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ぼーっとながら、ふわっと考える  作者: 仲麻呂


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10/10

べらべらと、下世話な話(禿げの話)でもしてもみよう

 下世話というのは、下ネタのことではない。「下」という漢字が使われているので、話すのがためらいそうだがそうではない。お金や噂話、みんながよくする世間話のことを指す。あまりにも具体的な話で、聞いた人にとってはあまり役に立たない話ともいえる。


 そのため、エッセイでは下世話な話は避けてきた。話に思い当たる人にとっては、その会話に共感し興味を示すかもしれないが、そうではない人にとっては「読んで損した」と思うかもしれない。個人的にも他人の下世話な話には興味がもてない。あの人が誰と付き合っているのか、あるプロジェクトが炎上しているなど、不確かな噂話は耳に入れないようにしている。

 噂話はどういうわけか、フェイクニュースであっても許容されるため、情報としては有毒とすら思っている。


 とはいえ、下世話な話に対する拒否感は、僕の好みに過ぎないかもしれない。もしかしたら、一般的には求められる話かもしれないので、下世話な話をしてみようと思う。男性特有の「禿げ」の話だ。


 中学生ぐらいのときに、僕は自分が禿げるのだろうかと考えたことがある。父親が禿げていたので、禿げが遺伝するとすれば、僕も禿げる可能性が濃厚だった。「禿げるかどうかは、母方の祖父が禿げているかどうかが重要だ」という話を聞いたので、1年に1回しか合わせない祖父の顔を思い浮かべてみた。やっぱり禿げていた。

 僕が高校生ぐらいになると、兄が禿げ始めた。禿げは、私のもとに近づいてきていた。死は、本人に悟られないように後ろからやってくるらしいが、禿げは堂々と前からやってくる。メメントモリ(死を忘れるなという格言)を意識する必要もない。禿げは、正々堂々としていて図々しい。


 禿げが正々堂々しているので、人間は先手を打つことで、禿げから逃れられないかと考える。10数年前からだろうか、「AGA」という言葉を耳にするようになった。禿げは、病気になった。ホルモンに起因する遺伝的な病気だとすれば、1種の先天的な病ということなのだろうか。禿げでお金儲けができるようだ。これが資本主義というやつなのだろうか。


 そもそもどうして禿げてはいけないのだろうか。日本の男性アイドルを思い出すと禿げている人はいない。白髪が目立つ人もいない。お年を召した俳優であっても、禿げている人は少ないような気がする。日本だと、禿げは、「格好良い」と両立しないようだ。通勤電車のなかでは、禿げている人をたくさん見かけるが、テレビや雑誌ではそうではない。もしかしたら、老いを見せることはタブーなのかもしれない。視聴者も老いを受け入れる余裕がないのだろうか。


 そんなことを考えていた僕も、最近生え際が後退していることに気づいた。

 AGAの治療を受けるかどうか迷った。迷ったといっても、3日程度だ。オンライン診療で薬をもらうと、月1万円程度で治療を受けられるらしい。その薬が効くかどうかわからないが、うまくいけばその薬を飲み続ければよい。ただ、AGAの治療はずっと続ける必要がある。やめた途端に、禿げは進行する。未来に立ちはだかっている禿げを、薬で押し留めているようなイメージなのだろうか。


 1ヶ月1万円。1年12万円・・・といういかにも下世話な計算をする。禿げたら自分で髪の毛をバリカンでカットすればよいのではないか。そしたら、散髪代の節約になるので、むしろ今よりも得をするのではないかと考えるようになった。そもそも、禿げを避けるべき対象としている世間の風潮がおかしいのではないかと、反抗心すら抱くようになった。

 

 検討の末、AGA治療を受けないことにした。ゆっくりと僕は禿げていくのだろう。

 ここまで書いて思う。下世話が過ぎる。

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