●第三話● シャノの話
「みんな、こんにちは。元気にしていたか」
シャノが無愛想に生徒たちに話しかける。
「翻訳機を通してみんなに日本語で話しかけている。
この翻訳機が優れもので…」
「そんなことより、クラスの代表として質問させていただきます。なんで、シャノさんがここにいるんですか!?」
シャノの話をさえぎり、クラス委員長で生徒会長のオトナリが素っ頓狂な声を出して問う。
「それはだな…。
宇宙警察で保護観察していたルーシュの一族と呼ばれる高次元生物のうちの二匹が地球に逃げたんだ。
クロマとアカマと呼ばれる、地球で言ったら猫みたいな恰好をした生物だ。
尻尾が3本あり、人を操れる魔法や攻撃魔法、回復魔法などを使える。
彼らは今のところ、そこまで力はないのだが、人間の感情を吸収して成長することができるため、一年後にはどんな力を持つのか分からない。
アカマは情熱の感情がそばにあると成長する。
それに対し、クロマは邪悪の感情がそばにあると成長する。
クロマがまず地球に逃げ込み、それを追うようにしてアカマも消えた。
クロマは人間に対して害意があるため、どんな被害を地球人にもたらすか分からない。
最悪なケースでは地球全体が危機に陥る。
アカマもどんな者に狙われて利用されるか分からないために保護しなければいけない。
そこで、君たちにはこの二匹を見つけて捕獲してもらいたいんだ」
「それを聞いて分からないのは、なぜ宇宙警察から逃げた猫たちを宇宙警察が捕まえずに、魔法軍のシャノさんと僕たちが捕まえるのかということ」
オトナリは冷静に聞きたいことを聞いてみた。
「良い質問だ。宇宙警察は今、内部で積極干渉派と消極干渉派の対立が起こっているみたいで、戦闘も起こっているらしい。
だから、地球に差し向けられる勢力が手薄なんだ。
それで、宇宙警察は惑星ババロアの魔法軍とある密約を交わした。
それは、地球人たちを惑星ババロアに転移させたことを罪に問わない代わりに、その地球人たちを使ってこの四匹を捕まえてほしいというものだったんだ」
「断ったらどうなるんですか?」とダイゴが聞く。
「今回は任意協力なので断ってもいい。
ただ、先にも言ったように地球に危機が訪れるかもしれない。
みんなにはヒーローになった気分で地球を救ってほしい」
「そういうことだったら、やりますよ、俺たち!
なあ、みんな!?」
クロサワが3年B組の皆に問いかける。
教室中で歓声がわき起こる。
惑星ババロアでもそうだったが、クロサワはやはり熱い男だ。
「シャノさんの他には、魔法軍は助っ人に来るんですか?」とオトナリ。
「それがだな、魔法軍と科学軍の講和の後、惑星ババロア新政府ができて、魔法軍と科学軍から新しい官吏と軍隊が徴用されたりと、俺たちは戦争の後始末で忙しいんだ。
俺の他にはミント先生しか地球に来ない」
「でも、僕たちは地球では魔法が使えないのにどうやってその二匹を捕まえるんですか?」
オトナリはユウトたちが質問したいことを先どって次々に質問してくれて頼もしい。
「この時計をお前たちにやる。女子生徒には、女子用の可愛いやつを用意してある」
シャノは左手を前にかざして、腕時計を生徒たちに見せた。なんの変哲もない腕時計に見える。
「この腕時計は、惑星ババロアでの首輪の代わりだ。
魔法石が埋め込まれていて魔法が地球でも使えるようになるし、高度情報装置もついていてメンバー間の通信にも使える。
もちろん、アーマー機能もついているので、何か身に危険が起こった時には、アーマーが守ってくれる」
シャノが説明を続ける。
「先生、肝心かなめなことがあります。僕たち3年B組は受験生です! 3年の春で受験へ向けてラストスパートを始めるこの時期にそんな猫探しなんて出来ません!」
オトナリが活舌良くハキハキとシャノに物申した。
「まあ、それも大丈夫だ。この腕時計をしながら寝れば睡眠学習で大方のことは覚えられる。無理なくな」
それなら安心だ。苦労して勉強するよりも睡眠学習の方がよっぽど良いかもしれない。
「腕時計の睡眠学習機能はみんなにこんなことを頼む俺からのささやかなプレゼントだ。
みんなには通常通り学園生活を送ってもらいながら、ルーシュの一族の二匹を探してもらう。
アカマとクロマは強力な特殊魔法を使うので、放課後は市立体育館で訓練だ。
2週間後には文化祭だろう?
こんなことをお願いするのも悪いので、みんなには楽しんでほしい」
「なんだかよく分からねーが、また魔法を使えるようになるなら大歓迎だぜ」
後ろの席でふんぞり返っているナカムラが言う。
木口君をもういじめなくなったナカムラだが、相変わらず態度が悪い。
シャノの話が終わると、3年B組の生徒達に腕時計が配られた。
「オシャレな雰囲気の可愛い腕時計…。
しかも、女子全員デザインが違う。シャノさんはセンスあるな。イケメンだからかな」
モエコが乙女モードで言う。
「イケメンは関係ないんじゃないかな」と言って苦笑するユカ。
開けた窓からの風で、長い黒髪が艶やかに揺れる。
「男の方はGショックみたいな時計でカッコいいな!」とダイゴ。
「GショックのGはGodのGだからね!」とシマダがうそぶき、チャゲが「GravityのGだよ」と真面目にツッコミを入れる。
ユウトは厄介なことに巻き込まれたとも思ったが、また魔法が使える楽しみの方が勝っていた。
魔法が使えなくなってからというもの、ユウトは少し運動ができてユカという超絶可愛い彼女がいる以外は、元気が取り柄なだけの凡庸な生徒だった。
魔法の力を早く試したい…! ユウトはそう思った。
「先生!」
またもオトナリが手を挙げる。
「まだ惑星ババロアでの約束が果たされていません。闘いが終わった時に、一人につき一つ願いを叶えてくれる約束だったじゃないですか」
「あー、それは、魔法軍が科学軍に勝った時にって約束だ。アルエとかいう奴の音楽兵器で魔法軍科学軍共に戦意を喪失させられ、科学軍のリーダーも内紛で死んだ。その結果、講和という形で戦争が終わったから違うな」
「そんなのヘリクツだー!!」
モエコが机をバンバンと叩きながらプリプリして言う。
☆
その日の放課後、ユウト達は市立体育館にやってきた。
シャノの話によると、特殊な魔法道具を用いて職員を操り、今日から一年間、この体育館はユウト達の貸し切りだという。
「これから魔法訓練を行う。
みんなは魔法を使うのが久々だから、勘を取り戻してくれ。
体育館の壁や床、備品には魔法石を埋め込んだ養生テープでバリヤーをかけておいたから、安心して暴れていいぞ。
まず、俺とユウトが模擬戦を行い、皆に見本を見せる。
ユウト、来い」
シャノに言われて前に出てきたユウト。
シャノが相手だろうが瞬殺の気持ちでいた。みんなの前で恥をかきますよ、シャノさん!
「行くぞ、ユウト!」
シャノの合図でユウトVSシャノの模擬戦がスタートした。




