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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第八十三話:蛇の舌と、最初の杭

辺境伯との「魂の契約」から、三日後。

ランドールの南門前には、異様な熱気と、悲壮な覚悟をまとった集団が形成されていた。


「……全員、そろったな」


集団の先頭に立つトーマスさんが、太い声を上げる。彼の背後には、三十人ほどの男たちがいた。皆、バルザックによる懲罰的な増税によって、このままでは座して飢え死にするしかないと悟った、貧しい農夫たちだ。彼らは、住み慣れた家を捨て、家族を一時いっとき街に残し、俺と共に荒野へ挑む道を選んだ「最初の開拓者」たちだった。


彼らの手には、ゴードンが昼夜を問わず打ち続けた、真新しい『疾風ゲイル』が握られている。その鈍い輝きだけが、彼らの唯一の希望だった。


「ルークスさん。……どうか、ご無事で」


見送りに来たエレナ様が、気丈に振る舞いながらも、その瞳を潤ませている。


「はい。必ず、黄金の波と共に戻ります」


俺は、彼女に力強く頷いてみせた。この新しい村作りは、失敗が許されない。一年以内に成果が出なければ、俺たちの首だけでなく、彼らの家族の命運さえも尽きるのだから。


「行くぞ!野郎ども!」


ゴードンのげきが飛ぶ。彼は、頼んでもいないのに「俺の作った道具が、一番過酷な場所でどう動くか見届ける義務がある」と言い張り、工房を弟子に任せてついてきてしまったのだ。頼もしいこと、この上ない。


俺たちは、城壁という名の揺りかごを背に、未知の荒野へと足を踏み出した。



ランドールから南東へ進むこと半日。

なだらかな丘を越えた先に、その土地は広がっていた。


「……これが、『蛇の舌』……」


誰かが、うめくようにつぶやいた。

そこは、想像を絶する不毛の大地だった。赤茶けた土は乾ききってひび割れ、所々に鋭い岩が、まるで地中から突き出した蛇の牙のように露出している。風が吹くたびに、ヒュルル……と奇妙な音が鳴り、それが巨大な蛇の鳴き声のように聞こえることから、この不吉な名がついたのだという。


痩せこけた土地には、雑草一本生えていない。とても、作物が育つ場所には見えなかった。


「……ひでえな。こりゃあ、土じゃねえ。ただの砂利っ原だ」


ゴードンが、顔をしかめて地面を蹴る。硬い音が響き、土煙が舞った。

農夫たちの顔に、動揺が走る。覚悟はしていたはずだが、目の前の現実は、あまりにも厳しかった。


俺は、黙って赤茶けた地面に膝をつき、その土を手に取った。

硬い。そして、冷たい。生命の温かみが、全く感じられない。


(……ひどい乾燥だ。栄養分なんて、ほとんど残っていないだろう。それに、この赤黒い色……おそらく、体に悪い金属の成分が強すぎて、普通の作物じゃ根が焼けてしまう)


俺の背中に、冷たい汗が伝う。

今の俺には、まだスキル『土壌改良』がない。この土地が具体的に何を必要としているのか、正確な「声」を聞くことができないのだ。頼れるのは、前世で得た断片的な知識と、五感だけ。


だが、ここで俺がひるめば、全てが終わる。


俺は、顔を上げ、不安げな農夫たちに向き直った。努めて明るく、力強い声を張り上げる。


「……大丈夫です。この土地は、死んではいません」


俺の言葉に、全員の視線が集まる。


「見てください、あそこの岩場。あそこだけ、わずかに色が濃くなっているでしょう?あそこには、地下水脈が通っている可能性があります。まずは、あそこを掘って、井戸を作りましょう」


俺の具体的な指示に、農夫たちの目に、再び光が戻る。そうだ、まずは水だ。水さえあれば、人間は生きていける。


「よし!やるぞ!井戸掘り班はこっちだ!」

「残りの者は、拠点の天幕てんまくを張るぞ!日が暮れるまでに終わらせるんだ!」


トーマスさんの指揮の下、男たちが動き始める。

俺は、その中心となる場所に立ち、一本の太い木のくいを、地面に突き立てた。

ゴードンが、その杭の頭に、巨大な木槌きづちを振り下ろす。


ズゴォン!!


乾いた大地に、重く、低い音が響き渡る。

それは、この不毛の地に、人間が初めて「意志」を刻み込んだ瞬間だった。


俺たちの、一年戦争が始まった。

目指すは、この赤茶けた荒野を、黄金色の楽園に変えること。

そのためには、もっと強い力が必要だ。


俺は、懐でこっそりとステータスウィンドウを開いた。

(出発前、万が一に備えて『抗生物質』や『浄水タブレット』などの緊急物資を少しだけ交換しておいた。その分ポイントは減ったが、三十人の命を預かる責任だ。安いものだろう)


【現在の所持ポイント:2,239pt】


(あと、1,761ポイント……。スキル『土壌改良』を手に入れるまでは、絶対に諦められない……!)


俺は、杭を見つめ、強く拳を握りしめた。

風が、ヒュルル……と鳴く。だが、それはもう、俺たちを威嚇する蛇の声ではなく、これから始まる挑戦を祝福する、荒々しいファンファーレのように聞こえた。


【読者へのメッセージ】

第八十三話、お読みいただきありがとうございました!

ついに始まった、不毛の地「蛇の舌」での開拓生活。スキルなき絶望的な状況の中で、それでも知恵と勇気を振り絞り、最初の一歩を踏み出すルークスたちの姿を描きました。

「ここから村を作るのか…!」「土壌改良スキル、早く欲しい!」「みんな頑張れ!」など、皆さんの感想や応援が、開拓者たちのツルハシに力を与えます。下の評価(☆)やブックマークも、ぜひよろしくお願いいたします!

過酷な開拓作業が始まりました。しかし、荒野には、まだ彼らの知らない危険が潜んでいます。そして、バルザックは、本当にこのまま静観しているのか…?次回、開拓地に最初の危機が訪れます。どうぞお見逃しなく!

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