ストリートファイターズ
ブックマークとリアクションが貰えて驚いています、とても嬉しい
「ねえマリー、決闘ビジネスを始めてみない?」
「どういうこと?」
二人がロビーの自宅でダラダラしている時、唐突にサナダが切り出しました。
「ほら、昨日サイトゥスさんとウードンさんが決闘してたでしょ?」
「まあそうだね、かなり見てて面白かったよ」
「そう、面白いんだよ。そして面白いってことは金になる。上手くやれば、我が家にキッチンを買えるかもしれないぜ?」
ロビーのキッチンは職人が一つ一つ手作業で作ったハンドメイドです。工場を建てる資材がないロビーにおいて、自家用キッチンはかなりの贅沢なのです。
「ほほう、詳しく聞こうじゃないか」
ニヤリと11歳らしからぬ悪い笑みを浮かべたサナダが、乗ってきたマリーに続きを話します。
「考えてみれば妙じゃないか。せっかく無限の命があって好きなだけ血を流せるのに、誰も殺し合いを見せ物にしてないんだ」
「それは……派手じゃないからだと思うよ?」
マリーの言う通り、ロビーでの殺し合いは派手さがないです。なんせ人間は火炎斬りを使えないし、ちょっと脚に剣が当たっただけで歩けなくなってしまいます。決闘とは言いますが、実態は柔道などの試合を更に短くして、しかも1セットで終わらせるようなものです。
そのようなことをマリーに言われたサナダが、我が意を得たりと言うように大きく頷きました。
「そう、普通に決闘をしたらすぐ終わってつまらない。剣術だって素人目ではよく分からなくてつまらない」
「そうだよ、その証拠に現世でも派手にボールが吹っ飛ぶスポーツが人気じゃん」
野球サッカーラグビーバスケ、人気のスポーツはどこかしら「パット見で分かるすごさ」を抱えています。
しかしサナダはこれに対して、一つの回答を用意していました。
「その通り、だったら分かりやすさを用意すればいい。「百戦無敗」「連戦連勝」人は「負けない」ヤツが好きだ。そして戦いがすぐ終わるなら、連戦させればいい…………」
「つまり?」
スッと棚からレアアイテムの「ゴールドミトラリンゴ」を取り出したサナダが、こう言い放ちました。
「勝ち抜きチャレンジさ」
「ゴールドミトラー! ゴールドミトラは要らんかねーー!!」
「五連勝でゴールドミトラリンゴを進呈するよーー!! 我こそはという腕自慢はいないかーー!!」
裏路地の小さな広場で、サナダとマリーが呼び込みをしています。人のまばらな裏路地ではありますが、高級果実ゴールドミトラの魅力に惹かれて数人の探索者が集まってきました。
そうして集まった人たちのうち勇気ある一人が、二人に問いかけます。
「ちょいちょいお二人、どういうことか詳しく教えてくれる?」
「説明しよう、君たちには命をかけたゲームをしてもらう」
「ちょっとサナダ何デスゲームごっこしてんの」
「ごめんて」
ボケ欲を抑えきれなかったサナダがふざけました、気を取り直して説明をします。
「ルールは簡単だよ、五人の探索者と戦ってもらって、勝ち抜けたならゴールドミトラをプレゼントだ」
「参加料は一回2000マス! 10万マスのゴールドミトラを98%オフで提供だ!!」
参加料に観衆がどよめきました。極上の果実とも称されるゴールドミトラ、それがこんな簡単に手に入れるチャンスなど滅多にありません。
その様子を見てニヤリと笑ったサナダが、質問してきた人に肩掛けの紙袋を渡しました。
「それではあなたがチャレンジャー第1号だ。袋の中には参加賞のミトラリンゴが入ってるから、五連勝したらゴールドミトラと交換しよう」
「参加料はサービスだよ! タダでゴールドミトラが手に入るチャンス、逃す手はないよね?」
マリーがインベントリから取り出したゴールドミトラを高々と掲げ、観衆に見せつけました。漂う芳醇な香りが本物証明を為し、人々の熱気が高まっていきます。
「アタシ参加する!!」
チャレンジャー2号が現れました。マリーに参加料を支払い、参加賞入りの紙袋を受け取ります。
「それじゃあ勝ち抜き一戦目、記念すべき初戦を始めよう!」
「レディー……ゴーッ!!」
2号が先手必勝と言わんばかりに大上段の振り下ろしを打ち込みました、速攻の一撃には1号も反応できません。反応し切れず軽い裂傷を負った1号ですが、カウンターの斬撃で腹を深く斬り裂ました。腹から臓物をこぼした2号が倒れ伏し、まずは一勝目です。
「あっさり一勝しちゃった……これで本当にゴールドミトラが貰えるの?」
サクッと試合が終わりましたがこれは想定内、観客に息をつかせないよう二人がチャレンジャーを焚きつけます。
「一勝おめでとう! あと四回でゴールドミトラだ!」
「ほらほら早く挑戦しないと! 1号さんがゴールドミトラ持ってっちゃうよ!?」
声を張り上げるサナダとマリーにつられて群衆が熱を帯び始めました。
「……私も」「俺も……!」「俺もやるぞー!」と参加者が増え始め、裏路地に活気が満ちていきます。
増える観衆、上がるボルテージ、絶えぬ挑戦者。
1号さんが三戦目で死んだ後も、チャレンジャーは続々と集まり、その剣闘で客を集めてくれます。
「はいはいジュースはいらんかねー! 良い感じのお菓子も売ってるよーー!」
そうして観客が50人に達したあたりで、マリーが飲食販売を始めました。マーケットでテキトーにまとめ買いしたジュースやお菓子を、原価の五割増しで販売しています。
時間の流れないインベントリに詰め込まれたジュースはキンキンに冷えていて、お菓子が放つ焼きたての香りが購買意欲をそそります。
「マリー、売れ行きは?」
「上々、インベントリで鮮度維持してるのが好評っぽい」
コレこそがサナダとマリーの考えた「決闘ビジネス」、レアアイテムをエサに客を集めて集金する、簡易的なスポーツ観戦商売です。本当は酒を売りたかったのですけど……暴れられたら対処できないので、それは泣く泣く断念しました。
サナダの実況に観客が沸き立ち、買った食べ物をドンドン口へ放り込んでいきます。サクサク死んでサクサク試合が進むので、あっという間に37人目です。
「さあてチャレンジャー37号さんはこれで四連勝! 果たして最後の一戦勝てるのか! はたまたあと一歩のところで敗れゴールドミトラを逃してしまうのかァっ!」
「おーっ!」「やったれー!!」「まだ俺の番来てないのに!?」「負けろーっ!」「殺せぇー!!」
もはやこの広場はちょっとしたスタジアムです。小さな賑わいが人を集め、その群衆の熱が熱狂を生み、それが更なる人を呼ぶ。
そして37号さんが五連勝を達成したことで、熱狂はピークに達します。
「勝ったぞぉーーっ!!」
五連続の死闘を制したチャンピオンが勝利の雄叫びを上げました。芳醇な香りをまき散らすゴールドミトラを掲げ勝ち誇るその姿には、観客も拍手喝采です。
そしてその裏でサナダたちも、ひっそりと成果に沸き立っていました。
「いやぁ儲けた儲けた、マリーの方は?」
「用意した物は全部売れたよー、経費差っ引いても20万は固いね」
「こっちは8万ちょい、ゴールドミトラ一個でこれならかなり良い方なんじゃない?」
「だね、意外と上手くいくもんだ」
ゴールドミトラは収穫時に通常種の十倍の香りを放ち、十倍の熊を集めるデス果実。ただでさえほとんど見つからない事もあって、一般的な探索者が無傷で持ち帰るのは至難の業です。
しかしインベントリによる香り遮断と逃げ足による高速捜索ができる二人にとっては、それなりに頑張れば手に入る程度の代物でしかありません。
「いやぁ、ゴールドミトラ一つでここまで稼げるなんて」
「ボロい商売見つけちゃったね?」
サナダとマリーが肩を組んで「ガッハッハ!」と笑っています。ゴールドミトラは時々手に入りますし、何度もイベントをこなせば固定客も付くでしょう。興行の最先端に躍り出た二人の無邪気な笑みが、これからの明るい未来を照らすかのようでした。




