98話
「とりあえず確認ね。君がエンカウントした女性司祭さんの名前は」
「多分アリアーヌだ」
鈴本が珍しく引きつった顔をしている。
「で、その人がどうも一昨日あたりから『してはならない恋をしてしまった』と懺悔している、と」
「いや、待て、決してその対象が……その、俺であるとは、限らないだろ!」
「……君、火竜に焼かれたとき、『誘惑』の根付、どうした?」
聞くと、頭を抱えてしまった。
「……刀の側で燃え残ってたから装備してた……」
うん、そんなこったろうとは思ったよ。
一応。一応、ね。ちょっと推理するとね。
鈴本は最初、うっかり神殿に落ちちゃった時、あのド派手着物着てたんだよね。まあ、アレが最強防具だから。
それで、その状態で司祭のアリアーヌさんとエンカウントして……多分、そこで『誘惑』発動させてる。
そして、此度の魔王軍お披露目会。それが一昨日の夕方だったね。
あの時、鈴本は狐面付けてたにしても、あのド派手着物のままだったのよね。アレが最強装備だからもうしょうがないんだけども。
……という事は。司祭のアリアーヌさんからしてみれば。『鈴本=ド派手着物=魔王軍幹部』という式が出来上がっちゃうんだよ。
しかしアリアーヌさん、その時には既に『誘惑』が掛かっちゃってるんだよね。恋した相手が魔王軍幹部だったという事に気付いてしまっての懺悔、と考えれば、かなり辻褄がぴったんこ。
「ということで、君も出動だね」
「……何もしないで留守番してるのも相当に辛いがそれも相当に辛いんだが」
まあ、けらけら笑ってた罰が回ってきたとでも思って諦めて欲しい。
「社長辺りにシナリオ考えてもらおうね」
「おい、やめろ!社長がやったら本当に取り返しのつかないレベルのシナリオにされる!」
「でも一番合理的なシナリオになるよ、間違いなく」
そう言ったら、鈴本はぐうの音も出ないらしく、苦い顔で黙った。
うん、多分社長なら、そこらへん考えろと言ったら嬉々として考えるだろうから。うん。
司祭のアリアーヌさんから情報を引き出せたら司祭長に一歩近づくと思うんだよね。今夜あたり決行かね?
お昼過ぎ、全員上手く抜け出して定時連絡の時間。
『こちら『あさぎ』。アミュレットについて分かった。元々は随分前の勇者に作らせたものらしいね。効果はお察しの通り状態異常無効、ってふれこみなんだけど、それ装備してた元騎士団長は歌川さんの『魔声』で動けなくなったらしいから穴はどこかにあるんじゃない?以上』
『は、羽ヶ崎君遂に一線を……!』
『『アヤメ』、うるさい!超えてない!……ほんっと、何なの!?マジで何なの!?』
うん、ホントにお疲れ様です。
『ええと、こちらうるさい『アヤメ』でっす。騎士に話聞いてたら、我らが色男が神殿でエンカウントした女性司祭が『してはならない恋をしてしまった』と懺悔中という情報を入手しましたっ!以上!』
うん、私たちはそれ見て聞いてたけどもね。
『こちら……えっと、『ミカン』。例の女性騎士は異常なし。……念の為騎士団長関係の事は聞かないでおいた。……うん、以上』
角三君、お疲れ様です。非常に甘酸っぱい気持ちにさせていただきましたぷふふふふ。
『こちら『モエギ』です。ええと、司祭は今10人居て、ミスティアーナさん、ニールさん、バーグさん、チェースさんは司祭長じゃなさそうです。ええと、『サクラ』にもらった薬を試してみたら普通に寝ちゃったので』
……ああ、社長のドヤ顔がまた脳裏に……。
刈谷もよく薬なんか盛れたな!これも異世界イケメン補正のおかげなのか?だとしたら万能すぎるよ、イケメン補正。
まあ、イケメンに限っては大抵の事が許されるらしいからね、そういうもんだと思おう。
『ええと、こちら『トコヨ』。僕の方は……ひたすら最近女性の間で流行ってる恋愛小説の話を延々と聞かされたよ……すごいね、ここ神殿なのにそういうの読んでる人がいっぱいいるんだね。神殿の図書館見てみたら一角が全部恋愛小説だったよ……。神殿だからそういうのにかえって飢えてるのかなあ……あ、以上です』
……それはなんとも、お疲れ様でした。しかし、それ結構役に立つぞ、多分。
何てったって鈴本はあのアリアーヌさんを完全に転がさねばならないというのだから、流行りの恋愛小説から人気のシチュエーションとかを抜粋して参考にすればいいんじゃないかと思ったけど駄目だ、想像したら笑いが止まらない!腹筋が!腹筋が!
『『メイド長』、大丈夫ですか?』
「ごめん、大丈夫です」
笑ってたら社長に心配されてしまった。ごめん、私はすこぶる元気です。
『じゃあ、こちら『サクラ』です。『モエギ』に新作の薬を渡しました。それから引き続き宗教への懐疑心を植え付けてきました。順調です。いざ全面戦争になった時にも何人かは離反するんじゃないですかね。以上です』
お前は真面目に情報収集しろ!布教してないで!
「はい。こちら『メイド長』。ここからが本題です。さっき我らが色男に」
「それやめてくれ」
「……ええと、じゃあ、我らが侍殿に確認をとった所、恋する司祭アリアーヌさんに『誘惑』が掛かっている可能性が非常に高い事が判明。よって、我らが侍殿には潜入、そしてアリアーヌさんに近づき、堕としてもらうのがよかろうということになりました!ご意見をどうぞ」
『あははははははそれやばい!それやばい!いいじゃんいいじゃん!』
『異議なしっ!』
『俺も異議なしで』
『いいんじゃないかな?』
『僕らがこんなに働いてるのに侍殿が働かないのはどうかと思ってたんだよね』
『え……それ、大丈夫?……楽しそうだけど』
『シナリオは俺が午後『トコヨ』と話して決めます。流行りの恋愛小説真っ青のシナリオを作りますから、覚悟しておいてください』
皆さんからも賛同が得られたし、相変わらず社長は話が早い。助かるね、どうも。
「ま、待て、俺が神殿に入るのは危険だと」
『そこら辺は俺達が何とでもしますよ。安心して色男を演じ切って下さい』
社長がその気になっちゃったらもう鈴本は逃げられないね。うん。隣を見てみたら頭を抱えている鈴本が居た。頑張れ!
『シナリオは紙に書いて『ミナモ』に渡します。他に報告がある人は居ますか?……じゃあ、夕方までまた頑張ってください。では解散で』
鈴本が締めないので社長が締めて解散。
さて、それじゃあお昼にするかな。
針生から連絡があったのでタクシーして、簡単にお昼ご飯作って食べて、また針生のタクシーやって、のんびり鈴本の装備縫って、とやっている内に、針生から連絡があった。
『社長と加鳥が頑張ってくれたんでもうできたみたい。今から持ってくからタクシーよろしくー』
おお、遂に来たか!『社長の書いた恋愛小説を参考にした女性司祭を口説き落とすシナリオ』という劇物の匂いしかしないものが!
神殿そばの丘まで『転移』すると既に針生が居て満面の笑みで封筒を手渡してくれた。
「俺も読んだけどさ、これ鈴本がやるかと思うとちょっと笑いが止まらなくてへへへはははあははははは」
「そんなに面白いの?」
「鈴本がやるってのも面白いしこれを社長と加鳥で書いたっていうのもツボ……っ、あははははは!」
やめてね!これ以上私の笑いを深くするのはやめてね!
「じゃあまた夕方迎えに来るから針生も頑張ってふふふふふふ」
「うん、主に羽ヶ崎君の護衛してる。あはははは、だってあれ1人にしといたらやばいもん」
うん、賢明だ。じゃないとそろそろ羽ヶ崎君危ないもんなあ。
「ただいまー。はい」
『転移』でまた戻ってきて封筒を渡すと、鈴本が凄く嫌そうな顔をしながら受け取って読み始めた。
最初は割と嫌そうな顔してるだけだったんだよ。
読み進めていくうちに段々顔が面白い事になってきて、読み終わることにはこの世の終わりを見てきたような顔になってた。
「そんなに面白かったん?」
「……なあ、これ、お前読んだ?」
「まだ」
「読んでみろ……」
ふむ、じゃあ私も読んでみるかな。
『実施は本日21時45分。場所は神殿礼拝堂。詳しくは同封の地図参照』
ふむ、地図を見てみたら礼拝堂は神殿の真ん中より少し東らへんにあるね。中庭から行くと近い感じかな?
『侵入には針生と舞戸が協力』
鈴本は移動系のスキル一切持ってない……というか、移動系のスキル持ってるのが『転移』もってる私と鳥海、『影渡り』持ってる針生だけ、って事になるからね。
『礼拝堂内には月光が入るようになっているが、雲が出た場合、加鳥、羽ヶ崎が何とかする』
細かっ!もうそれ三浦君呼んで来いよ!あのロミオ『天候魔術師』とかだったはずだから!
『時間になったら鈴本は侵入してドアの横で気配を消して待機。22時頃に司祭アリアーヌが礼拝堂に来る予定』
おお、よく時間まで特定したなあ。すごい。これは鳥海のお仕事かな?グッジョブ。
『アリアーヌ入場から暫くは隠れている事。懺悔を途中まで聞いてから出ていく。アリアーヌが気づくように。出ていくときには気配を消さない事』
あ、ここからセリフだ。
『鈴本「今晩は。月が綺麗ですね」』
そ……漱石いいい!
そ、そうか!このセリフを言わせるためにわざわざ風魔法だのなんだの駆使してでも月を出しておかなきゃいけなかったのか!流石社長!
『以下、アリアーヌの反応によって対応する事。』
『アリアーヌ(予想)「あなたは!」「何処から入ってきたんですか!?」』
『鈴本「神殿に攻め込む前にもう一度あなたに会いたくて」』
『アリアーヌ(予想)「騙されませんよ!」等』
『鈴本「俺は神殿を……いや、あなたを守るために来ました」(ここで真剣な表情でアリアーヌを見つめる)』
『アリアーヌは恐らくここで絶句する。何か言いそうならここで抱きしめてしまえば多分黙る』
『鈴本「信じてください。俺は魔王軍の者ですが、それ以前に一人の男なんです」』
『鈴本「あなたに初めて会った時に正体を偽ったことは謝ります。でも俺の今の気持ちは嘘じゃない!」』
『アリアーヌは恐らくここらで話に乗る事を決めると思われる。乗らなかったらその面構えを駆使してなんとかしてください』
……これはひどい!
『鈴本「魔王は今、この神殿の人たちを皆殺しにするつもりです」』
当然だけど私そんなこと思ってないよ!
『鈴本「そんなことをしたら罪のない大勢の命が犠牲になる。だから俺は魔王に、せめて大司祭と一騎打ちをして事を収めるように掛け合うつもりです。今のままではとても成功するとは思えませんが……」』
『アリアーヌがここで鈴本の身を案じてきたら成功。大司祭側につく様ならアドリブ入れて転がしてください。これ以降は以下の台詞を参考にしつつ情報を仕入れてください。』
……ひ、ひどい!
『鈴本「魔王は今、出て来ない大司祭に痺れを切らす寸前なんです。せめて、どこにいるか分かれば神殿への侵攻をもう少し遅らせられそうなのですが」』
『鈴本「大司祭と魔王との一騎打ちに持ち込んだ時に大司祭が勝てるように魔王の情報をお渡しします。(適当になんか言う)大司祭はこのような攻撃を無効化するような手段を持っていますか?」』
『鈴本「俺は無駄に命が失われることに耐えられないんです。そして、それ以上にあなたが巻き込まれることが」』
……そしてこんな感じの情報収集用のセリフが続き、その後に……鈴本があの表情になった原因と思われる……アリアーヌさんを転がすためのセリフの例が続き……そして最後の行にこうあった。
『※以上のシナリオ及びセリフ回しは流行りの恋愛小説3冊全てに見られる傾向に基づいたものです。安心して使って下さい。その恵まれた容姿をフルに活用すれば勝率はかなり高いと予想されます。ご武運を。』
……OH。
水酸基では無い。感嘆符だ。
けどもう、水酸基でもいいや、って位には……私は、こう、もう、何も言葉が……っで、出ないっ……!
視線を上げると、『な?』みたいな諦めきった顔をした鈴本がいた。
……うん、これは……これは……これはひどい。




