プロローグ 『幕引き』
―――どうして
何度も何度も、浮かんでは消えていった想いを飲み込む。
―――ずっとずっと信じてたのに
―――頑張って頑張って結果がこんな、こんなことなら。
―――わたくしはどうすれば良かったの
冷たい大理石の床に倒れ伏し、助けを求めることもできなかった。声を出そうとするたびに出てくるのは声ではなく醜い呻き声だけ。
「アルデオ…」
最後の力をなんとか振り絞り、愛しい人の名を呼ぶ。その人物こそが今、彼女を殺そうとしているという事実はどんな傷よりも痛い。グラーティアは愛しい人の名を呼びながら彼の歪んだ顔に手を伸ばす――しかしその手は、残酷にも切り落とされた。
―――わたくしが何をしたの。教えてよ誰か
声にもならない悲鳴が会場に響き渡る。全身に痛みが稲妻のように駆け巡り、他の傷の痛みを抉り返す。血が彼女の身体から抜けたせいで、頭に血が行き届かず、モヤが掛かったように思考が回らない。
そんな彼女の姿を見ても誰も彼女を助けようとしない。軽蔑の目さえ向ける人もいた。
―――泣かないで
誰が見ても軽蔑の目を浮かべているアルデオは、グラーティアには泣いているように見えた。
誰も彼もが自分を信じてくれなくても、グラーティアには信じられた。
―――だって、2人で過ごした時間は嘘じゃないでしょ
グラーティアは先程の表情とは打って変わって穏やかな表情を浮かべた。彼女が想い浮かべたのは…
―――愛してる。この世界の誰よりもアルデオを。たとえ世界が拒んでもわたくしは貴方の幸せを願います。
そんな想いなど露も知らぬように無惨にも彼女の上にアルデオの刃が振り下ろされる。
信じたはずの愛は裏切られ、壊され踏みつけられた。それでも信じ続ける。
鈍い音を立て、彼女の首に刃が刺さる。確実に彼女の命を刈り取るように。
そうしてグラーティア・ステッラ・サピエンティアの人生は無惨にも幕を閉じた。




