銀狼からの試験
それから治は3時間ほどバイク(ドローン)に乗っていた。
空を飛ぶのは風になったように錯覚してしまうほどいいものだった。つい時間を忘れて飛んでしまったので、楓たちはもう神殿の方に戻ってしまった。だがその時治は気づいた、バイク以外は試せていないということを。
(どうしようか……アレを試すには災害級と戦うのが一番手っ取り早いが銀狼は夕方以降この森から俺らを出そうとしないからな……かと言って今日中に試してみたい……夕食の調達という設定で行けば手応えが足りないが普通の獣を狩ることはできる。いや、素手で倒せる相手にアレを使うのは惜しい。頭下げて頼むしかないのか……)
治を悩ませる原因は二つある。一つは治が強くなってしまった点、治は神気の特訓を極め、一通りの魔法が使えるようになってしまった。しかも神気を使った魔法なので威力は魔力よりも上(純粋な魔力を比較対象にしているから、ムラの多い普通の人間の魔法の100倍の威力はあると思ってね。)なので、上級魔獣ぐらいは武器を使わずに倒せてしまう。まあ、たまに木の枝に神気をまとわせて中級魔獣5匹を一気に串刺しにすることはあるが、今回は武器の性能を試すという意味で災害級という上級のさらに上、まだあったことのない存在で試してみたいのだ。
そして二つ目にして最大の理由が銀狼の過保護である。これから神獣と戦う存在である俺らは本番まで鍛錬以外で無駄な傷をつけたくないということなのか、銀狼から厳しいルールを決められている。その第5条には『日の色が橙色になったら特別な理由がない限り神の加護から出てはいけない』というものがあり、今回の行為はこれに引っかかる。
だが、治は一度決めたら貫き通したい人であり、心底めんどくさい性格の持ち主であった。自分がドローンに時間を取りすぎたのが問題なのだが、そんなことはどうでもいい。ただ今は『倒したい』のである。
治は神殿に戻るとすぐに銀狼のところに走った。もちろん、森を出る許可をとるためである。
「銀狼!少し話したいことがあるんだけどいいか?」
『治か、我もちょうど呼ぼうとしていたところだ。』
「何か用か?俺のは後回しでいいから何かあるなら言ってくれ。」
(二人ともが頼みごとをする場合、先を譲ることで後から「やってあげたよね?」という方法が使いやすくなる。我ながら抜け目がないね)
『何でニヤニヤしているのかわからないが、お言葉に甘えさせてもらおう。単刀直入に言う、お前には天災級と戦ってもらう。』
願ったりかなったりである。
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銀狼の依頼は神の加護を出てから陽上の方角、あちらの世界での南に300キロほど行ったところにある洞窟に住んでいるという天災級の魔獣、『ストーンタイガー』の討伐だった。その名の通り石の毛皮を持つトラの魔獣で、土属性の強力な魔法を使うという。
魔獣の分類の仕方は多少アバウトなところはあるが、だいたい決められている。まず、魔獣というのは二種類あり、生まれた時から魔獣だというものと大量の魔素(汚染された魔力のこと、魔獣の素)を体内に取り込んだものという区別が存在する。生まれた時から魔獣の場合、大体がスキルを使うことができ、それによりスキルが使えるものは中級以上として扱われる。俺は災害級でよかったのだが、銀狼の依頼はその二段階上の天才級だった。敵が強くて悪いことはない。
銀狼の依頼は俺と楓と琴美の3人それぞれに出された。琴美は『ストーンタイガーの洞窟で神気を使って上級魔獣を15匹討伐』楓は『ストーンタイガーの洞窟で魔法を使って上級魔獣12匹討伐』だった。楓には修行前に『全属性魔術適性』と『逸材』を譲渡しておいたので、魔力量が半端なく成長した上に全ての属性の魔法が使える人間になっている。もちろん琴美にも『逸材』は譲渡したが、琴美は直接神気を操れるので適性の方は譲渡していない。これでぴんと来ない人は『逸材』スキルは勇者のユニークスキル、『全属性魔術適性』は世界最高の魔導師と呼ばれたものの持っていたスキル、上級魔獣は国王軍の精鋭が5人がかりで倒す魔獣ということを知っておくといい。
なぜ銀狼がこんな依頼を出したかというと、これは旅立ち前の試験らしい。どれほど力を蓄えることができたかを試験し、旅立ち後の安全を自分で確保できるかを調べるという目的があるんだとか。
「おし、できた!もう乗っていいぞ!」
俺は両側に楓と琴美用のサイドカーを付けて性質付与をした。もう日は半分ほど沈んでしまった。
『我は隣を走るからな。』
「追いつけるか?」
『昼間のは力の半分ほどしか出していない。きっと追いつけるだろう。』
「俺本当に神獣に勝てるのかなぁ。」
『安心せい、我は速さと戦闘能力を優先されたものだ。他のやつの2倍はあると思え。』
「銀狼ってすごいんだな。」
俺の師匠は神獣最強の座に君臨されている方だったらしい。
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