第二百八十一話:極炎石窯の凱旋と、次なる舞台は世界樹の森。芳醇なるキノコの誘惑
灼熱の大砂漠と、澱みに満ちた地下迷宮での過酷なサバイバル(という名の激辛BBQとピザ作り)を無事に終え、俺たちを乗せた『魔導キャンピングカー』は、青空が広がるのどかなリーフ村へと帰還を果たした。
プシューッ……!
広場に着陸し、エアーの抜ける音と共にサイドドアが開く。
村の空気はいつも通り澄み切っており、秋の涼やかな風が、砂漠で火照った体を優しく撫でてくれた。
「ただいま戻りましたわー!」
「お兄ちゃん、帰ってきたよー!」
エレナ様とマキナが手を振りながら降り立つと、広場にはすでに農作業の手を止めた村人たちが、満面の笑みで集まってきていた。
「お帰りなさい、ルークス様! 今回は砂漠に行ってたんだろ? またとんでもない美味いモンを持ち帰ってきたのかい!?」
「前回は巨大カニと雪中キャベツだったが、今回はなんだ!? 俺たちの胃袋はいつでも準備万端だぞ!」
村の男たちが、期待に目をギラギラさせて詰め寄ってくる。
俺はふっと息を吐き、ドヤ顔でキャンピングカーの前に立った。
「ああ、もちろん極上の食材もたっぷり手に入れてきた。だが、今回の一番の大物は『食材』じゃない。俺たちの村の食卓を、根本から神の領域へと引き上げる『究極の調理インフラ』だ!」
「調理インフラ……?」
首を傾げる村人たちの前で、俺はアイテムボックスを全開にし、先日100万ポイントを叩き出して建設した巨大な『魔導温室』のすぐ横の空き地を指差した。
「出でよ! 『究極の極炎石窯(可動式)』!!」
ドォォォォォォォォォォンッ!!!!!
凄まじい地響きと共に、広場に突如として巨大な黒い岩の塊が召喚された。
全高は軽く5メートルを超え、岩の隙間からは赤いマグマが脈打ち、ポッカリと開いた巨大な口(排気口)からは、チロチロと400度を超える熱気が漏れ出している。
地下迷宮で俺が『真・アダマンタイトの鍬』を使ってガンガンに彫刻(解体)した、元・災害級ボスモンスター【極炎の砂漠巨兵】の成れの果てだ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!? なんだこの岩の化け物はぁぁぁっ!?」
「る、ルークス様! ついに魔王軍の幹部を村に連れ帰っちまったのか!?」
村人たちが腰を抜かし、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。ゴードンでさえ、鍛冶用のハンマーを構えて冷や汗を流している。
無理もない。どう見ても世界を滅ぼす邪悪な巨兵だ。
「違う違う! 落ち着けみんな! これは敵じゃない! 大自然のマグマを熱源にした、最新型のエコな『ピザ窯』だ!」
「ピ、ピザ窯……? これが……?」
「そうだ! 百聞は一見に如かず。今から俺が、この村を世界一のピザ屋にしてやる!」
俺は即座に腕まくりをし、キャンピングカーから準備しておいた食材を運び出した。
地下迷宮で手に入れた『古代砂小麦』の粉を大量に使い、すでに俺の腕で完璧に捏ね上げ、発酵させておいたピザ生地の玉。
ベースに塗るのは、激辛の『極炎唐辛子』のペースト……は、村人たちには刺激が強すぎるため、温室で育てた完熟トマトとオリーブオイルで割った「辛さ控えめマイルド・アラビアータソース」。
そしてトッピングには、極上の脂が乗った『マンモス肉の自家製ベーコン』と、天井から降ってきた天然の超濃厚チーズ『マグマ・モッツァレラ』だ。
「さあ、いくぞ! ルークス特製・極炎ディアボラピザ(村人マイルド版)だ!」
俺は生地を空中に放り投げ、クルクルと高速回転させて完璧な円形に薄く伸ばす。その手品のような職人技に、村人たちから「おおおっ!」と歓声が上がる。
ソースを塗り、具材とチーズを山盛りに乗せ、巨大な木のスコップで石窯(元ゴーレム)の腹部――マグマの熱で400度に熱せられたピザストーンの上へと一気に滑り込ませた。
「焼き時間は、わずか60秒だ!」
石窯の内部で、魔法のような化学変化が起こる。
遠赤外線の圧倒的な熱量が、生地の縁を生き物のようにプクゥゥゥッと膨らませ、美しいヒョウ柄の焦げ目をつけていく。
マンモスのベーコンから滴る脂がジュワァァッと音を立て、山盛りのマグマ・モッツァレラがドロォォォッと溶け広がり、具材全体を黄金色のベールで包み込む。
焼けたチーズと肉の脂、そして香ばしい小麦の匂いが、広場中を暴力的なまでに満たしていった。
「58、59……60ッ!! 焼き上がりだ!」
俺はスコップでピザを引きずり出し、用意していた巨大なテーブルの上にドンッ!と乗せた。
ジュウウウウゥゥゥゥッ!と音を立てる熱々の一枚。俺はピザカッターで素早く切り分け、村人たちに振る舞った。
「さあ、熱いうちに食ってくれ!」
ゴードンが、一切れを手に取る。
――ビヨォォォォォォォンッ。
「お、おいおい! なんだこのチーズは! どこまでも伸びるぞ!?」
熱々のマグマ・モッツァレラが、滝のように糸を引き、その合間からマンモス肉の極上の脂が滴り落ちる。
ゴードンはたまらず、それを口に放り込んだ。
……パリッ。
モチィッ。
ジュワァァァァァァッ!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
ゴードンの目が見開かれ、その屈強な体がワナワナと震え出した。
「う、美味ぇぇぇぇぇっ!! 生地がパリッとしてるのに中はモッチモチだ! それにこのチーズの濃厚なコク! トマトの酸味の奥にある、ピリッとした心地よい辛さ! すべてが口の中で完璧に混ざり合って、旨味の暴動を起こしてやがる!」
村長のハンスさんも、村の子供たちも、次々とピザに食らいつき、そのあまりの美味さに次々と雪(砂漠から帰ったので秋の土)の上に倒れ伏していく。
「あかぁん……ほっぺたが落ちるぅ……」
「こんな美味いものがこの世にあったなんて……生きててよかったぁ……」
「ルークス様! この石窯があれば、ウチの村は世界一のピザ屋が開けるぞ!!」
大絶賛の嵐。広場は、恐怖の魔神の降臨から一転、至福の笑顔とチーズの香りに包まれた大団円のパーティー会場へと変貌した。
過酷な環境から持ち帰った戦利品が、こうして村の生活を豊かにし、みんなの胃袋を満たす。
これぞ、農民としての真の凱旋であり、俺が求めている究極のスローライフの形だった。
◇
極上のピザパーティーから一夜明けた、翌日の昼下がり。
俺が縁側で温かいお茶をすすりながら、満腹の余韻に浸っていた時のことだ。
「ルークスくぅぅぅん!! 大変だ!!」
バンッ!と勢いよく屋敷のドアが開き、ガリウス所長が血相を変えて飛び込んできた。
その手には、地下迷宮の地底湖でカニ鍋の重しにされていた、あの『赤い石板(古代のコア)』の拓本が握られている。
「どうしたんですか所長。また世界の危機ですか? お茶でも飲みますか?」
「お茶など飲んでいる場合ではない! 解読できたのだ! あの石板に刻まれていた、次なる『大地の澱み』の座標が!」
ガリウス所長は、俺の目の前のテーブルにバサッと古地図を広げ、大陸の東の果て――広大な緑の領域を指し示した。
「次の目的地は、ここだ! 大陸の東に広がる、一度入れば二度と生きては出られないと言われる緑の魔境……**『世界樹の森(巨大樹海)』**だ!!」
「……」
所長の深刻な、そして使命感に燃えた宣言が、リビングに響き渡る。
エレナ様もマリアさんも、ゴクリと息を呑んだ。
だが。
俺の心は、微塵も動かなかった。
「……あー、なるほど。世界樹の森。巨大樹海、ですか」
「そうだ! 古代の邪悪な毒素が森の精霊たちを汚染し、世界樹の根を腐らせようとしている! これを放置すれば、世界中の緑が枯れ果ててしまう大惨事になるぞ!」
「大変ですねぇ」
俺はそう生返事をすると、お茶をズズッとすすり、縁側でゴロンと横になった。
「ル、ルークス君……? なぜそんなに薄い反応なのだ? 君の浄化の力が必要なのだぞ!」
「絶対に行きません」
「なっ!?」
俺はきっぱりと、1ミリの迷いもなく断言した。
「俺は、虫がこの世で一番嫌いなんです」
前世の記憶が蘇る。
夏場の農作業、容赦なく顔の周りを飛び回る羽虫。耳元でプゥーンと鳴る蚊。そして、葉っぱの裏に潜む巨大な毛虫。
虫は人間の精神を削り取る。不快感の塊だ。
「一度入れば出られないような巨大樹海なんて、見渡す限り虫のパラダイスじゃないですか。巨大な毒グモとか、人食いムカデとかがウジャウジャいるに決まってる。そんな不快指数MAXの場所に行くバカがどこにいるんですか。俺は帰ります。いや、ここにいます。温室でトマトでも育てます」
「だ、だが、世界の危機が……!」
「世界を救うのは勇者の仕事です。俺の仕事は、美味い飯を食って虫のいない部屋で寝ることです」
俺の完璧なロジックに、ガリウス所長は絶句した。
フェンも「まあ、主は虫が嫌いだからな。我も鼻先に虫が止まるのは鬱陶しくて嫌いだ」と、同意してあくびをしている。
「そ、そんな……。せっかく、この樹海に眠る『幻の食材』の記述まで解読したというのに……」
ガリウス所長が、ガックリと肩を落として呟いた。
「……幻の食材?」
ピクッ。
俺の耳が、その単語を逃さずキャッチした。
縁側から、顔だけをヌッと出す。
「所長。今、なんと?」
「い、いや……古代の文献によれば、その世界樹の森の最深部には、大地のマナを何百年も吸い上げて育った、舌の上でとろけるような『神話級の巨大トリュフ』が自生しているという伝承があってな……」
「……ほう」
「それに、世界樹の頂には、一口食べれば百の病を癒やし、寿命すら延ばすとされる、黄金に輝く究極のフルーツ『世界樹の黄金林檎』が実っているという記録も……。なんでも、その芳醇な香りは神々の庭すら凌駕すると……」
バンッ!!
俺は、縁側の床板をぶち抜く勢いで立ち上がった。
湯飲みが宙を舞う。
「行くか」
「えっ?」
「行くぞフェン! ガリウス所長! 今すぐ出発の準備だ!!」
俺の瞳には、先ほどまでの引きこもりモードは欠片も残っていなかった。
あるのは、極上の香りを求める狂戦士の光だけだ。
「ま、また秒で手のひらを返したぞコイツ……! 予想はしていたが、あまりにも鮮やかすぎる!」
「ルークス様、さっき『絶対に行かない』と……」
フェンが呆れ返り、エレナ様が目を丸くしているが、そんなことはどうでもいい。
「いいですか、皆さん! マンモスの『脂』、巨大ガニの『旨味』、極炎唐辛子の『辛味』と来たんです! 次に俺たちの胃袋が求めているのはなんだか分かりますか!?」
俺は拳を握りしめ、熱弁を振るった。
「そう! 圧倒的な『芳醇な香り』と、食後を締めくくる『フルーティーな甘み』だ! 肉の次は、極上のキノコとフルーツに決まってるだろうが!!」
「な、なるほど……」
「舌の上でとろける巨大トリュフで極上のパスタを作り、食後には世界樹の黄金林檎を丸かじりする! ……食わずして、何が農民か! 何がスローライフか!」
「わ、分かった! 分かったから落ち着きたまえルークス君! つまり、行ってくれるのだな!?」
「当たり前です! むしろ、なぜもっと早く言わなかったんですか! 出発は明日だ!」
俺の号令により、屋敷は再び遠征準備のパニックへと突入した。
◇
翌朝。
俺はキャンピングカーの運転席でシステムウィンドウを開き、ポイントショップを睨みつけていた。
行くからには、完璧な防虫対策が必要だ。
あんな虫だらけの不快な魔境に、無防備に挑むなど愚の骨頂である。俺の快適なスローライフが脅かされてしまう。
【検索ワード:虫除け、森林浴、結界、無敵】
ズラリと並ぶ商品リストの中から、俺は最上位のアイテムを迷わずカートに放り込んだ。
【神話級・妖精の防虫オーラ発生器(ポータブル型)】×7個
価格:50,000pt(セット割引)
説明:装備者の周囲半径2メートルに、あらゆる害虫(神話級の魔虫を含む)が本能的に嫌悪し、絶対に侵入できない清浄なオーラを展開する。おまけにマイナスイオンも発生。
合計、5万ポイント。
痛い出費だが、虫の羽音と噛み跡から解放される対価と考えれば、安いものだ。
極上のトリュフと黄金林檎を手に入れるための、先行投資!
俺は、力強く「購入」ボタンをタップした。
チャリンッ♪
(森の静寂に響くような、軽快な決済音)
光の粒子と共に、小さなペンダント型の魔導具が出現した。
首から下げてスイッチを入れると、フワァァッと目に見えない清涼な風が全身を包み込み、まるで高級な森林リゾートにいるような心地よい香りが漂ってきた。
「……よし。これで俺たちは、虫という不快な概念から完全に解放された」
俺は満足げに頷き、ペンダントを服の下に隠した。
「システム・オールグリーン。キャンピングカー、森林走破モード(ホバー高度上昇、装甲表面防汚コーティング)へ移行」
広場に集まった村人たちに見送られながら、俺はアクセルを踏み込んだ。
ヒュオォォォン……!
青白い光を放ち、キャンピングカーが浮上する。
今度のルートは、太陽が昇る東だ。
「これで虫の心配はゼロ! どんな魔境だろうが、快適な森林浴にしてやる!」
窓の外の景色が、少しずつ深い緑へと変わっていく。
最強農民一行の、新たな美味(芳醇な香りと究極のデザート)を求めての「世界樹の森(巨大樹海)編」が、今、高らかに幕を開けた。
【読者へのメッセージ】
第二百八十一話、いかがでしたでしょうか。
砂漠の恐怖の巨兵が、村の便利な「極炎石窯」として再利用され、美味しいピザで村人たちを笑顔にする。これぞ農民ならではの痛快なスローライフの凱旋です!
限界まで伸びるマグマチーズのシズル感、お楽しみいただけましたか?
そして、お約束の「寒いから嫌」「暑いから嫌」に続く、「虫がいるから嫌」の完璧な天丼(手のひら返し)!
肉、海鮮、激辛と続いたので、次はトリュフの「芳醇な香り」と黄金林檎の「究極のデザート」です。
5万ポイントの「防虫オーラ発生器」を手に入れ、不快感ゼロで魔境に挑むルークス。
次回からは、新章「世界樹の森編」が本格スタートします!
巨大なキノコや奇妙な植物が待ち受ける樹海で、どんな農民アクション(と飯テロ)が炸裂するのか?
新章もぜひご期待ください! ブックマークと評価もよろしくお願いいたします!




