ステージ1 : この人は、ライバル?
ワナビ神さまからエネルギーをもらっているせいか、ココアは一人で歩いても病気は起こらないようだ。
軽い身体と晴天の陽気で弾むような足取りになる。なんとなく学園へ向かうと校門前にアルフレイド・ルシドールがいた。
アルフレイドもココアに気付く。
「久しぶりに会ったな。そのうさぎ耳の飾りは……レイドの趣味か?」
「にゃんこさんの趣味です」
「にゃんこさん? ああ、あのワケわかんねぇ猫か。なんだ、お前も参加するのか?」
「にゃうなのです」
「うさぎなのに、猫の声? まあいいや。それは、はい、って意味だよな?」
「そうです。にゃんこの呪いのせいで、言葉がにゃんこになりました。力を貰った代償だそうです。断ったのに押し付け販売されました」
ココアの小粋なジョーク(本人はそう思っている)に、嘘だろ、とツッコミをいれる人は誰もいなかった。アルフレイドが真面目に感心する。
「そんな程度のリスクで、スゲェ魔力になったじゃねぇかよ」
「そうにゃのですか?」
「ああ、でも不便だなソレは」
「にゃー、なのです」
アルフレイドがいつもの飄々とした態度で話していく。すると、アルフレイドが失笑しはじめた。
「いま気付いた。学生寮ではペットは飼えないんだぜ。改築が終わったら、お前は入れないんじゃねぇか? はははっ、やっぱレイドはオレの相棒、いや、いっそのこと嫁になる運命なのかもな!」
アルフレイドの一生の相棒という意味でのジョークに、ココアがムムッと眉を寄せる。
「別居中な人に、運命とか言われても……」
そのひと言が、アルフレイドの心に小さな火花をちらした。
「……ほう。力を手に入れて、イイ感じの皮肉を言うようになったじゃねぇか」
アルフレイドが背負っている布を解く。中から出てきたのは、愛用の槍だった。
馴れた手つきでくるりと槍をまわして、ココアに向けて構える。
「勝負したくてここに来たんだろ。戦えるなら容赦はしねえ! どちらがアイツのそばにふさわしいか、この場で決めてやろうじゃないか!!」
ココアも負けじと、杖を呼び寄せる。突き出した手のひらがボワンと光が灯って杖の形に具現化した。黒猫のぬいぐるみがてっぺんにのっかっている魔法の杖が思っていたよりも重たくて、ちょっぴり不格好に構える。
「おも、いっ……。のっ望むところっ、ですっっ! 戦いますっ!」
「威勢がいいじゃねぇかよ。一戦目の肩慣らしにちょうどいい。一瞬で勝負を決めてやるぜ!」
◇◇◇
石畳の歩道にて剣戟が響く。風を切るアルフレイドの連続攻撃をかろうじてココアが防ぎ続ける。ココアは杖を使い慣れていなく、戦いの熟練度の高いアルフレイドが優勢な戦況であった。
「おいおい棒術も使えねぇのか、その杖は見せ物かよ! オラッ!」
「うぅ――っ!」
鋼が打ち鳴らされる音。ココアは槍を振り払ったが、アルフレイドの槍にまとわる風の刃がココアの肌を擦過していく。
ココアはかろうじて決定打こそは受けていないが、このままでは削り負けてしまうのが簡単に予想できた。
「どうした、踏み込みが甘いぞ!」
「まだまだっ、これからが、勝負です! 」
ココアの杖のてっぺんにいるぬいぐるみがにゃー、と鳴いた。すると杖から溢れんばかりの魔力が滾る。
「――!? 魔法か!!」
アルフレイドがバックステップをして小さく距離を取る。アルフレイドとココアの間に、ポンと煙が現れた。
「にゃんこ召喚・オヤカタにゃんこ!」
30センチほどの赤毛のにゃんこが現れた。ファンシーなぬいぐるみのような容姿で、二本の足で立っている。古風な羽織りを着ていて、貫禄がある眼光。腰に巻いた荒縄には、ひらがなで「さけ」と書かれた瓶をさげている。
オヤカタにゃんこが、ぴょんとアルフレイドの目の前までジャンプする。酒瓶を口に含み、口から火炎を吐き出した。
「うぉっ! しまった!」
炎は形を持たないため、盾でもなければ避けにくい。また避けたとしても、熱気で炙られてダメージが入ってしまう強力な攻撃だ。
そして、アルフレイドが好んで使っているのは風属性である。炎が風を喰らい、パワーアップした熱気がアルフレイドに襲いかかる。
「あちっ! く、このヤロウ!」
ダメージを受けながらもアルフレイドが反撃する。パチンと指を弾き、風の刃を何枚も飛ばしてくる。ターゲットは、炎を吐く魔獣を操る本体であるココアだ。
縦横無尽に飛びまわる風の刃がココアに迫る。
「にゃんこ召喚・オダイカンにゃんこ!」
ココアの目の前にポンと煙が現れた。
透き通るような青毛の大きなにゃんこだった。真っ黒な羽織で、背に「あくだいかん」と白文字で書かれているデザインになっている。
オダイカンにゃんこが両手の袖に隠し持っていた金ピカ小判を二枚投げる。二枚の小判は空中で停止すると、黄金色の魔力が脈動した。
脈動する魔力波動によってアルフレイドの風の刃が打ち消されてしまった。
「はぁ!? おい、嘘だろ!?」
オダイカンにゃんこは、小判の力で全ての魔法を無効化する最強の盾だった。
仰天するアルフレイドへ、先に召喚されていた赤毛のオヤカタにゃんこが迫る。口に酒を含んで炎を吐き出した。
「チッ、めんどくせぇヤツめッ!」
アルフレイドは槍でオヤカタにゃんこを薙ぎ払おうと苦戦している。だが、まだ勝負の行方は分からない。あくまで苦戦しているだけで決定打とはなっていないのだ。アルフレイドの弱点である炎属性を用いても、やっと拮抗できている状態であった。
ならば、足りないのなら新しい攻撃を仕掛ければいい。ココアは続けて魔法を唱える。
「にゃんこ召喚・ニンジャにゃんこ!」
口元を隠した黒いマフラーを巻いて、「にんじゃ」とひらがなで書いてあるハチマキをつけたにゃんこが現れた。口に咥えているのは忍者道具を連想させる真っ黒な棒だ。
ココアが魔力を送ると、棒の先からオレンジ色の魔力刃が現れる。これはレーザーナイフだったのだ。
ニンジャにゃんこが音も無く疾駆する。目にも止まらない素早い動きでアルフレイドへ切りかかった。
「ぐあっ! だが、こんなもんじゃオレには勝てないぜ! ほら、まだ魔法があるんなら見せてみろよ。正面から乗り越えてやらぁ!」
アルフレイドが吼え、槍の速度が上がった。赤毛のオヤカタにゃんこ、黒毛のニンジャにゃんこが弾き飛ばされてしまう。
アルフレイドとココアの視線が交差する。アルフレイドの瞳は鋭い輝きをしていた。
実はアルフレイドは、ほんの少し前まで戦闘未経験だったココアを相手に手を抜いていたのだ。しかし、手を抜いていては勝てないと分かった瞬間に、アルフレイドの闘志に火がついた。
「いくぜ、しゃあ――ッ、オラ!」
槍を高跳びの棒のように使い、大ジャンプで一気にココアとの距離を詰める。目の前に着地して、槍で横薙ぎに一閃する。青毛のオダイカンにゃんこの小判が強引に弾かれた。振り払った勢いで生まれた疾風に、オダイカンにゃんこ自身も吹き飛ばされる。
「くぅっ! にゃんこ召喚・ブギョウにゃんこ」
ドンと空に小さな爆発が起こる。風を押しつぶす重たい音が降ってくる。茶色い毛2メートルはあろう巨体のにゃんこが、アルフレイドを押し潰さんと落下してきた。
アルフレイドが風に乗って即座に避ける。避けた場所にドスンと落ちて、歩道の石畳が飴細工のように砕かれた。
ブギョウにゃんこの攻撃は失敗した。しかし、なんとか距離を取ることに成功できた。
「続けていきます! これが最後の にゃんこ召喚・トノサマにゃんこ!」
金ぴかの羽織を着て、贅沢そうにヒゲをたくわえたにゃんこが現れた。頭にはちょんまげがあって、良く見るとレバーのようになっている。
なんだろう、とココアが興味本位でちょんまげレバーを引く。
すると、トノサマにゃんこの身体中からメカニカルに歯車が軋む音がした。
トノサマにゃんこの身体の全面がパカリと割れる。全身のあらゆる部位からミサイルを発射した。ごう、と煙を吐き出し、誘導機能の付いた大量のミサイルがアルフレイドに襲いかかる。
「ハッ、ついてこれるなら、ついて来い!」
体に風をまとったアルフレイドが縦横無尽に駆け走る。アルフレイドが建物を利用して直角に軌道を曲げると、追いつけなかったミサイルが地面に着弾して爆発を起こした。
このままでは、ミサイルは全て避けてしまうだろう。ココアの使えるにゃんこ魔法は、これで全部である。ミサイルまで避けてしまっては、もう打つ手はない。絶望的な状況だ。
――突如、空が輝きだした。
黄金色の王冠が空からゆっくりと降りてくる。見上げた二人はすぐにソレが『ヒーロークラウン』であることが分かった。
「よっしゃ、貰った!」
アルフレイドがヒーロークラウンに向かおうとする。
「好きには、させない!」
アルフレイドの軌道を炎の壁が遮った。それは、最初に召喚していた赤毛のオヤカタにゃんこの炎だった。アルフレイドの風を使った移動は、直線的であるため、ココアでも軌道を予測できた。
「くっ、読まれていたか!」
アルフレイドがココアを睨む。すでに青毛のオダイカンにゃんこがココアを先導してヒーロークラウンの方に駆けていた。魔法で妨害する事が難しい。
「ならば、全力勝負だ――ッッ!」
アルフレイドが風をまとい、魔力に物を言わせて強引に突っ切って来た。アルフレイドがヒーロークラウンに手を伸ばそうとする。しかし、ヒーロークラウンは弾き飛ばされた。
「なん、だとっ!?」
黒毛のニンジャにゃんこがヒーロークラウンを弾き飛ばしたのだ。アルフレイドほどではないが、俊敏に駆けることができる。そのため、ワンテンポ遅れたアルフレイドに対し、ギリギリで妨害する事ができたのだった。
アルフレイドはどうして自分がヒーロークラウンを手に入れられないのかと考えをめぐらせる。
例えばあのミサイルが背後から追いかけてこなければ簡単に取れただろう。例えば炎の壁で妨害された時に、恐れず特攻していれば取れていただろう。例えば風で駆け回るなどの消耗をせずに、最初から最大の全力を出せた疾走ができていればヒーロークラウンは弾き飛ばされなかったのではないだろうか。
なぜ勝っていないのだろうか。全てが紙一重で足りていなかった。足掻いても、どうしてか届かずに、まるでその紙一重と思うことすら計算ずくなのではないかとすら思え、自分自身の感覚を疑ってしまう。
それは「アイツ」と戦った時と同じような感覚だった。全てが計算され尽くされて、既に詰んでいるような錯覚すらある。まだ決定打すら受けていないのに、追いつめられた時のような圧迫感が胸元へ迫り上げてくる感覚が「アイツ」にそっくりだった。
駆けていくココアと視線がぶつかる。その背には「アイツ」の幻がうっすらと見えた。アルフレイドが確信にも似た怒声をぶつける。
「テメェ、レイドのマネをしやがったな!!」
ココアが初戦にも関わらずに、にゃんこを精密に動かすことができたのは、レイドが人形を使っている成果が影にあった。
ココアは誰よりもレイドのそばにずっといた。そのため、レイドの人形の動かし方、手癖、戦況の流し方など、全てにおいて覚えていたし、肌で感じた事もあった。そのため、先を見て計算して行動するという概念を練習せずとも身につけていたのだった。
「貰いますっ!」
ヒーロークラウンを手に入れることができたのは、劣勢であるココアだった。
ずっしりとした重さのヒーロークラウンをココアがかぶる。ヒーロークラウンから眩しい魔力光が溢れだし、世界を染め上げる。
ヒーロークラウンから声が聞こえた気がした。ヒーロークラウンが語りかける。『新たな力を求めよ』と。
「――新たな力を、求めます!」
ヒーロークラウンの輝きが激しくなる。魔力の奔流が降り乱れ、砕かれた石畳の粉塵を高く舞いあげる。
「――ヒーロークラウン、発動! 超・究極にゃんこ魔法・NNN! 」
ココアがヒーロークラウンの力を媒体に、最大級の魔法を発動させる。すると、ココアのまわりにポン、ポン、ポン、と大量のにゃんこ精霊が召喚された。
空を見上げると、ナゼか にゃんこ丸のぼんやりとした顔が浮かんだ。アニメとかで、別れた師匠だったり、死んだ仲間を思い出させるようなボンヤリ感で、空に映っている。
しかし! ぼんやりしたにゃんこ丸が、突然しゃべりだした!
『行くのだ、我が愛弟子よ! 修業の成果をみせるのだ!』
何が修行なのか、弟子なのかすら置いてけぼりだった。急に言われてもイマイチわからない。
『今こそ、団結する時が来た。全開放せよ、秘密結社 NNN異世界支部の皆よ! 今こそ、超絶合体だにゃ――ッッ!』
にゃんこ精霊の召喚スピードがさらに加速する。そして、召喚されたにゃんこ精霊たちが、光の塊となり、ビュンビュンと飛びまわって一か所に集まっていく。猛烈な量の光の塊が飛び交い、どんどんと大きくなっていった。
巨大な輝きの中からメタリックな黄金色のロボットにゃんこが出現した。その大きさは二階建ての家よりも大きい。見上げるような高さだった。黄金にゃんこが口をあんぐりと開けると、「ヒーローミサイル」と書かれた巨大なミサイルが顔を出す。
巨大黄金にゃんこが周囲の魔力を強引に吸いこんでエネルギーチャージする。あまりの強引な吸引により、対峙していたアルフレイドが倒れかける。急激な魔力のロストによって目眩をしているのだ。魔力は吸引されているため、誰も魔法で巨大黄金にゃんこを止めることができない。魔法陣を描く前に、全てのエネルギーを吸引してしまうだろうし、そもそも そのプレイヤーからも吸い取ってしまうため不可能である。
巨大ミサイルにエネルギーがギュイン、ギュイン、と露骨に溜まっていく。溜まるたびに魔力波動を撒き散らしていき、近くにいるのですら息苦しくて辛くなる。
なによりも、あまりにミサイルに込められたエネルギーが大きすぎて、ミサイルの魔力波動によって黄金にゃんこ自身が、自壊しかけているくらいだ。
空にぼんやりと浮かんでいる にゃんこ丸がカッと目を開く!
『唸れ、超必殺! ヒーローミサイルゥ――ッッ!』
ミサイルが発射される。それと同時に、巨大な黄金にゃんこが爆散するように砕けた。
ミサイルがアルフレイドへ飛んでいき、大爆発が起こる。
爆発音も凄まじく、鼓膜をハンマーで叩かれたような衝撃にココアは吹き飛ばされた。魔力の奔流が乱れ狂い、ミサイルによる灼熱の衝撃が、光の雨を降らして歩道に大穴を穿ち続ける。
たった人ひとりに対して黄金のミサイルはあまりにも苛烈すぎた。過剰撃破で勢い余った魔力が納まるのに、10分ほどかかった。
◇◇◇
「ふう。勝ちました」
「あー、もうっ! にしても、久しぶりに負けたな。連勝中だったのに!」
「――これはつまり 愛の勝利です、か……っ!?」
アルフレイドに殺気を込められた眼光を向けられたので、ココアが言いよどんだ。
「ったく。仲良くなる方法だあ? 距離感とか大切にした方がいいじゃねぇか? アイツは気真面目で慎重な性格だから、ぐいぐい近づくと嫌がりそうだ」
近づくと嫌がると言われて、ココアは困ったように むぅと悩む。
「おふとん、いつも一緒ですけど」
出会った初日から距離感が近いというよりも、密着レベルだった。
「そういえば、初日からだったな。いや、でも、意外と近づいても大丈夫なのか? 思い返すとオレと会った時もそうだった気が……」
「初日から一緒のおふとんですか? 男同士はちょっと……。二度とレイドに近づかないでください」
「そっちじゃねぇよ!」
アルフレイドが唸り声を吐き捨てる。そして、めんどくさそうに最初の質問に答える。
「真剣に考えると分かんねぇなあ。自然体でいるのが一番じゃねぇか? こころを預けるような感じに」
と、アルフレイドは言ってみたが、ココアとレイドの生活を思い出してみる。よく考えたらコイツはいつも自然体でレイドを振りまわしていたじゃないかと戦慄した。これ以上の自然体はレイドに負担になるかもしれないと思い、ちょっとだけ付け足す。
「そ、そうだなっ。いっ、いつもやっていて仲が良いなら、 意識するだけでだいぶ変わるだろ。なんて言えばいいのか言葉が思い浮かばないが、こう、自然に全部を預けるような感じにしちまえば?」
なるほど、とポンと手を打つココア。大切な情報なので、持ってきたメモ帳を取り出した。
(えーと。全部を預ける? 心だけじゃなくて? でも、心を預けるように……。うーん、どう書こう……?)
少し悩んでからメモ帳にカキカキした。
☆みにあとがき
ココアのメモ① : 身も心も預けるような感じに、




