46話 「ドールガールは文献がありません」
一方門星学園でも、ちょっとした事件が起こっていた。
門星学園 カフェテリア
俺「……疲れるな」
鉄鼠「俺くんセンパイ」
ふと横を見るとちんまりとした女子生徒がいつものようにトライアングルのバチのような鉄線をポリポリと齧っていた。
人の姿をしているということは、アイドルの練習の休憩なんだろう。
俺「鉄鼠か。ダンスとか歌は大丈夫か?」
鉄鼠「はい! みんな上手で驚いてます」
俺「そか。なら良かった。あとでリハだけ確認するから」
そういうと鉄鼠はポケットから飴の包み紙のようなものを取り出した。
俺「……なにそれ、飴?」
鉄鼠「いいえ、鉛玉です。一つ食べます?」
俺「……やめておくよ。俺には中国の超人みたいなパフォーマンスは出来ないし」
鉄鼠「……よくわかんないですけど、分かりました」
しかし、凄いな。
鉄を食べる妖怪とはいえ、ゴリゴリゴリィッと激しい音が咀嚼音として出る女子生徒は始めて見るぞ……。
鉄鼠「……ぉあ、おえくんしぇんふぁい」
俺「聞き取れないぞ」
すると、鉄鼠は「んーっ」と少しむくれたと思ったら飴玉サイズの鉛玉を飲み込んだ。
うわ、本当にTVで見たやつみたいだ。
鉄鼠「ほらTV見てください。あれうちの学園ですよ」
俺「あ、ほんとだ。やっぱ大きく出るんだなぁ」
鉄鼠「そうですね……あ、今インタビュー受けてるのって俺くん先輩のお友達ですよね」
俺「……タウロさん、なにしてんだか」
あーあ、硬くなってるよ。耳もヒョコヒョコと忙しなく動いてるし。
鉄鼠「あ、見てください! 私たちのこと宣伝してくれましたよ!」
俺「うおっ、本当だ。っていうかスタジオにマジもん居るのに大丈夫なのか?」
鉄鼠「ヒャアアアアッ!!? け、けけけkemkemoが私たちをぉぉっ!?」
俺「落ち着けっ!? な、なに気を失いかけてんだ! ちょ、アルラウネさぁん来てくださぁい!!」
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門星学園 アイドル研究会 練習室
鉄鼠「……面目ないです」
俺「いやいや、でも本物のアイドルにオススメされるとはね……。他の皆はどこにいるの?」
鉄鼠「多分クラスの仕事の方じゃないですか? オークさんは知らないですけど」
ふむ、ほとんどはあのオークに任せてたところもあるからなぁ。
色々相談もしたかったんだけど、仕方ないか。
俺「少し落ち着いたら、俺たちも仕事に戻ろうか」
鉄鼠「はい、そうですね」
しかし、こんな本格的な練習室が学園にあるとはなぁ……。
少し汗の芳しい匂いもするし……って何考えてんだ。
すると、突然呼び出しの放送が入った。
ピンポンパンポン
九尾『準備中すまんの。 俺くんや、至急生徒会室まで来るのじゃ』
ピンポンパンポン
俺「……呼び出しくらい俺くんって呼ぶなよ」
鉄鼠「いや、それだと誰だか分かりませんよ! 『人間、生徒会室まで』とか誰っ?ってなりますよ」
俺「なんかそれ、もう学級名簿も『俺くん』に変わりそうな勢いだな……」
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門星学園 生徒会室
妹「お兄ちゃん、やほー」
俺「お前、生徒会室で仕事してたのか。珍しいな」
九尾「おー、待っておったぞ。ほれ、客人じゃ」
とりあえず生徒会室には簡易な応接間みたいなスペースがあるのでそこに行く、会長も止めないしそこで待ってるのだろう。
俺「……お待たせしました。俺に何かご用ですか?」
目の前にいたのは三人のワービーストの女性だった。そのうち犬耳の一人はスーツを決めているが、他のウサギと猫の二人はオシャレしてきたといった程度だろうか。
しかし、この2人何処かで見たような気がするな……。
?「申し遅れました。わたくし、ゲトスター事務所のシナガワというものです」
俺「はぁ……シナガワさん」
とりあえず名刺を受け取る。こちらも名刺を渡すべきなのだろうけど、学生という立場故に持ち合わせは電子生徒手帳一台だ。
俺「あ、俺は……いや、その。すいません、門星学園生徒という立場名乗ることはできないです」
そう言うと、シナガワさんはふふと声を漏らした。
シナガワ「承知の上です。ところで、こちらの2人はご存知ですか?」
俺「……いや、何度か見た覚えはあるんですけど」
?「「ガーン……」」
え? 何か気に障ることをいっただろうか?
どちらもすごく可愛いし、綺麗な人だという印象はある。体つきも大人なものだし、まるでアイドルみたいな……。
あっ。
俺「もももももしかしてkemkemoですかぁっ!? な、ならゲトスター事務所ってあの!?」
シナガワ「はい、芸能事務所です」
後ろではイェイと2人がハイタッチしている。そうか、人気アイドルなのに知らないとか言われるとショックに決まっているか。
俺「申し訳ないです。知らないなんて失礼なことを」
ラーラ(ウサギ)「いやいやー分かってもらえたらそれだけでも嬉しいよ」
ネーネ(ネコ)「うん。でも他のメンバーは仕事で来れなくて……ごめんね」
kemkemo……
読みは『けむけも』
ワービーストの女性だけで組まれたトップアイドルユニット。
デビューしてからまだ1年というのにシングルCDを出すたびにオリコン一位を毎回獲得。先月出た1stアルバムも初回盤も含めダブルミリオンを達成。
音楽番組だけでなくバラエティにも積極的に出演。ツアーコンサートは1万人を総動員させた
メンバーはリーダーで元気担当の猫のネーネ、色気担当のウサギのラーラ、天然担当の羊のメーメ、クール担当のヒョウのレーレの四人である。
以上オークからの情報より。
……しかし、なぜこの学園に?
尋ねようとすると、その前に答えが来た。
シナガワ「今回来校させてもらいましたのは、他でも無いETOの件です」
俺「えっ? も、もしかして問題がありましたでしょうか……」
シナガワ「いえ、その逆です。ゲトスター事務所はそのETOを支援させてもらおうと思っています」
俺「……は?」
意味がわからない。
なんで芸能事務所がスクールアイドルを支援するんだ?
俺「あの、どうしてですか? ETOはあくまでスクールアイドルですよ? たかが部活動に芸能事務所がつく理由ってなんですか?」
言い方は悪いが、ストレートに聞いた方が早い。
シナガワ「……たかが部活動、されど部活動です。ここ、門星学園はこの世界を司る存在といっても過言ではありません」
俺「つまり、ETOはスクールアイドルである以前に世界的アイドルの一つだと?」
シナガワ「ええ、超新星です。kemkemoが抜かされるのも時間の問題……それどころかエンジェルスやエレメンタルズなど他のアイドルを抜いてトップになるのも早いでしょう」
……そんな大きなことをしていたのか。
シナガワ「わたくしはその成長を早めたい。kemkemoをライブに出せばすぐに育ちます。どうでしょう?」
俺「……それでトップになったときあなた方はどうなるのですか?」
シナガワ「……その時はまた地方巡業から始めます。なにより学園には逆らえませんから」
……なんだよ。それ。
俺もマネージャーをしてよく分かる。アイドルを一つ作るのは大変なんだ。
しかも、それを育てて有名にして、ライブして、CD出して……どれだけの確率だよ。
この2人だって顔は笑ってるけど、俺たち以上の努力をしてきたに決まってる。諦めきれないはずだ。
俺「……お断りします」
俺は小さく……しかし、はっきりと答えを告げた。
シナガワ「……なぜゆえ?」
俺「kemkemoが出てしまえば、それはETOよりもkemkemoを目当てで来る人が増えます。むしろ浮くかもしれません」
シナガワ「……い、いえ、それは」
俺「それにっ!」
俺は興奮しかけた頭を抑えることで落ち着かせた。
俺「……それに、学園が世界の中心だからという力でアイドルを育てたくありません」
シナガワ「……どうするのですか?」
……すまないな、みんな。
俺「……ETOは門星学園のアイドルであって、世界的アイドルを目指すつもりはありません。もし学園からはみ出るほどの活動になった際にはアイドルを解散させます」
******
その頃
ホテル 部屋
ヤマ「……」
エリ「……ヒマ……ですね」
フカザワ「……うん」
とは言っても娯楽がないわけでは無い。ただ少し、異世界らしい刺激がないということだ。
ヤマ「もしフカザワが他種族恐怖症じゃなければなぁ……」
フカザワ「う……悪かったわね……」
エリ「まあまあお二方、そうだ! ジュース買ってきますね!」
空気を読んだのか、エリは自ら行動に移した。確かにこのホテルでは日本円が使える……が。
ヤマ「俺たちの分のお金はいいの? それに一人で大丈夫? 小学二年生でしょ?」
エリ「はい! お金は流石にお母さんに怒られますのでレシートで集金させてもらうかたちにはなりますけど……」
ヤマ「そっか、なら適当に冷たいもの頼めるかな」
エリ「わかりました!」
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ホテル 廊下
エリ(とはいえ広いです……すれ違う人みんな人間じゃないし……)
エリはうろ覚えの地図を頭に浮かべながら自販機を探すが、なかなか見つからない。
エリ「……ふう、広すぎて大変です……」
とはいえエリの家はかなりの富豪のため充分に大きい。だから、体力的には問題がないのである。
ようは場所の違いだ。
エリ「……うう……おかぁさぁん」
?「迷子」
エリ「グスッ……え?」
エリが振り向くと、そこには人間味のないほど白い肌をした女性がいた。
エリ「あ、あの自動販売機って……」
?「ならすぐそこ、案内する」
女性は抑揚のない返事をすると反対を向いて歩きだした。
すると、エリはあることに気がついた。
エリ「……あれ。あの、すいません」
?「なに」
エリ「……靴反対じゃないですか?」
?「……本当。少し違和感あった、恥ずかしい」
指摘を受けた女性はしゃがむと靴を脱いだーー足首ごと。
エリ「ヒヤァッ!?」
?「……あ、すいません。わたしドールガールなんで」
エリ「ド、ドール……?」
ドール「はい、直った」
キュポッと気持ちのいい音がなり足の入れ替えが終わる。
ドール「入学当時は腕が外れた。だから少し強化した」
エリ「は、はぁ……」
そして少し歩くと、自販機が見つかった。
早速お金を入れると自販機が光った。タッチパネル式の都会型らしい。
ドール「高いところ届かないなら、代わりに押してあげる」
エリ「あ、ありがとうございます。ではあの、オレンジジュースを……」
ドール「……これか」
トン。
……トン。
トントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントン。
ドール「……無理、わたし人形だからタッチパネルに反応されない」
エリ(今度からボタン型にしてあげてください)
ドール「それじゃ、抱き上げるけどいい」
エリ「はい、構いません」
エリの返事に頷くと、ドールガールはエリの脇の下に手を差し込んだ。
ドール「じゃあ持ち上げる」
……スポン。
ドール「……」
エリ「うで、抜けちゃいましたね」
ドール「とりあえず嵌めてくれる。一人じゃできない」
エリ「あ、はい」
バシッ
エリ「ヒヤァッ!!?」
ドール「腕の方はくすぐったい。手の方を近くに持って」
エリ「あ、す、すいません」
ドール「ううん、怒ってない」
そして、腕が嵌め終わり、ドールガールは腕を握ったり開いたりして確認した。
ドール「……最終手段。四つん這いになるから背中に乗って」
エリ「あ、その、大丈夫なんですか?」
ドール「お客様のためにスタッフは全力を尽くします」
エリ「あ、はい」
恐る恐るエリは背中に足を乗せる。土足は悪いのでもちろん脱いでる……が。
……バゴン!
エリ「あ」
ドール「……」
エリ「腰が砕けてしまいましたね」
ドールの身体は子どもとはいえ重さに負けてしまい、半分にへし折られる形になってしまった。
ドール「……もういいや、あきらめよ」
エリ「いや、腰砕けないでください」
******
門星学園 カフェテリア
俺「……」
アルラウネ「……ドリアードちゃん、俺くんにパフェサービスしてあげて」
ドリアード「……こくり」
お昼時、準備の休憩がてら食事をする生徒で多くなる中、一人彼はテーブルに突っ伏していた。
ラミア「タウロさん硬かったね」
タウロ「う、うるさい」
2人がいつもの席に着くや否や……。
ラミア「……俺くん……だよね?」
タウロ「……どうしたんだ? お腹が空いて動けなくなったのか?」
ドリアード「……」コトン
ラミア「ほら、ドリアードさん心配してパフェ持ってきたよ?」
呼びかけに反応しないので、無理やり顔を上げさせることにする。
ラミア「ほら顔を上げてっ……!」
俺「ニャーヤーッ!!」
奇声を発したので周りの生徒は全員振り返ったが、手を離すとすぐに鳴きやんだ。
ラミア「……うう、ガーゴイルみたいに動かないよう」
タウロ「仕方ない……ラミア、今回ばかりは遣り尽くして構わない」
ラミア「マジで!?」
俺「やめてぇっ!?」
思わず顔を上げたので、周りからもクスクスと笑い声が上がった。
ラミア「……惜しいなぁ」
俺「なにがだよ」
タウロ「さて、俺くんよ。悩みがあるなら言うがいい」
ラミア「何があったの?」
詰め寄ってくる2人に戸惑いが隠せなくなり、両手を上げて降参した。
俺「……実はさ、さっきkemkemoが来てーー」
…………
……
ラミア「そ、それは思い切ったことしたね」
俺「どうせスクールアイドルとは言ってもこの世界で学校は門星学園だけだし、問題ないと思うんだけど……」
タウロ「人気になって、社会現象を起こすレベルまで達されると困るということか……なんとも不思議な悩みだな」
確かに、変な悩みだ。有名になると困るなんて、どんなアイドルだよと突っ込みたくなる。
ラミア「ETOとかドル研には?」
俺「ううん、言ってない。言い出せるわけないよ、俺の独断で決めたことなのに」
?「今聞きました!」
後ろからドッと強い衝撃を受ける。
衝撃でテーブルに頭を強打した。痛い。
俺「いったーっ!? ……アルミラージか」
アルミラージ「ウサギだから耳はいいんです。 それより解散って本当なの?」
俺「……まあ、隠すつもりだったんだけど」
アルミラージ「……ばかですか?」
年下の子どもに言われるのは腹立つけど正論だよな……。
アルミラージ「でも、そうですね。ETOは門星学園のアイドルであっても、この世界のアイドルではありません。活動範囲は落ち着かせないとですね」
俺「ごめんね……プロデューサーなのにプロデュースと逆のことしちゃってるし……」
アルミラージ「いえっ! むしろその方がいいですよ。わたしはアイドルを趣味でやりたいのであって、仕事では嫌ですから。そもそも業界に出ちゃったらスクールアイドルじゃないですよ」
……前向きだな。
他の子もそう思ってくれるのかな……?
ワービースト:
獣人を引っ括めた総称。条件はものによって様々だが、基本的に興奮や満月によることが多い。また、獣人でも「DOG DAYSタイプ」と「しまじろうタイプ」に分かれる。




