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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第八十四話:赤土の悲鳴と、石の防風壁


『蛇の舌』での最初の朝は、容赦ない自然の洗礼と共に始まった。


「うわっ!テントが!」

「目、目が開けられねえ……!」


夜明けと共に吹き荒れ始めた強風――『蛇の吐息』が、俺たちの仮設テントを激しく揺さぶり、容赦なく砂埃を巻き上げる。朝食の硬いパンは砂でジャリジャリになり、飲み水が入ったおけは、すぐに赤茶色の膜で覆われてしまった。


「……こいつは、思った以上に厄介だぞ」


砂を吐き出しながら、ゴードンが険しい顔でうなる。屈強な彼でさえ、この絶え間ない風には辟易へきえきとしているようだった。


俺は、風上に立ち、じっと目を凝らした。この風がある限り、まともな生活どころか、作物を育てることなど不可能だ。種を蒔いても飛ばされ、芽が出ても折れてしまうだろう。


(まずは、この風を何とかしなければ……)


俺は、すぐに全員を集め、緊急の作戦会議を開いた。


「皆さん、予定を変更します!今日の最優先作業は、畑を耕すことでも、家を建てることでもありません。『壁』を作ることです!」


俺は、足元の赤黒い地面に転がる、無数の大小様々な石を指さした。


「この石を使って、拠点の北側に、風除けの石壁を築きます。高さは、大人の肩くらいまで。まずは、安心して眠り、食事ができる場所を確保しましょう!」


俺の提案に、トーマスさんたちが力強く頷く。


「おう!こんな砂だらけの飯じゃ、力も出ねえからな!」

「石なら、売るほど転がってやらあ!」


開拓団の男たちは、すぐさま動き出した。彼らは、『疾風』を持つ農夫ではない。生きるために、この荒野に挑む戦士だった。



石壁作りは、想像を絶する重労働だった。

ゴロゴロと転がる岩を掘り起こし、運び、積み上げる。単純だが、全身の筋肉が悲鳴を上げる作業だ。


「うおりゃあああ!」


ゴードンが、人間離れした怪力で、大人二人掛かりでも動かせないような巨岩を、軽々と持ち上げては積み重ねていく。その姿は、まさに頼れる重機そのものだった。


意外だったのは、ギデオンの活躍だった。

彼は、黙々と、しかし驚くほど効率的な動きで、石を運び続けていた。鍛え上げられた騎士の肉体は、農作業においても超一流であることを証明していた。


「……騎士団の訓練に比べれば、この程度の石運び、準備運動にもならん」


彼が涼しい顔でそう言った時、疲れが見え始めていた農夫たちから、感嘆と、そして負けてたまるかという対抗心の声が上がった。


俺も、自分にできることをした。小さな石を運び、隙間を埋める泥をこねる。フェンも、俺の真似をして小さな石を口にくわえて運んできたが、すぐに飽きて、トカゲを追いかけ回し始めた。その無邪気な姿が、殺伐とした作業場に、少しだけ笑いをもたらしてくれた。



昼過ぎ、俺は作業の手を少し休め、改めてこの土地の土と向き合っていた。

風が少し弱まった隙を見て、俺は地面に手を突き、スキル『土壌改良』を発動させる。


(教えてくれ。お前は、何を求めている?)


脳内に、赤土の『声』が響いてくる。それは、今まで聞いたどの土の声よりも、弱々しく、そして乾いた悲鳴に似ていた。


『水……。水が欲しい……。喉が、焼けるようだ……』

『鉄の味がする……。酸っぱくて、苦しい……』


【診断結果:重度の乾燥、および強酸性土壌。鉄分過多。有機物はほぼ皆無。】


(……予想以上に、酷いな)


俺は、眉をひそめた。このままでは、普通の作物は絶対に育たない。酸性を中和するための大量の石灰と、保水力を高めるための膨大な有機物(堆肥)が必要だ。だが、ここにはそのどちらもない。


(ランドールから運ぶには、時間も労力もかかりすぎる。……現地で、調達できるものはないか?)


俺は、視線を巡らせた。目に入るのは、赤黒い岩と、乾いた土だけ。

だが、その時。俺の『識別』スキルが、遠くの岩陰に、わずかな緑色の反応を捉えた。


俺は、駆け寄ってみた。そこには、岩の隙間にへばりつくようにして、トゲだらけの硬い植物が、かろうじて生えていた。


【鑑定】

【アイアンウィード(鉄草)】

【特徴:極度の乾燥と酸性土壌に耐える、強靭な雑草。根を深く張り、微量の水分を求めて岩盤をも砕く。家畜も食べないため、利用価値はないとされる。】


(利用価値がない、だと……?とんでもない!)


俺は、思わずニヤリと笑った。

この過酷な環境で生きられる植物がいる。それは、この土地にも「生命を育む力」が、わずかに残っている証拠だ。


(こいつを利用すれば……!)


俺の頭の中で、新たな計画が組み立てられていく。



夕暮れ時。

男たちの懸命な働きにより、拠点の北側を覆う、見事な石壁が完成していた。

高さは大人の胸ほど。隙間だらけの不格好な壁だが、『蛇の吐息』を劇的に和らげてくれている。


壁の内側に入ると、風の音が遠くなり、砂埃もほとんど舞わない。

そこには、ようやく、「人の住める場所」が生まれたのだ。


「……やったな」

「ああ、これなら、今夜はぐっすり眠れそうだ」


焚き火を囲み、泥だらけの顔を見合わせて笑い合う男たち。その顔には、厳しい作業をやり遂げた達成感が満ちていた。


俺は、彼らに、昼間見つけた『アイアンウィード』を見せた。


「皆さん。明日は、この草を集めに行きましょう」

「あん?そんなトゲだらけの草、何に使うんでさ?」


不思議そうにするトーマスさんに、俺は説明した。


「この草は、この厳しい土地でも生きられる、強い生命力を持っています。こいつを刈り取って、細かく刻んで土に混ぜれば、最初の『堆肥』の代わりになります。そして、深く張った根は、硬い土を耕してくれます」


邪魔者扱いされていた雑草を、開拓の仲間にする。

逆転の発想に、男たちは驚き、そして感心したように頷いた。


「へぇー!そんな使い道があったとはな!」

「さすが先生だ!タダの草が、宝に見えてきやがった!」


夜、テントの中で、俺はステータスウィンドウを開いた。


【拠点防衛のための石壁を完成させ、生活環境を改善しました。集団の結束力が高まりました。150ポイントを獲得しました。】


【現在の所持ポイント:2,489pt】


(少しずつだが、確実に前進している)


俺は、風の音が弱まったテントの中で、深く息を吐いた。

明日は、この赤土との、本格的な対話が始まる。


俺は、懐の木彫りの人形を握りしめ、短い眠りについた。



【読者へのメッセージ】

第八十四話、お読みいただきありがとうございました!

校閲者様からのご指摘を反映し、防風壁の高さをより世界観に馴染む表現に修正いたしました。過酷な自然と、それに立ち向かう人々の姿が、よりリアルに伝われば幸いです。

「石壁作り、お疲れ様!」「アイアンウィード、便利そう!」「フェンも癒し担当で頑張ってる!」など、皆さんの感想や応援が、荒野に挑む開拓団の力になります。下の評価(☆)やブックマークも、ぜひよろしくお願いいたします!

ついに始まった土作り。しかし、この土地の呪いは、それだけではありませんでした。次に彼らを襲う、予期せぬ危機とは…!?次回、開拓生活はさらに過酷さを増していきます。どうぞお見逃しなく!


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