ステージ4 : きっと、ラスボス係のひと? ③
二つの圧倒的な魔力同士がぶつかり合い、戦場を震撼させ過熱させていく。二人をつき動かす根源は共に愛する人のために戦い続ける狂気にも似た激情である。感情とは無限に湧き出るエネルギーであり、すなわち、お互いにどちらかが倒れるまで戦い続けるだろう。
どちらがレイドのことを愛しているのか。そんな原始的な感情であり、かつ人間の活力として最大のエネルギー同士がぶつかり合う。
「――にゃんこ召喚・ニンジャにゃんこ!」
「――迎撃しなさい、アルフレイドのぬいぐるみ人形!」
猛烈な魔力が込められた刃同士が猛烈な剣戟の演奏を奏でる。ココアが奏でる剣戟は激しさとしての愛。義姉の奏でる剣戟は厳しさとしての愛。元は同じでありながらも違った愛を二人は戦いを通じて叫び続ける。
「――連続にゃんこ召喚・トノサマにゃんこ!」
四体の駆動音が重たい音を立てて着地する。モーターを獰猛に唸らせて、ミサイルの嵐を吐き出した。
「ロイのぬいぐるみ人形」
義姉がロイのぬいぐるみ人形へ指示を出す。猛火と風の弾丸がミサイルの嵐に着弾する。しかし、多勢に無勢であった。大量のミサイルの群れが義姉に降り注ぐ。
「よっと、まだまだっ!」
しかし、義姉は涼しげに避けていく。幾千もの歴史と、戦場を乗り越えた猛者なのだから当然のことである。おそらくこうなるだろう、ともはや未来予知じみている経験論で、ロイのぬいぐるみ人形により困難な軌道のミサイルを推測して迎撃させたのだ。
最小の迎撃で最大の成果をたたき出す。いくら感情論を叫ぼうがやはり格の違いというものがある。技の威力はおそらく義姉のほうが上。技術的な連度や経験値も義姉の方に軍配が上がるだろう。
しかし、ココアは諦めない。
「私だって……負けたく、ないんだからっ!」
不利などただのいいわけだ。
負けたくない――。レイドを取られたままでいたくない――。愛する人を想う激情がココアを突き動かし続ける。
「連唱にゃんこ召喚・オヤカタにゃんこ、ブギョウにゃんこ、ニンジャにゃんこ!」
オヤカタにゃんこと、ニンジャにゃんこが駆け走る。ブギョウにゃんこが地面を叩くと、大地が乱れるように岩盤が隆起していった。粉塵が巻き上がる。
「オヤカタにゃんこ、攻撃準備っ!」
オヤカタにゃんこが粉塵の中からジャンプして飛び出した。岩盤の隆起は義姉との距離感を見切るためであり、さらに逃げられないようむやみに動けない状況へ導く行動制限をかねていたのだ。
義姉がどこにいるのかだいたい把握できた。おそらくターゲットのいるであろう方向へオヤカタにゃんこは向きながら、トクトクと酒を飲み火炎放射の準備に取り掛かる。
熱風は壁越しだろうが容赦なく灼熱のダメージを与える貫通攻撃だ。視界が悪く多少のターゲットの位置がズレようが強引に大ダメージを叩き込める。オヤカタにゃんこが戦場を一気に焼き払おうと酒を口に含み続ける。
「火炎掃射!」
「させない! レイドのぬいぐるみ人形!」
レイドの十八番の水魔法が発動される。オヤカタにゃんこが水のヴェールに包み込まれた。
それと同時に炎を吐いたオヤカタにゃんこ。水のヴェールに遮られて自身が炎に包まれてしまう。
水のヴェールの中で大爆発が起こった。爆散したヴェールから灼熱のエネルギーが吹き乱れる。オヤカタにゃんこはダメージで送還されてしまう。しかし、熱風が絨毯爆撃のようにあたり一面を薙いでいった。範囲が散乱してしまったため、ブギョウにゃんこもダメージを受けて送還されてしまう。
「きゃっ、くぅ――、なかなかやるねっっ!」
オヤカタにゃんこ、ブギョウにゃんこの二体が送還され、攻撃の何割かはダメージを軽減された。しかし、結果的に義姉にダメージを与えることに成功することができた。
ここにきて、ココアは初めて義姉にダメージを与えることが出来たのだった。
「ああ、もう。今の攻撃は読めなかった。動きが計算しづらいなあ、もう……」
攻撃が通った理由。それは、まだココアの技術が未発達という点である。それゆえにココアは戦闘の中で進化し続けていく。
ココアの欠点。それは何事もやる前から諦めている意識が技の発達を遮り、上限の線引きを自らしてしまっていたことだ。意識が開放された今となっては、飛躍的に技術が上昇し続けていく。
なによりも義姉はあくまでも元はココアである。義姉の技術はココア・ルルリスとしての完成系であり、ココアにとっては極上の教材である。戦況の流し方、人形さばきなどを実地で体感することで貪欲に学び、成長を渇望していく。
ゆえに、今このとき、一秒ずつ新しく生まれ変わり続ける。義姉を倒すその瞬間まで――。
「このまま……、押し込みますっ! ひたすら、前にっ!」
危機を察知したフェリンデールのぬいぐるみ人形がハサミで切り込みにかかるが、紙一重でココアは避けた。愚直に義姉に向かって前進する。驚いたことに、その加速は距離を刹那に駆け抜けた。
「えっ――っ?」
「これで、決めますっ! やぁ――っ!」
魔力で体をブーストさせてからの杖を槍のように構えた特攻。それはアルフが先陣を切り込む時に多用する攻撃であった。
二人の戦いが一瞬にしてクロスレンジの勝負になってしまう。人形師は接近戦に非常に弱い。これはアルフがレイドと戦ったときに見せ付けた真理である。当然に二人の戦いをずっと見てきたココアは直感的に理解していた。
「まずいっ、ロイのぬいぐるみ人形!」
ロイのぬいぐるみ人形が素早く義姉の危機にかけつける。本人と同様に戦場の展開を読むことにすぐれているため、一番早く行動することが出来たのだ。
ロイのぬいぐるみ人形が炎の拳を振り上げる。ココアに向かって業火の炎が叩き込まれようとする。
「――にゃんこ再召喚・ブギョウにゃんこ!」
ブギョウにゃんこが地面を叩き、地脈を揺れ乱す。地面が跳ね上がり、ココアを空高く跳ね飛ばしてロイの拳を強引に回避させた。
見上げる形で対峙となったココアとロイのぬいぐるみ人形。ロイのぬいぐるみ人形が炎の拳と風の拳を振り上げて、魔弾の雪崩を起こそうとする。
しかし、魔弾が放たれようとする一瞬の直前。レーザーブレードの刃がロイの人形を静かに切り裂いた。
「なかなかやるじゃない。私はその本気が見たかったの」
義姉が歓迎の混じった苦笑をする。
ブギョウにゃんこが起こした舞い上がる粉塵の中から、ニンジャにゃんこがすぅっと現われた。口元に咥えられた、ロイのぬいぐるみ人形を切り裂いたレーザーブレードが妖艶に輝いている。
「まるでフェリンちゃんの幻覚のように、相手の視線を考えて行動したんだ。いや、でもやり口はレイドに似ているかも……」
義姉へ急接近する一連の流れは、すべて作戦のうちであった。わざと派手に跳んだココアはおとりであり、本命は義姉ではなくロイの人形であったのだ。最終決戦での学園町との戦いでレイドがみせたように、プレイヤー自身がおとりとなって戦う胆力を義姉に見せつけたのだ。
視角を考えて誘導する技術。粉塵の中を必中の機を読み単独行動する展開を読む技術。すでに、今のココアは帝国の戦闘魔導師と比べても遜色の無いほどの腕前となっていた。ココア・ルルリスとしての力だけではなく、戦ってきた仲間達の技術による後押しが、義姉との戦闘力の差を詰めていく。
「これで、まずは一体目、ですっ!」
だがこれでようやく一体目なのだ。その声は苦々しく、疲弊の色が滲んでいる。
その時である。空からまばゆい光が空の切れ間から舞い降りてきた。
「……あれは、ヒーロークラウン!」
「へえ、あれがそうなんだ。はじめて見た」
ココアにはそれが希望の光に見えた。希望の光がゆっくりと降りてくる。落下地点はちょうどココアと義姉の間ではあるが、わずかに義姉寄りであった。
「なるほど。これで勝負を決めようか、レイドのぬいぐるみ人形!」
義姉がヒーロークラウンに向かって走りながら、レイドのぬいぐるみ人形へ指示を出す。ココアも駆け出そうとするが、水の剣が行く手を遮った。最大出力、十本の水の剣が展開されていた。さらに鋏の音が耳元で鳴る。すると水の剣がぐにゃりとねじれて幻覚の演舞を繰り出してきた。このまま突っ切るように突破しては水の剣の餌食となり、また幻覚による錯乱を直に受けてしまうだろう。
「じゃあ、わたしがもらった、っと」
義姉が走りながら手を伸ばす。ヒーロークラウンまで目測5メートルほど。
ココアにとって、やっと見つけた希望の光が目の前で取られようとしている。絶対にこれを逃すわけにはいかない。
「そんなの、認めたくないんだから――っっ! にゃんこ再召喚・オヤカタにゃんこ、最大出力!」
咄嗟にオヤカタにゃんこを召喚する。大量に注入された魔力でオヤカタにゃんこをブーストさせて猛火を吹き出させる、レイドの水の剣の魔力とぶつかりあった。激しく正面衝突する魔力が水蒸気を苛烈に噴出させる。
「やぁ――っっ!」
ココアがオヤマタにゃんこへ魔力を注入し続けていく。これが単にレイドの水の剣と、オヤカタにゃんこの炎ならば蒸発するだけだっただろう。しかし、義姉の想いによって強化されたレイドのぬいぐるみ人形の最大出力の水の剣と、土壇場で強く願ったココアの最大出力の猛火のぶつかり合いである。最大出力同士の反発で生まれた水蒸気が熱風と化して、戦場を薙いだ。そして、水上気圧によって偶然にもヒーロークラウンが吹き飛んでしまった。
「そ、そんなっ!?」
義姉は呆気にとられてしまう。
ココアは蒸気圧という概念は知らなかったが、レイドを見ていた日々によって感覚的に理解していた。レイドのそばでずっと見守っていたココアだからこそ、たとえそれが一瞬の状況であっても同じ発想ができたのだ。
ココアはずっとレイドのそばで生きてきた。愛しているが故にレイドの一挙一動の全てを理解しようと努めていた。大好き、というシンプルな感情が観察眼を生み、その成果がひらめきに繋がり、奇跡を起こしたのだ。
空高く飛んだヒーロークラウン。ヒーロークラウンの取得は振り出しに戻り、誰が取れるか分からない完全なランダムな状態となってしまう。ココアは絶対的な劣勢をお互いに勝機が分からない五分と五分のギャンブルへ持ち込むことが出来た。
いいや、わずかながらココアに分のある賭けであった。たった一人。いや一匹だけヒーロークラウンを一番早く見つけられる可能性があるモノがいる。
「ニンジャにゃんこ、ブギョウにゃんこの元へ連れて行って!」
ブギョウにゃんこは体が大きいため、一番最初に霧の中から頭を出して見つけることができる。
すぅっと上記の霧の中から現れるニンジャにゃんこ。感覚が敏感なニンジャにゃんこに先導してもらってブギョウにゃんこの元へココアが走る。
「好きにはさせない、ロイのぬいぐるみ人形!」
いつの間にかロイのぬいぐるみ人形が復帰していた。レイドのぬいぐるみ人形がロイのぬいぐるみ人形を修復していたのだった。レイドのぬいぐるみ人形は、たしかに水の剣で攻撃していたがその本体は直接戦場へ出ていない。人形を修復する時間は十分にあったというわけだ。
ロイのぬいぐるみ人形が火炎弾を乱れ投げる。しかし、狙いの定められない霧の中では感覚がモノを言う。ニンジャにゃんこの鋭い感覚にフォローされて避けながら、ブギョウにゃんこの元へ到着することができた。
ブギョウにゃんこがヒーロークラウンをすでに見つけているというように深く頷く。
「ブギョウにゃんこ、力をかして!」
ブギョウウにゃんこがぱふりとココアを掴み、大きく振りかぶって投げ飛ばした。空から落下中のヒーロークラウンへ、飛翔という最短距離の道筋でココアが向かう。
「フェリンデールのぬいぐるみ人形!」
「ダメです。にゃんこ召喚・トノサマにゃんこ!」
トノサマにゃんこがミサイルを吐き出して、フェリンデールのぬいぐるみ人形へ集中攻撃をしかける。ミサイルの牽制により、誰もココアを妨害することが出来ない。
「なら、アルフレイドのぬいぐるみ人形!」
アルフレイドの人形の風が、ミサイルの海の中を霧ごと風圧で吹き飛ばして飛翔してくる。
「もう読んでました。にゃんこ再召喚・オダイカンにゃんこ!」
ポンと現れココアの肩口に乗るオダイカンにゃんこ。小判の守りを展開し、アルフレイドの勢いを盾のように抑えつける。
「レイドのぬいぐるみ人形!」
レイドのぬいぐるみ人形が水の投げ槍を形成しようとする。しかし、アサシンのように真っ黒な影が、魔法陣を切り裂いた。レイドの人形はすでに、ニンジャにゃんこによってマークされていた。
「うそ。こんな、逆転が……」
たしかにこの逆転は偶然の重なりである。アルフ、ロイ、フェリンデール、フランとたまたま戦っていたために気がつけた希望を求め続ける意志の力。そして、義姉との対峙によって生まれた自分の意志の力。そして、ココア・ルルリスにとって最高の教材である義姉と戦えたことによって格段に向上した技術力。そして、負けたくないというレイドへ繋がり続けていたい執念がつながった結果である。
全てがたまたま起こったこと。いわば綱渡りのような偶然の連鎖である。しかし、偶然の積み重ねだからこそ これは確固たる結末なのかもしれない。
なぜならば――
「なんでもできるはず。だって、わたしは、主人公になるんだからっっ!」
主人公であるべきにおいて大切な資格。それは一番大切な時に、とびっきりの奇跡的な運命を舞いおろすできる人物であることだ。だからこそである。『主人公になる』と誓ったココアにとっては、当たり前の奇跡の出来事となったのだ。
ココアがヒーロークラウンを掴んだ。魔力の奔流がココアを包み込む。
「――ヒーロークラウン発動! 超・究極にゃんこ魔法・NNN! 」
大量に生まれる輝きがココアを包み込むように飛び回る。さまざまな種類のにゃんこ精霊の魂の輝きが一帯になっていく。
稲妻を振り散らし、地面に大穴を穿つ。圧倒的な魔力の中からゆっくりと黄金色の巨体が顔を出す。超大な魔力波動が吹き荒れる豪風の中、ここに勝利を約束する黄金にゃんこが爆誕した。
『ゆけ、NNNよ! 唸れ、超必殺! ヒーローミサイル――ッッ!』
にゃんこ丸の号令によりミサイルが発射されようとする。
レイドのしがらみにとらわれ続けてきた義姉の日々。永かった歴史を過去のものとするため、義姉の物語へ幕をおろす時がついに来た――。
「……ありがとう、レイドを守り続けてくれて。これからは、わたしがレイドを守るから」
あまたの想いを今、義姉へと叩きつける。
「だから。わたしが、レイドをもらいます! いっけぇ――ッッ!」
ミサイルが唸りをあげて加速する。熱い想いを乗せて、空気を突き刺し、空間を引き裂いていく。
ココアは出来る限りのことを義姉へ示した。ミサイルが義姉へ着弾する直前、義姉とココアの視線が交差する。どこまでも澄んだ光のあるココアの瞳に、義姉は小さく、優しい笑みを浮かべた。
「うん、合格。幸せになってね……」
義姉は晴れやかな笑みを残して、揺り籠のような極光の魔力に包まれていった。




