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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第九十二話:深き森の監視者、見えざる境界線


ランドールを出発した俺たちの旅は、前回とは違う、張り詰めた空気に包まれていた。

隣を駆けるギデオンは、いつもの鉄仮面をさらに硬くし、周囲への警戒を怠らない。俺の懐にいるフェンも、故郷に近づくにつれて落ち着きをなくし、時折、喉の奥で低く唸るようになっていた。


(……ただ事じゃないな)


フェンは、伝説の魔獣ブラックフェンリルの幼体だ。その鋭敏な感覚は、人間には感じ取れない微細な魔力の乱れや、悪意の気配を敏感に察知する [cite: 238]。彼がこれほど警戒するということは、森で起きている異変が、単なる獣の縄張り争いなどではない証拠だった。


俺は、懐のポケットの上から、あの『古代の遺物』の感触を確かめた。

冷たい金属片。だが、リーフ村の方角へ進むたびに、それが微かに熱を帯びていくような、奇妙な感覚があった。まるで、何かに呼びかけられているかのように。



二日後。俺たちはリーフ村に到着した。

村の様子は、表面的には以前と変わらなかった。井戸からは水が汲み上げられ、『陽だまりの家』では夏野菜の準備が進められている。

だが、村全体を覆う空気は、明らかに重苦しかった。村人たちの笑顔はどこか引きつり、森の方角を見る目は怯えに満ちていた。


「……よく戻ってきてくれた、ルークス」


出迎えてくれた父アルフレッドの顔には、深い疲労の色がにじんでいた。

村長の家で開かれた緊急の話し合いには、村の熟練の狩人たちも顔を揃えていたが、皆一様に青ざめた顔で押し黙っている。


「……それで、森の様子は?」


俺が切り出すと、狩人の頭領である古老が、重い口を開いた。


「……今まで、あんな森は見たことがねえ。鳥の声一つしねえんだ。風もねえのに、枝葉がざわざわと揺れる。そして、何より……」


彼は、声を震わせた。


「『視線』だ。森に入った瞬間から、何百もの目で見られているような気がする。獲物を探すどころじゃねえ。俺たちが、いつ『獲物』になるか分からねえような、そんな殺気だ」


歴戦の狩人が震えるほどの気配。

俺は、ギデオンと視線を交わした。彼の目も、ある種の確信を告げていた。


「……高度な隠密技術、あるいは魔法による結界か。いずれにせよ、普通の相手ではない」

「……俺が、行って確かめてきます」


俺が立ち上がると、父さんも同時に立ち上がった。


「俺も行く。お前一人を行かせられん」

「ダメだよ、父さん。相手が何者であれ、人数が多いと刺激してしまうかもしれない。俺と、ギデオンさん、それにフェンだけで行く」


父さんは渋ったが、最終的には俺の目を見て、折れてくれた。


「……分かった。だが、無理はするな。危ないと思ったら、すぐに引き返すんだぞ」



翌朝。俺たちは、張り詰めた空気の中、森へと足を踏み入れた。

村から少し離れただけで、周囲の空気は一変した。

いつもなら聞こえるはずの鳥のさえずりも、虫の音も、全く聞こえない。完全な静寂。ただ、俺たちの足が落ち葉を踏む乾いた音だけが、不気味に響き渡る。

森全体が、息を潜めて俺たちを監視しているような、そんな錯覚に陥る。


「……来るぞ」


ギデオンが、剣の柄に手をかけた。

フェンが、全身の毛を逆立て、前方の茂みに向かって鋭く吠えた。


「ワオンッ!!」


その瞬間。

ヒュッ、という鋭い風切り音と共に、俺の足元の地面に、一本の矢が突き立った。

それは、見たこともないほど美しい、緑色の羽根飾りがついた矢だった。


『――立ち去れ、人の子よ』


頭の中に直接響いてくるような、透き通った、しかし氷のように冷たい声。あたりを見回しても、声の主の姿はどこにもない。ただ、木々のざわめきが、その声を運んでくるようだった。


「……姿が見えない!? どこだ!」


ギデオンが周囲を警戒するが、敵の姿は影すら掴めない。

俺の懐で、あの『古代の金属片』が、カッと熱くなった。まるで、この見えざる監視者の放つ魔力に反応したかのように。


『警告は一度だけだ。この森は、今より我らが管理する。……その懐にある“穢れた遺物”と共に、早々に立ち去るがいい』


(……遺物のことを、知っているのか!?)


姿も見せず、俺の懐の中身まで見透かす相手。これが、伝説の種族エルフの力なのか。

圧倒的な実力差。交渉の余地など、最初からなかったのだ。


「……退きましょう、ルークス」


ギデオンが、悔しげに、しかし冷静に判断を下した。


「姿も見せずにこれだけの芸当ができる相手だ。今の我々では、手も足も出ん」


俺は、ギリリと奥歯を噛みしめた。

故郷の森が、理不尽に奪われようとしている。だが、ここで強行突破しようとすれば、確実に命を落とす。


「……分かりました」


俺は、見えない相手に向かって、深々と一礼した。


「……忠告、感謝します。今は、退きます」


俺たちは、逃げるように森を後にした。

背中に、冷たい視線が突き刺さるのを感じながら。


村に戻った俺は、父さんたちにありのままを伝えた。

当面の間、森へ入ることはできない。狩りも、薪拾いも、制限されることになるだろう。

村人たちの顔に、不安の色が広がる。


「……大丈夫です」


俺は、努めて明るく言った。


「森がダメなら、畑があります。『陽だまりの家』の野菜も順調だし、俺が新しい作物の育て方も教えます。森に頼らなくても、村のみんなが食べていけるように、俺が全力を尽くします!」


俺の言葉に、父さんが力強く頷いた。


「ああ。息子の言う通りだ。俺たちは農民だ。土さえあれば、生きていける!」


村人たちの目に、再び力が戻る。

森の異変は解決していない。だが、俺たちは、新たな覚悟と共に、前を向くことを選んだ。


俺は、ランドールの方角を見つめた。

この謎を解く鍵は、きっと、あの『古代の遺物』にある。

そして、それを知るためには、もっと力が必要だ。


(……帰ろう。俺たちの戦場へ)


俺は、新たな決意を胸に、再びランドールへの帰路についた。

まだ見ぬ世界の深淵が、少しだけ、その口を開いた気がした。


【読者へのメッセージ】

第九十二話、お読みいただきありがとうございました!

姿なき監視者からの警告、そして古代遺物との関連。謎が深まる展開となりましたが、いかがでしたでしょうか。

設定資料集に基づき、エルフの本格登場は温存しつつ、その強大な力の片鱗を描写しました。

「姿が見えない方が怖い!」「遺物、やっぱりヤバいものなのか…」「村のみんな、逞しくなった!」など、皆さんの感想や応援が、ルークスの次なる成長の糧になります。下の評価(☆)やブックマークも、ぜひよろしくお願いいたします!

故郷の危機を(一応の)回避し、再びランドールへ。次はいよいよ、あの『ひまわり油』が新たな展開を見せます!どうぞお見逃しなく!

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