・・・これはどういうこと?アンタいったい何者だ?」
ハルが警戒しながらグンドルフに声を掛ける。グンドルフは大げさに肩をすくめながら口を開いた。
「そうピリピリしないでくれたまえ。僕は少なくとも現時点では君たちと事を構えるつもりはないのでね」
「それを信用しろって?何故その男を殺したんだ?」
「んん?それはもちろん証拠隠滅だよ。あの男にはいろいろ入れ知恵したり、表に出せない物を見せたりしてたからね。それが外部に漏れるのはあまり好ましくないと思ったのさ」
「・・・なるほど。アクレスト王国を動かしこの状況を造りだしたのはアンタだったのか。その機械の魔獣もアンタが用意したんだな?目的は・・・それか」
ハルは鋭い視線をグンドルフの右手に向ける。そこには先ほどまでテオバルド4世が持っていた王冠が載っていた。
「『大地の王冠』。なるほど、確かにあれだけの力を持つ代物なら欲しがる奴がいるのも頷けるね。だけど、わざわざアクレスト王国を巻き込んだのは何故?このレベルの迷宮攻略にアクレスト王国の兵や傭兵たちは大した戦力にはならないはず。実際、アンタと機械の魔獣だけでここまで進んできたんじゃないの?それに、どうしてこんな所に『大地の王冠』があるとわかった、いや、知っていたんだ?はっきり言ってアンタの魔法の実力はオレより下だ。もともとこの地に『大地の王冠』が隠されていると知らない限り、アンタの実力ではこの場所を特定することは不可能だ」
「ふふ、僕がそれを話すとでも?」
「話さずに済むとでも?」
余裕な態度を貫くグンドルフに、ハルもまた不敵な態度をとる。
魔法薬で急速に魔力が回復しているものの、まだ万全とは言い難い。それでも、目の前の男とある程度戦うことはできるだろうし、こちらも万全とは言い難いものの、レナードとセシリアもいる。ダメージを覚悟すれば十分に取り押さえられるだろう。
戦意を見せるハルたちに対し、グンドルフは再びおどけるように肩をすくめた。
「おお、怖い怖い。けれど先ほど言った通り僕としては今君たちと事を構えるつもりは無いんだ。というわけでそろそろ失礼させてもらうよ。君たちもすぐに動く準備をした方がいい。いろいろ大変だろうからねっ!!」
グンドルフがハルたちの方に向かって何かを投げつけた。それは空中で炸裂し、ハルたちの周囲に金色の粒子をまき散らした。
同時にグンドルフの体と、あちこちに倒れている機械の魔獣たちが眩い光に包まれ始める。
「【転移】か!させると思って・・・何?」
ハルが魔法を使おうとしたが、何かに邪魔をされるような感じがして魔法が発動しなかった。ハルだけでなくセシリアも魔法がつかえなかったらしく首を捻っている。
「ふふ、それではこれで失礼するよ。僕としては君たちともう会いたくはないんだけど、残念ながらいつかまた顔を合わせる気がするね。それではさらばだ。勇者の末裔と、アキト国の諸君!」
「「「!!?」」」
グンドルフの爆弾発言に反応し、跳びかかろうとしていた体が硬直した瞬間に【転移】の魔法が完成しグンドルフと全ての機械の魔獣が消え去った。
「しまった!?」
慌てて気配を探るが遠くまで【転移】したようでグンドルフの存在を感知することはできなかった。
「くそ、アキト国のことを知っているだなんて、本当に何者だったんだ?結局『大地の王冠』も持っていかれたし」
「丁寧に魔法の痕跡を消してある。追跡は不可能ね。それと魔法が使えなかったのはあの金の粒子が原因かしら」
セシリアが先ほどまでグンドルフが立っていた場所を調べながらため息をついた。どうやら、グンドルフを追うことはできないようだ。
と、その時突如として大きな揺れがハルたちを襲った。
「なんだ!?地震?いや、これは・・・」
「拙いわ!ダンジョンが崩れ始めているようね!!」
それは地震ではなく、大地の王宮の崩壊が始まったことにより起きた揺れだったらしい。
「く、『すぐに動く準備をした方がいい』って言っていたのはこのことか!」
「ハル、ロッテとお嬢さんを!!それと一応兵士たちもだ。【転移】で地上に戻るぞ」
「わかった。けどその後はどうするの?地上にはまだ兵士と傭兵がいるはずだけど」
「続けてオレたちはアキト国まで【転移】する。セントラルの軍団本部までだ!」
「魔力は・・・ぎりぎり足りるね。よし!!」
ハルがセーラを、レナードがロッテを担いで兵士たちが倒れている場所まで向かった。
「行くよ?【転移】!!」
ハルとセシリアが【転移】を発動する。次の瞬間、ハルたちは崩壊する大地の王宮を抜け出し、エド城の跡地にいた。
「な、何だ?いきなり人が現れたぞ!?」
地上にいた兵士たちが突然現れたハルたちや意識のない兵士を見て驚きの声を上げる。
それに構わず、ハルとセシリアは連続で【転移】を発動していた。ふたたび体が光に包まれる。どこかに体が引っ張っていかれるような感覚がした後、ハルたちは近・現代的な設備の整った建物の中に立っていた。
アキト国セントラルにある軍団本部の調査団の執務室だ。
「ふう、魔力がすっからかんだけど何とか戻ってこれたか・・・」
ハルはふらつきながらもほっと息をつく。
「流石に疲れたけど私たちはのんびりしている暇はなさそうね」
「そうですね。残念ながらいろいろとやらなければならないことができてしまいました」
アキト国の中枢にいるセシリアとロッテは今回のことを受けてこれからいろいろ話し合いや調査などを行わなければならないのだろう。部屋に備え付けられている魔力通信機で各地にあれこれ連絡をし始めた。
「・・・あれ、ハル?」
その時、ハルが体を支えていたセーラが意識を取り戻し、周囲をきょろきょろと見回し始めた。
「セーラ!良かった、気が付いたみたいだね」
「わ、ハルいきなり抱きつくのは・・・!?――あれ、私確か突進を受けて・・・。え、え?ハルこれはどういう状況ですか?ここはいったい?」
「セーラが気を失った後ベヒモスは何とか倒せたんだけど、色々あったんだ。ここは・・・オレの故郷かな。セーラ、さっきの約束通りセーラにはオレのこと、オレの仲間のこと、先程の件も含めてオレたちの事情についてきちんと説明するよ。けど、その前に・・・」
ハルはセーラに笑いかけながら口を開いた。
「ようこそ、亜人の国アキト国へ!!」
え、ここで終わり?と感じる方もいるかと思いますがちゃんと続きも考えています。以前、初めて書いた小説は主人公とアバウトな世界感のみ設定して書き溜めもほとんど無しで見切り発車という無謀な真似をした結果早々に行き詰ってしまったので、今回再び執筆に挑戦するにあたって、①自分の中で明確な世界観と、大まかな話の流れを確定させてから書き始め②最後まで完結させる、というのを目標に書き出したのですが、構想の段階で「かなり長くなってしまいそうだなぁ、いきなりそんな長い文を書けるだろうか」ということで区切りのいいところで分割し、シリーズ物のようにすることにしました。ですから、『大地の王冠』はひとまずここで完結とさせていただきますが、ストーリー自体はまだまだ続きます。
大学の定期テストまでもう3週間無いので流石にそろそろヤバいということで、続編の掲載は少し先になるかもしれませんが、続編の大まかなストーリー自体は既に構想が終わっていますし、テストを乗り切れば長い夏休みが始まるのでそこそこ執筆も進むと思います。続編のタイトルは『ハル・アルダートンと時の方舟』の予定です。『大地の王冠』を読んで面白いと思ってくれた方は、『時の方舟』の方も掲載が始まり次第読んでいただけると幸いです。




