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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第二百六十三話:深海防衛戦。ゾンビシャークと、伝説の鍬の切れ味

 パリィィィィンッ!!!!


 頭上で響いた、世界が割れるような絶望的な破砕音と共に、海底都市『ティル・ナ・ノーグ』のドームが裂けた。

 そこから雪崩れ込んできたのは、美しい深海には似つかわしくない、どす黒い汚泥の濁流だった。


「キャァァァァァッ!!」

「逃げろ! ヘドロに触れるな! 腐るぞ!」


 つい先ほどまで、醤油とマヨネーズの味に感動し、笑い声に包まれていた宴会場は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わっていた。

 美しい発光珊瑚のシャンデリアが砕け散り、床に敷き詰められたふかふかの海綿が、瞬く間に黒く染まっていく。

 そして、濁流の中から姿を現したのは、死してなお動き続ける海の亡者たちだ。


「ギシャァァァァッ!!」


 腐敗ガスを纏った全長5メートルを超える巨大なホオジロザメ――【ゾンビ・グレートシャーク】。

 全身の骨が剥き出しになり、カチカチと不気味な音を立てて泳ぐ【スケルトン・カジキ】。

 そして、ヘドロそのものが凝縮して人型を模し、手には錆びたもりを持った【マッド・マーマン】。


 それらは皆、虚ろな眼窩に赤い憎悪の光を宿し、生あるものを根絶やしにするべく襲いかかってきた。


「こ、子供たちが!」


 逃げ遅れた人魚の子供たちに向かって、ゾンビシャークが巨大なあごを開く。

 その多重列の歯の間には、腐肉とヘドロが詰まり、鼻が曲がるような死臭を放っている。


「させません!」


 マリーナ王女が、子供たちの前に飛び出した。

 彼女の手には、珊瑚でできた細身の槍が握られている。

 だが、その手は恐怖で小刻みに震えていた。彼女は戦士ではない。それに、相手は不死の軍団だ。


「消えなさい、悪霊!」


 マリーナが放った水魔法の弾丸――『アクア・バレット』が、ゾンビシャークの鼻先に着弾する。

 しかし、水弾はヌルリとしたヘドロの皮膚に吸収され、傷一つ付かない。

 逆に刺激されたサメが、加速して突っ込んでくる。


「嘘……魔法が、効かない!?」

「マリーナ様! お逃げください! その化け物には物理攻撃も魔法も通じません!」


 護衛の兵士たちが叫びながら槍を投げるが、それも弾かれる。

 マリーナは動かない。背後の子供たちを守るため、彼女は覚悟を決めて目を閉じた。


 死の臭いが、鼻先まで迫る。

 鋭い牙が、彼女の柔肌を食い破ろうとした、その刹那。


「……そこまでだ、害獣ども」


 冷徹な声と共に、銀色の閃光が走った。


 ズパァァァァンッ!!


 重い水圧を切り裂く音。

 マリーナが恐る恐る目を開けると、目の前に迫っていたゾンビシャークの巨体が、空中でピタリと静止していた。

 そして次の瞬間。

 サメの体は、真っ二つに裂かれることも、血を噴き出すこともなく――。


 サラサラサラ……キラキラ……。


 美しい光の粒子となって分解され、さらさらとした真っ白な砂(カルシウム分豊富な骨粉)になって、静かに海底へと降り注いだ。

 悪臭も、邪気も、全てが浄化されていた。


「え……? 砂……? サメが、土に……?」


 マリーナが呆然と呟く。

 その視線の先に、一人の男が立っていた。

 肩には、優雅な宴会場には場違いなほどピカピカに輝く「農具」を担ぎ、不敵な笑みを浮かべた男。

 俺、ルークス・グルトだ。


「よお、王女様。無事か? せっかくの食後のデザートタイムが台無しだな」

「ル、ルークス様!? 今のは一体……?」

「ああ、ちょっと『雑草抜き』をしただけだよ。ウチのここを荒らす害獣は、肥料になってもらうのが農家のルールなんでな」


 俺は『真・アダマンタイトのくわ』を握り直した。

 ドワーフの国宝級の技術と、俺のポイント(50万pt)がつぎ込まれた、最強の相棒だ。


 [システムログ]

 [害獣駆除完了:ゾンビ・グレートシャーク]

 [獲得経験値:2500]

 [獲得ポイント:15,000pt]

 [ドロップアイテム:魔除けの鮫皮(上質肥料)]


 視界の端に流れるログを見て、俺の口角が自然と吊り上がる。

 1体1万5千ポイント。

 不味そうなゾンビ魚も、ポイントに換算すれば極上の獲物カモに見えてくるから不思議だ。


「ギィィィッ!!」

「ガァァァァッ!!」


 仲間を一瞬で「肥料」にされたことに気づいたのか、周囲のゾンビたちが一斉に俺にターゲットを変えた。

 スケルトン・カジキが鋭いくちばしを構えて突撃してくる。マッド・マーマンがヘドロの槍を投げてくる。

 物理攻撃無効の体を持つ彼らは、絶対の自信を持って殺到してくる。


 だが、甘い。甘すぎる。

 俺の鍬の前では、貴様らは「硬い土」や「粘土質の土」と何ら変わらない。


耕作開始レッツ・プラウ!」


 俺は一歩踏み込み、鍬を振るった。

 剣術のような鋭さはない。腰を入れて、大地を掘り返すような、力強い農作業のモーション。


 ――農耕スキル奥義『天地返し・改』!


 カァァァンッ!!


 鍬の刃が、スケルトン・カジキの頭蓋を捉える。

 本来なら、骨の隙間をすり抜けるか、衝撃を吸収されるはずの攻撃。

 だが、『絶対耕作』のスキルが付与されたこの鍬は、対象を強制的に「耕すべき土壌」として認識し、その存在構造ごと掘り返す。


 ボフッ!


 カジキの骨が、一瞬で真っ白な骨粉(カルシウム肥料)へと変わり、海水に溶けた。


「次ッ! お前はちょっと水はけが悪そうだな!」


 俺は返す刀(鍬)で、迫りくるマッド・マーマンの脇腹を薙ぐ。

 ヘドロの体は、鍬が触れた箇所からジュワジュワと乾燥し、栄養満点の腐葉土へと変質していく。


「ギ、ギギッ……!?(体が、土に!?)」


 怪物が悲鳴を上げる間もなく、俺は次々と鍬を振るう。

 ザクッ、ザクッ、ボフッ。

 リズムよく。テンポよく。

 血飛沫の代わりに、キラキラと輝く光の粒子と、サラサラの砂が舞う。

 それは虐殺ではなく、荒れた土地を開墾する「聖なる作業」のようだった。


「す、すごい……。剣も魔法も効かない相手を、あんな農具一本で……」

「あれが、地上の勇者の戦い方なのか……? 農具とは、あのような聖剣だったのか?」


 人魚の兵士たちが、口をあんぐりと開けて見ている。

 勇者じゃない。農民だと言っているのに。


 だが、敵の数は多い。

 裂け目からは、次々と新たな害獣が湧き出してくる。数百、いや数千。


「チッ、キリがないな。……フェン! 出番だ! 広範囲を一気に片付けるぞ!」

「待っていたぞ主よ! 水の中での狩り、試してみたかったのだ! 体が軽くて仕方がないわ!」


 俺の呼びかけに応え、黒い影が宴会場の上空(水中)を疾走した。

 フェンだ。

 彼は水を足場にするかのように自在に駆け回り、その漆黒の毛並みは水流に揺らめいて、地上よりも一層神秘的かつ高貴に見える。

 水を得た魚ならぬ、水を得たフェンリルだ。


「水は雷を通す! これぞ一網打尽の好機! 吠えろ、『蒼雷プラズマ・ボルト』!!」


 フェンが咆哮すると同時に、彼の全身から蒼い稲妻が放出された。


 バリバリバリッ!! ズガガガガッ!!


 高電圧の電流が、海水を伝導体として一瞬で広場全体に広がる。

 光の網が、ゾンビの群れを包み込む。


「ギャアァァァァッ!!」

「ギギギギギッ!!」


 密集していたゾンビの群れが、感電して痙攣し、動きを止める。

 だが、味方である人魚たちには、フェンが展開した『魔力絶縁結界』のおかげで、静電気一つ走らない。器用なやつだ。


「ナイスだフェン! そこへ追撃だ! ガリウスさん、お願いします!」


 俺は通信機に向かって叫んだ。

 広場に待機させていた『魔導キャンピングカー』からの援護要請だ。


『任せたまえ! この車の武装、試してみたくてウズウズしていたところだ! いくぞ若者たち!』


 ガリウス所長の楽しそうな声が返ってくる。

 ドームの入り口に鎮座するキャンピングカーの屋根から、多連装のマジックミサイルポッドと、高圧放水砲が展開される。

 さらに、窓からはエレナ様とマキナが身を乗り出している。


『いきますわよ! 光魔法『ホーリー・レイ』! 悪いお魚さんはお仕置きです!』

『喰らえーっ! 特製聖水バルーン! 中身は教会直送の聖水だよっ!』


 シュババババッ!!

 ドォォォォン!!


 キャンピングカーからの集中砲火と、エレナ様の浄化魔法、そしてマキナが投げた聖水入りの水風船が、感電して動けないゾンビ軍団に降り注ぐ。

 次々と爆ぜる光。浄化される闇。

 聖水がヘドロに触れるたび、ジュワッと白煙を上げて浄化されていく。

 圧倒的な火力と物量。

 もはや戦闘ではない。一方的な「清掃活動」だ。


「お、俺たちの出番がない……」


 人魚の兵士長が、槍を持ったまま立ち尽くしている。

 数分後。

 あれほど大量にいたゾンビの群れは、一匹残らず綺麗な砂と肥料に変わり、海底に沈殿していた。

 濁っていた海水も、浄化作用で透き通っている。


「ふぅ……。大掃除完了、だな」


 俺は鍬についた砂を払い、息を吐いた。

 ポイントもガッツリ稼げたし、ドロップアイテム(肥料)も大量だ。

 これで、今年の畑の土作りは安泰だろう。来年の聖大根はもっと甘くなるはずだ。


 だが。

 俺たちの勝利を祝う暇はなかった。


 ズズズズズズズ……ッ!!


 先ほどまでの揺れとは比較にならない、地殻変動レベルの激震が都市を襲った。

 ドームの天井にある亀裂が、メリメリと音を立ててさらに広がる。

 裂け目の向こうに広がる深海が、さらに濃い闇に覆われていく。


「な、なんだ!? まだ何か来るのか!?」


 人魚王が、玉座から身を乗り出して叫ぶ。

 その視線の先。

 広がった亀裂の向こうにある深淵の闇から、ヌルリと「それ」は侵入してきた。


 巨大な、あまりにも巨大な、漆黒の触手。

 太さはキャンピングカーほどもあり、表面には無数の目玉と口が浮かび上がり、ギョロギョロと周囲を睨め回している。

 それは一本ではない。二本、三本……無数の触手が、ドームをこじ開けるようにして侵入し、都市の中心にある『深海の心臓アビス・ハート』へと伸びていく。

 その質量感は、今まで戦ってきたどの魔物とも次元が違う。


 [WARNING]

 [高エネルギー反応を検知]

 [個体名特定:深淵のアビス・ロード・本体の一部]

 [推定脅威度:測定不能(災害級)]


 システムが真っ赤な警告を吐き出す。

 さっきのゾンビたちは、ただの露払い。

 これが、本命か。


「あ、ああ……! 深淵の主が……本体が現れた! もう終わりだ……我らの心臓が、喰われる……!」


 人魚王が、絶望に顔を歪めて膝をつく。

 触手は、まるで意思を持つ蛇のように、巨大な真珠を鷲掴みにしようと迫っていた。

 その圧倒的な威圧感に、人魚たちは悲鳴を上げることもできず、ただ震えることしかできない。

 世界の終わりを見たかのように、全員が諦めていた。


 だが。

 俺は逃げなかった。

 むしろ、鍬を握る手に力がこもる。


 あの巨大な触手。

 あれだけの質量。あれだけの魔力。

 もしあれを「耕し」て、肥料にできたら?

 一体どれほどの野菜が育つのだろうか。聖大根どころの話じゃない。神話級の野菜ができるかもしれない。

 「腐葉土」としては最高級の素材に見える。


 俺の農民としての本能が、恐怖を凌駕して疼いた。


「……終わり? 冗談じゃない」


 俺は一歩前に出た。

 フェンが、ニヤリと笑って俺の隣に並ぶ。


「主よ、悪い顔をしているぞ」

「お互い様な。……見ろよフェン、あのでっかいの」


 俺は鍬の切っ先を、迫りくる絶望の化身へと向けた。


「親玉のお出ましだな。……あれが、一番栄養がありそうだ」


 さあ、収穫の時間だ。

 俺は不敵に笑い、地面を蹴った。


【読者へのメッセージ】

第二百六十三話、お楽しみいただけましたでしょうか!

「伝説の鍬」による無双劇。

剣で斬るのではなく、敵を「耕して肥料にする」という農民スタイル、いかがでしたか?

ゾンビだろうがヘドロだろうが、ルークスにかかれば全ては「来年の野菜のための養分」です。

フェンの水中での華麗な動きや、キャンピングカーからの援護射撃など、総力戦の様子も描きました。

しかし、最後に現れた「深淵の主」の本体。

その巨大さと絶望感に、人魚たちは戦意喪失してしまいましたが、ルークスだけは違います。

「一番栄養がありそう」

この思考回路こそが、最強たる所以ですね。

次回、いよいよ深海編クライマックス!

巨大ボスvs農民の、常識外れのバトルの行方は!?

続きが気になる方は、ぜひブックマークと評価をお願いします!

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