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僕は 君たちの玩具じゃない   作者: 三ツ星真言
30/59

保健室の魔女

龍美がそんな想いでいることを知らず、僕は保健室に

一人向かっていた。

 クラスメートの視線にいたたまれず、親友のタックンと

ゆっくり弁当を味わう暇もなかった。

トントン

「失礼します。」

「え~と、誰だっけ。」

「二年一組の近藤 奏夢りずむです。」

 保健室の主、養護教諭の近藤 美津代みつよ先生の問いに

答えた。この先生はみんなから、コンミツと呼ばれている。

 確かに、あの中学校時代のあだ名が愛人だったという芸能人に

似ている。30歳を過ぎていて、いまだに独身である。

 噂では、かなりのどSで、あっちの方はかなり激しいらしい。

 今まで付き合った男は数知れずだが、すべて逃げ出されたらしい。

あれの最中に上だが下だが後ろからか知らないが、心臓麻痺を起こし、

死にかけた男がいるとかいないとか。

 まあ、僕には関係ないけどね。

「どうしたのかしら。見た目、どこも悪いように見えないけど。」

「はい、絆創膏をもらいたいのですが。」

「どこか、怪我をしたのかしら。」

 やっぱ、そのけだるい仕草と声のトーン、色気あるわ~。

「はい、首筋に怪我をしまして。」

「どれ、見せなさい。」

 コンミツは、椅子から立ち上がり、直立不動の僕に近寄り

有無を言わせず、顔を寄せ、首筋を眺める。

 龍美とも星明とも違う大人の女の色気にクラクラするが、

必死にこらえた。

「フ~ン、そうなんだ。それで、お相手はどっちかしら。

あのお嬢様の森 星明がこんな真似をするはずがないし、

となると、やっぱり白木 龍美ね。」

 ガ~ン

 潤んだ瞳で艶っぽい唇を尖らせたコンミツの言葉に、

僕は頭を後ろから木刀で殴られたような衝撃を受けた。

「どうして、それを、見ていたんですか。あっ、しまった」

 僕は、黙秘権を使うまでもなく、自白してしまった。

「フフフ・・・、聞きたい。」

 僕は黙って、首を縦に振るしかなかった。

「私が見たのは、図書館でのあの激しいキスシーンよ。」

 僕は、もう言葉が出なかった。まさか、まさか、あのシーンを

見られていたとは、信じられない。穴があったら、入りたい。

「そんな顔して、可愛いじゃない。あの日、図書館の奥で

調べものをしていたら、あの騒ぎじゃない。逃げ遅れたの。

『すみません、ちょっと席を外してもらえませんか。』

 君、カッコ良かったよ。

 でも、その後は、まったく駄目ね。完全に、玩具ね。」

「はい、言い返す言葉もございません。」

 僕は、素直に認めた。

「でもね、私、濡れちゃった・・・・。 わかるう~。」

「いいえ、何のことか、さっぱり。泣いたんですか。」

「まあ、学年二の秀才でもそっちのお勉強はさっぱりなのね。

 だから、玩具にされるのよ。私が、教えてあ・げ・る。」

 コンミツは僕の顎に指をかけ、耳元で甘く囁く。

「結構です。まだ、死にたくありません。絆創膏、

 もらっていきます。失礼します。」

 体の芯からしびれるような甘い吐息と体の奥底から

沸き起こる大人の女とのお勉強の誘惑を断ち切り、

僕は保健室から脱出した。高校性日記なんて、ありえない。

 胸の心拍数が一気に180くらい上がった感じがする。

「逃げられちゃった。警察に電話してやったのは、私よって

 言ったらよかったかしら。まあ、いいや。お楽しみは、

 これから。あの子たちの動きに目が離せないわね。」

 白い白衣を着ているものの、真っ赤なハイヒールを履いた

男性の視線を釘つけにする美脚を椅子の上でさすりながら、

コンミツは、新しい玩具を見つけたように微笑んだ。

 ここに、魔女がいた。




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