【No.80】霜月の花 チャノキとビワ
十一月。
霜月です。秋ももう終盤。
朝夕が寒くなり、野外を飛ぶ虫もめっきり少なくなったこの季節、それでもこんな時期をわざわざ選んで咲く花があります。それも、割と身近な植物です。ただし、食材として。
チャノキ(ツバキ科)
Thea sinensis
チャノキです。言わずと知れたお茶の葉にする木。こんな小さな白い花が咲きます。
ツバキ科、と言われると、なんとなく納得してしまうのは、多分沢山の雄蕊が束になった様子が、ツバキやサザンカに似ているから。花は径2~3cm位。芳香があります。
原産地は中国、インド、ベトナム等とされますが、古くから各地で栽培されているため、詳しい原産地はよくわかっていないようです。日本には奈良時代以前に渡来したと言われ、古くから栽培されています。日本の気候にはそれなりに合うようで、人里近くの山の中で、野生化したものが普通に生えています。人家の生垣等に使われることも多いので、そういう所から逸出して野生化したものでしょう。
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霜月の花をもう一つ。これも身近な樹木。ビワです。
ビワ(バラ科)
Eriobotrya japonica
ビワは、六月頃にオレンジ色の実がなる人気の果樹。店で買うとなかなかいい値段がしますが、強健ですぐに大きくなるので、庭などに一本植えておくと、毎年食べきれない程の量が実ります。
原産地は中国南西部。日本には江戸時代頃に入って来たようですが、日本の南部にも自生の系統が存在するようです。私の田舎では、昔から山に自生しているビワがあり、実は小さいのですが甘く、それなりに美味しいものでした。栽培種のビワと区別するために「ヒワ」と呼ばれていました。これが日本の自生の系統なのかどうかはよくわからないのですが、身近な山の果物でした。
ビワの花、上の写真のような白い小さな花が咲きます。
花茎と萼には薄茶色の毛が密生していて、その中に径1cmちょっとの花が咲きます。見ての通り、超地味です。写真のものは花が終わりかけているので、もう余計に地味。
でもこの花、ひとつだけ素晴らしい所があります。その香りです。東洋蘭を思わせる、透明感のある甘い香りがします。この香り、花の近くで嗅いでもそれほど強い香りには感じないのですが、その割には遠くまで良く香りが届くという不思議な性質があります。玄関にこのビワの花の咲いた枝を活けておくと、やがて家中に東洋蘭のような甘い香りが漂い始めます。おそらく、ごく少量でも香りを感じる成分を出しているので、遠くまで香りが届くように感じるのではないでしょうか。葉は大きくてつやがあり、姿が良いので、花材としてもなかなかいいと思います。
霜月の花二題でした。




