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今日から私は猫好きに ?! 

「はぁ、今日は疲れた。盆と正月とクリスマスと後・・・もういい・・めんどい」


 今日はあの後、大変な目にあった。怒らせた生活指導の先生には担任を交え生活指導室(説教部屋)で約2時間。みっちり、延々と、正しい学生のあり方を教えられた。でも、それはしょうがない。私達が悪いのだし。

 問題はその後で、用事があると言う猫柳君と別れた後、私は興味津々のクラスメイトや世界の終わりの様な顔をした猫柳君のファンに追い掛け回される事になったのだ。今日は何とか逃げ切ったが明日の事を考えると・・・・頭が痛い。

 時と場合を考えない猫柳君が憎くなった。でも、あの時周りが見えなくなっていたのは私も同じだから文句は言えない。


「ただいまー」


 くたびれた身体には堪える重さの鞄の中から鍵を取り出しドアを開ける。中に入ると見覚えの無い男物の靴が2揃い。学生靴の様だ。リビングの方からは陽子の大きな笑い声も聞こえる。


「友達かな」


 なら、邪魔をしない方が良いだろう。私は静かに靴を脱ぎスリッパに履き替えた。


「あ。お姉ちゃん帰ってたんだ」


 腹を抱え笑いながら陽子がリビングから転がるように出て来て私を見つける。


「ただいま。お客さん ?」

「お客は、お客だけど、お姉ちゃんのお客じゃん。あーーでも、あの人の言い分だとお客じゃないのか。何でも我が家の婿殿らしいからっっーーーーぷはっっ !! うけるーー」

「陽子 ? 頭は大丈夫 ? いったいどうしちゃったの」

「おお、ネズ子。今帰ったか、遅かったな。これからは遅くなる場合は言ってくれ。護衛する」

「猫柳君 ! どうしたの、何で私の家に ? 」


 今度は学校で別れた筈の猫柳君がひょっこり顔を出した。てっきりフェーリスかこちらの世界の仮宿に帰ったのだと思っていた。


「何を言っている。私は中原家に婿入りするのだから、ここに居るのは当たり前だろうが。中原ヤナギ、何と据わりの良い名前か」

「ムコって、お婿さんの婿 ?! 」

「ぷーーーっ、まじ兄上ーーっうけーー」


 彼の跳んでも発言に私は鞄を落とし、陽子は床にとうとう笑い転がった。


「ネズ子は長女で私の元に嫁入り出来ない。では、私が行けば良いだけの話し」


 片手にはコロコロローラー。もう片手にはハンディモップ。そんな彼の出で立ちは安物のデニムのエプロン。間違いなくお母さんの物。


「私はこれから婿入り修行に勤しまなければならんのだ。忙しくなるぞ ! 目指すは婿のスペシャリスト、マスオサンだ ! 」


 意気揚々と慣れた手付きでソファにコロコロを掛け始める。


「馬鹿なこと言わないで ! 君には立場があるでしょう !? 」


 フェーリスでの立場はどうなるの ? 君は王子様なんだよ。そんな事が許される訳がないでしょう。

 私は彼の着ているエプロンを後ろから引っ張った。

 すると彼はコロコロローラーを置いて立ち上がり、私の頭の上にポンと手を乗せ撫で始めた。でも、その手は恐々とした慣れない動きで撫でると言うよりは、擦る様な感じに。お陰でこそばゆい。

 そして何度聞いたか分からない、私の不安を煽りまくる事請け合いのあの台詞。


「大丈夫だ、安心しろネズ子 ! 父には条件を出されたのだが見事達成して来た。おかげで私は晴れて、この中原家の婿殿になれるのだ ! 」

「条件って ? 」

「父から出された条件は一つ。ギガスコリデス・アウストラリスの巣窟を一つ壊滅出来たら、だ。流石に何度か死にはぐった。何せあいつら群れで暮らしているからな。少々、手間取ったおかげで、こちらに来るのが遅れてしまった。皆勤賞を逃してしまったではないか。父め。忌々しい」


 ずれた包帯をハンディモップの柄で押し上げた。

 彼が死をも恐れずに大きな覚悟で持って陛下の出した条件に挑んだのは、分かった。分かったが・・・・・・・・。


「で、でも、いきなり婿だなんて、困るよっ ! 」


 一緒にコーヒーカップに乗ろうとは言ったけれど、そこまで了承した覚えは無い。だいたい自分達はまだ学生なのだ。親の了承以前の話でありえない。

 ここは声を大にして分からせなければ。まずは動きを封じる為に正座だ。と、その時キッチンから呑気な声が掛かる。


「猫柳くーーーん。ちょっとお茶淹れてぇぇ~~~ 」

「はっ ! 了解しました。御義母様っ 」


 きびきびとした動きでキッチンに入っていく婿志願者。


「あの声はお母さん ! 」


 私も後に続いた。そこに居たのは案の定。母と、


「お邪魔してます、中原さん。あ、宿題見せてください」


 客用の茶碗でお茶を飲みながら、提出日をだいぶ過ぎてしまった宿題を掲げてみせる従者猫島。属性は限りなく不透明に近い黒。


「猫島君、君まで・・・・」

「あら、すず子帰っていたの ? ねぇ、この婿殿凄く使えるわね。気に入ったわ。あ、お茶っ葉は新しいのに代えて」


 母の命令に猫柳君は了解と頷き、まるで実験器具でも触るような手付きで茶こしを摑んだ。


「ムコ殿、私にもお茶ちょうだーーい」

「了解。義妹殿」


 陽子までお母さんに便乗し始めた。この二人は何も可笑しいとは感じないのだろうか ? 行き成り見ず知らずの男が婿に来ました。なんて・・・・。 

 目の前で繰り広げられる和やかな団欒を見て、私はひしひしと日常を侵略される気配を感じていた。きっと母も妹も侵略済みなんだ。どうしようお父さん。


「お姉ちゃんの友達って変だけど、皆面白いよね。四人ともキャラ被ってないのが、また凄いよ」

「四人 ? 」


 ここには猫柳君と猫島君。二人だけ。じゃあ、後の二人は・・・・。


「お姉ちゃん。銀灰君と三毛多君にも、お茶持って行ってあげれば ? 」


 陽子が急須を差し出す。


「陽子っ。その銀灰君と三毛多君とやらは、いったい何処にいらっしゃるのっ」

「へ。そりゃ、お姉ちゃんの部屋だしょ」


 陽子の返事を聞き終わる前に脱兎の如く駆け、目指すは自分の部屋。

 ドアノブを回し、勢い良く開けると小さな部屋の小さなコタツに大柄な背を猫の様に丸め、シャルトリューがぬくぬくと座っている。そして横には勿論従者のキャリコ。


「あ。すず子ちゃんお邪魔してまーす。これ、お土産のヒマワリベーカリーの新作パン「マタタビメロンアンパン」だよ。フェーリス店先行販売なんだってさ。こっちは未だでしょう ? レアだよレア。レア物フラゲだね ! 」


 キャリコが白い買い物袋を掲げてみせる。

――――そうか新作はマタタビでメロンなのか。しかも、餡子入りって・・・・。何が何やら、小父さん気は正気だろうか。


「い、いやっ ! 今はそんな事じゃなくって ! どーーしてお二人がこんな所にいらっしゃるんですか ?! 」


 もうこの際、二人が学校の制服を着用しているのも、私の愛用している犬型抱き枕がゴミ箱に突っ込まれているのも置いて置く。取りあえず二人がここに居る理由が知りたい。

 焦れた私の声が届いたのかシャルトリューの目がすぅぅっと、私に照準を合わせる。


「な、なんですかっ」

「・・・・・・・・・・この」

「この ? 」


 ごくり。初めて聞く低い美声に息を呑み、緊張の中続きを促した。


「コタツが私を惑わせる・・・・・・・・・・」

「初めて喋った台詞がそれかぁぁぁぁーーーーっっ !! 」

「ネズ子、どうした ! 」


 今日一番の私の叫びに何事だと猫柳君が様子を見にやって来た。このカオスを収拾する為には猫柳君の協力が必要だった。お願い助けてと縋る目で彼を見て、そこで私は凍り付く。正確には彼の持った物。


「ね、猫柳君っ。それ ! 」

「ああ。今から洗濯物を畳もうかと思ってな」


 彼の手から洗濯籠を遮二無二引っ手繰った。中には私の下着も入っている。絶対に触らせる訳にはいかない。


「なんだいきなり。・・・・ははぁん。恥じらっているのだな ? だが別に良いじゃないか。私達はこれから、そんな布切れ一枚入り込めぬ程の、なさぬ仲になるのだから ! 」

「お馬鹿 ! 」

 

 洗濯籠の中に手を突っ込み、私の下着らしき物を摑もうとする手を思いっきり引っ叩く。



 いつの間にか同じクラスで。

 いつの間にか隣の席で。

 いつの間にか、家の中。


 学校でも家でも、日常の隙間に入り込み気が付けば私の隣に陣取って、自分の居場所に変えている。

 勝手で、強引。好き勝手にやりたい放題。

 でも、一途な姿は憎めない。


「猫ってっ、猫って・・・・・・・・・・何て、厄介なのぉぉぉーーーー!! 」


 平凡だった日常が、これからどうなるのか恐いけど。

 私は今日から、猫好き――――に ?!



 




 

終わったです。

今まで読んでくださった天使の方々、有難うございました。何と無く終わらせることが出来ました。

 ネズ子はこれから大変かと思いますが大団円とさせて頂きます。

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