表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第1章 泥まみれ令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

第1話 ”泥まみれ令嬢”は勘当される

「……役立たずは要らないわ。あなたはもう、ドルマン家の娘ではありません」


 その一言は、驚くほど静かに告げられた。怒鳴り声でも、激情でもない。だからこそ逃げ場がなくて、胸の奥にじわりと冷たいものが広がっていく。


「本日をもって、勘当かんどうします」


 母様から淡々と続けられた言葉に、私は何も言い返せなかった。言い訳も、謝罪も、喉の奥で固まってしまって――ただ、うつむくことしかできない。


 名家の子息たちが多く所属する王都騎士団の来訪は、地方貴族にとっては願ってもない機会で、社交という名の婚活の大舞台だ。


 騎士団の来訪を大歓迎すると両親は宣言し、屋敷では姉様達は血眼になって千載一遇せんざいいちぐうの好機と意気込み、使用人達が慌ただしく準備を進めていた。


 でも、運悪く騎士団が遠征の道中に我が家を来訪する日は、私が待ち焦がれていた年に一度の花市が開催される日だった。


 私はどうしても花市に行きたくて、王都騎士団の歓迎会を欠席したいと家族に申し出た。そして只でさえ役立たずとうとまれいじめられていた私は、家族に大激怒されちゃった。


「家の名誉より、社交の機会より、草花を優先するなど論外です」

「アイリス、お前はどこまで家名に泥を塗る気だ!」


 怒声を上げる父様に、呆れ果てた母様の声。


「呆れたわね、能天気すぎて貴族令嬢としての自覚がまるでないわ」

「無能で役立たず、鈍くさくて危機感も無い。頭までお花畑なあんたには泥がお似合いよ」


 姉様たちの声が、冷たく重なる。


 怒りのあまりに唾を飛ばしながら咳き込み始めた父様。クラリッサ姉様にはさげずんだ視線を送られて、可笑おかしなものを見るようにロザリア姉様は嘲笑ちょうしょうを浮かべてた。


「見てくれだけは良かったから、家に置いておいたものの……」


 家の実権を握る母様は大きく溜息をついた。


「恥を晒し家にまで泥を塗る、愚か者の面倒なんて見てられない」


 家族の言葉に、胸がきゅっと痛む。


「……泥まみれで遊ぶことしかできない娘など、我が家には不要よ」


 最後の一言で、私は決定的に家族では無くなった。


 ――分かってる。我儘わがままを言ってしまった私が悪いんです。



 ◇◇◇



 かっぽ、かっぽ、と規則正しく馬車が揺れる。


 窓の外には、生まれ育った領地の景色がゆっくりと流れていた。


 見慣れたはずの風景なのにもう戻ることはないと思うと、どこか遠いもののように感じらた。二度と見る事は無いであろう景色を、瞳に焼き付けてる。


 でも、最後に花市に行けてよかったなぁ。



 私はアイリス、16歳。――ドルマン子爵家の三女、()()()



 貴族籍はしっかり剥奪されて、平民になっちゃった。


「お嬢様の素晴らしさは貴族には理解されにくいのです。何も気にしなくていいんですよ」

「そうですとも。むしろあの家から出れたことを幸運に思いましょう」


 向かいに座るゼネブさんとアネッサさんが、穏やかに微笑んだ。


 二人は夫婦で、長く屋敷で仕えていた執事とメイド長。


 ――そして今は、私の新しい家族。


 小さい頃から私を可愛がってくれた恩人で、本当の両親のようだった。


 そんな二人は引退を理由に使用人を辞めて、なんと勘当された私の面倒を見る事を両親に直談判してくれた。娘の勘当について外聞を気にする両親は、都合が良いとそれを承諾した。


 貴族の勘当とはそんな簡単なものじゃなくって、体面的にも無責任に子供を放り出せないみたい。それなりの生活費も貰えて一安心。


 そして今は遠く離れたゼネブさんの故郷、魔力に恵まれた美しい領地と言われるアストラヴェル領に向かっている。領都で実家が商家を営んでいて、そのお手伝いをするみたい。


「貴族のような贅沢はできませんが、その代わり縛るものは何もありません」

「お嬢様の思うまま、自由にお好きなように暮らせるのですよ。また一緒にお花を育てましょうね」

「本当にありがとう、ゼネブさん、アネッサさん……」


 温かく微笑んでくれる二人に、涙が溢れそうになる。


 幼い頃からずっと、私には貴族の暮らしは合ってないと思ってた。


「そうそう、これから向かうアストラヴェルには、とても珍しい花が咲きますよ」

「えっ!?」


 その言葉に、思わず顔を上げる。


蒼月花ルナ・アズールという花でしてね。ちょうど見られるはずです」

「ええーっ!?本当!?嬉しい!」


 その瞬間、胸の奥で何かが弾けた。


 ――見たい!


 その気持ちが、まっすぐに湧き上がる。


「《花の帳(フローラル・レコード)》――蒼月花ルナ・アズールを見せて!」


 私がそう唱えると手のひらに淡い光が宿り、一冊の厚い本が現れた。ページがぱらぱらとめくられて、蒼月花ルナ・アズールが開かれた。


 世界中の植物が記された、私のスキル。役立たずだと笑われた、ただの”植物図鑑”。


 そこには白黒で描かれた釣り鐘状の可愛らしい花が記載されていた。ちなみに《花の帳》に植物の現物を登録すると、白黒の絵が本物のように鮮やかに色付けされる。


 私は植物の収集家コレクターでもあるのです。


 世界中の植物を収集して、いつかこの図鑑に描かれた全ての植物に色付けすることを夢見てます。


 この世界に植物は40万種以上あるみたいだけど!


   途方もない数だけれど、不思議と無理だとは思わなかった。だって私は、植物が好きだから。


 スキルは大体、子供が10歳から16歳の年齢になる間に神様から授けられる。それまでの間に身に着けた教養や、趣味嗜好、想いからそのスキルの能力が定まるという。


 植物が大好きだった私は、幼い頃からいつも庭で草花を育てていて、姉様達に『泥まみれ』とさげずまれてた。確かに土で汚れてたけど、好きなんだもん。


 そんな私が14歳で得たスキルが《花の帳(フローラル・レコード)》。


 私は世界中の植物が描かれたこの”植物図鑑”に大喜びしたんだけど……。


 家族からは『何の役にも立たない』『最低のゴミスキル』『泥遊びばかりしてるから覚えるのよ』と酷く罵られ怒られた。


 そして私の話を姉様達が各地の貴族のパーティで言いふらすもんだから、私の噂は貴族会の笑い話にされたみたい。


 ついた二つ名は『泥まみれ令嬢』。これもまた、私が勘当された理由です。


 貴族のパーティはお金がかかるから1回しか行かせて貰ってないけど、名前が悪い方に独り歩きしちゃって、その汚名は有名らしい。


 ちょっと酷いと思うんですけど。私は草花を愛でたいだけなのに……。


 そんな事を思い返しながら、蒼月花ルナ・アズールを調べてみた。


「ええと、大気に魔力が沢山溜まって、月が蒼く輝くブルームーンの夜。その朝方に、半日だけ咲く蒼白い花?」

「ええ、今年は三年ぶりのブルームーン。その翌朝にだけ咲く、特別な花です」


「すごい、こんな珍しい花がいたんだ!見たい!見た~い!」

「ふふふっ、はいはい、見に行きましょうね」


 はしゃぐ私の頭をアネッサさんが優しく撫でてくれた。


 勘当されちゃった私だけど、これから手に入るものだって、きっとある。


 二人の柔らかい笑い声に包まれながら、とても珍しい花に会える胸いっぱいの期待と、確かな希望を抱えながら――私達はアストラヴェル領へ向かうのでした。

この物語を読んで頂き有難うございます。

もし宜しければ、ブックマーク・評価を頂けると励みになり有難いです。

また、評価いただいた方、有難うございました!

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ