2.鳥取県民、発見される
テレビ局のメインスタジオ。巨大なクレーンカメラが静かに首を振り、無数のライトが昼間のような明るさでセットを照らし出している。
司会者の芸人が台本を見ながら言った。
「今日のゲストは、今人気の女性アイドルグループ、果実主義のみなさんです!」
拍手。
ばななたちは並んで座る。
トークが始まる。
「さて、その中でも気になる子がいるんですよ」
司会がカードを掲げた。
「これ!」
スタジオに映し出される。
【鳥取県民 遭遇証明書】
観客が笑う。
「これ配ってるの?」
「はい!」
ばななが元気よく答える。
「なんでこんなもん作って配ってんのよ。普通は自分の写真入りの名刺とか、可愛いシールとかでしょ」
「分かってませんね。鳥取県民っていうのは、この現代日本における『レア個体』なんです! 東京の砂漠で私たちに遭遇するのは、奇跡に近いんですよ!」
笑いが起きる。
「いや、絶滅危惧種みたいに言うな! ちゃんと生息してるだろ!」
「もちろんです! ちゃんと、たくましく生きてます!」
ばななが必死に手を振ると、観客席からはさらに大きな笑い声が上がった。
司会者は呆れたようにカードの裏面を見つめ、首を傾げた。
「そもそもさ、名前からしてツッコミどころ満載なんだけど。『因幡ばなな』って、これ本名じゃないよね?」
「はい! 芸名です!」
「本名は?」
「因幡花菜です!」
観客から「おお」と声が上がる。
「普通の名前だね」
「はい!」
司会者が笑う。
「でもさ、鳥取って梨が有名じゃない?」
「はい!」
「何でばなななの?」
ばななは笑った。
「それよく言われます!鳥取といえば、二十世紀梨が有名じゃないですか。だから事務所の人からも『因幡梨香』とか、梨にちなんだ名前にしようって提案されたんです」
「まあ、普通はそうなるよな。鳥取代表なら」
「でも私、子供の頃からずっと、あだ名が『ばなな』だったんです」
「ばなな?」
「はい!花菜って“はなな”とも読めるじゃないですか」
「なるほど」
「それがだんだん“ばなな”になって」
観客が笑う。
「どういう変化だよ。はな、が、ばなな?」
「因幡の“ば”に引っ張られたみたいです!」
「語呂はいい」
「ですよね!」
「でもさ」
司会者は再びモニターに映る「遭遇証明書」を指差した。
「でもさ、ぶっちゃけ、鳥取県民に会ったことない人なんてそんなにいないでしょ? 大げさなんだよ」
司会者は客席に向かって、挑戦的な笑みを浮かべた。
「いいですか皆さん、ちょっと調査しましょう。この中で、今までの人生で『鳥取県出身の人』に会ったことがあるっていう人、手挙げて!」
客席の数人が、おずおずと手を挙げる。
「……少なっ! 百人以上いて、五人くらいしかいないの?」
「じゃあ、逆に! 今まで一度も鳥取県民に会ったことがないっていう人!」
その瞬間、客席の約九割の手が、一斉に挙がった。
スタジオがざわめきに包まれる。司会も目を丸くして絶句した。
「マジか……。本当にレアじゃないか」
「そうなんです!」
ばなながここぞとばかりに胸を張った。
「だから、証明書が必要なんです。今日ここにいる皆さんは、人生で初めて、生きた鳥取県民——つまり『因幡ばなな』という希少種に遭遇したんです! おめでとうございます!」
万雷の拍手と笑い声。
スタジオの空気が、完全に因幡ばななの色に染まった。
モニターの中の「デザインが微妙」な証明書が、今はまるで輝く宝物のように見えていた。




