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52話 「ケルピーは海の精霊です」

二日目 AM07:12


自室の扉を開けると満面の笑みのラミアがいた。


変温動物の癖に朝が早いやつだ。


俺「……はぁ。ちょっと待って、制服に着替えるから」


ラミア「やったぁ!!」


こうして、俺とラミアの初デートが始まった。


*****


二日目からは別のクラスが整備をしてくれるため、俺たちは朝は自由に行動できる。


俺とラミアはまず朝食をカフェテリアで済ませた。


ラミアは朝も屋台で買おうと言っていたが、眠気まなこで人混みに押しつぶされたくないので、安全策を選んだ。


ラミア「最初どこ行く!? ねぇねぇ!」


俺「そうだなぁ……いきなり定番行くか」


*****


門星学園 中等部αクラス


展示内容:お化け屋敷


ラミア「……別に中等部だし、怖くないし……」


俺「女の子は普通そこで怖がるものだろう」


ラミア「キャアこわぁいっ!!」


俺「いや、まだだし……ちょ、締まるっ! 締まってるって!!」


気がつけばラミアの蛇部分が俺の身体を締め付けており、あやうく死にかけるところだった。


ラミア「ぶー。それじゃあ抱きしめられないじゃん」


俺「……なんとか我慢してくれないか?」


そんなこんなで、俺たちもお化け屋敷に足を踏み入れることになった。


*****


お化け屋敷は和風ベースにしており、破れた障子や明らかに怪しい井戸などが目に見えた。


ラミア「なんか不気味だね……」


俺「ああ……なかなかレベルが高そうだ……」


さて、そろそろ障子の前を通る。

定番では、破れた隙間から手が伸びてくるんだろうけど……よし。


俺「……そうだ。ラミアさん、先前に行ってよ」


ラミア「え? なになに?」


そして、障子の前を通ると……


目目連「貴様見ているなっ!?」


そうきたかー。


ラミア「ピギャーッ!!! 俺くんっ!!? 目っ! 目が目がぁ!?」


ラミアは障子の一マス一マスに出来た目を見て悲鳴をあげる。


よく見ると、破れた障子の間に破れてない障子……すなわち目目連を潜ませていたらしい。


そして、そのセリフは選択を誤ってると思う。


ラミア「ピギャーッ!!! こっち見るなぁっ!?」


目目連「あ、ちょっと目潰しはヤバ……ぎゃああああああっ!!!!」


……体張るなぁ。


とにかくこの隙にラミアを連れて、奥に進もう。


…………

……


俺「ラミアさん、大丈夫……?」


ラミア「だ、大丈……ヒィヤアアアアアア!!!」


俺「落ち着いて! ただのコンニャクだよ!」


ラミア「こ、こんにゃく……」


これは思ったよりも……疲れそうだぞ?


ラミア「ひぃっ! 何あの石のヤツ!」


俺「井戸だよ。なかなか変なところで怖がるね」


しかし、井戸ときたら中から皿とか這い出てテレビからとか日本ホラーではよく演出に使われる。


今回はどう仕掛けてくるやら……


ラミア「なにかいる……?」


俺「あれ? 中は誰もいないっぽいね。飾りかな?」


気が抜けて、そのまま通り過ぎようとした瞬間カコーーーンッ!!と桶の落ちる音が響いた。


俺「うおっ!? 油断した」


ラミア「あぅあぅぅああああっ!!!」


俺「それは叫んでるのか?」


しかし、釣瓶落としだろうか。音で驚かすとは考えが及ばなかった。


……それにしても桶を落として、このあと巻き上げるのだろうか?

というか教室なのに、なんで井戸があんなに深いのか。

いろいろ気になるが、とりあえず考えを逸らそう。ここは門星学園、あり得ないことが当たり前なのだ。


*****


その後、ゾンビが這ってきたり、ナタが飛んできたり、八角げんのうが飛んできたりしたが、なんだかんだで脱出した。


ラミア「もう絶対来ない」


俺「死ぬかと思った」


あとでチェックしておくか。流石に刃物や鈍器は禁止だろ。


ラミア「それにしても疲れたね。何処かで休憩しようよ」


俺「あー、そうだな。どこか良いところは……」


とはいえ、みんな考えることは同じらしくテーマは違うにしても半分以上が喫茶店である。多すぎて逆に悩んでしまう。


ラミア「あ、じゃあここ気になるなぁ」


ラミアがパンフレットに指差した場所は本校舎とは別の棟だった。


*****


突然だが、門星学園には《科》が存在する。

それは、専攻で何を受けたいかではなく。様々な理由で一般生徒……所謂《普通科》にて授業を受けられない生徒のために作られた特別クラスである。


例えば、《水棲科》《巨大科》《危険科》《ミクロ科》etc……


そして、俺はラミアに連れられて《水棲科》の棟にやって来た。


そこはなんと、建物が丸ごとダムのような水溜めの中に沈んでいるなんとも不思議な棟だった。


俺「学園祭だから一般開放してるけど……息とか大丈夫なの?」


ラミア「うん、なんか良くわかんないけどここって水の中でも濡れたり溺れたりはしないってさ」


そんな御都合主義よくできたな。

しかし、周りを見ると確かに学園の本校舎の生徒もちらほら見かける。


念のために顔だけを突っ込んでみる。


透明度は良好、息もできるが潜ってる感じはあるし水が顔に触れている感じもある。


しかし、顔を戻すと一切顔は濡れていない。まさに珍妙な感覚である。


ラミア「どうだった?」


俺「うん、大丈夫だった」


俺はラミアと水に入ると、昇降口から棟内に入った。移動は泳ぎのため、多少のスキルが必要になるが潜ったり泳いだりするくらいなら俺でもできたため助かった。ヘビであるラミアも同様に上手に泳いでいた。


ただ体操してなかったせいで途中で足を釣ってしまったのは失敗だった。息ができなかったら死んでいたところだった。


……

…………


水棲科 高等部


水底に着いてからは歩いてのろのろと移動をして、目的のクラスに到着する。


棟内は視界が少し青っぽい以外は殆ど本校舎と変わらない作りだった。


ラミア「これなら別に本校舎の生徒も通えそうだね」


俺「まあ全員が泳げたらな」


声が通りにくいため多少張らないといけないのもちょっとした欠点かもしれない。


クラスは案の定喫茶店。テーマは『童話』。


出迎えてきたのは馬の人魚のような生き物だった。童話アレンジのためか頭にツノを付けている。


?「いらっしゃいませー。2名様ごあんなーい」


ラミア「あ、私知ってる……えっとオカピー?」


俺「ケルピーな」


なんで草食動物が出てきた。


席に着くと、メニューが置かれていたので開く。


俺「へえ、水中だからどんな感じかと思ったけどナタデココとかフルーツなんだ。なるほどね」


これなら湿ったり溶けたりしない訳である。


ラミア「じゃあ飲み物は……へえ、特殊なストローね。吸ったときだけ液体が出てくるんだ」


現世界にもそう言った類のものはあった気がする。なるほど、こういう使い方もあるのか。


俺は注文を決めると、近くの店員を呼び止めた。


俺「えっと、ホットカフェラテ2つお願いします」


ホットにしたのは夏場でも涼しいココに合わせてである。


?「はい、ホットカフェラテ2つですね畏まりました」


すると突然恐ろしいほどに綺麗な声が耳に入ってきた。


驚いて顔を上げる。そこで俺は初めて店員が何者なのかに気がついた。


俺「……に、人魚」


ラミア「……ああっ! 俺くんそういえば人魚好きって言ってたぁっ!!」


人魚「えっ俺くん……? に、人間っ!?」


すると人魚は怯えた目でこちらを見ると、ちょっとずつ下がり、最終的に逃げ出すように厨房へ向かった。


俺「……え」


ラミア「あれ? どうしちゃったんだろ」


俺「……あっ」


思い出した。なるほど人魚の言い伝えを考えれば納得だ。


俺「……そっか……なるほどな」


ラミア「え? なに?」


俺「いや、人魚はさ。人間に恋をして泡になったり、寿命を求めて捕まりそうになったりしてたんだよ」


つまり何を言いたいか。


俺「……人魚は人間が嫌いなんだ」


*****


人魚「お、お待たせしました。カフェラテになります」


ラミア「おー早いねー」


人魚「そしてこちらがサービスの……深海のナニカ焼きです」


そういって置かれたのは、皿に盛り付けられた紫とも灰色とも言い難い暗色をした触手を切って焼いたようなものだった。


いや明らかこれクトゥルフ……


俺「……」


人魚「……お、俺くんにサービスします。あ、お金は入りませんので……」


そう言って、人魚は去ってしまった。


と思ったら影からこちらを見ていた。


ラミア「お、俺くん」


ラミアが引くほどに不気味なオーラと悲鳴を出しているクトゥルフ焼き。

いや、こんなもの普段から学食で見ているじゃないか


俺「……よし」


結論から言うと。


触手とカフェラテは実に合わない組み合わせだった。


*****


休憩を済ませ手がふやけ始めたので、俺とラミアは店を後にすることにした。


しかし。


ラミア「……ねえ、後ろからつけてきてるよ」


俺「さすがに気づいてるよ」


後ろから他人のふりをして人魚がついてくる。シフトを誰かに任せたのだろう。


監視なのかデートを妨害したいのかは分からないが、なかなかの視線(めぢから)を持っている。


俺「ともかく外に出れば、ついてこないって」


ラミア「そ、そうだよね」


そう言い、俺とラミアは陸に出た。


そして人魚も外に出ると


……足を生やした。


俺「あぁ。人化の魔法か」


ラミア「なんで人間嫌いなのに覚えてんのよ!」


もしかしたら声を失ってるかもしれないが、まあ大丈夫なのだろう。

少し眠たそうだが、プール上がりの微睡みのようなものなのかもしれない。


俺「……次どこ行こうか」


本来なら彼氏が引っ張って行くべきなのだろうが、まあ突然も突然なわけで決められていない。


ラミア「う、うん。そうだね……これとか面白そうじゃない?」

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