初めての待ち合わせ
11月下旬の日曜日の朝の9時50分、僕は上野公園の
西郷さんの銅像の前に立っていた。
この前の大河ドラマの最終回だけ、祖父に付き合わされて
見たんだけど、「敬天愛人」、凄い人だったんだなあと、
つくづく思った。
そうそう、何で僕がここにいるか、説明するね。
文化祭の日、森 星明にスマホを奪われ、無理やり彼女の
電話番号やらメールアドレスやらを登録され、ラインまで
やらされるはめになった。
彼女のファン、親衛隊が聞いたら、羨ましがるだろうけど、
僕にとっては勉強の邪魔以外の何物ではなく、まさに犬が
発信機付きの首輪をかけられた感じがしたんだな。
そして、ラインで、待ち合わせの時間と場所、行先、さらに
服装の指令が下った。「カジュアルでスポーツができる服装。」
これは、何を意味するのか、メッチャ気になる。行き先の
一つに動物園があるけど、まさか、ライオンとか虎の群れに
入れとか言わないよな。ムッチャ、緊張する。
それなら、まだ怖い職業の方の事務所に行く方がましだ。
だって、人間だもの。話せば、分かり合えるかも。
そんなことを妄想して、ドキドキしていたら、時間がきて、
森 星明がやってくるのが見えた。
颯爽とした姿に心を奪われながらも、僕は復習した。
理由はともあれ、生まれて初めて女の子と待ち合わせをするんだよ。
恋愛偏差値ゼロのこの僕が、高校のアイドル、ファッションモデルも
やっている森 星明とだよ。ハードル高杉しんさくだ。。
それに、僕の自由は彼女に奪われているんだから、機嫌を
損ねないように細心で最善の努力をしなければならない。
「え~と、何だっけ。あっ、そうだ、思いだした。
『ごめん、待った』に対して、『ううん、今来たとこ』
よし、完璧だ。」
ネットで待ち合わせの時の台詞を検索し、傾向と対策を
調べたもんね。怒らしたら、怖いからな。
いよいよ、僕の前に星明が立った。さらっとはおったガウン風
コートでデニムルック姿が決まっている。白いニットが、
またエレガントに見えるから不思議だ。左手にさりげなく
持っているポーチは、きっとブランド物に違いない。
流石だね。見とれてしまうよ。
「大東流合気柔術 森 星明。」
ガ~ン、僕の予想を裏切られた。やはり、稽古と実戦は違うか。
これは、この前の決闘で、僕がでたらめな名前を名のったことに
対して、まだ怒っているに違いない。僕は、即座に、答えた。
「大東流合気柔術 近藤 奏夢。」
これほどにまで、年頃の男女が待ち合わせで言う言葉として
ふさわしくないものはないであろう。しかし、星明が微笑んだ。
「やっと、本当の名前と流派を教えてくれたのね。嬉しいわ。
ところで、リズムって漢字どう書くのかしら。教えて頂戴。」
「はい、演奏の奏に夢と書きます。」
「まあ、素敵。キラキラネームじゃない。誰が付けたのかしら。」
「本人は否定していますが、恐らく祖父だと思います。」
「御祖父様ね、ふ~ん、そうなんだ。あの龍笛もそうなの。」
「はい、祖父から頂きました。」
何も言わず、僕の答えに考え込む星明の様子が、気になった。
「あのう、何か・・・・。」
「ううん、何にも。さあ、動物園に行きましょう。」
星明が、僕の左腕に右腕を絡ませる。どうしても逃がさない気だな。
僕がそんな気を起こせば、即座に関節を極める気に違いない。
もしかしたら、へし折られるかも。緊張して、汗が出るんだけど、
僕の左ひじに、何だか柔らかいものが当たっているような・・・・。
きっと星明が僕を玩具にして遊んでいるに違いない。
誰か、助けてくれ~。




