●第二話● 美少女アイドル、家に来る
小野美雨はアイドル稼業で忙しい中のせっかくの休日の日に、何もない埼玉の田舎にいた。顔バレを避けるためのサングラスやマスクもせずに。
「なぜ、私はこんなところにいるのかな。なぜか、ここに来たくなってしまって…」
「ほら、小野美雨が来ただろう。行ってみるんだな。私はここにいる」
アカマはそう言って丸くなり、眠る体勢に入った。
自宅の窓の外を眺めていたタイソーは、本当にミウが来たことを確信すると、息をのんだ。
本当に小野美雨だ。ショートカットで、テレビでは快活で明るい女の子。
綺麗だ……。
「ミウさん!」
タイソーが家のドアを勢い良く開け、話しかける。
「えっ?」
「アイドルの小野美雨さんだよね!?」
「そうだけど…」
「ちょっとお話していいかな?」
「ええ…」と言ってミウはうなずいた。
「俺は岩木太宗。高校1年生だ」
「私も高校では1年生よ。芸能科だけど」
しかし、ミウは驚いていた。
このタイソーと名乗る高校生に理由は分からず惹かれている自分がいる。
「俺のことはタイソーでいいよ。呼び捨てで」
「じゃあ私を呼ぶ時はミウで」
(タイソーになら、私の今抱えている悩みを話せそう。)
出会ってすぐの見ず知らずの高校男子に対し、ミウは自分の悩みを話したくなった。
なぜなのかはやはやはり分からない。
「タイソー。私、実は悩んでいることがあって」
「どうしたの?」
「実は…」
ミウが話した悩みとは、数か月前からミウのツイッターにアクマと名乗るアカウントから交通事故や殺人事件の動画が送られてきて、「お前もあの世に送ってやる」と文章が添えられているという内容だった。
ブロックを繰り返しても、アクマの新しいアカウントが作られて、それらの行為を繰り返すという。
そして、昨夜、アクマから「お前の住所を特定した。この家だろ」というリプライが自宅の写真付き送られてきて、ミウは震えあがっているようだ。
「どうやって住所を特定したのかな…。自撮りする時も自宅や自宅近辺では行っていなかったのに」
「うーん、俺にその悩みを解決するのは無理だけど、解決できそうなヤツがいるんだ。目の前にある俺の自宅に来ない?」
「うん、分かった。いいよ…」
男の自宅に上がるなんて、女性には覚悟がいる。タイソーは恋愛のレの字も知らないため、そんなことを言い出したのだ。
だが、ミウはこれまでのタイソーの話の聞きぶりや話しぶりから、すっかりタイソーのことを信用していた。こんな短時間でなのになぜなのかは、ミウ自身も分からない。
「おや、昨日は猫を連れてきたと思ったら、今度は女の子かい?」と驚く母親をよけて、タイソーはミウを連れて自室のある2階に向かう。
(しかし、あの子、息子が追いかけているアイドルに似ていたような…。まさか、気のせいよねえ。それにしても可愛い女の子。)と、後ろ姿のミウを見ながら母親は不思議がっていた。
「おや、憧れのアイドルを自宅に連れてきたか。大胆なことをするものだな」
自室に入ると、仮眠を取っていたアカマがむくっと起き上がり、つぶやく。
「アカマ、頼む。俺の二番目の願いを叶えてくれ。この子を救いたいんだ」
タイソーが必死の顔で懇願する。
ミウは何が何だか全然分からなかった。三本の尻尾がある猫がしゃべっている?
タイソーがミウの悩みの内容をアカマに話す。
「分かった。アクマからのリプライやブログコメントが来ても、ミウの目には黒く塗りつぶされて見えるようにしよう。
これでストレスを軽減できる。それから、もし身に何らかの直接的な攻撃や衝撃が来ても、私のバリヤーで保護しよう」
「えー、そんなんじゃなくてさ、アクマって奴を警察に送ったりとか出来ないのかよ、アカマ」とタイソー。
「無理を言うんじゃない。顔と名前の分かる人物しか魔法の効力を及ぼせないんだ、私たちには」とアカマ。
「私たち? 他にもアカマみたいな猫がいるのか?」
「猫じゃない。ルーシュの一族だ。私の他にも10匹ほどルーシュの一族はいる。しかし、地球に来たのは、私とクロマの二匹だけだ」
アクマを刑務所送りにはできないが、これでミウの安全や心の健康が守られると思うと、タイソーには嬉しかった。
「本当なら私もアクマとかいう奴を懲らしめたい気持ちがあるのだがな。私と名前が一字違いなのも腹が立つ」
アカマがむっとしながら言う。
「オカマとも一字違いだよなー」とタイソーがヘラヘラしながら言う。
「オカマは差別用語だということも知らないのか。呆れる」とアカマ。
「アカマは俺と会った時になんで傷を負っていたの?」
「それは、クロマと戦った直後だったからだ。
私の回復魔法も、魔力を消耗した後だからすぐには使えなかった」
「魔法のバトル?
見てみたかったなー」
「お前はのん気な奴だな。
後で説明するが、クロマが地球に来たのは理由がある。
地球の危機なんだ」
事情が呑み込めず茫然としていたミウだったが、今日会ったばかりなのに気になる存在のタイソーの部屋に長居しているうちに、徐々に心が軽くなっていった。
「あと、もう一つ悩みがあるんだけど、聞いてもらっていい?」
ミウは恐る恐るといった調子で聞いてみた。
「なんだい?」
「昨夜、自分で包丁を持って自分の右足を切ったの。
そして、鏡に向かって「今日は右足、明日は左足、明後日は右腕、3日後には顔、そして4日後には心臓を切ってお前は死ぬ」と恐ろしいことを自分で言っていたの。
なぜ、自分がそんなことをしなければいけないか分からなくて怖い!」
そして、ミウはうつ伏せで泣き出した。
「右足の傷跡を見せてごらん」アカマが優しく言う。
ミウは履いているジーンズをめくって傷跡を見せる。
本当だ。切りつけていて出血しており、痛そうだ…。
「 治癒の加護! 」と言葉を放ったアカマ。
みるみる傷が治っていく…!
「多分、名前と顔が分かる人間一人を操るタイプの呪いだね。でも、もう大丈夫。呪いがかからないようにしておいたよ」
アカマはドヤ猫顔だ。
「誰がこんなことをしたんだろう…。許せない!」と怒るタイソー。
ちょうどその頃、夕方になり、「私、そろそろ帰らなくちゃ」とミウが言う。
「今日は本当にありがとう。タイソーも猫さんも」
「またな。私は猫ではないのだけどな」
「また、ここに来てもいい?」
ミウが笑って言うと、タイソーは「もちろん!」と満面の笑みで返した。




