第二百八十話:通信圏外のピザ職人。マグマスライムの絶品チーズと、極炎のディアボラピザ
通信圏外。
頼みの綱であるポイントショップが完全に沈黙した、灼熱の地下迷宮の最奥。
俺は、先ほどまで世界を滅ぼす災厄だった古代兵器【極炎の砂漠巨兵】を、己の腕力と『真・アダマンタイトの鍬』だけでガンガンに削り出し、マグマを熱源とする『究極の可動式石窯』へと見事にリフォーム(彫刻)し終えたところだった。
「よし、最高のオーブンは完成した。窯の温度はマグマの熱で完璧な400度前後をキープしている。遠赤外線の反射率も計算通りだ」
「ルークス君……君のその、敵を調理器具に変えてしまう執念は、もはや恐怖すら覚えるよ……」
「主よ! 窯はできたが、焼くものがないではないか! 早く何か焼いてくれ!」
ガリウス所長が呆れ果て、フェンがヨダレを垂らして急かす。
俺はゴーレムだった石窯の腹部(ピザストーン部分)の平らな岩盤を満足げに叩いた。
「慌てるなフェン。これからピザの『生地』と『チーズ』を現地調達しに行くんだ。俺の農業スキルが正しければ、この地下迷宮には、極上の小麦が自生しているはずだ!」
俺たちはキャンピングカー(冷房は生きているが、バッテリー温存のためアイドリング中)を背に、マグマが滝のように流れ落ちる熱脈のそばへと探索を進めた。
淀んだ瘴気はゴーレムを無力化したことでかなり薄れているが、熱気は相変わらず凄まじい。冷却シャツの機能に感謝しながら岩場を歩くこと数分。
「……見つけたぞ!」
俺はマグマの熱線が直接当たる過酷な岩肌に、群生している黄金色の植物を指差した。
【簡易鑑定】
【対象:古代砂小麦】
【特徴:超高温と極度の乾燥に耐え抜く神話級の小麦。香ばしさと強力なグルテン(弾力)を併せ持つ】
「ただの雑草にしか見えないが……これが小麦だというのか?」
「そうだ。砂漠の地熱で完全に乾燥しきっているから、天日干しの手間が省けるぞ。行くぞ!」
俺は『真・アダマンタイトの鍬』を振るい、黄金の麦穂を瞬く間に刈り取った。
普段ならポイントショップで『全自動製粉機』を買って放り込むところだが、今は通信圏外だ。頼れるのは己の腕と農具のみ。
俺は平らな岩の上に麦穂を広げ、鍬の峰(平らな部分)を使って、目にも止まらぬ速さで叩き、擦り、瞬時に脱穀と製粉を同時に行っていった。
ガッ、ガッ、ガッ、サァァァァ……!
「おお……! ルークス様、まるでお手玉のように見事に粉になっていきますわ!」
「機械なんかなくたって、農民の腕一つあれば極上の小麦粉は作れるんだよ!」
俺は出来上がったきめ細かい黄金の小麦粉をボウル(アイテムボックスから出した備品)に集め、氷河で採取した清らかな溶け水と、天然の岩塩を少しだけ加えた。
ここからが、ピザ作り最大の難所であり、見せ場だ。
「いくぞ……!」
俺は袖を捲り上げ、ボウルの中の生地に両手を突っ込んだ。
ギュッ、バンッ! ギュッ、バンッ!
己の全体重をかけ、力強く、そしてリズミカルに生地を捏ね上げる。額から汗が飛び散る。
自動調理器ならボタン一つで終わる作業。だが、自らの手で汗水流して生地と対話することでしか生まれない、圧倒的な「躍動感」と「旨味」がそこにある。
古代砂小麦の強力なグルテンが目を覚まし、生地は赤ん坊の肌のように滑らかで、驚くほどの弾力を持つ一つの塊へとまとまっていった。
「よし、生地は完璧だ。……あとは、絶対に欠かせない『チーズ』だが……」
俺が周囲を見回した、その時だった。
ポタッ……。
ボトボトボトォォォッ!!!
「ひぃぃぃっ!? る、ルークス君! 上からマグマが降ってきたぞ!!」
ガリウス所長が絶叫して逃げ惑う。
見上げると、天井の岩の隙間から、ドロドロに溶けた黄色がかったマグマのようなスライムが、雨のように降り注いできたのだ。
灼熱の粘液が岩に落ち、ジュウゥゥゥッと不気味な音と煙を立てる。
「主よ、敵襲だ! 燃やされるぞ!」
「待てフェン! 攻撃するな!!」
俺は、そのドロドロの魔物が発する、強烈で、背徳的なまでに芳醇な「発酵臭(ミルクの香り)」を逃さなかった。
すかさず簡易鑑定を発動する。
【対象:マグマ・スライム(変異種)】
【正体:発酵溶岩チーズ(マグマ・モッツァレラ)】
【特徴:地底の超高温環境で数百年かけて発酵・熟成した、天然の超濃厚とろけるチーズモンスター】
「……!!」
俺の脳内で、ファンファーレが鳴り響いた。
「溶岩じゃない! あれは……超高温で発酵した、天然の超濃厚とろけるチーズだ!!」
「はぁ!? チーズ!? スライムが!?」
俺はミスリルの包丁を抜き放ち、天井から降ってくるスライム(チーズ)に向かって高く跳躍した。
熱い! だが、これは極上のモッツァレラだ!
「スライス・オブ・ヘヴンッ!!」
空中で包丁を閃かせ、襲いかかってくる(ように見える)マグマスライムを、ピザに乗せるのに最適な薄さに次々とスライスしていく。
切り落とされたスライムの断面からは、ウニと極上バターを煮詰めたような、暴力的なまでの乳脂肪の香りが溢れ出した。
「よっしゃあああ! 生地もチーズも揃った! 究極のピザ・メイキングの始まりだ!」
俺は急いで石窯(旧ゴーレム)の前へと戻り、先ほど捏ね上げた生地の塊を手に取った。
ここからが、農民(ピザ職人)の真骨頂だ。
「フッ……!」
俺は生地を両手で軽く伸ばすと、空高く放り投げた。
クルクルクルッ!
空中で高速回転する生地が、遠心力によって美しい円形へと広がり、極限まで薄く、均一に伸びていく。
落下してきた生地を指先でキャッチし、再び空へ。まるで踊るような職人技(曲芸)に、エレナ様とマキナから拍手が沸き起こる。
「見事な手さばきですわ!」
「お兄ちゃん、かっこいいー!」
完璧な薄さに伸びた生地(直径50センチの特大サイズ)を、巨大な木のスコップ(アイテムボックスの備品)の上に乗せる。
ベースとなるソースは、トマトではない。
先ほど砂漠で収穫し、すり潰しておいたあの悪魔の香辛料――【極炎唐辛子】のペーストだ。
生地の上一面に、真っ赤な極炎ペーストをたっぷりと塗り広げる。むせ返るような辛味と旨味の香りが立ち昇る。
「そこに、メインディッシュの肉だ!」
氷河の大陸で仕留めた【古代氷河マンモスのバラ肉】。
500年の氷温熟成を経たその極上の霜降り肉を、ベーコンのように薄切りにして、赤いペーストの上に隙間なく敷き詰めていく。
そして最後は、先ほどスライスしたばかりの【マグマ・モッツァレラ】を、これでもかと山盛りにトッピングする。
「肉とスパイスと極上チーズの三重奏! これぞ特製・『極炎ディアボラ(悪魔風)ピザ』だ!!」
俺は、スコップに乗せたピザを、400度の熱を放つゴーレム石窯の腹部へと滑り込ませた。
「焼き時間は……わずか60秒だ! 瞬きするなよ!」
石窯の内部で、魔法のような化学変化が始まる。
遠赤外線の圧倒的な熱量が、一瞬にして生地の水分を沸騰させる。
プクッ、プクゥゥゥッ!
生地の縁が生き物のように膨れ上がり、表面に美しいヒョウ柄の焦げ目がついていく。
マンモス肉の極上の脂がジュワァァッと溶け出し、極炎唐辛子のペーストと混ざり合ってグツグツと煮え滾る。
そして何より、山盛りにしたマグマ・モッツァレラが、熱を受けてドロォォォッと溶け広がり、具材全体を黄金色のベールで包み込んでいく。
暴力的なまでの「焼けたチーズと肉の脂、そして焦げたスパイスの匂い」が、地下迷宮の瘴気を完全に駆逐した。
「58、59……60ッ!!」
俺はスコップを差し込み、石窯からピザを一気に引きずり出した。
ジュウウウウゥゥゥゥッ!!!
パチパチパチッ!
「完成だぁぁぁぁぁっ!!!」
俺は絶叫した。
焼き立てアツアツの、超特大・極炎ディアボラピザ。
俺はピザカッターで十字に切れ目を入れ、一番大きなピースを指先でつまみ上げた。
――ビヨォォォォォォォォォンッ。
「おおおっ……!?」
持ち上げた瞬間、マグマ・モッツァレラチーズが、滝のように、いや、ゴムのようにどこまでも、どこまでも途切れることなく伸びていく。
熱々のチーズが糸を引き、その合間からマンモス肉の脂が滴り落ちる。
これだ。これがピザの命、限界突破のシズル感だ。
「熱いうちに食うぞ! いただきます!」
俺は、糸を引くチーズごと、熱々のピザを口に放り込んだ。
……パリッ。
モチィッ。
ジュワァァァァァァッ!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の脳内が、美味さのビッグバンで真っ白になった。
400度の高温で一気に焼き上げられた古代砂小麦の生地は、表面はパリッと香ばしく、中は信じられないほどモッチモチ。
そこに、暴力的なまでのミルクのコクを持つマグマチーズが、濃厚な暴力となって舌に絡みつく。
チーズの海を越えた先には、500年熟成されたマンモス肉の強烈な旨味が爆発し、最後に極炎唐辛子の「痛いほど辛い、でも果てしなく美味い」という悪魔的な刺激が、すべての味を一つにまとめ上げて喉の奥へと駆け抜けていく。
「辛いっ! 美味いっ! チーズが濃厚すぎるぅぅぅっ!!」
「ガツガツ! はふっ! 口の中が火事だが、この肉とチーズの組み合わせは神だ!」
「ひぃぃぃっ、お水、お水を……でも、もう一口……っ!」
俺も、フェンも、所長もエレナ様も、全員が汗と涙を流しながら、この極上の「痛美味い」ピザに狂ったように食らいついた。
極寒のマンモス肉、灼熱の極炎唐辛子、地底の砂小麦とマグマチーズ。
これまでの過酷な旅で集めたすべての食材が、この一枚のピザの上で完璧なオーケストラを奏でている。
手作業の泥臭さが、通信圏外の絶望を、最高のスパイス(達成感)へと変えてくれた。
「ふぅ……。食った……。最高だったな……」
超特大のピザを跡形もなく平らげ、俺たちが腹を出して地底の岩の上に転がった、その時だった。
フワァァァ……。
地下迷宮を覆っていた黒い瘴気(大地の澱み)が、石窯にされたゴーレムの沈黙と共に、完全に浄化され、光の粒子となって消え去っていく。
そして。
ピピッ! ピピッ! ピロリロリンッ♪
俺の目の前の空中に、突如として見慣れた半透明のウィンドウがポップアップした。
右上のアンテナマークが、バリ3の表示に戻っている。
**【通信環境が復旧しました。ポイントショップ、オンラインに接続しました】**
「……!! 繋がった……! 通信圏外からの帰還だぁぁぁっ!!」
俺は歓喜の叫びを上げ、震える指でシステムウィンドウをタップした。
「さあ! 激辛ピザを食って汗だくになったんだ! やることは一つだろ!」
俺は検索窓に文字を打ち込む。
チャリンッ♪
(久しぶりの、世界で一番美しい決済音)
「『神話級・氷結コーラ(と最高級エール)』を、1万ポイント分ポチるぞォォォッ!! みんな、乾杯だ!!」
「「「おおおおおっ!!!」」」
通信圏外の絶望と灼熱の迷宮を、己の腕と食欲で完食した最強農民一行。
彼らの高らかな乾杯の音が、浄化された美しい地底迷宮に、いつまでも響き渡っていた。
【読者へのメッセージ】
第二百八十話、いかがでしたでしょうか。
「ポイントが使えない」という絶望の中、手作業で生地を捏ね、回し、石窯で焼き上げる。ルークスの「農民(ピザ職人)としての本領」が発揮された回でした。
空から降ってくるマグマチーズの圧倒的なシズル感、そして「パリッ、モチッ、ジュワッ」の極炎ディアボラピザ。
限界まで伸びるチーズの描写に、深夜のピザテロを受けていただけたなら大成功です!
無事に澱みを浄化し、通信圏外からも復旧。コーラとエールでの乾杯は、まさにサウナ後の最高の祝杯ですね。
さて、砂漠・地下迷宮編もこれにて完全決着。
次なる世界、次なる極上食材は何なのか?
新章もますますパワーアップした飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




