衝撃の真実
サナダ・マリー・知らない人の三人がワイワイと話しながら、南蛮街の闇市を歩いています。全ては山頂の花を玄関に飾る計画のため、一直線で目的の店へ向かっています。
「あぁ! そこにいるのは"バターチャーハン"のフットールじゃないか!」
「知り合いですか?」
「うむ、美味いチャーハンを作る男だがあまり店を出さないんだ。せっかくだし食べて行こう」
「良いね良いね! カロリーマシマシで面白そう!」
訂正、寄り道を楽しみながらゆったりと闇市を進んでいるようです。
三人が寄ったのはフットールという探索者のチャーハン専門店ですね、牛豚の肉やバターをふんだんに使用した「バターステーキチャーハン」は知る人ぞ知る絶品料理です。まあカロリー爆弾なので現世で食ったら生活習慣病一直線ですが、ロビーなら問題ありません。なんせ死ぬだけで健康状態を回復できますので。
お祭りの屋台焼きそばみたいなノリでチャーハンを買った三人が、再び歩き始めます。一口17kcalの糖質と脂質の塊を頬張りながら、知らない人は薄暗いレンガの道を迷いなく進んでいきます。何故か鍋の蓋だけを売っている店や瓶に入った綺麗な砂を売っている店、人体改造でもしてそうなマッサージ店などを通り過ぎていく中で、急に知らない人は脚を止めました。
「どうしました?」
「目的地に着いたの?」
「あれは…………」
知らない人の目線は、前方にある「ロシアンルーレット・スピリタス」という店に向けられていました。机の上に一本の酒瓶と二つのグラス、そしてコイン一枚を乗せた異様な風体の店です。
「…………すまない、二人共」
「えっ、何急に謝ってるんですか」
「何その「戦争末期に徴兵された学生」みたいな険しい顔」
「一つ、やらねばならないことが出来た。戻ってくるから勝負が終わった後に、一度私を殺してくれ」
まるで高校受験を受けに行く学生のような覚悟に満ちた顔の知らない人。彼女はそう言い放つや否や、件の店へ歩を進め、その席へ勢いよく座り込みました。
「やあ、また来たよ」
「お~う、姉ちゃんも中々懲りねえなぁ~? 前にあんだけボロ負けしたのにぃよぉ」
「今日のアナタは出来上がってるみたいだからね、チャンスは逃がさない主義なのさ」
「ひっひっ、それは良いねーぇ? んじゃぁはじめよぅか~」
どうやら二人は知り合いのようです。察するにかつて知らない人は、目の前の婆さんにロシアンルーレットで敗北を喫した様子。
今回はそのリベンジというところでしょう、婆さんのルール説明も最低限の雑なものです。
「コイントスぅして、外したぁら飲む。当てぇたら飲ませる。先に死んだほうが負けだぁよぅ~~」
「そして勝ったら足元の高級酒を頂ける、今日こそは勝たせてもらおう……!」
「うぃ~~、精々頑張りぃな」
そして婆さんがコインを指に乗せました。対面する知らない人が「引き金」を口にします。
「表」
「ヒッヒ、どぉだろうねぇ」
そして投げられたコインは、表でした。
結果が出るや否や、婆さんがグラス一杯に酒を注ぎます。そしてそれを、一気にグイッと飲み干しました。
「うまぃいね……? うまい、うまいぃ……」
「相変わらず酒に強いね、スピリタスくらい度数の高いヤツなんだけど」
婆さんが飲んだのは度数96%くらいの火がつくタイプの酒です。もし知らない人が予想を外していたら、一発で急性アルコール中毒を起こし即死していたでしょう。
「へぁっはっはぁ。人と飲む時ぃは肝臓がやぁる気出してくれるからねぇ~~これくらいじゃあ潰れないのぉさぁ」
そして再びのコイントス、知らない人が投げる番です。
「表だねぇ」
「どうかな?」
自信満々にトスされたコインは、しかし表でした。
「チッ、せめて三回は当てたかったんだが」
「まぁあまぁぁ、一杯飲んだ程度じゃ潰れんよぉ。姉ちゃんだぁって【酒飲み】スキル10くらいぃ持ってるだろぅ?」
「残念なことにそんなものは無い、次こそは勝つよ」
「待ってぇるよ~~」
勇敢にも彼女はスピリタス一気飲みチャレンジに挑み、案の定即死しました。というか【酒飲み】スキルってなんですか、そんな意味わかんないスキルをなんで習得してるんですかこの人。
そしてこの常軌を逸した飲み比べを前に、サナダとマリーはドン引きしています。
「……どうするサナダ、殺しとく?」
「どう見ても死んでるけど、まあ首くらいは落としてあげよう」
遺言通り、サナダが知らない人の首を切り落としてあげました。速攻で復活して帰ってきた彼女と、再び闇市を進みます。
「有識者さんちょっと寄り道しすぎですよ~?」
「あの飲み比べ勝負は何なのさ? 説明プリーズ」
二人に軽い文句を言われて、知らない人も流石に申し訳なさそうです。ちょっとバツの悪そうな顔で、あのアル中製造店の説明をはじめました。
「ごめんごめん、あの店で飲み比べに勝つとすごく高い酒を貰えるんだよ。参加費も命だけで良いから安上がりでね、つい突っ込んじゃった」
「ちなみにそのお値段は?」
「300万マス」
「ひぇっ」「うっそぉ!?」
ゴールドミトラが10万マスなので大体三十倍のお値段ですね。ちなみにロビーで自宅を建てるのに必要なのが500万マスです、頭のおかしい値段だぁ。
「あの婆さん何者なんです……?」
「というか何が目的でそんなことを……」
「人と飲み比べするのが好きなんだと、酒造業で稼いでるから金も余ってるんだとかなんとか…………って、ここだ。着いたよ二人共」
老後の道楽(命懸け)について話していたら、いつの間にか目的地に着いていました。三人の目の前にあるのは、土台から屋根まで全てがレンガで造られた、スコットランドの古典的氷室のような小屋です。
「ここが目的地の『喫茶・アイスボックス』だ」
「喫茶店ですか?」
「園芸店には見えないけど」
「ここの保冷剤が花の飼育に便利でね、まあ任せたまえ」
知らない人の後をついて、サナダとマリーが店に足を踏み入れました。
「うわっ寒い」
「ロビーに冷房って無いよね……?」
石造りの外見に反して、店の中は木製の家具で構成されたクラシカルな喫茶店です。ただし普通の喫茶店と違い、所々に2メートルほどの氷の塊が飾られていますね。不思議なことにそれらの氷は、一向に溶ける気配がありません。
「あれは『マジ永久凍土』って名前のアイテムだね」
「なにそのふざけた名前」
「溶けない氷だからね、温暖化に負ける現実の永久凍土とは「マジ度」が違うのだよ」
「ふふっ、ちょっと面白いです」
そこら中の氷塊によって保冷された店内では、棚に飾られたアイスクリームも溶けません。
知らない人は棚からいくつかの商品を取り出して、慣れた手つきで会計を始めました。
「店主さん、今日は保冷剤をオマケしてくれ」
「分かった、代わりに失敗作のアイスバーを買い取ってもらおう」
「何味?」
「青汁味」
「キッツゥ……まあ了解」
得体のしれないゲテモノアイスを会計に追加されたものの、知らない人は無事に目的の保冷剤を入手できました。しかしどうやって保冷剤を花の飼育に活かすのでしょうか?
「はいこれ目的の保冷剤、溶けない氷が入ってるから長持ちするよ」
「うーん……どうして保冷剤が花に役立つんですか?」
「ふふん、山頂の花は『冷気』を吸って生きているのさ。だからコレを磨り下ろして花瓶に詰めれば、無限の冷気で花がずーっと元気になるワケ」
これぞ山頂花の裏技、無限飼育コンボです。天才的な発想を前にマリーちゃんも大はしゃぎしていますね。
「すっご! 有識者さん天才じゃん!!」
「はっはっは! 照れるじゃないか! よし、この買ったアイスは君たちにあげるとしよう!!」
「わーい! ありがとうございます!」
有識者がアイスの入った袋をマリーの手に握らせました、太っ腹です。そして解散する直前に、彼女はとんでもないことを口にしました。
「そうだ。アイスの分と言っては何だが、二人に返してほしいものがあってね」
「? なにか借りてましたっけ」
「ほら、あれだよ。イエティの着ぐるみ」
一拍、二人の思考が完全にフリーズしました。
「イエティノキグルミ…………イエティノキグルミィ!?」
「えっあっうん!? イエティの中身あなたなんですか!?!?」
子供二人が大混乱しています。イエティに扮して驚かせた子供に何食わぬ顔で近づく、その狂気的な人間性に常識を破壊されてしまったのです。
「はっはっはっはっは! 折角話しかけるのに普通の恰好ではつまらないだろう? 初対面の登山者と会う時は、あのコスプレでドッキリを仕掛けることにしているんだよ!!」
「心臓に悪い! 心臓に悪い!!」
「たしかにビックリしましたけど! 心臓に!! 悪い!!!」
「あーっはっはっはっは!! そこまで驚いてくれるとコスプレの甲斐もあるというものだ!!!!」
確かに二人はイエティを殺した時の戦利品として、あのキグルミスーツを拾っていました。
ギャーギャーと文句を言う二人にキグルミを返却された知らない人が、楽しそうに笑って帰って行きます。こうして二人のミトラ山脈リベンジは、無事に幕を下ろしたのです。とんでもない異常者に絡まれて波乱万丈だった気もしますが、四捨五入すれば無事ですよ。たぶん。




