第1話「開局」
ふと、自分は何者なのか、何のために生まれたのかと疑問に思うことがある。
誰もが一度は考えたことがある、ありきたりな問い。
だが、俺には誰よりもそのことを深く考えている自信がある。
なんて言ったって俺には幼少期の記憶がない。
両親も分からない。
物心ついた頃には、もう1人だった。
でも、頭はめちゃくちゃ良い。
テストは毎度100点、授業を聞いているだけと言う言葉は格好つけだと嘲笑される。
本当なのに。
俺はそんな唯一の悩みを抱えつつ今日も眠りにつく。
———
「歩ぅ!おはよう!!
今日もいけてるネェ!」
言い忘れていたが、俺の名前は玉川 歩。
記憶喪失ながらも名前だけは、なぜか脳に刻まれていた。
そんで、この朝からテンション高めの女は俺の小学校からの幼馴染。
香月 梨緒。
毎朝、俺を迎えにくる変なやつだ。
「おはよう、梨緒。
今日も元気で何よりだ」
「私はいつでも元気だよ!!
毎朝走ってるからね!!
ほらほら、遅刻しちゃうから早く行こっ!」
朝から走るなんてつくづく変なやつだ。
大抵の変なやつは慣れてくるのに梨緒だけはいつも変だと感じる。
それが、本当の"変なやつ"なのかもしれないな。
いつも通りの時間に、何の変哲もない登校。
飽きたを通り過ぎて、意味を見出したくなる。
見えてくるいつも通りの校舎。
ここが、俺の通う学校。
盤上高校。
まぁ、学力はそこそこの学校だ。
教室に入るといつも通りの席に着席する。
今日も隣の席は空席。
これも俺の友達だ。
「歩!今日の授業も楽しみだね!」
「そ、そうだね」
授業が楽しみ?
ちょっと分からない感覚だが梨緒だから仕方がない。
そして、1時間目が始まる。
学校に行って、帰って、学校に行って……
同じことの繰り返し。
なんか面白いこと起きないかなぁ。
そう思った矢先、耳を劈くサイレンが鳴り響く。
聞き慣れないサイレン。
音の出所はポケットにしまったスマホ。
全員が一斉にスマホを手に取る。
画面には緊急地震速報ではなく男の顔。
影で顔が良く見えない。
「青い星の諸君。
初めまして、私の名前は"キング"。」
ボイスチェンジャーで変化した声からは、感情が読めない。
いや、感情がないのか?
キングは続けて語る。
「突然だが、これよりデスゲームを開催する。
参加者は東京にいる全ての人間。
ルールは簡単。
触れられた者から脱落、ミッションを達成するとあなた方の勝利。」
突然のデスゲーム。
普段から滅多に使わない、そのワードに耳は慣れていない。
触れられたら脱落……
つまり、死?
ミッションってなんだ?
感情が追いつかない中、キングは締めの言葉を吐く。
「鬼は全員で13体。
ミッション達成者にはご褒美があります。
それではせいぜい足掻いてください。」
キングの顔はぷつりと消え、画面に広がる「スタート」の文字。
「ねぇ、歩……
これって本当かな?デスゲームって……」
「うーん?どうだろう。
ハッキング……?なのかな?」
怪しいサイトなんて興味ない。
みんなのスマホが同時に鳴ったてことは、ウィルスではないよな。
ざわざわとする教室。
先生はこの状況をなんとか収めようと言葉を発する。
「みんな静かに!!授業中だぞ?
ただのイタズラに決まってるだろ?」
イタズラ?全員のスマホが鳴ったんだぞ?
国家レベルのイタズラは無理があるだろ。
突如、廊下から鳴り響く足音。
そして、デスゲームにはピッタリな生徒の悲鳴。
「……ッチ!
次から次へと騒がしい!」
すりガラスからは廊下に立つ黒い影。
制服にしては黒すぎる。
授業が進まないことに苛立つ先生は、扉を開け怒鳴る。
「おい!どこのクラスだ?
今、授業中なんだ!静かにし……ろ……」
そこには、黒いアーマーを見にまとった人。
いや、人型ではあるが物体と言った方が近い。
生徒だと思い、注意した先生は予想外の物体に一瞬、言葉を失う。
「おい!ここは学校だぞ!部外——」
先生の言葉が聞こえなくなる。
俺の鼓膜の問題ではなく、先生自体が消えたのだ。
あの、黒アーマーに触れられた瞬間に。
「デスゲーム……」
スマホから流れた"キング"の言葉が全身を震え上がらせる。
人とは思えない黒アーマーの物体。
そして、触れられた瞬間消えた先生。
それだけで、これがデスゲームであることは信じられる。
まさに、生死をかけた鬼ごっこ。
やや、大きめの通知音と共にスマホ画面にミッションが表示される。
「ミッション、東京に放たれた13体の鬼を全て倒せ……」
黒アーマーを纏った物体がこのゲームの鬼。
こんなのがあと13体もいるのか……!?
———ガタンッ!!
椅子が倒れる音。
同時に俺の身体は腕を先頭に引っ張られる。
「歩!!逃げないと!消されちゃうよ!!」
俺の腕を掴む梨緒。
己が陸上部であることを忘れているのか、俺の走りに合わせるそぶりもない。
教室には出入り口が二つ。
黒いアーマーを纏った鬼がいる逆の扉を目指す。
ようやく、これが本当にデスゲームだと理解したのか、みんなも慌てて扉を目指す。
獲物を捕捉した様に動き出す鬼。
次々と姿を消す生徒。
血も影すらも残らない様は、まるでこの世界から追放されたかのよう。
梨緒に連れられて、鬼が急激に小さくなる。
ふと、ある存在が気になる。
「なぁ、屋上に向かわないと!」
「屋上?あぁ、陽向ね……
いつもサボってるからいいでしょ?
それより、私たちの命が優先だよ!」
「いや、行こう!」
梨緒の腕を振り解き、屋上へ伸びる階段を駆け上がった。
「もぉー!やっと2人きりだったのに……!」
梨緒はムスッとした顔で着いてくる。
ある存在とは桂木 陽向のことだ。
梨緒と同じく、小学校からの同級生。
こいつもまた変なヤツで、成績はいつもビリ。
だが、天才。
機械いじりが趣味というか使命というか、ありとあらゆる最先端メカを1人で作り上げている。
基本的に授業はサボっている。
そのため、基本俺の隣は空席なのだ。
サボり場所は屋上。
屋上の扉を開けると小さな背中。
食より機械な陽向の後ろ姿だ。
「おーい!陽向!!」
「ん?おいおい、珍しいな!!こんな時間に。
授業はもう始まってるだろ?」
「それがさ、学校でデスゲームが開催されてて、下がパニックよ!」
「デスゲーム……!?何言ってんだ?
文化祭かなんかか?」
陽向の的外れな回答に苛立つ梨緒。
変人同士のいつものやりとりが巻き起こる。
「デスゲーム!!触れられたら死んじゃうの!」
「なんだよそれ?地獄の鬼ごっこじゃねぇーか!」
「まさにそうなのよ!今!!」
「はぁ?お前は昔からバカなんだから、もっとマシな嘘をつけよ……」
「はぁ?それじゃあ下を見てみなさいよ!!」
陽向を強引に引っ張り、落とす勢いで中庭を覗かせる。
そこには、鬼の姿。
逃げ惑う生徒を次々に触れていく。
「ま、まじか……」
「でしょ!これで分かったでしょ!」
消えていく生徒をその目で確認した陽向。
驚愕の表情……と言いたいところだが生憎、陽向は変人。
「どうやって消してんだあれ?
手に嵌めているグローブに秘密があるのか?
動力源は……」
その目は、真新しいゲームに触れる子供の眼差し。
「はぁ……
歩!こんなやつ置いといて早く2人で避難しよ!」
「なぁ、陽向。
このデスゲーム、ミッションがあるんだ」
「ミッション……?」
「ちょっと歩!」
制止する梨緒は蚊帳の外、歩は陽向にスマホを見せる。
そこに並ぶ文字を読み上げる陽向。
「ミッション、東京に放たれた13体の鬼を全て倒せ……。
こんなの、俺のスマホにないぜ?」
「あんたは自作のスマホだからでしょ?」
「はぁ?俺のスマホにも、ハッキングしろよぉ!
そんで、これをクリアしたらどうなるんだ?」
「俺たちの勝利らしい……!」
「ほぅ、面白そうじゃねぇか……!」
「ありがたいことにその鬼とやらが今ここに1体いる……」
「なるほどな、それは倒すしかないよな……」
歩と陽向は利害一致したのか拳を突き合わせる。
「よし!そんじゃあ倒してみるか……!」
「分解して解明してやる。どうやって人を消すのかをよ!」
「はぁ……バカなんだか、天才なんだかね……」
触れられたら即脱落のデスゲーム。
鬼を全て倒すとミッションクリア。
"変"な俺たちは東京を救えるのか……




