その12
カイ達一行にはすぐに追いついた。神獣が案内してくれたからだ。でも、追い返される心配もあるのでユラはこっそりついて行くことにした。あいての正体がわからないのが怖いけれども、神獣の傍にいるから安全なはず。神獣は地面に罠があると言っていたから、足元に気を付けながら進む。
「このあたりだ。気を付けろ」
突然、神獣が言った。
「え?」
と、聞き返そうとしたら、ふいに前方で大木に手をついていた郷人が一人、かき消えた。
「えっ?えっ?」
ユラが混乱していると、神獣が言った。
『魔成獣はあの木の下にいる。すぐに皆に注意を呼びかけろ』
神獣が鼻先で示した木は、大人が両手を広げても、一人では抱えきれないほどの幹の太さの大木だった。この辺りの街道沿いに生えているのは大きな木ばかりだったが、ひときわ立派なクスノキだ。
『早くしろ!』
神獣が急かしてくる。
「おい、タカラがいないぞ!」
討伐隊が仲間のいなくなったことに気が付いたらしい。
皆がざわつき始めた。
『グズグズしておると捕まった者が食われてしまうぞ。早く知らせろ』
神獣に背中を小突かれたユラは、心の準備をする前に皆の前に飛び出してしまった。
「わわっ!」
皆の視線がユラに集まった。
「ユタ!なんでついて来たんだ?!」
慌てて体勢を整え顔をあげると、カイがユラをにらんでいた。見たことがないほど眉が吊り上がっている。ユラはおののきながらもなんとか声を絞り出した。
「あの……キツネの神獣様が現れて、皆に伝えて欲しいことがあると言われたから追いかけて伝えにきたんです。『魔成獣は地面に巣食っている。魔成獣の罠に気を付けるように』って!」
「神獣?ユタは本当に神獣と話したのか?」
「はい。そうみたいです」
以前、フクロウの神獣を見たときにはお婆様に夢でも見たのだろうと言われて、信じてもらえなかった。その時の悔しさを思い出いして、信じてもらいたくてまっすぐカイの目を見る。カイは暫くユラをにらむようにじっと見ていたが、やがて言った。
「ふざけているわけではないようだが。神獣は魔成獣が地面に潜んでいると言ったんだな。」
「はい」
ユラは若干不安もあったが、神獣の言ったことを信じて力強く返事をした。カイは思案しているようだ。
皆は子供であるユラがついてきたことにざわつき始めた。まとめ役のノアも渋い顔をしている。
信じてもらえないのだろうか……ユラがますます不安になり始めた頃、カイが言った。
「ノア、今はタカラの身の安全を確かめる方が先だ。ユタの面倒は俺が見る。念のため、足元に注意してタカラを捜そう」
「おい、子供の言うことを信じるのか?」
ノアが眉をひそめてカイに言ったが、カイは小さく頷いて応えた。
「ついて来たものは仕方がないが、足手まといになるなよ」
ノアはユラを一瞥すると、仲間の組み分けをし始めた。
「ユタは俺と組むぞ。こっちへ来い」
カイに呼ばれて、ユラはカイの傍に向かった。
「危ないから俺の近くにいるんだぞ」
「はい。あ、あの、僕、さっき男の人が消えるのを見ました。神獣様もあの大きな木の下の辺りに魔成獣
がいるって言ってました。」
「なんだと?もっと早く言ってくれ!」
カイとともに慎重にクスノキの大木の傍に向かう。木の周辺を調べると、麻袋のようなものが幹に沿って地面まで張り付いていた。
「なんだ?これは」
カイが麻袋に触れようとしたときだった。
「地蜘蛛だ!」
ユラは叫んだ。脳裏に幼い頃の記憶がよみがえったのだ。
「カイさん、ダメ。それに触っちゃダメだ!」
ユラは慌ててカイを止めた。
「それ地蜘蛛の罠だよ。魔成獣は地蜘蛛かもしれない」
「ジグモ?なんだ、それは?」
「地面の中に巣を作る蜘蛛だよ。その麻袋みたいなのは多分地蜘蛛の巣の一部だよ。触れた生き物の振動
を察知して、地蜘蛛は巣の奥から上の方に移動してくるの。そして、獲物にとびかかって襲い、巣の中に引っ張りこむんだよ」
いつの間にか、討伐隊の仲間が集まってきていた。
「じゃあ、タカラはその罠に触れて地蜘蛛の巣の中に引き込まれたのか?」
ノアの言葉にユラは頷いた。
「急げばまだ生きてるかもしれないよ。助けなくちゃ!」
「だが、どうやって?そもそも、本当にタカラはその中に引きずり込まれているのか?」
「僕、ここでタカラさんが消えるのを見ました。きっとタカラさんはここの巣の下の方にいます。地蜘蛛釣り、したことありますか?」
「なんだそれは。どうやってやるんだ?」
「まず、地蜘蛛の巣をつついて地蜘蛛を巣の上の方へ誘き出します。それから下に逃げられないように巣
の下の方をふさいで、真上から引っ張る。そうすればスルっと丸ごと巣を引っ張り出すことができます。
上手くいけば捕まっているタカラさんごと引っ張り出せるかもしれません」
「わかった。やってみよう」
ノアが言った。
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