人それを本末転倒と呼ぶ
「あなたが、噂の処刑人かな?」
「ふむ……その噂が「斬首剣を配る処刑人」の話ならば、答えはイエスだ」
二本の斬首剣を背負ったその女は、自分がマイナー武器の布教を日常的に行っている変質者であることを堂々と認めました。探索者はノリで殺人鬼ごっこをするような自由人共ですが、流石に自腹で布教活動をするような気合の入った手合いは中々いません。
「それならば会えて嬉しいよ」
「その斬首剣を作った職人が知りたくて、僕たちはここまで来たんです」
「サイトゥスはそれを高く評価してたよー、「ビックリするほど丁寧に作られてる」ってさ!」
それを聞いた処刑人さんは、何故か驚いたような顔をしました。
「……ふむ、誰が作ったのかが知りたい、と?」
「差し支えなければ、だけどね。これでも私はダンジョン攻略ギルドのマスターをしているから、腕の良い職人は出来るだけ知っておきたいんだよ」
加えて言えば「良い武器を安く量産できる職人」を期待しているのも理由の一つです。無償で武器を配っているなら『全財産を費やした逸品』ということはないでしょう、タダで配っても良い程度の労力であれを作れるのならば、武器を大量購入するための、非常に有力な取引先となります。
「……ああ、なるほど」
何故か驚いていた処刑人さんですが、それを聞いて元の堂々とした笑みを取り戻しました。
「うん、では決闘で私に勝てたならば、誰が作ったかを教えよう」
「それはつまり、私の実力を見せるチャンスということで良いのかな?」
「その通りだ。付け加えると、斬首剣でどこまで戦えるかのデモンストレーションでもある」
使う側としても、本当に強いか分からない武器を持つのは怖いですからね。探索者たるもの、装備は吟味すべきです。
そしてそれはつまり、目の前の処刑人が「斬首剣の強さを信じさせる」に値する実力者であるということ。強敵との死合いを前に、サイトゥスが戦意を滾らせます。
「……それは楽しみだな。開始の合図は?」
「このコインを投げ、落ちたら」
「良いね、手袋も投げようか」
「ノリが良いな、そういうのは大好きだぞ」
サイトゥスが手袋を投げつけ、さながら本物の銃士のように決闘を申し込みます。処刑人さんがコインを指に乗せ、全ての準備が整いました。
「ああそうだ、殺しは無しにしてくれ。次も都合よく会えるとは限らないから」
「そうだな。私も、作品への評価を聞いておきたい」
必要な約束を済ませ、コインが投げられました。
処刑人が抜き放った斬首剣を上段に構え、サイトゥスが直剣を無造作に握ります。
そして石畳に落ちたコインが、キィーンと甲高い音を立てて……
「せぇいっ!」
「そらっ!」
二人の剣が、衝突しました。
処刑人の大ぶりな一撃を正面から迎撃したサイトゥスですが、両手で振り抜かれた剣を片手で弾くことはできません。衝突で軌道の逸れた大上段を半身になって回避、そのまま一回転して勢いの乗った斬撃を叩き込みます。
「甘いッ」
しかし処刑人もただ者ではありません。不自然に減速した斬首剣が軌道を変えて、サイトゥスの流れるような回転斬りを受け止めました。
「減速ギア! 剣術レベル5か!」
「なにぶん剣が重くてね! こうしないと小回りが利かないのさ!」
減速ギア、【剣術】レベル5で解禁される能力です。効果は消費スタミナ減少と速度の減衰、自転車のギアを下げるように速度を落とし、少ない力で動く能力です。
斬首剣は遠心力が多く乗るような構造をしているため、本来は速く重く、大ぶりな一撃を放つことしかできません。
「キッ……ツイなぁ! 等速での斬撃が重すぎる!」
「良いものだろう! 斬首剣はっ!」
しかし処刑人はその過剰なエネルギーを減速ギアで中和しています。これにより彼女は通常の直剣と同等の斬撃を、しかし通常より少ないスタミナで行っているのです。
減速ギアによる繊細な剣術と等速に戻した斬首剣の速く重い一撃、この緩急によって、処刑人はじわじわとサイトゥスを押し込んでいきます。
「サナダ、あの人強いね」
「だね、重い武器を使っているのに体幹がブレてない」
斬首剣に限らず、大剣や大槌といった重い武器は、取り回しの良さを代償に破壊力を得ています。それはつまり十分に熟達した使い手なら、技量で弱点を補い、大きな破壊力を自在に振るえるということ。積み重ねた修練によって、彼女はその境地に達しつつありました。
しかし、この程度で殺せるならば、サイトゥスは国内最強などと呼ばれていません。
「なっ……!」
「なるほど、踏み込みが重要な分ジャンプが出来ないのか」
二段ジャンプで頭上を取ったサイトゥスが、彼女の腕を浅く斬り裂きました。
彼の真価は単純な技量ではなく、その状況適応力です。異常なまでの判断速度によって敵や戦況を解析、即座に弱点を考察して攻略法を編み出す能力が、この男の真価なのです。
「そのジャンプばかりするのやめてくれないかなぁ!?」
「蝶のように舞い蜂のように刺すのが私のモットーなんだよ!」
ちなみにこのモットーは今考えたものです、別にいつも心掛けてるわけではありません。ジャンプ・二段ジャンプへの警戒を解いたサイトゥスが、打って変わって攻勢に出ました。飛び上がっての攻撃を多用して、徹底して空中からの攻撃を続けます。
「かくなる上はっ……!」
そうして一方的に上からの攻撃を続けられた処刑人が、思い通りに戦えないストレスから業を煮やして、空中のサイトゥスへと飛びかかりました。
「それを待っていた」
空中戦は処刑人の不得手であり、サイトゥスの得手です。相手の有利な戦場へ飛び込んだ彼女は、一瞬で両脚を切り落とされました。
「……はーっ。強いな、アンタ」
「あなたもね。斬首剣がここまで戦えるとは思わなかった、思い知らされたよ」
「フフフ、なら良かった」
そう言った処刑人が、背負った二本目の斬首剣をサイトゥスに差し出しました。
「持っていけ、勝者への餞別だ。気が向いたら使うといい」
「ありがとう、存分に使わせてもらうよ」
「そうしてくれ。良い戦いだった、機会があればまたやろう」
「そうだな、是非」
そう言ったサイトゥスが、処刑人の首を直剣で突き刺しました。決着です。
「ちょっとサイトゥスさん!? 殺したら斬首剣の作者聞けないでしょ!」
「あっ……」
サイトゥス、決闘に夢中で目的を忘れる。まったくもうドジっ子なんですから。
「しょうがないなぁ。処刑人さ~ん! 復活したらここに戻ってきて下さ~い!」
殺された探索者の幽体は死体付近に留まります。生きている三人に幽霊は見えませんが……この呼びかけはきっと、死んだ彼女にも届いたハズです。




