表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第10章 王家の聖杯

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/80

第80話 真犯人の目星

 ”王家の毒杯”――それは王族の正統な血筋を継ぐ者しか立ち入ることを許されない宝物庫に厳重に保管されているらしい。


 その扉は代々の王が定めた魔法によって封じられ、許可なき者は近づくことすら叶わない。王配であるシリウスお兄様ですら一人では入ることはできない。


 つまり――。


「毒杯を持ち出せる者は、王族しかいない。絶対にな」


 静かな医務室に、シリウスお兄様の低い声が重く響いた。ベッドではアウローラ女王陛下が苦しげな息を繰り返している。


 青白くなった頬には汗が滲み、細く震える指先は何かを掴もうとするように時折ぴくりと動く。そのたびに呼吸が乱れ、小さく呻き声が漏れる姿は見ているだけで胸が締め付けられた。


 七日。あと七日しか残されていない。その現実が、部屋の空気を重苦しく沈めていた。


「宝物庫への出入りは極秘裏に調べさせる。記録が改竄されている可能性もあるが、それでも調べない理由にはならん」


 シリウスお兄様は近衛騎士へ指示を飛ばしてから、小さく息を吐いた。一方、エリオット様は先ほどヴィオレッタ王女との話を思い返している様だ。


「あの様子を見る限り、ヴィオレッタ王女は本当に無関係だと思う。そして真犯人は今頃、自分の計画は成功したと、高を括っているはずだ。王女へ容疑の疑いが向いた今、捜査はそこに集中してると考えているだろう」

「つまり、油断してるってことよね」


 ルミエラお姉様が珍しく真面目な声で言う。


「犯人の立場から言えば、他に疑いの目が向いた今が好機だ。時間を与えれば、証拠を消される恐れがある」

「なるほど……」


 その言葉に皆が静かに頷いた。


「でも……」


 思わず口から零れる。私は別のことが気になってた。


「どうして、こんなことになったんでしょう……? アウローラ女王陛下は、本当に素敵な方でした」


 皆の視線が私へ集まる。


「それなのに、陛下は毒を盛られる程に身内に恨まれてたんですか……?」


 楽しそうに微笑んでいた横顔を思い出すだけで、胸が痛くなる。


 その問いに答えたのはシリウスお兄様だった。


「嫉妬だろうな」


 その一言には確信があるようだった。


「アウローラは優秀だった。民を愛し、臣下を信じ、誰より誠実だった。だから人が自然と集まり、自然と愛され、支持された」


 シリウスお兄様は苦々しく笑う。


「王選でも同じだ。本来なら長男の第一王子が最有力候補だった。それが通例だからな」

「でも陛下が、皆に選ばれたんですね?」


 お兄様は静かに頷く。


「貴族も騎士も官僚も、そして民も、大勢の人々がアウローラを推した。あっという間に陣営の勢力を増したんだ。王子達は己の権利ばかりを叫び、人の話を聞かず、努力も責任も他人任せだったからな」

「言葉を選ぶ必要もない、あの二人は救いようのない愚か者だ」


 アレクシスお兄様が呆れ顔で頷いた。


「第一王子は自分が長男だからと、自分が王になるべきだと本気で思っていた。勉学も政務もろくに学ばず、宴と女遊びばかり。第二王子も似たようなものだ。己を賢いと思い込んでいる分、むしろ始末が悪い」

「うわぁ……そうなんですね」


 シリウスお兄様は静かに続けた。


「アウローラが即位した日、二人とも最後まで納得していなかった。以来ずっとアウローラを羨み、恨み言を言い続けている」


 苦々しい表情で、シリウスお兄様は女王陛下を見つめた。


「王座への執着は、人を簡単に化け物へ変える。今回の事件でそう思ったよ」


 再び静寂が訪れる中、頭の中に今日出会った王族達の姿が浮かんだ。


(あの中の誰かが犯人なのよね……?)


 その時ふとエリオット様を見ると、彼は手袋を着けた手で先ほど徴収した毒薬の小瓶を、しげしげと眺めていた。


(あれ……?)


 その瞬間、頭に引っ掛かるものがあった。


 エリオット様は特殊な金属糸で編まれた手袋をはめ、その上から慎重に毒薬の小瓶を扱っている。


 ――毒が皮膚から染み込まないように。


 祝賀会の最中に見た何気ない場面が鮮明に蘇る。エリオット様が毒を扱う姿と、その記憶がぴたりと重なった。普通は食事の席で手袋はしない。


(そうだ……)


 心臓がどくりと大きく脈打った。


「エリオット様……」

「どうしたの、アイリス?」


 あの時は、何でもないことのように思えたんだけど。


「今更ながら、祝賀会の最中に気になった事を思い出したんです」


 どんな些細な気づきでも、何かのきっかけになるかもしれない。言うべきだ。




 ◇◇◇




 祝賀会場は苦しい空気に包まれていた。


 磨き上げられた大理石の床には、慌てて避難した際に倒れた椅子や割れたグラスがそのまま残され、甘い葡萄酒の香りに混じって、張り詰めた緊張が肌を刺した。


 会場の出入口という出入口には近衛騎士が立ち並び、窓際にも兵士が配置されている。


「陛下はご無事なのか!? 誰か説明してくれ!」

「我々はいつまでここに閉じ込められるのです!?」

「大変な事態なのは理解しておりますが、少し休ませてもらえませんか……」

「第二王女がやったのだろう? もう犯人は分かったはずだ! そろそろ解放してくれ!」


 家族を抱き寄せて怯える人、小声で憶測を囁き合う人、不満を漏らす人。不安と苛立ちが混ざり合い、貴族達の騒ぎは大きくなっていく。


 混乱が暴動へ変わりかねない、それを察したようにシリウスお兄様が、一歩前へ出る。この場を預かる責任者として、誰よりも凛とした声を響かせた。


「皆様、ご協力有難うございます。現在、事件の調査と聴取を進めております。もう少しだけお時間を下さい」


 一拍置き、お兄様は会場全体を見渡す。穏やかでいながら有無を言わせない落ち着きを持っていた。


「皆様にも疲労が溜まっているでしょう。これより一時休憩とします。会場内であれば移動は自由です。ただし、中央塔から外へ出ることは許可できません。ご理解とご協力をお願い致します」


 張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。


「よかった……」

「少し座ろう」

「飲み物を貰ってこよう」


 貴族達は安堵したように深く息を吐き、それぞれ思い思いに動き始めた。けれど私たちは違う、全く気を抜いてはいない。この時間は真犯人を泳がせて証拠を掴む事が目的だった。


「……きっと動く」


 エリオット様が小さく呟き会場を見回す、そんな中——。


「あっ……!」


 私達が目を付けた人物が、人混みの中で静かに動き始めた。

この物語を読んで頂き有難うございます。

もし宜しければ、ブックマーク・評価を頂けると励みになり有難いです。

また、評価いただいた方、有難うございました!

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ