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二人の旅  作者: kazu
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出逢い

「妖娘奇譚」を書いていて、こちらの方が書きやすいのでは、と思い投稿しました。

こちらも止まったら、当分ワードで練習していようと考えている私です(知り合いに見て頂く事から始めても)。

今後の事は分かりませんが、まず定期的に書いていく癖をつけます。



その男は逃げていた。

「待ちやがれ、この餓鬼!」

「今度こそ、殺したる!」

荒々しい声が、男の背中から追って来る。

「誰が餓鬼だ。これでも20歳は越えている。それに今度とは何だ。まず初対面だろうが。」

男はそう毒づいた。

街の路地を走っていた男は、途中の狭い横道に素早く入りこんだ。

「・・ふぅ。」

通り過ぎっていた複数の足音に、男は息をついた。

「・・まあ、休憩という所か。」

壁を背に座り込んだ男だが、ふと入って来た所とは逆方向に首を曲げた。

そして呻いた。

「いったいどうなる。この町は。いや、この世は。」

この道は別の大通りに通じていた。そして、男から見て狭く区切られていたとしても、そこにあったのは地獄の光景に他ならなかった。

通りでは、老若男女問わず、死が蔓延していた。互いに殺し合い、自決し合い、疫病で苦しみ合っていた。故は多種あれ、重なった躯達の上を人々が逃げまどい、それらを追うモノがいた。

もはや、そのモノが人であるか、判別がつきはしない。盗賊や兵士、街の住人でもなく、死に神に取りつかれたか、それそのものに成り果てていたのだ。あるいは病までも実体化して、男の瞳に映っていたのかも知れない。

そして汗を垂らし、息を荒くしながら、地獄から目を離せないでいた男の瞳が、大きく見開かれた。

「・・おいおい。」

通りで立ち止まって、路地にいる男の方を向いているモノがいたのだ。

殆ど普通の人間と変わらない。

只完全に白目で、血だらけ、片手に大振りのナイフを持ち、よろめいているのを除けば、である。

男は少し身体をみじろぎさせる。そして溜息をついた。

すぐには動けない様子であった。

その表情には、もはや諦念があった。あと少し時があれば、また逃げるだけの体力が集まっただろう。

だが、この状況では、どちらにせよ難しかったかもしれない。

「ガァ!」

見かけによらず、アレは跳ぶからである。

一気に間合いを詰め、眼前に迫って来た異形に、男は、瞬間、全てを皮肉った様な表情を浮かべてみせた。

恐怖しながらも、なけなしの意地でも張ったのか。

「格好いいね。おじさん。」

その時、空より澄んだ声が響き、男の背中より斜め上方から風が吹いた。

異形の身体は宙で縦二つに裂ける。

男の眼は止まった状態から、数回瞬きする。そして大きく瞳を見開いた。

血しぶきをあげ崩れ落ちた肉塊の先にあったのは、丁度剣を振り抜いた所の、小柄な人物の姿だった。

「・・は?」

男の表情は明らかに戸惑っていた。

命を危うい所で助けられた安心感、化け物を一刀両断した存在に対する驚愕が混ざっていたからもあるだろう。

だが、男が次に口にした言葉は、なぜか、それらとは一切関係なかった。

「餓鬼か・・それも、女?」

小さな体躯がこちらへ向き直ると、振り返った拍子で長い黒髪は靡いた。

「よく言われるけど、残念ながらどちらも不正解だよ。おじさん。」

見た目の年齢を散々気にしていた男だったが、反論は出ない。

男は只息を呑んでいた。

その思考をここで推測しよう。

まず相手の言葉を信じるなら、その青年は可憐過ぎたのだ。

腰まで伸びた髪の下、その容貌をあげれば、細められた瞳は鋭くも切れ長で美しく、程良くふくよかな頬は赤く染まり、薄紅色に膨らんだ唇は本来の性別を裏切って、柔らかく魅力あるものとして自己主張していた。

幼いが確実に男性を引き寄せる。

その類の美貌を、青年は持っていた。

「僕の顔に何かついているかな?」

首を傾げ、そう話しかけてきた青年に、男の表情はぼんやりしたものから覚めた。

そしてすぐに赤面する。

「いや・・何というか。その。」

まさか同性に見惚れ、邪な思いまで抱きかけたとは言えまい。その確証はないものの、明らかに疑わしいものがあった。

青年の薄い笑み、見透かした様な眼は、そんな男の心情さえ理解している様だった。

余計に居心地が悪そうにしていた男だったが、それでも一度深呼吸をすると、どうにか落ち着いたらしい。

突然己の頭を一発殴った。

「ふぅ・・・。」

ようやく立ちあがると、青年の傍まで歩く。

手を差し出した。

「その、遅れて済まねぇ。ありがと、よ。」

男の一連の動作に対して、若干の驚きを見せた青年だった。

「・・・くっ。」

そう笑みを零すと、青年は剣を鞘にゆっくりと納め、男の握手に応えた。

どうしても少女がはにかんだ様になってしまう、その表情ではあったが、少し嬉しげなのは確かだった。

「どういたしまして・・・・・格好良いお兄さん。」


果たして最強存在は、只お人よしの異性(同性)に惹かれてしまうものなのでしょうか?

御都合主義にならないように、そこは掘り下げていきたいと思います。

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