97話
宣言通り寝坊。おはようございます。しかし他2人もまだ寝てるのでセーフ。
なんとなくやる気が出ないのは何故だ。
しかしそうも言ってられないからね。布団から出て朝ごはんの準備始めるかな。……寝てる2人を起こすのも悪いから焼き物無しで、パンとスープにしてしまえ。
スープを煮てたら鈴本が起きた。
「おはよう」
「おはよ。昨夜はなんかごめんね。今日というか明日は先に寝てて」
「いや、それもなんとなく落ち着かないんだ」
……まあ、気持ちは分かるよ。逆の立場だったら私も起きてる気がするし。
「待つのって、辛いな」
「慣れちゃえばそうでもないんだけれどね」
顔を見合わせて苦笑いしつつ、ご飯の支度を進める。
せめて明日は早く帰ってこられるように、がんばろ。
それからしばらくしてやっと針生が起きたので朝ごはん。
「そういえば、昨日の首尾はどうだった」
あ、そういや報告してなかったな。
「ええとね、ちょっとまずいかもしれない。……『共有』妨害すると思われる例のアミュレット。騎士団長はいつも装備したまま寝てるんだそうな。大司祭からもらった時に肌身離さず持ってろ、って教えられてるらしいね」
「……それは、また」
鈴本も針生も顔が曇る。
「アミュレットが『子守唄』も妨害するとしたら厄介この上ないよね」
そもそも『共有』を防がれるかも分からないんだけども、分からないなら最悪の想定で事を運んだ方がいいもんね。
「……じゃあ、やっぱり司祭長の方から探した方がいいか?」
「そうなっちゃうかな。どうしても騎士団長ってなると、私と針生だけでどうにかできるか心配だから」
「角三君と正面衝突で拮抗するんでしょ?じゃあ俺、多分無理だわ。奇襲掛けていいなら殺せるけど」
ね。できれば大司祭に感づかれることなく、穏便に事を運びたい我々としてはそれは避けたい。
「因みに、騎士団長って男?」
暫く考えて、鈴本が唐突にそんなことを聞いてきた。
「男。なんで?」
女性騎士の記憶の中ではなんか、こう……壁殴り代行の看板でも持たせたらこれ以上の説得力は無いぞ、というかんじのムキムキおじさんだったからなあ。
「……羽ヶ崎君が」
「やめてあげて!」
羽ヶ崎君をこれ以上苛めないであげて!羽ヶ崎君のライフはもう0よっ!
「羽ヶ崎君にやらせるぐらいなら私が何とかやってみるよ、自信ないけど」
「やめろ」
「やめて」
……即答されてしまった。何故だ、羽ヶ崎君よりはまだ成功率が高そうじゃない。
「お前に、一発殴られただけで死ぬお前にそういう事やらせるぐらいなら……針生を女装させる」
「や、やだよ、やだかんね、俺っ!」
そうね、うっかりこっちの意図がばれちゃった時のリスクが私だとでかいんだよね。それは承知の上だったんだけども……。
……ほんと、このスぺランカー体質なんとかならんかな。
ここはとりあえず保留という事にして、皆さんの進捗状況を見ることにした。
まずは女性騎士の様子を知りたかったので角三君からスタート。
「舞戸、俺も見たいんだが、また頼めるか?」
「うん、昨日の私の扱いからすると今更感があるけども構わんよ」
昨日の君は私をリモコン扱いしてくれたからなあ。うん。
「……え、鈴本、メイドさん中継見られるの?」
「え、ああ。俺と、多分羽ヶ崎君も見られるんじゃないか?」
「ええー、いいなぁ。えー、じゃあ舞戸さん、ちょっと1Fまで俺送ってからにしてよ。俺も見てくるから」
ということで、針生を1F神殿そばの丘までタクシーして、戻って来てからメイドさん中継開始。
角三君だから接続先はみかんだね。
……ふむ、割と普通なかんじ。特に女性騎士の方が機嫌悪そうとか、違和感を感じているとかいう事も無い模様。
「舞戸、音声は」
……しょうがない、入れるか……。MP増やす訓練だと思って頑張ろう。
「……からな。やはり女である以上、出世は難しいだろうな」
「……そっか」
なんだかちょっと重い話をしているらしいね。
「まあ、大司祭様の護衛として、騎士団長の他に補佐をつけることもある。団長が男性だからか、補佐は女を選ぶ場合も多い。その方が街を歩くときに物々しくなりにくいからな。……だから、私は今、その立場を目指しているんだ。悲観的にならないでくれ」
女性騎士さんが笑うと、角三君はちょっと何かに思いあたったような顔をした。
「……どうかしたか?」
「え……いや、何も……」
……何も、って言いつつ、顔に『何かありました』って、出てるぞ、角三君……。
「遠慮しないで言ってくれ。その方が私としてもすっきりする」
女性騎士さんが促すと、非常に言いづらそうに、角三君が口を開いた。
「……女性を補佐にするのって、その……そういう……あの、騎士としてじゃなくて、っていうか……その……」
……うん。まあ、女騎士って、そういう役回りのイメージあるよね。いや、なんでとは言わないけど。
隣で鈴本がけらけら笑ってるよ。
角三君、きっと、咄嗟に嘘が吐けなかったんだろうなぁ……。
しかし、女性騎士さん、これに大笑い。
可笑しそうに、ちょっと嬉しそうに一頻り笑って、目尻に浮いた涙を指先で拭いながら答えた。
「何、大丈夫だ。大司祭様は聖職者の頂点にお立ちになるお方。そのような不埒な事をなさるわけがない」
「……そっか」
「……それに、私は……女とはいえ、騎士だ。女としての柔らかさなんて持ってはいない。私は夜伽には向かないだろうよ」
そんな角三君に女性騎士さんがちょっと寂しげに言うと、角三君は……。
「……そうでもないと、思う……」
そんなことをぼしょぼしょ、と言ったので、鈴本の笑い声がますます五月蠅くなった。
……結局、それで非常に元気にきらきらもじもじする乙女になってしまった女性騎士さんにたじたじになりながら角三君は剣の練習に行くことになった模様。
「この様子じゃ、この騎士は昨夜の『共有』に気付いてなさそうだな」
ようやく笑いが収まったらしい鈴本がそんな具合にのんびり結論付けた。
……うん、まあ、女性騎士が起きて、角三君と普通にのんびり会話してる以上、女性騎士が昨夜の『共有』に気付いたとは考えにくい。
気づいてたらそれ即ち侵入者ありなんだから、もっと神殿内がバタバタしていて然るべきなのよね。
「それにしても、角三君は凄いな。昨日から一番面白い。ピュアだ」
うん、そうだね。なんというか、甘酸っぱいよね。見ててこう、恥ずかしくなってくるよね。私はなったぞ……。
「ちなみに、鈴本評で一番ピュアじゃないのは?」
「社長だろ」
いや、確かに社長は全然ピュアじゃないけど、ある意味では非常にピュアだと言えるぞ。
こう……自分の欲望と理性に対して、非常に、純真だと思うよ。社長は……。
続いて、最も心配な羽ヶ崎君。
あさぎに接続すると、それぞれのベッドに腰掛けながら会話しているらしい羽ヶ崎君とホモ術士さん。
……これはどういう状況だろ。羽ヶ崎君の表情は殆ど変らないし、ホモ術士さんは表情過多気味だから何話してるのかさっぱりだ。
まあ、何も無いみたいだから次いってもいいかな、と思っていたら、羽ヶ崎君がいきなり第一ボタン外した。……これは一体?
「舞戸、音声」
「言われなくても」
気になるので音声も入れてみる。MP?うん、羽ヶ崎君の危機(仮)には代えられない。
「……ら、俺はその情報を頼りに傭兵としてこの神殿に潜り込んだって訳よ。尤も、肝心の騎士団長様も大司祭様も見つからねえんだけどな」
……おっ。これは、いきなり当たりか!?
「へえ。……それ、どういう性能なの」
性能、って事は……やっぱり、多分例のアミュレットの話かな。だとしたら凄いな。昨日の今日でかなりの情報が集まってることになる。
「お?アンタもそういうのに興味あるのか」
「……悪い?」
「いや?別にぃ?アンタも本当にあるかも分かんねえアミュレットなんかに興味あるんだな」
やっぱりアミュレットの話らしい。ホモ術士さんがどうやってその情報を得たかは後で羽ヶ崎君に聞こう。
「……で?それ、どういう代物なの」
羽ヶ崎君が尋ねると、ホモ術士がにたり、と笑った。
「おっと、俺だってこの情報掴むのに危ない橋渡ってんだ。そうそう簡単に教えられるかよ。こういうのにはちゃんと対価を貰わねえとなあ?」
対価、という部分を強調して言いながら、ホモ術士は益々笑みを深める。
暫く氷点下の目でホモ術士を見ていた羽ヶ崎君、少し目を細めると、シャツの第二ボタンを外した。
「で?」
「せめてもう1ついかねえ?」
羽ヶ崎君が無言で見つめ返すと、ホモ術士さんは諦めたようにため息をついて話し始めた。
「……ったく、お高いね。……ああ、そのアミュレットはさっきも話したがとにかく状態異常だの精神に働きかけるものだのを無効にする。混乱させられたり、眠気を増幅させたり、あと麻痺させられたり、操られたりするのも無効だな。ただし、プラスに効果のあるものは通す。気持ちを盛り上げる、とか、眠気を覚ます、とか、な。……勿論欠陥もあるんだが……はい、ここまでだ。続きは追加料金の後で」
ホモ術士さんが笑みを深くしていく度に羽ヶ崎君の表情は温度を下げていく。
暫く無言で見合っていたけども、先に羽ヶ崎君が折れた。第三ボタンまで外す。
「もうちょっとサービスしてくれてもいいんじゃねえの?」
「続きは?」
「……へいへい。で、そのアミュレットなんだが、どうしたってたかがアミュレット1つでそこまで完璧なものを作れるわけがねえ。となると、発動を常に装備者の負担で行ってんのか、或いはアミュレットの効果が完璧じゃねえ、って事になる。或いは両方か。……けどよ、装備者が発動の為に精神力削ったってよ、普通の防護魔法幾つ重ね掛けするのと同等だと思う?普通に考えたら並の精神力じゃ常に発動しておくなんてできやしねえんだよ。……で、更に俺は決定的な証拠を見つけました。はい、ここまで」
……羽ヶ崎君、無言で第四ボタンまで外すけど、術士、動かず。
暫く無言で見合った結果、羽ヶ崎君が実に男前なことにシャツのボタンを全部外した。
動作がゆっくりしてるのは焦らしてるんじゃなく、単純に嫌悪感で指が上手く動かないのを隠す為、なんだろうなぁ……。
「で、証拠って?」
「……なあ、シャツ脱」
「脱がない。これで十分でしょ?で、証拠って?」
「はあ……話したら代金払ってもらうぞ?……あのな、前任の騎士団長。少し前に辞めたんだけどな?その理由ってのが……ほら、王都で少し前に剣闘士大会があったろ。あそこに8人の騎士を連れて出たらしいんだな。ところが、そこに出てた異国人の女の、声、だったのか、あれは。……その声を聞いて、躰が動かなくなったんだとよ。アミュレットも装備してたのに、ってな。それで辞職、ってさ。ほら、これで俺の持ってる情報は全部話したぜ?」
これは本当に大きな情報だったなあ。つまり、スキルを使えば突破できる可能性が見えてきた、ってことだね。
「嘘。考察がまだでしょ」
……まだあるんか。
「そうだなあ?……この続きは全部脱いでから」
そう言ってホモ術士が羽ヶ崎君に向かって手を伸ばした瞬間、いい加減羽ヶ崎君は限界だったらしく……鳩尾に氷の球撃ち込んだ。ホモ術士さん、またしても昏倒。
羽ヶ崎君は手早くシャツのボタンを全部留めて荷物担いで部屋から出て……部屋のドアを、凍り付かせた。
……うん、君はそれぐらいしても許される。
「……舞戸」
「……うん?」
「羽ヶ崎君帰ってきたら労ってやろうな」
「うん」
鈴本が何とも言えない顔してた。
続いて鳥海の方を見てみる。
昨日は殆ど見なかったから、ちょっと気になるんだよね。
鳥海の話術はちょっとおかしいんじゃないかと思うんで。
見たら、ひとりの騎士と話してる所だった。
「……から、おかしいと思ったんだ。それでドアをノックしたら、司祭のアリアーヌ様がいらっしゃってな、少しこのまま一人にしておいてくれ、と仰るものだからそのままにしてきたが……昨夜もそうだったらしいんだ」
アリアーヌ、という名前を聞いた鈴本の表情が少し動いた。
……もしかして、鈴本がエンカウントした女性司祭さんのことかな?
「へー。ところで礼拝堂に篭る時って、普通何する時?」
鳥海が普通に尋ねると、普通に騎士たちは返してくる。
「そうだな、懺悔とかじゃないか?」
「つまりアリアーヌ様は2日連続で懺悔しなきゃいけないような事したってこと?」
「……ここだけの話な」
おおう。騎士が鳥海に近づいて、声を潜めた。
「懺悔を聞くのなんてご法度だが、どうしても気になっちまって、ちょっと盗み聞いちゃったんだよ」
「俺が許すよ!で、それでそれで?」
いかにも好奇心たっぷりな様子で煽れば、騎士も罪悪感を薄めたようで、にやりと笑ってつづけた。
「アリアーヌ様はな、『してはならない恋をしてしまった』んだそうだ」
……。
鈴本を見る。
目を逸らされた。
……。君、君。出番じゃないですか?




