ぷろろーぐ : がんばりますっ!
コミカルに書いています。肩の力を抜いてゆる~く眺めるくらいがちょうどいいかもしれません。
澄みわたる空に、あたたかな太陽がてっぺんに昇って街をほんわかと照らしている昼下がり。心が軽くなる陽気の中。帝国の露天市にて、二人の人間が歩いていた。
「晴れた空っていいよなあ。楽しく買い物ができる良い日だ」
「……うん」
黒い短髪に、帝国学園の学生服を着た青年であるレイドが、紺色で透かした花弁のワンピースを着ているココアを連れて街を歩いている。二人は人形作りのための材料を買いに来ていた。
街のわいわいとした活気と、呑気な日射しのあたたかさを味わいながら二人は手をつなぎながらゆっくりと歩いている。ふと、ココアが足を止めた。
「ん、どうした?」
「何か、鳴き声がしたような……」
レイドがココアの視線の先を見る。路地裏から動物のかぼそい鳴き声が聞こえてきた。二人で裏路地に行くと、そこには小さな猫がいた。神々しさを感じさせるような真っ白な毛並み。やせ細っている身体つきで、助けを求めているかのように弱った声で鳴いている。
じぃっと子猫を見つめているココアに、レイドが思案げに目を細める。
「小さい猫さん。かわいそう」
「そうだな」
「……のらネコ?」
「首輪が無いし、そうなのかもね」
ココアが、レイドを潤んだ瞳でじっと見つめる。
「飼っていい……?」
やっぱり言われたか、とレイドは心の中で苦しくため息を吐いた。
二人は学生寮ではなく、今は義姉の新築に住ませてもらっている。猫は家を傷めると言われていて、新築に持っていくのは迷いがある。ましてや、家はレイドの名義ではなく、義姉の名義なのだ。この場でひとつ返事に飼おうなんて言うことはできない。
「自分達だけの家じゃないから。とりあえず、家で保護してから考えようか」
「うん……っ!」
いつもの平坦な口調が、少しだけ跳ねた口調になった。たったそれだけの変化だけで、レイドは嬉しく思えたが、それと同時にこれからのことに頭を悩ませる。
レイドとしては奴隷として心を潰されて育ったココアの情緒を考えれば、猫を飼うことは両手をあげて賛成したい。その一方で、今まで借家のバンガローで暮らしていて、やっと新築を手に入れて喜んでいる義姉の気持ちも分かっている。二人の気持ちを知っているせいでなかなか複雑な心境だった。義姉が猫派ですぐに解決、なんてことになったらいいなと思いながら、二人は家路を急いだ。
家に帰る途中でミルクを買う。ココアが猫にミルクをあげた。
「……のんで」
『にゃー』
「にゃーにゃー、です」
ぬるいお湯で薄めたミルクをチロチロと飲む猫。ココアが楽しげにじっとその様子を見つめいていた。そんなココアをレイドはあたたかく見守っている。
「……猫さん、ぜんぶ飲んじゃった」
「お腹が空いていたんだね。でも、ミルクの飲みすぎは良くなかった気がするし、おかわりはあげてもいいのかな? えっと、誰が猫に詳しかったっけ? 誰に聞けばいいんだろう」
すると、猫を中心としてポンと小さな爆発が起こった。モクモクと白い煙があがる。煙が晴れるとそこには、エラそうな真っ白なヒゲを生やして、胡座をかいた猫がいた。
『――ふむ。そなたたちの優しさ、しかと我が認めよう!』
猫が子どものような高めの声で、偉そうにしゃべった。レイドとココアは唖然とする。
「なっ、なんだこの猫は……?」
「にゃんでしょうか?」
「…………猫語が気に入ったのか?」
「にゃー、です」
そうです、と言うように、恥ずかしげに顔を染めてコクリとココアが頷いた。レイドは、そんなココアの様子がおかしくて、そして愛らしくも感じられて思わずグリグリと撫でていじる。
ココアは、はにかんだ笑みで、やー、と言ってレイドの手から逃げようとする。でも、逃げた身体はすっとレイドへ寄り添って、ついには頭からこすりつけるようにうずめてきて、むぎゅっと全身でくっついてきた。
『我はワナビ神さまからの使者、にゃんこ丸であるぞ! 気軽に、にゃんこさんと呼ぶがよい。――って、そこの二人、ちゃんと聞くのだ!!』
「はいはい。聞いてますけど」
「そ、そうなのかにゃ?」
レイドにとっては、最近ほぼテンプレートと化したココアの行動だったので、ちゃんと聞く余裕があった。ココアは、はふー、と満足げなため息を吐いていて聞いていないようだが……。
「それで、ワナビ神さまからの使者の にゃんこさんは、何をしにここにいるのですか?」
「む、むぅ。ちゃんと聞いているなら、説明するのだ」
咳払いをしてから、エラそうな猫が説明をしていく。この世界の鍵となっていた物語が一つ終わったため、代理の主人公が必要になったらしい。今回は危険な目にあう主人公ではなくて、素直に幸せになる運命の主人公役を探しているとのこと。つまり、一週間だけ主人公が空いている世界のために、代理でハッピーな運命を貰ってくれる人物を探していたらしい。
『かよわき子猫を助けることが、主役になる運命を手に入れるための第一の試練だったのだ! ヒーローは弱き者を助けるのだから、なのだっ!』
「なるほど。第一のと言うと、第二の試練とかもあるのでしょうか?」
レイドは、ココアの肩からお腹にかけて手を回すように抱き寄せ変えながら、しゃべるネコに接し続ける。ココアはレイドに背を預けて後ろ頭でぐりぐりと甘い反撃をしていた。たぶん、こっちは聞いていない。
『うむっ。第二の試練はズバリ、神の遊戯! 第一の試練を突破した者同士が、最後の一人になるまで戦い合うとこなのだ! ワナビ神から送られてくるヒーローエネルギーを使って、戦ってもらう。ちなみに、ヒーローエネルギーとはダメージを与えても体は傷つかない超・親切設定の魔力なのだ!』
トンデモなことに巻き込まれてしまったと、レイドは顔をしかめる。ココアはどこ吹く風といったように、レイドに体重を預けながらしゃべるにゃんこを興味深くじっと観察していた。
「……にゃんこってしゃべるの?」
「しゃべるわけないだろ」
「でも、人形劇だと、しゃべってたよ……?」
「いや、あれは別物」
『そなたたち、二人を神の遊戯に招待する! さあ、幸せな主役の運命を目指して、戦い合うのだ!』
「ちょっと待て、二人もってココもなのか? ココは戦えないぞ!」
にゃんこが、チッチッチッと指 (爪先かな?)を振る。
『我は神の代理なのだ! 力を託すことなど、簡単にできるにゃ! むろん、戦う決意さえあれば、なのだ!』
にゃんこがじっとココアを見つめる。しかし、にゃんこのつぶらな瞳では、微妙に真剣さよりも愛くるしさの方が感じさせられた。
『――汝よ、力が欲しいか!』
腹の底からの深い声で、にゃんこ丸がココアに問いかける。
「……べつに」
『望むならくれてやろう……!』
「いらないです……」
『……にゃんで、そう言うの?』
「知らない人の言う事を信じちゃダメ。と言われてますので……」
にゃんこ丸がゴンと頭を床にぶつけて、盛大にズッコケる。レイドにしっかりと教育されていた成果が発揮された。
『アイタタタ。うむ、汝は奴隷欲という言葉を知ってるか?』
ココアが首をふるふると振る。
『この世界は、元は一つの世界だったのだ。世界が発展していき様々な魂が現れると、それに比例して邪悪な心の在り方が現れた。それを嘆いたワナビ神さまは、邪悪な心の在り方を小さく分けて浄化しようと考えたんだにゃ。ちなみに、世界ごと切り分けた名残が世界線と言うわけにゃのだ。邪悪を分割して浄化する為に切り分けられた様々な世界たち……。そして、この世界に託された浄化されるべき邪悪は『奴隷欲』と呼ばれるものなのだ』
「……は、はあ?」
ココアが分かっているのか、いないのか、微妙な相槌を打った。
『奴隷欲と一口に言ってもたくさんの事を指しているが、雰囲気をシンプルにまとめると、自ら試練を求めて自己満足するのがいけない、という事なのだ。苦行の奴隷になってはいけないのだ』
にゃんこが、ピシッとココアを指差した。
『望みがあるのを諦めることによって、安心するのが汝の悪い癖なのだ。自己評価が低いから、成長できるかすら不安であり、怖いと思っているのか? 傲欲は悪ではあるが、汝のような無欲も悪である。欲しないということは、成長できないということなのだ。それでは周りに、人間性が未熟な奴であると思われるだろう。失望されるだろう。汝には、それが分かっている上で、今回のチャンスを諦めるのか?』
ハッとしたようにココアがうつむく。うつむいた前髪でレイドからは表情が見えなくなったが、ココアが葛藤しているのをなんとなく察することができた。
「でも……」
『でも、じゃ にゃい! 心をオープンにするのだ!』
「にゃも……」
『にゃもでも、にゃんでもない! トライなのだ! 戦える力が一時的とはいえ身につくのだ! 我は汝の心の病は、知っているのだ! やってみたかったこと、いろんなことがあるはずなのだ! 戦うって誓うのだ!』
「にゃー……」
『にゃー、じゃないのだ! マネするんじゃにゃいのだ! ああ、もうっ、自分の心すら向き合えない、ワガママなヤツにはこうだにゃ――ッ!』
にゃんこ丸を中心に魔法陣が浮かび上がった。神々しい光の帯が魔法陣から飛びだす。すると光の帯がココアの身体にまとわりついて、ぐっと引っ張ってレイドと引き離してしまった。そのまま光の帯は増え続けて、一瞬でココアを包んでしまう。
『――汝に授けるは、我が猫の加護。汝の根源たる力は、兎の守護。――今こそ力を目覚めさせよ!!』
「わっ! ちょっと、ココアに何をするんだ! 止めろ!」
『うるさいのだ! これでおしまいなのだ!』
にゃんこ丸が、にゃあ、と ひと鳴きすると、光の帯に包まれたココアがポムン!とファンシーな効果音をたてて、ピンク色の煙の中から現れた。
『成功したのだ! これがワナビ神式、ウルトラヒーローチェンジだにゃ! 魔法少女の誕生なのだ!』
「なんだ、その格好は……っ!」
そこには服装が変わったココアがいた。
黒と茶色を基調としたシックなデザインを、白のエプロンで清楚に引き締めている。頭には、うさぎの耳のカチューシャで飾られていて、真っ白な薄手の手袋の甲に黒ウサギのぬいぐるみがちょこんと張りつけられている。魔法の杖は黒色で、杖先にはねこのぬいぐるみがついている(ここが猫の加護の部分なのか?)。
ひと言であらわすなら、知っている人から見ればコテコテ過ぎるサブカルチャーなメイドさんコスチュームに変身していたのだ。メイド服と、うさぎコスチュームが組み合わさった謎のデザイン(でも、杖はねこのぬいぐるみ付きだ)の魔法少女がこの場に誕生した。
ココアは何が起こったのか分かっていないのか、自身の身体を見回す。
「……お、おぉ~。服が、変わってる……?」
『ふむ、やはりワナビ神さまの力は偉大なのだ!』
とととっ、とレイドの元まで駆けていくココア。
「似合ってる……?」
「うん、まあ。すごく、似合ってるよ……」
カッと顔を赤くするレイド。本当に似合っていて、表現する言葉が上手に言えなかった。それと同時に、ココアを引き取る時に、メイドさん計画をひっそりと立てていた事も思い出してもいた。恥ずかしい思い出をごまかすように、そして赤くなった恥ずかしい顔を見られないように、ぽんぽんとココアを撫でつける。ココアはぽぅっと顔を赤くして、くすぐったいような笑みをうかべた。
甘い空気が広がり始める前に、にゃんこ丸が仕切り直す。
『では、これで全員が戦えるようになったのだ。これからルールを説明するんだにゃ』
にゃんこ丸がルールを説明していく。参加者全員に魔力の代わりにワナビ神様から貰ったヒーローエネルギーを使ってバトルしてもらう。力で相手を ぶっ倒したら勝ち(ほんとにそう言ってた)。また戦闘中ではヒーローエネルギーの塊であるヒーロークラウンとやらが降ってくることがあるらしい。
その、ヒーロークラウンというのは、取るとヒーローの加護が手に入ってめちゃくちゃ最強になるのだとか(アバウトな表現だけど、ほんとにそう言ってた)。
ヒーロークラウンは危機的な状況に起死回生のために降ってくる。ピンチな人はそれを拾ってもいい。しかし、雑魚キャラに颯爽と勝つヒーローもいるから、勝っている方もヒーロークラウンを拾ってもいい。白熱させるカリスマもヒーローの要素だから、どんな人でもクラウンを使ってカッコ良くなって欲しいという神様の願いが込められているため、ヒーローの資格があるならどちらが拾っても良いのだとか。
レイドはにゃんこ丸の話を聞くたびに、完全な愉快犯に巻き込まれている事実を深く思い知り、頭を重たげに抱える。
「ああ、もう。あまりの展開に、頭が痛くなってきた」
『ヒーローに選ばれるのは、重大な存在として認められたものなのだ。そう受け入れられものではないだろうが、がんばるんだにゃ』
「あっ、重大で思い出した! 夕飯の当番が俺だった。準備しないと」
『ヒーローよりも、夕食が大事なのにゃ!?』
「だって、最強の住人がいるからっ! 怒らせたら怖いんだよ。まあ、作りながらこの先の事を考えようかな」
『あぁ、そうだったのだ。あの人は最強の概念を背負う生物……。きっとその気になれば素手で白クマとか倒してしまうはずなのだ。運命を決めるシナリオに影響を与えてしまう強さがあるのだ』
えっ、勢いで言っただけなのに、本当はそんなに強いのか。と戦慄するレイドだった。
『おっかないなら、サッサと作ってしまうんだにゃ。さて、少女よ、汝はどうするのだ?』
「主役とか、どうでもいいです」
ココアはレイドと仲良くなれるかを考えていたので、本気でどうでもいいと思っていた。
『うむ、力を得たのだから、とりあえず力を使ってみるべきなのにゃ』
「どんな風に?」
『うむ、物事は失敗がつきものにゃ。たとえ思い浮かんだアイディアが失敗する方向に見えたとしても、とりあえず自分が最初に思い浮かんだ事は、積極的にトライするべきなのだ。思い浮かんだのなら、それなりに求めている物があるはずなのだ』
「……うーん。分かんない……?」
『力があるだけで、それなりに自信が持てるはずだにゃ。いままでやりたかった事をやる勇気を汝は持てたはずなのだ。その勇気で行動するべきなのだ。そして、実行する為の行動力はワナビ神様からもらった力と組み合わせて、たくさん無茶をして頑張ればいいんだにゃ』
ココアが俯いて、必死に考える。そして、決意したように顔を上げた。
「うん、がんばる」
胸もとにぎゅっと握った拳を上げて、頑張る決意?をした。
『では、問おう。汝は、力をどのように使うのかにゃ?』
「(レイドと)仲が良い人から……、(レイドと)仲良くなる秘訣を、(力で)聞き出すようにしてみます……っ!」
『ふむ! それは良い考えだにゃ!』
「力で自信を持って友達作りってところか。それは、いいかもな」
むしろその友達候補から力ずくで聞き出すのだが、レイドは気付かなかった。ちなみに、にゃんこ丸は、神の使いだけあって分かっていた。
「行動、がんばらないと……。自分からは、初めてかな? どきどき、するかもっ!」
にゃんこ丸がぴょこんとココアの肩に乗って、ポンと手を置く。
『決意とは、そういうものなのだ。ファイトだにゃ!』
「うん。ふぁいと……っ!」
『元気が足りないにゃ! 声をはり上げて、せーの、ファイト――ッ!』
「ふぁ、ふぁいとぉぉ~~っ!」
ココアは遠慮がちに腕をふり上げた。
『さあ、行くんだにゃ!』
「は、はいっ!」
ココアは勢いに身を任せるように、玄関まで小走りする。
「……い、いってきまーすっ!」
「おっ、今から行くのか。夕飯までには帰って来なよ」
「はいっ!」
ココアは決意を胸に旅立つ。まずは、レイドと一番仲が良さそうなアルフレイドから先に聞いてみようと思っていた。
☆みに あとがき
ココアのステータス
攻撃(魔力) :AAA
精度(命中):C
HP(魔法的体力):D
特殊技能①:心色察知――相手の心の色を見て、心理状態を察知する。ただし、どんな色の時にどんな心境なのかが分からなければ判断できないため、ほぼレイドに対して専用の技能になっている。
特殊技能②:ワナビ神の加護――攻撃魔力を大幅に上昇させる。また、他の基礎ステータスが2倍になる。それにより魔力枯渇が起こりにくいため、先天性非才症のココアが一人でも活動できる丈夫な身体になれた。効果はこの戦いの間だけである。
特殊技能③:にゃんこ丸の加護――魔法少女の服を着ていると、魔力ダメージを半減する。また服を着ている間は、猫から好かれやすい。
特殊技能④:連続攻撃 レベルB――露骨に高い魔力で創られた各属性の にゃんこ魔獣を召喚して連鎖攻撃をする。使い手と、にゃんこ魔獣とのチームワークに依存している技能である。ココアは、にゃんこ丸の加護によって通常よりもワンランク高い連携力がある。




