SSランク(大災害級)酒呑童子
視界を覆っていた眩い光が収まった時3人は真っ暗な場所に立っていた。
「な、何だ?何も見えないぞ!!?」
「ここはいったい・・・」
「・・・・・・」
ハルは空気の流れなどから、そこがかなり広い空間であると察知した。それだけではない。すぐ近くに複数の魔獣の気配があった。気配は全部で6体。
「お、何だ?急に明かりが点いたぞ!」
自分たちの背後に急に明かりが点いたのを感じたパベルが振り返った。少し離れたところで壁に取り付けられた2つの松明が燃えていた。まだ薄暗くて見え辛いが、その2つの松明の間にはなにやら見覚えのある物々しい扉があった。
「・・・私たち先ほどあれとよく似た扉を見ませんでしたか?」
「奇遇だな。俺もそんな気がしてたところだ」
「ハルさんも、―-ハルさん?」
「・・・・・・」
先ほどから闇の向こうを見つめて動かないハルを見て不思議に思ったセーラが話しかける。しかし、ハルはそれに気が付かなかったらしく、微動だにしない。そこでセーラはハルの様子がおかしいことに気が付いた。厳しい訓練中でも明るく楽しそうに振舞っていたハルが何時になく真剣な表情をして鋭い視線を闇の中に向けている。その鋭い視線を見たセーラは何故か自分の胸の鼓動が早くなるのを感じた。
と、そこでその空間に変化が現れた。燃えていた2つの松明の隣の松明にも火が付き、それは連鎖するように隣へ、さらにその隣へと続いていった。やがてその空間をぐるりと囲むように全ての松明に火が付き、無数の松明の火が煌々と辺りを照らし出した。ハルたち3人がいるのは2つの扉があるとても広い部屋だった。奥にステージ上の高台があり、そこには巨大な玉座があった。玉座の上と、その周囲には合わせて6つの巨大な姿がある。
「あ、あ・・・」
「――う、ぉ」
その巨大な存在たちから放たれ始めた威圧を受けてセーラとパベルは固まってしまった。体中からおびただしい量の嫌な汗を流し、腰が抜けたように尻餅を着く。2人にとって絶対的な死がそこにあった。
「我等の眠りを妨げるものは誰だ?」
玉座に座った6体の中でもずば抜けた威圧感を放つ巨体が話かけた。魔獣が言葉を話すということ、それはつまり・・・
「――固有名持ちですか!!?」
「然り。我が名は『酒呑』。鬼の頭領である。こやつらは我が右腕『茨木』に配下の『熊』、『虎熊』、『星熊』、『金熊』である」
「はは・・・。6体とも固有名持ちだってことかよ」
パベルが力なく笑う。魔獣の中には人語を理解し、操るものがいる。それらは固有名持ちと呼ばれ、同族の他の個体とは隔絶した力を持つ。そして、それらは最低でも特級と呼ばれるAランク以上の強さを誇るのだ。そんな絶対的な存在が今、目の前にいる。パベルとしてはもう笑うしかなかった。
そんな中、今までずっと鬼たちを観察して動かなかったハルがようやく口を開いた。
「鬼か。ギルドの情報では大陸の極東に生息する戦鬼らしいね。鬼は本来はBランク(上級)の魔獣らしいけど君らは気配から察するに『酒呑』がSSランク(大災害級)の下位、『茨木』がSランク(災害級)、残りがAランク(特級)下位と言ったところかな。さてと1つ聞きたいんだけどこっちは戦う気はないから見逃してくれないかな?」
それを聞いた酒呑はにやりと笑った。
「否。我等の眠りを妨げたこと、許し難い。さらには女子供の肉は我等の好物よ。そこの男はともかくそちらの2人は絶対に逃がさん!!」
酒呑の大声を皮切りに鬼たちが襲いかかってきた。
「くそ、防具が心元ないけど仕方ないね!!!」
ハルは【アイテムボックス】からミスリル製のショートソードを取り出した。ミスリルは最高の魔力伝導率を誇る金属だ。本来は魔道具や魔法使い用の武器に使われることが多いがオルハリコン、アダマンタイトに次ぐ硬さも持ち合わせているため近接用の武器もある。ちなみにオリハルコンは最も硬い金属で、さらに一切魔力を通さないのでアキト国ではよく防具に用いられる。アダマンタイトはミスリルに次ぐ魔力伝導率とオルハリコンに次ぐ硬さを併せ持つ金属でこちらは、主に近接用の武器に用いられる。ハルが何故アダマンタイト性の武器にしなかったからというと、防御力に若干不安があったからだ。今、ハルが付けている防具は外界の初心者用の代物である。本来、ただの獣やFランク魔獣、いいとこEランク魔獣といった低レベルの相手を想定しているものであって、このレベルの魔獣が相手なら着けている意味はほとんどない。だからハルは魔法を多用することになると判断し、ミスリルの剣を選んだのだ。
すぐにハルは魔法でセーラとパベルの周囲に強力なシールドを展開させた。さらに自分は【身体強化】魔法の最上位である、【魔装】を発動した。【身体強化】の魔法には種類がある。運動能力を上昇させる【肉体強化】。これを一般的に【身体強化】と呼ぶ。そして、五感を強化する【感覚強化】、思考を強化し処理能力を上昇させる【思考強化】、肉体の様々な器官を強化することで治癒力を高める【身体活性】、体に魔力を鎧の様に纏って防御力を高める【魔力装甲】。これら全てを同時に発動させるのが【魔装】だ。【魔装】を発動したハルは自分を捕まえようと飛び掛かってきた『虎熊』と呼ばれていた鬼の動きを見切り、躱しながらこちらも魔力を流して強化したミスリルのショートソードを振り抜いた。吸い込まれるように虎熊の首に向かっていった剣はそのまま、虎熊の首を通り抜けた。次の瞬間にはポカンとした表情の虎熊の首が地面に落ちていた。
「む!!」
「虎熊!!?おのれ小童が!!」
鬼たちは一瞬で殺された仲間を見て激高した。しかし、我を失って突っ込んで来るような愚は犯さなかった。
(流石にそこまで甘くはないか。秘境でSランク以上の相手とも闘い慣れているとはいっても、今は、防具を着けていない様なものだし、この状況じゃセーラとパベルは戦力外だし1体でも多く減らしておきたかったんだけどな・・・)
ハルは、心の中で舌打ちしていた。ずっと秘境で戦っていたハルだ。このレベルの戦闘も何度か経験している。ただ、不安要素をかかえたままSSランククラスの相手と闘うのは避けたかった。大災害とまで謳われる破壊力は伊達ではない。
(とにかく今は取り巻きから削っていこう。あのレベルの相手にうろつかれてると酒呑に集中できない)
ハルは、鬼たちが自分を警戒して近付いて来ないのを確認すると光属性Aランク魔法【シャイニングレイ】を連発した。酒呑と茨木はそれぞれ持っていた大太刀と金棒で魔法を弾いた。星熊と金熊には辛うじて躱されたが、避け切れず右足に被弾した熊が動きを止めたので【シャイニングレイ】で狙い撃ちして仕留める。またあっさりと仲間が人間の子供に殺され、動揺を見せた金熊の懐に飛び込み首を狙おうとした瞬間に悪寒を感じ大きく後ろに跳んだ。次の瞬間にはハルが立っていたところに酒呑の大太刀が振り下ろされていた。さらに茨木と星熊が着地の瞬間を狙って追撃しようとしていたので光の矢を放つ魔法【シャインアロー】をやや威力を抑えながら大量に放って弾幕を張り牽制する。熊が魔法で倒されたのを見ている茨木と星熊は警戒して追撃を止めたが、それほど威力が無いことに気が付くと星熊が攻撃を無視して前に出ようとした。そこに1発だけ混ぜておいた思いっきり魔力を込めた【シャインアロー】が命中し星熊は胸を貫かれて倒れた。酒呑が大太刀を構え、こちらに向かってくる。鋭く振り下ろされた1撃を躱し剣で反撃するが、すぐに引き戻された酒呑の大太刀に弾かれた。その時ハルは茨木と金熊がセーラたちの下に向かっているのに気が付いた。酒呑がにやりと笑う。ハルが酒呑と戦っているうちに捕まえ人質にでもするつもりらしい。それに対し、ハルもにっこりと笑みを返した。なぜならば・・・
ズドーン!ズドーン!!
「「ぐがあああああ!!!!!」」
突如轟音が鳴り響き、同時に茨木と金熊の悲鳴が響いた。
「何事!!?うぐっ!!」
思わず反応し隙を見せた酒呑に一太刀入れる。
「あの2人が狙われるのはわかってたからね。セシリア特性の魔動地雷をいくつも設置しておいたのさ」
急所はなんとか外したものの深い傷を負った酒呑が後ずさる。その隙にちらりとセーラたちの方を見ると茨木と金熊が倒れていた。茨木はまだ息があるようだが受けたダメージは大きそうだ。隙だらけの茨木に【シャイニングレイ】を放ち止めを刺す。
「初めて使ったけど凄い威力だなぁ。敵が近付くと指向性を持たせた大爆発がおきるトラップか。セシリアが設計してロックベル大工房の技師が作り上げたものだから期待はしてたけどここまでとはね」
ようやく少し余裕ができたハルは魔動地雷の威力を確認して感心したように呟いた。
酒呑は片手で傷口を押さえながら大太刀を床に突き立て支えにする。
「驚いた。人間の小童に我がここまで追い詰められるとは」
「まあオレはちょっと特殊だけどね」
「この傷ではもはやお主には敵うまい。いや、傷が無くても厳しいであろう。その齢にして見事な腕である。我を討ちしこと誇りに思え!!」
酒呑は床から大太刀を引き抜くとハルに斬りかかってきた。しかし、ダメージのためか動きが悪い。次の瞬間にはハルの剣が酒呑の首を切り落とした。酒呑が床に崩れ落ちる。
「ふう。終わった、か」
ハルは大きく息を吐いた。いきなりの戦闘だったので不安要素もあったが、なんとか乗り切れたことに素直にほっとしていた。とりあえず鬼たちをアイテムボックスに入れようとしてハルは酒呑が持っていた大太刀と茨木が持っていた金棒が光始めたのに気が付いた。警戒しながら様子を見る。光が収まった時、大太刀と金棒は人間が使える程度の大きさになっていた。両方を手に取って見てみる。
「銘入りか・・・」
どちらにも銘が入っていた。太刀は『童子切』、金棒は『鬼魂』というようだ。
それらをアイテムボックスにしまった後、ハルはセーラとパベルのもとに向かった。
「ハルさん・・・」
「ハル、おまえ・・・」
2人は先ほどの戦闘を見て呆然としていた。冒険者講習でハルの能力がずば抜けているのはわかっていたが、ここまでとは思ってなかったのだ。
ハルは苦笑いしながら2人に話しかけた。
「まあ驚くよね。ちょっとオレは特殊な環境で育ってきたから普通じゃないんだ」
「えっと、特殊な環境ですか?」
「うん、ただ詳しいことは言えない。いろいろ事情があってね。ただ、できたらさっきの戦闘のことは他の人には秘密にしておいて欲しい。あまり目立ちたくないんだ」
「ええっと、とても強いってことや凄い魔法を使えること、貴重そうな道具を持っているなどですか?」
「うん。できたらポータルに乗った後からは何も見てないし聞いてないってことにして欲しいな」
セーラとパベルは顔を1度顔を見合わせると2人して頷いた。
「わかりました。先ほどのことは神様と女神様に誓って誰にも言いません」
「俺もだ。気にならないって言ったら嘘になるけど、おまえは命の恩人だからな。約束する」
「ありがとう。本当に助かるよ」
2人ならそう言ってくれるだろうと思ってはいたが、実際に2人が約束してくれたのを聞いてハルはほっと胸をなでおろした。
「よし、それじゃあ奥の部屋に行こうか。ポータルが正常に戻っているといいんだけど」
3人はボス部屋を抜けて奥の部屋に向かった。
「あれ、これって・・・」
「祭壇か何かか?」
奥の部屋に入ってみると1階の小部屋よりずっと大きかった。下への階段やポータルは無く、パベルが言ったようにまるで何かを大切に祀っているようだ。
「もしかして、ここは最下層だったのかな。だとしたら・・・」
ハルは祭壇の方に向かう。そこにはハルの想像通り大きく、質の良い魔力のつまった魔石があった。
「ハルさんもしかしてダンジョン攻略しちゃったんですか!!?だとしたら嫌でも目立つような・・・」
「だな。ここのダンジョンははかなりおおきな規模だったから騒ぎになるぞ」
「う、・・・い、いや、しらばっくれればいいんだ。オレたちがここにいることは誰も知らないし、オレたちがこんなところにいるのもさっきの地震でダンジョンに変な影響が出たからさ。だから、あの地震の影響でダンジョンが異常を起こして消滅したんじゃないかーとか言っておけば大丈夫だろ。それにダンジョンが死を迎える時、中にいる人がみんな同時にダンジョンの外に飛ばされるはずだからそれこそ誰がやったかなんてわかんないって」
「まあ、確かにな」
「それもそうですね。ハルさんはどこかから自由に武器やアイテムを出したり、しまったりできるみたいですし魔石を持ってなければ大丈夫かもしれませんね」
「そういうこと。それじゃ早速行くよ!!」
ハルは魔石に手を触れた。そして持ち上げ、すぐに【アイテムボックス】にしまう。次の瞬間変化が起こったハルたちの体が光に包まれたのだ。
「これは!!」
「ポータルと同じ光!」
「来るぞ!!」
光がさらに強くなり3人の視界を真っ白に染め上げた。




