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絶対隷奴(ぜったいレイド)のサクラ  作者: 記野 真佳(きの まよい)
番外編:ぜったいレイド!なココア
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ステージ2 : この人は、お世話する係の先輩?

 太陽が良く見える屋根の上。人々の喧騒から少し距離を置いているようにロイは屋根の上にいた。短髪を風にたなびかせてスッと目を細める。


「強烈な魔力波動か……。この波長は知らない。さて、お嬢さまの身に何かある前に始末しておくべきか」


 鋭く冷たい声色でロイが呟いた。指輪をそっと撫でて風を作り出す。静かに風に乗り、とん、と魔力の発生源の目の前に着地した。

 すると、黒と茶色を基調としたシックなデザインで、うさぎ耳のコスチュームが目に入る。それは、猫のぬいぐるみが乗っかっている杖を持ったココアだった。


「こんにちにゃー、です」

「…………。戦いが無くて、俺の勘も鈍ったのか? いや、しかし強力な魔力波動を感じる」

「にゃんのことですか?」

「お前から魔力波動を感じた。先天性非才症の人間は魔力を持っていないはずなんだが」


 ココアはロイに今日のなりゆきを簡単に説明する。説明を聞いているロイは胡乱うろんげではあったが、目の前で強烈な魔力を保有しているのを見ると否定する気がなくなってきた。

 ふむ、とロイはなにかを納得する。


「ワナビ神の代行者……。いわば運命づけられた執行者のようなものか。まあ、俺もこの戦いには参加資格があるらしいが」

「そうなのですか?」


 ロイも同じく猫を助けた事によって、変な戦いに巻き込まれたとのこと。もっとも、ロイの場合は、フェリンデールとフランチェシカに巻き込まれた不本意な形となったのだが。

 ロイは今回の戦いを前向きに捉えていない。フェリンデールの護衛であるからこそ、予測のつかない明らかに変な戦いに巻き込まれるのは心底から嫌っているようだった。


「お互い、とんでもない事態に巻き込まれたな」

「わたしは嬉しいです。魔力が貰えたので、一人でがんばれます。挑戦してみたい事も見つけたので、楽しい経験です」

「経験、か……」


 ロイは瞳を細めて考える。そして、自傷げに小さく笑った。


「なるほど。神の力と手合わせできるなら、面白い経験になるだろうな。つまらん戦いに巻き込まれたと思っていたが、興にのったぞ。俺に勝ったら、いいことを教えてやろう」

「いいこと?」

「仲良くなる方法を知りたいんだろう? 俺の二人の師匠の話だ。仲が悪い夫婦の師匠だったはずだが、その二人が突然に仲良くなった話を教えてやるよ」

「勝負ですか……!」


 ココアが杖を構える。


「ほう、さまにはなってるじゃないか。さあ、全力でかかって来い!」



 ◇◇◇



 ココアが杖をふるい、虹色の魔弾を大量に打ち出した。単純に魔力の塊をぶつける攻撃であるが、堅実な攻撃であるがゆえに崩すのが難しい。

 しかし、ロイは全て紙一重でかわし続ける。その流麗なあり様は魔弾の方が避けているのではないかと錯覚するような巧みな回避であった。

 まさに幾多もの戦いを乗り越えてきた熟練度の違いを見せつけるかのよう、ロイは弾幕の雨の中を着実に距離を縮めてきている。


「さて、こちらからも行こう」


 ロイの左右の手にめている指輪が輝いた。ロイが拳を繰り出すと火炎弾を飛ばされ、もう片方の拳から風圧の弾丸を発射する。

 命中せずとも近寄るだけで炙られるじつの猛火の弾丸。高速で迫るきょの透明な弾丸。本来は視覚的に対立する虚実きょじつを組み合わせた変化自在な攻撃。炎と風の対立する属性を使いこなす技術は、生半端ない鍛錬から生まれた神技かみわざであった。


「わわっ!」


 ロイの弾幕に、ココアはたまらず攻撃を中断し回避する。


「では、次は耐えられるか?」


 ココアが回避行動を選んだ一瞬の隙に、ロイが風をまとい急接近をしてきた。


「近づかせない! ――にゃんこ召喚・ブギョウにゃんこ!」


 ココアはアルフレイドとの経験で接近戦は苦手なことを痛感していた。そのため即座に対応を決めることができた。

 空からポンと音が鳴る。茶毛の巨体のにゃんこが、着地と共に地面を大きく叩き鳴らした。

 ロイとの間に割り込んできたブギョウにゃんこが「あっぱれ」と書かれた扇子を懐から取り出す。ごうと空気を潰す勢いで扇子を振り下ろす。


「っと、そうこなければなっ!」


 満足げな声で、ロイがにゃんこの巨体を跳び越すようにジャンプする。炎と風のこぶしたぎらせてココアを吹き飛ばそうと力を溜める。


「好きにはさせません! ――にゃんこ召喚・オヤカタにゃんこ!」


 貫禄のある赤毛のにゃんこがブギョウにゃんこの頭上に着地する。

 にゃんこ召喚は出現する場所を選ばない。そのため魔法であるにもかかわらず俊敏な対応力があった。

 ココアの見事な対応に、ロイが不敵に小さく笑う。


「こいつは面白い」


 ロイは両手の魔力を包み込むように抑え込み、腰元へ構えて圧縮し続ける。反属性の魔力が轟音ごうおんをたててきしみ、稲妻のような線状の魔力を撒き散らし大気を揺るがせる。必殺の波動を解き放とうとしていた。

 対峙するオヤカタにゃんこは、荒縄に吊り下げられた酒瓶を口に含む。トク、トク、トク、と素早いリズムで酒の流れる音がする。めいいっぱい口に含んだ酒を炎として吹き飛ばした。

 猛烈な勢いで吐き出された炎は、爆発のような凄まじい烈火となりロイに飛びかかる。


「――この力。あがなえるならば 見せてみろ! はあァァ――ッッ!」


 ロイが超圧縮された必殺の波動を解き放つ。限界まで圧縮され練り上げられた魔力の塊は極太ごくぶとのビームのように一直線に大気を貫いて突き進む。放たれた轟音ごうおんで虚空がきしみ、ロイを中心に荒れ狂う波動が大地を引きがした。

 ロイの攻撃はまさに苛烈かれつのひと言であった。超大な魔力の奔流ほんりゅうにオヤカタにゃんこの炎が呑み込まれていく。


「だめっ! ――にゃんこ召喚・オダイカンにゃんこ!」


 オダイカンにゃんこが援護をする。金ピカ小判で魔法をガードする。

 そして、ブギョウにゃんこが「あっぱれ」の扇子を振りあげて、地面をたたき割った。ドンと地脈を揺らして地割れを引き起こし、岩のような断片が隆起していく。飛び跳ねた土片が防御の盾と、鋭利な刃となりロイに襲い掛かる。

 さすがのロイもこの状況で攻めるのは悪手と判断し、距離を開ける。


「続けていきますっ! にゃんこ召喚・ニンジャにゃんこ!」


 口元を隠した黒いマフラーを巻いて静かに現れる。ニンジャにゃんこが疾風の如く、ロイに切りかかろうとする。

 ロイはニンジャにゃんこのレーザーナイフを燃えたぎる炎の拳で弾き飛ばそうとする。高圧魔力同士がぶつかり合い、ショートのような爆発音と共に火花を散らした。

 ニンジャにゃんこが競り負ける。ロイの拳に吹き飛ばされてしまった。


「――っ! そんなっっ!」

「驚いている暇はあるのか? ソレッッ!」


 ロイが炎のこぶしぐように振るう。ロイの背後に陽炎が浮かんだと思うと、突如、数え切れないほどの火のマナが浮かび上がった。


「――行け!」


 ロイの火球の雪崩がココアに襲いかかる。火球が着弾した地面は木っ端みじんに吹き飛ばされていく。召喚されたにゃんこ精霊達は、強烈なダメージを受けて元のマナの塊となり送還されてしまった。ココアは不安定に足場を崩されながらも懸命に回避する。



 ロイはココアの攻撃を完全に受け切った上で、猛反撃しかけてきている。ココアの全力ではまったく歯が立たない。それどころかロイの顔には余裕の笑みすら含まれていた。


 ――突如空が輝きだした。

 黄金色の王冠が空からゆっくりと降りてくる。『ヒーロークラウン』であった。

 窮地きゅうちを救う希望へ最初に反応したのはココアだった。


「これに賭けますっ! にゃんこ召喚・オダイカンにゃんこ!」


 ココアはオダイカンにゃんこ再召喚する。オダイカンにゃんこを肩に乗せてヒーロークラウンの元へ走りだす。オダイカンにゃんこはそでに手を入れて、いつでも金ピカ小判の盾を取り出せる体勢だ。


「さらに、にゃんこ召喚・ブギョウにゃんこ!」


 巨体のにゃんこがロイと対峙するように参上する。

 扇子を振り下ろして地脈を刺激して隆起させる。ロイの視界を遮ることでココアとヒーロークラウンを見失わせようとしたのだ。


 ココアの必死の妨害行動。それを、どうしてかロイは平然とながめていた。

 実はロイは、最初から「仲良くなる秘訣」を訊かれたのなら教えるつもりでいた。しかし、ココアの得た力に興味を持ち、力量を測り観察するためわざと待つように仕掛けているのだ。そのためロイはヒーロークラウンに対して興味を持っておらず、むしろヒーロークラウンを使ったココアの攻撃に対して興味を持っていた。


「見せてみろ。――おまえの全力を」


 ぽつりと呟いた声。それと同時に、ココアがヒーロークラウンを獲得する。

 ヒーロークラウンをココアは急いでかぶる。眩しい輝きと共に、空から声が落ちてきた。『新たな力を求めよ』と。


「――新たな力を、求めます!」


 ヒーロークラウンの輝きが激しくなり、ロイが身構える。猛烈な魔力波動を総身に受け、猛々しく笑い飛ばした。


「さあ、見せてみろ!」


 対峙するロイとココア。ココアがヒーロークラウンを発動させる。


「――ヒーロークラウン発動! 超・究極にゃんこ魔法・NNN(ねこねこノックダウン)! 」


 大量の輝きがココアの周りを飛びまわる。輝きが集まっていき、にゃんこ精霊へとなっていく。

 空に にゃんこ丸の幻影が浮かびあがる。


『ゆけ、NNNねこねこネットワークよ! 超絶合体だにゃ――ッッ!』


 全てのにゃんこ精霊が輝きと化して合体していく。まばゆい光の中から巨大な黄金色のにゃんこが君臨した。

 黄金にゃんこが口をあんぐりと開けて『ヒーローミサイル』が顔を出す。

 巨大黄金にゃんこが周囲の魔力を強引に吸いこんでエネルギーチャージしていく。周囲にいる全ての存在からエネルギーを奪っていった。

 ロイの表情に苦悶が走る。


「強制的な魔法解呪だと!?」


 巨大ミサイルにエネルギーが溜まっていく。バチバチと音をたてて稲妻を生みだし、逆巻く魔力波動により風が唸りをあげる。

 反撃の時が満ちた、と にゃんこ丸が攻撃指令を出す。


うなれ、超必殺! ヒーローミサイル――ッッ!』


 黄金にゃんこからミサイルが吹きだされる。超大な魔力がこめられた必殺の一撃が、ロイへ襲いかかる。


「だが、指輪を限界まで使えば魔力を練り上げられない訳ではない……。面白い、我慢比べということか……!」


 果敢かかんにもロイは立ち向かう。ロイは クロスするように上げた両腕に、炎と風の魔力をたぎらせる。相反する二つの魔力を融合させ、両手を地に叩きつけた。

 大地が低い音をたてて旋転しはじめ、つられるように風が渦巻いた。ロイを中心に真っ赤にゆらめく魔力の渦が湧きあがる。

 ゆらめく風の魔力が発火する。風は猛火の竜巻へと成長し、劫火ごうかの嵐がわめき生まれた。それは、金属巨人を吹き飛ばした時の火炎竜巻の魔法だった。


「うおぉぉおおォォ――ッッ!」


 裂帛れっぱくの気合と共に、ロイは咆哮ほうこうし迎え撃つ――。



 ◇◇◇



 ぷすぷすと服の両肩口から煙をあげているロイと、いい汗かいたとひたいをぬぐうココア。ロイはなんとか耐えることはできたが、魔力が枯渇したため降参したのだった。


「勝ちました……。お世話をする方法を教えてくださいっ!」

「目的と違う話な気が……」

「せっかく、お世話する係の先輩に会ったので、コツを教えてもらいたいのです」

「お、お世話する係の先輩だと……?」


 おまえはお世話されている側じゃなかったのかとロイは戦慄せんりつする。ココアは戦いを通して、今日だけで二人も戦慄せんりつさせることができる人間へ成長?できたらしい。


「ま、まあ、真心込めてというやつか。喜ぶ事をすればいいのではないか?」

「うーん。ぎゅっとしたら、心の色が喜んでた……?」


 それはお世話なのだろうか。


「……キミにお世話されるのは、コツがいるのかもしれないな。彼が喜んでいたら、それ以上求めなくても良いかもしれないと言っておこう。さて、さっさと夫婦の話の本題に入ったらどうだ」


 そうだったと、思い出すココア。


「仲の良い夫婦になる方法を教えてくださいっ!」

「仲良くなる方法だっただろ。夫婦で俺を稽古してくれた師匠が言っていた。弟子デシ作りをするといいらしい」


 ココアはメモ帳を取り出しメモしようとしたが、『デシ』の『デ』の字を忘れてしまった。どうしようかと考えるが、よく考えてみたらメモなのだから見返すのは自分だけだ。見返す時に分かればいいことに気がついた。とりあえず空白にして、思い出した時に字を書き足せるようにすればいいか、ということにしてメモをする。


(えーと、 子作りをする、と)


「 共同作業してるみたいで、オレが入門したら仲良くなったらしい。弟子の人数がたくさんなほど、大変だが愛を深めることができたとか」


(なるほど……。たくさん、と。あと、愛を深める、と)


「よしっ、ありがとうございました」

「ああ、お前も頑張れよ」

「にゃーにゃー♪」


 ばいばい、と言っているのだろうか。手を振りながらココアが去っていった。


「あの気の抜けた返事を直す方が先決なのでは……? にゃ~♪」


 ガラにもなく猫の鳴きマネをしてみる。すると、ぬっとロイの背後から気配が生まれた。


「くくっ、ふふふっっ。ロイくんって、なんだか可愛いですねっ」

「フランチェシカ! き、聞いていたのかっ!? いつから!?」

「あんな規模の騒ぎがあったら『面白そうなことが起こってるカモ!』って、見に行きたくなるじゃないですか。ふふっ、いいもの見れたなぁ」

「そっ、それ以上言うなッッ!」


 ロイが顔を真っ赤にして、珍しく本気で怒った。




☆みにあとがき


ココアのメモ②:たくさん  子作りをして、愛を深める。


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