祖父の心中は・・・
「只今、帰りました。」
文化祭が終わり、学校から帰ると、祖父にお客さんが来ていた。
コンカツだった。
「それでは、ご検討下さい。では、失礼します。」
コンカツが見たことがないような笑みを見せてから、帰って行った。
何だか、嫌な予感がする。
「そこに座れ。おまえ、今日、学校で技を使ったな。」
来たあ~、コンカツめ、チクりに来たのか。人前では、技を使うなと、
常日頃から祖父に言い聞かさられている。これは、折檻されるな。
「はい。」
嘘をつくと、余計折檻されるので、素直に返事をする。
「その覚悟、良きかな。義を見てせざるは勇無きなり。
おまえ、親友を助けるために、仕方なしに使ったと、先生は言っておった。
それにじゃ、ウッホン、おまえは若いのに優れた使い手だと、褒めてくれた。
ワシじゃないぞ。先生がじゃ。ワシは、まだまだ認めておらぬからな。」
へえ~、やはり祖父も人の子。自分の孫が褒められると、嬉しいのか。
顎に生えた白い髭をなでる。こんな表情、滅多に見せないな。
「はい、わかっております。ところで、検討って何ですか。」
「あ~、あれか。柔道部の特別顧問を頼まれた。全国大会で優勝するために、
ワシの力が必要だと。年寄りを煽てるのがまったくもって上手い。」
口ではそう言いながらも、新しい玩具を買ってやるからって言われ
喜んでいる子どものようだ。やる気満々だな、こりゃあ。
コンカツ、良かれと思って頼んだことだけど、柔道部員に絶対に恨まれるぞ。
断言してもいい。祖父の孫を、この年までやって来た僕が言うんだから、
間違いない。死ぬかと何回思ったことか。いっそ、殺してくれと、何回思ったか。
この前の警察官にも、話を聞けばよくわかるのにな。
「ところで、今日の舞台発表で実に興味深いものを見ました。」
僕は、祖父に、森 星明の舞について、詳しく話をした。
もちろん、星明の祖母の奏絵が龍笛を演奏したことも忘れず、話した。
今まで生きてきて、こんな祖父の複雑な表情、色々な感情が入り乱れた
顔を初めて見たな。無骨で石部金吉かと思っていたけど。
全部話した後、祖父は一言、「一人にしてくれ。」、そう言って、
祖母の位牌に向かった。




