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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊


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十四話

 訓練生が散らばっていく。

 西に行けば深淵に近づくので、必然的に北か南を選択しているな。

 北は七節と吉田、あと新規三名。

 南は元トップ3。

 実力を把握していない面々が北に固まっている。ならば、北に向かって遠くから観察するべきか。


「じゃあ、北――」

「あっちに行こうや!」


 俺の言葉を遮って、望が勢いよく指を突き出した方角は南。


「俺は逆側をオススメする」

「なんや、反抗期か。だったら、すみれちゃんに決めてもらおうや」

「構わん」


 すみれなら俺を選ぶに決まっている、という確信がある。なので、拒否する理由がない。

 自信満々で、すみれの決断を待つ。


「そのー、望君の方かな。だって、あっちにはあの大きな犬が逃げたから」

「望ごときに負けたっ……」


 望に負けたことが、あまりにショックで膝から崩れ落ちる。


「えっ、えっ⁉ どうしたの、守人君⁉」

「いや、ちょっと立ちくらみが」


 すみれに余計な心配をさせたことを恥じて、何気ない素振りを装って立ち上がる。

 不満はあるが、すみれが決めたのなら文句は言わない。従おう。


「では、あちらに行くとするか」

「なあ、前々から言ってるけど、わいとすみれちゃんとの対応の差に思うところはないんか?」

「微塵もない」


 断言すると、望は「なんでやねん!」と即座に返す。

 そんな俺たちを見て、すみれは口元を押さえて笑いを堪えている。


「でも、さっきの大きな犬みたいなのが現れたら危ないよね。他にはいないのかな」

「動物を放って実験した言うとったから、そりゃ、わんさかおるんちゃうん?」

「そうだな。警戒するに越したことはない」


 今回の探検は問題なく終わるだろう。一見、豪先生しかいないように見えるが、そこら中に黒服が潜んでいて俺たちの様子を窺っているので、安全は確保済み。

 それにポチ助も周囲を警戒してくれているので危険は少ない。

 とはいえ、オーラに目覚めた動物が無数に存在している。ポチ助のように理性を失わず人間に従う個体は稀で、ほとんどが野生化してしまい、弱肉強食の独自の世界を作り上げているのがここだ。

 今回の狙いはオーラの危険性。自分が万能で無敵の存在ではない、と訓練生に自覚させる。といったところか。


 そんなことを考えつつ、適当にぶらつきながら景色を眺める。

 二人は過剰に警戒していて、俺の後ろに隠れながら周囲を見回している。見るからに挙動不審。

 他の連中が気になったので逆方向に振り返って観察すると、全員が豪先生から見える範囲にいる。

 あれを見た後で無謀な行動をする輩はいないか。


「何もないに越したことはないんやけど、それはそれで暇やな」

「安全第一だよ」


 何もないことに安堵して気が緩んできている望に注意をする、すみれ。

 その心がけは立派だ。


「この授業が終わるまででいいんだよね? じゃあ、あと三十分ぐらいかな」

「そやな。それまで、時間潰そ……あれ、先に行ってた、あいつらの姿が見えへんで」


 望が指摘した「あいつら」とは、同じ南側に進んだ元トップ3たちのことか。

 確かにさっきまでは視界の隅に捉えていたのだが、今はその姿が見えなくなっている。

 【地獄耳】を発動して耳を澄ます。

 三人の声と足音を捉えた。かなり先の方まで進んでいるな。方角からして、あの木々が茂って森のようになっている所に足を踏み入れたようだ。

 他にも無数の生き物の足音や息づかいが聞こえてくる。


「さっき、あの方向に入っていくのを目撃した」

「えっ、あの森みたいな所に行ったの⁉ だ、大丈夫かな」

「放っておいたらええねん。オーラ能力も高いし、異能も持ってんやろ」


 心配する、すみれ。どうでもいいと、興味のない素振りの望。

 この授業で大怪我を負ったという話は聞いたことがない。もちろん、死者も。なので、過剰に心配する必要はない。


「問題ないだろう。もし、何があったとしても自己責任だ」

「そんな……。守人君はもっと優しい人かと思っていました。少し、がっかりです」

「助けに行こう」


 即座に意見を曲げて、キリッとした表情で応える。


「あ、あんさん……」


 隣で望が呆れた顔をしているが、そんなことはどうでもいい。すみれからの好感度がなによりも大事だ。それに前回とは未来が変わってきている。何も起こらないと過信するのはよくない。


「俺も本当は助けに行くべきだと判断していたが、二人の考えを確認したかったのだよ」

「そうなんだね。ごめんなさい、キツいことを言ってしまって」


 落ち込む、すみれの肩にそっと手を置いて「気にしてない」と慰める。


「なんや、この茶番劇は! 二人の世界を構築するのやめてくれへんか。だいたい、さっきの見捨てる発言は本音やろ!」

「その目は節穴か。この展開を当初から見抜いていたのもわからんとは」

「絶対、嘘や!」


 譲らない望を無視して、すみれと一緒に元トップ3が消えた方向へと歩き出す。


「ちょっ、ちょっと待ってや。置いてくのはなしやで!」


 文句を言いながらも付いてきたか。

 森の手前まで来たが、幹も太く枝の数が自然ではあり得ないほど生えている木々が立ち並んでいる。

 非現実的な光景に、息を呑み尻込みをする二人。

 植物からも微量ながらオーラが発生しているので、それを肌で感じ取っているのか表情が引きつっている。


「やっぱ、やめへん?」

「えっと、その、それはちょっと……」


 望の提案に頷きそうになった、すみれだったが、頭を左右に振って踏みとどまった。

自分から言い出した手前、引くに引けない状況か。


「引くのも、また勇気がいる行動だ。それを否定したりは……これは」

「きゃああああああっ!」


 もう一度、二人の判断を仰ごうとしたが、森の奥から聞こえてきた甲高い悲鳴がそれを遮る。


「今のは、金切さんじゃ!」

「たぶんそうや!」


 さっきまでの不安と恐怖が吹き飛んだのか、二人が同時に駆け出している。

 あれだけ怯えていたにもかかわらず、他人の窮地に迷わず動ける二人の後ろ姿を見て思わず微笑んでしまう。

 過去の、あの地獄では、俺も含めて他人の不幸を見て見ぬ振りをするのが当たり前の世界だった。助けに入ったら自分が殺される。だから、自分にとばっちりがこないように誰にも手を差し伸べず、声を潜めて他人の不幸から目を逸らす。

 それが当然の世界。

 だからこそ、二人の行動を嬉しく思う。っと、感慨にふけっている場合ではなかった、後を追わなければ。





 密集している木々の隙間を抜けて、先に走っていた二人をあっさり抜いて進むと、木々が生えていない円形の開けた場所に出た。

 そこは森の中で唯一、日の光が差し込む場所。そこで、身動きが取れなくなっているのは、元トップ3。

 こちらからは後ろ姿しか見えないが、女性二人は腰が抜けたのか座り込み、その前で震えながらも二人を庇う、元ナンバー1の野々街。

 そんな彼らの前にいるのは、全長五メートルを超えた小さい山を連想させる巨体。

 ゴワゴワの体毛に短い脚。大きな鼻と、大きな口からは鋭い牙が二本、真っ直ぐ前に伸びている。


「守人、足が早すぎやって。はあはあはぁーっ、心臓爆裂するかと……うわっ、でっか! 何食うたら、こんなデカなんねん⁉」

「い、イノシシ⁉」


 息も絶え絶えで遅れてやって来た二人が、あれを目の当たりにして目を見開いている。

 こちらの声が聞こえた元トップ3が振り返ったが、女性二人は涙まみれの顔面、野々街は血の気の引いた、今にも泣き出しそうな顔だ。


「た、助けてくれ!」

「は、早く助けなさいよ!」

「も、もうダメぇ。食われたくないぃぃぃ」


 三者三様だが、全員が助けを求めている。


「そ、そんなこと言われても、どないせいっちゅうねん!」

「え、えと、早く逃げて!」


 二人は完全に足がすくんでいて前に進めないようだ。

 無理もない。化け物にしか見えないあれを前にしたら虚勢を張るのも難しい。

 むしろ、この状況でも逃げ出さずに声をかけていることを褒めるべきだ。ただ、元ナンバー1の野々街なら異能の力でどうとでもできそうなんだが。

 ……いや、違う。相手の迫力に負けて怖じ気づき、本来の実力が発揮できていない。平和な日本で暮らしてきた弊害。命懸けの戦いを経験したことがある人の方が稀な世界では、致し方ないか。


 巨大イノシシはこちらを一瞥しただけで、ターゲットは元トップ3と決めたようだ。前足で地面を掘るような仕草をして、姿勢を低くしている。

 あれは突っ込む前の仕草。なら――

 俺は迷わず三人に向かって走り出す、と同時にイノシシにも動きがあった。

 大地を踏みならし、腹に響く振動をさせながら巨体が迫る様は、トラックが突っ込んでくるかのような迫力がある。


 これに当たれば死ぬ。誰もが即座に理解できるほどの破壊力を秘めた突進。

 俺がギリギリで三人の前に飛び出すと、右足の裏に意識を集中して「開け」と呟く。

 眼前まで迫っていた巨体が一瞬にして消える。

 足下から激しい振動が一度だけ伝わり、土埃が巻き上がった。

 そっと下を覗き込むと、その巨体がすっぽり入る巨大な穴の側面に激突して気を失っている、イノシシの姿がある。


 ……これは死亡しているな。


「なっ、今のはどうやったんだ! 異能か⁉」

「何が起こったの!」

「た、助かったあぁぁぁ」


 背後から聞こえる三人の驚きと安堵の声を聞いて、少し冷静になる。

 離れた場所から微かに聞こえた、「ほう」という感心するかのような吐息。

 しまった。咄嗟に飛び出して助けてしまったが、近くに黒服が潜んでいるのが頭から抜けていた。

 助けたいという気持ちと……ほんの、ほんのわずかだが、すみれの前で良い格好を見せたいという欲に突き動かされて、実力の一部を晒してしまった。

 目立ちたくない、なんて思いながら悪目立ちするなんて、無自覚俺tueeee系の主人公じゃあるまいし。

 いっそのこと開き直って「俺何かやっちゃいました」と言ってみるのもありか。


「どないなったんや?」

「今のって」


 背後から聞こえる、すみれと望の声。

 覚悟を決めて振り返り、驚く五人の前でゆっくりと口を開こうとした。


「急に地面が陥没してギリギリセーフやったな! こんな奇跡みたいなことあるなんて、現実は小説より奇なり、とは良く言ったもんやわ」

「深淵とかオーラとか異能事態が現実離れしてるもんね」


 なんか、二人が誤解して納得している。

 ……便乗するか。


「深淵が近いから地盤が安定してないのではないか。俺が【穴】の異能を発動させたら、それを切っ掛けに一気に地盤が崩れたようだ。取りあえず、この場は離れるべきだ。他も崩れないとは限らない」


 と、それっぽいことを言って立ち去ることを促す。

 すみれと望は、まだ腰が抜けている二人に肩を貸している。野々街に手を貸そうとしたが「大丈夫だから」といって断られる。

 野々街だけはじっと俺が開けた穴を見つめていたが、踵を返す直前、一種だけ訝しんだ目が俺を捉えていた。


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