【No.19】コスモポリタン ネジバナ
ネジバナ(ラン科) Spiranthes sinensis var. amoena
ネジバナです。
芝生の中で良く見かける、赤紫の小さな花がねじれて着くあの雑草。
実はラン科です。カトレアや胡蝶蘭とそんなに遠くない親戚。数多いラン科の中でも、雑草扱いされるのはこのネジバナくらいかも知れません。
ラン科の花の基本的なつくりは、5枚の花被片(花弁と萼が同じような色や形をしている場合、まとめてこう呼びます)と、1枚の「唇弁」と呼ばれる、他の花被片とは違う形をした花びらで構成されます。この基本的なつくりはネジバナもカトレアも胡蝶蘭も同じ。ネジバナの花を虫メガネで拡大してみると、ちゃんと5枚の花被片と1枚の唇弁でできているのがわかります。
ネジバナの分布域は広く、東ヨーロッパからシベリア、日本を含む温帯~熱帯のアジア、オセアニアと世界各地に自生しています。このような分布の広い種を「汎存種」あるいは「コスモポリタン」と呼びます。植物の場合、2大陸以上に分布する種を「汎存種」と定義しているようですから、ネジバナは充分にその資格あり、ということになります。
また、分布だけでなく、生育環境も幅広く、普通は明るい草地や田畑の畔、芝生の中などに生えますが、湿地にも適応できるらしく、尾瀬の木道の脇に咲いているのを見たことがあります。下の写真は、大井川上流の、渓流の岩場にしがみつくようにして生えていたものです。
<渓流に咲いていたネジバナ>
ネジバナ、実は園芸植物としても注目されています。といっても、鑑賞するのは花ではなく、主に葉。葉が斑入りになったものや、形が変化したものなどが「小町蘭」と呼ばれて栽培されます。オモトのミニチュアみたいな感じですかね。90年代頃に一度ブームがあって、その頃、大の大人が公園の芝生に顔をくっつけるようにして這いまわり、斑入りのネジバナを探した、なんて話を聞いたことがあります。
ところが、ネジバナは意外と栽培が難しい。一本だけ鉢に植えたりするとなかなかうまく育ちません。他のラン科植物と同じように共生菌がいるのですが、栽培しやすいシュンランやエビネなんかに較べると、菌との結びつきがより強いようです。
最近の研究で、ネジバナはオヒシバというイネ科の雑草の共生菌から栄養をもらっている、ということがわかってきました。でも、野外で見ていると、オヒシバが生えていない所でもよく見るので、他にも共生菌がいるのかも知れません。いずれにせよ、単独で鉢植えするとうまく育たないので、イネ科等の他の草と一緒に植えると良いようです。経験的に知られているのは、芝の中で良く育つということ。芝生の愛好家から目の敵にされている、なんていう話も聞きます。また、サツキが植わっている鉢に種子を播くと、よく発芽する、なんていう話もあります。
いずれにせよ、見た目から想像するよりは、気難しい草です。
やはり野におけ、ということでしょうかね。




