表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第5章 素材収集の小旅行

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/27

第26話 イグニス火山

 ”水鏡睡蓮(みずかがみすいれん)”を採集した後、私たちはルミナレイクの人々に盛大に見送られながら湖畔街(こはんがい)を後にした。


 街の入口の広場には見送りに、多くの住民たちが集まっていた。笑顔で手を振ってくれている。まるで奇跡を見るようなキラキラの眼差しを向けていて、慣れない光景に背中がこそばゆかった。


「また帰りに寄りますねー!」


 大きく手を振り返しながら、だんだん小さくなっていく湖畔街を見つめた。綺麗だったなぁ、ルミナレイク……。帰りにも立ち寄って、その時に湖の霊水を沢山持ち帰るようだ。


 私達一行は最後の植物素材、”焦炎樹”(しょうえんじゅ)の収集を目指して駆け出した。


 一行は更に北へと進み、やがて大きな山脈と深い森が見え始めた頃、夕刻前にアストラヴェル最北端の宿場街へと到着した。


 ここは主に火山地帯へ向かう冒険者が拠点にしているらしい。街へ入った瞬間、これまでの穏やかな空気とはまるで違う街の熱気に圧倒される。


 巨大な大剣を背負った戦士、重厚な鎧を着込んだ槍使い、ローブ姿で長杖を携えた魔術師、獣の毛皮を羽織った狩人風の男まで居て、誰も彼も歴戦の傷を刻んでいた。


 通りや酒場からは豪快な笑い声が響き、筋骨隆々の冒険者達が酒を飲み交わしている。


「オイ見ろよ、貴族様の御一行か?」

「公爵様の紋章だぞ……!」


 彼らは直情的で思ったことが素直に表にでちゃうみたい。


「ここの冒険者達は、森や火山の魔物を狩って生計を立ててるんだ」

「な、なるほどぉ……や、やっぱり魔物が沢山いるんですねぇ……」


 街を眺めながら思わず声が引きつる。

 そんな私を見て、安心させるように彼は言った。


「そうだね。でも”焦炎樹”の群生地を、先遣隊が近場で発見してくれている」

「じゃあ、案外そこまで大変じゃなかったり?」


「うん、森を抜けて山道へ少し入った場所らしい。登山するほどではないよ」

「おおーっ、良かったぁ……! 体力心配だったし……!」


 胸を撫で下ろす私を見て、エリオット様がくすりと笑った。


 正直かなり安心した。魔物のいる火山なんて絶対危ないと思ってたもん! 私は只の街娘だし!


 そんなやり取りをしながら少し露店を見て回り、その日は早めに宿で休んで翌日に備えることになった。




 ◇◇◇




 翌朝。


 先遣隊に案内してもらって、私達は火山の麓の森へと足を踏み入れた。とはいっても、大分迂回して森の端の浅い場所。馬で火山に最大限寄れる地点らしい。


 同行しているのは騎士と魔術師が二十名、さらに合流した先遣隊の騎士が十二名。

 全員が実戦慣れした精鋭らしく、空気がぴんと張り詰めている。


 馬や馬車には大量の魔物除け香袋が括り付けられ、私達全員も腰に装着した。足元は登山用の丈夫なロングブーツに、鞄にはエリオット様が支給してくれた様々な上級ポーションに携帯食。


 うぅ、やっぱりすごく臭い……。


 どうやら先遣隊が”焦炎樹”までの道中にも、魔物除けを大量に撒いてくれたらしい。

 この地に漂う鼻の奥に残る苦い匂いに顔をしかめていると、エリオット様が声をかけてくれた。


「臭うけど効き目は抜群だから、我慢してね」

「命には代えられませんもんね……」


 開けた場所に馬と見張りを置いて、一行は準備万端で浅い森を歩いていく。


 大盾を持つ重装騎士が前衛、軽装騎士が左右と後方を固め、中衛には魔術師。

 そして中央に私とエリオット様。過保護に護られながらも、不安から体は強張ってしまう。


 柔らかな土の地面に、背の高い木々。木漏れ日が差し込み、小鳥の鳴き声が聞こえる。ちゃっかりと道すがら白い光を見つけては触れていく。


 魔物除けが強力なのか、魔物に遭遇することも無く順調に歩を重ねた。


 森の奥へ進むにつれて、少しずつ景色が変わり始める。

 草木は減り、地面は乾き、大きな石や岩が増えていく。空気も熱を帯び始め、風の匂いが変わった。


 そして――。


「あっ、この匂い……!」


 魔物除けとは別の、鼻を刺す刺激臭。


「硫黄だね、火山が近いんだ」


 熱を孕んだ風が吹き抜け、まるで地の底で眠る巨大な獣が吐息を漏らしているようだ。


 森の切れ目を抜けると、そこには赤黒い岩肌が広がっていた。地面には大きな石や岩がごろごろ転がり、木や草花は点在するように生えている。


 遠くには煙を上げる巨大な火山がそびえ立っている。空さえもどこか赤みがかって見えた。


「山だぁ……!」


 自然って、ほんの少し場所が変わるだけで全然違うんだ。

 さっきまで緑豊かな森だったのに、今はまるで別世界。


 イグニス火山という名前らしい。

 命を拒むような荒々しい大地が広がっていた。火山の熱気が風に乗りじわりと肌へ張り付いてくる。


 そこへ、先遣隊の一人が前へ出て告げた。


「ここから徒歩で約一時間ほどの道程です!魔物除けを散布済み、群生地周辺も安全を確認しております!」

「ありがとう、助かるよ」


 エリオット様が頷くと、騎士達が即座に陣形を組み始めた。完全防御体勢である。


「な、なんだか凄く護られてます……」

「ふふっ、彼らは公爵家の精鋭だからね。怪我なんて絶対させないよ」


 確かに精鋭と言われる程、皆の圧が凄い。騎士や魔術師から漏れる魔力に戸惑ってしまう。


 でも辺りは完全に“危険地帯”の雰囲気なのに、静かすぎた。魔物除けが効いているからか、生き物の気配すら感じない。そのお陰で一行は順調に山道を進み、白い光を見つけてはせっせと《花写し(ブック)》をしていた。


「アイリス、気を付けて歩くんだよ?」

「はぁい!」


 石や岩だらけの荒れた傾斜の山道は、かなり体力を奪われる。

 息を切らしていると、エリオット様がすぐにポーション瓶を差し出してくれた。


「ええと……こんなに魔物に遭遇しないなんて、逆に怖いですね?」

「魔物除けを念入りに撒いたんだろうね、先遣隊のお陰だ」


 そう笑い合っていた、その時だった。


 突如として――地面が暗くなる。巨大な影が一行を覆った。

この物語を読んで頂き有難うございます。

もし宜しければ、ブックマーク・評価を頂けると励みになり有難いです。

また、評価いただいた方、有難うございました!

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ