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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第二百五十八話:未回収ボーナスの一括請求。海鮮丼と、スライム物流革命


 国王陛下の来訪という、リーフ村始まって以来の超特大イベントから、数日が過ぎた。

 村はいつもの平穏を取り戻しつつあった。

 王都から派遣されたガリウス所長は、すっかり「食いしん坊なご隠居」として村に馴染み、毎日食堂に通い詰めている。

 村人たちも、一度国王を見てしまったせいか、ちょっとやそっとのことでは動じないメンタルを手に入れていた。


 だが、俺、ルークス・グルトの心は、全く穏やかではなかった。


 屋敷の自室。

 カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、俺はベッドの上で体育座りをし、虚空に浮かぶ青白いシステムウィンドウを睨みつけていた。

 その目は血走り、爪を噛む音だけが静寂に響く。

 まるで、月末の通帳残高を見つめ、ローンの支払いに頭を抱えるサラリーマンのような悲壮感だ。


「……減った。めちゃくちゃ減った。笑えないくらい減った」


 【現在保有ポイント:9,458,000pt】


 数字だけ見れば、庶民が一生かかっても拝めない額だ。

 だが、俺の記憶にある数字とは、桁の重みが違う。

 泥の巨神を倒すために購入した『天照の種火(300万pt)』。

 鍛冶場のリニューアル費用(50万pt)。

 さらに、全自動スプリンクラーや、復興のための諸経費、王へのおもてなし料理に使った高級調味料……。


 合計で400万ポイント近くが、この数日で溶けた計算になる。

 もちろん、村と家族を守るための必要経費だ。後悔はしていない。

 あの時、ポイントを惜しんでいたら今頃村は泥の底だった。だから、使い道としては100点満点だ。


 だが、それはそれとして。

 前世で「1円でも安く」「ポイント還元率は0.1%でも高く」をモットーに生きてきた俺の魂が、この激しい支出(キャッシュフローの悪化)に悲鳴を上げているのだ。

 資産が減る恐怖。それは、ブラック企業時代、給料日前にもやしを炒めて飢えを凌いだトラウマを刺激する。


「300万ポイントあれば、老後の年金代わりになったのに……。このままじゃジリ貧だ。何か……何か稼ぐ手段はないか……」


 俺は血走った目でウィンドウを操作した。

 デイリーミッション? こまめに消化している。

 転売? 最近は市場が安定していて利幅が薄い。

 魔物討伐? あの泥の巨神以上の獲物なんてそうそういない。


 その時。

 ふと、画面の右上にある「お知らせ(通知)」アイコンが、とんでもない勢いで点滅していることに気づいた。

 いつもなら「1」か「2」の数字がある場所だ。

 だが今は、そこに見慣れない数字が表示されていた。


 件数:『99+』。


「……あ」


 そういえば。

 パニックの最中や、国王陛下の対応に追われていて、ログを確認していなかった。

 緊急時の買い物はショートカットで行っていたため、リザルト画面をスキップしていたのだ。


 俺の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

 これは、まさか。

 俺は震える指で、通知アイコンをタップした。


 ピロリン♪ ピロリン♪ ジャラジャラジャラジャラ……!!


 瞬間、部屋の中にスロットマシンが大当たりした時のような、脳汁が出る電子音が響き渡った。

 視界を埋め尽くすほどのポップアップウィンドウが、雪崩のように押し寄せてくる。


【ワールドミッション達成:古の汚染を浄化せよ(難易度:SSS)】

 →報酬:1,000,000pt

 (解説:カテゴリー5の災害を単独で鎮圧した功績に対し、管理組合より特別報奨金が支給されます)


【隠し実績解除:神話級討伐者(マッド・ゴーレム・ロード撃破)】

 →報酬:500,000pt

 (解説:物理無効の敵に対し、環境変化アイテムで勝利するという独創的な戦術を評価しました)


【称号獲得:太陽を呼ぶ者】

 →報酬:天候操作系アイテム20%OFFクーポン

 →ボーナス:火属性・光属性耐性+50%


【特別ミッション達成:国王陛下へのおもてなし(評価:EXCELLENT)】

 →報酬:王家御用達ポイント 300,000pt

 (解説:一国の王の舌を満足させ、さらに外交的な優位性を確立しました。素晴らしい政治的手腕です)


【称号獲得:王の胃袋を掴みし者】

 →ボーナス:名声値+10000、カリスマ補正+50、王族との交渉成功率+30%


【累積ログインボーナス(連続700日達成)】

 →記念品:エリクサー×1


「う、うおおおおおおおおっ!!?」


 俺はベッドの上でガッツポーズをした。

 止まらない。通知が止まらない。

 画面をスクロールするたびに、ポイントが増えていく。

 100万、50万、30万……。

 チリも積もれば山となるどころか、金貨の山が頭上から降ってきた感覚だ。


 さらに、細かい実績解除も続く。

 『聖大根の発見者:5万pt』

 『フェンの信頼度MAX:10万pt』

 『鍛冶技術の革新者:5万pt』


 最終的に、通知の嵐が止まった時の残高は――


 【現在保有ポイント:13,500,000pt】


「く、黒字だ……! 300万使って、400万近く帰ってきた……!」


 俺は枕に顔を埋め、歓喜の声を上げた。

 これだ。この感覚だ。

 リスクを背負って投資(消費)し、それを上回るリターンを得る。

 減った数字が、倍になって戻ってくる瞬間のカタルシス。

 これこそが「ポイ活」の醍醐味であり、俺が異世界で生きる意味だ。脳内麻薬ドーパミンがドバドバ出ているのがわかる。


「よし、懐は潤った。……となると、次にやるべきことは一つだ」


 ポイントがあるなら、生活のクオリティ・オブ・ライフを上げる。

 貯め込むだけが能じゃない。稼いだポイントを使って、さらに豊かな生活を手に入れ、また稼ぐ。この循環こそが健全な経済活動だ。


 俺は起き上がり、窓の外を見た。

 夏の日差しが眩しい。セミの声が聞こえる。

 こんな日は、冷たい麺類か、さっぱりしたものが食べたくなる。

 畑の野菜は充実している。肉もフェンが狩ってくる。

 足りないのは――「海」だ。


「刺身が……食いたい」


 俺のDNAが叫んでいた。

 脂の乗ったマグロ。プリプリの甘エビ。口の中でとろけるサーモン。

 それらを、わさび醤油につけて、炊きたての銀シャリに乗せた『海鮮丼』。

 想像しただけで、口の中が唾液で溢れかえる。


 だが、ここは内陸の辺境伯領。海までは馬車で飛ばしても一週間。

 冷凍魔法で運んでも味は落ちるし、ドリップが出る。干物や塩漬けじゃ満足できない。

 俺が求めているのは、漁港で食べるような「生」の鮮度なのだ。


 どうすればいい?

 金貨を積んでも買えないなら、ポイントで解決するしかない。

 俺は再びウィンドウを開き、検索をかけた。

 もちろん、ただの買い物じゃない。「投資」になる買い物を探すのだ。


【検索:運搬、生体保存、鮮度維持、低コスト、自動化】


 数千件のアイテムがヒットする中、俺は「配送・物流」カテゴリで運命の出会いを見つけた。


【輸送用スライム(極冷・無菌タイプ)】

 価格:20,000pt(繁殖用ペアセット)

 説明:体内が常に4℃の無菌状態に保たれた特殊改良スライム。取り込んだ有機物を消化せず、時間を凍結させたかのように鮮度を保存する性質を持つ。衝撃吸収性にも優れ、長距離輸送に最適。

 ※特記事項:スライムの体液には微量のアミノ酸が含まれており、保存中に食材の旨味が増します(熟成効果)。


「これだ……ッ!!」


 俺の脳内で、完璧なビジネスプランが構築された。


 ①このスライムを購入し、繁殖させる。(初期投資2万pt、安い!)

 ②クラウス商会と提携し、港町から「生きたまま」あるいは「朝獲れの鮮度」で魚を運ばせる。

 ③この「絶対鮮度配送システム」を使えば、内陸部の貴族に海産物を高値で売れる。

 ④俺は技術提供者として、売上の5%をポイント変換する契約を結ぶ。

 ⑤ついでに、俺はタダで最高級の刺身が食べ放題。


「完璧だ……。食欲を満たしつつ、寝ていてもポイントが入る『不労所得システム』の完成だ!」


 俺はニヤリと笑い、購入ボタンを連打した。


 ◇


 翌日。

 屋敷に呼び出されたクラウス商会の支店長、クラウスさんは、テーブルの上に置かれたプルプルと震える透明な青い物体――輸送用スライムを見て、絶句していた。


「ル、ルークス様……。聖大根の次は、モンスターの養殖ですか? 商会としては、もう何が起きても驚かないつもりでしたが……」

「ただのスライムじゃありません。これは『物流革命』の種ですよ」


 俺はスライムの中に、用意しておいたトマトを放り込んだ。

 ずぷん。

 トマトはスライムの体内に飲み込まれたが、溶ける様子はない。むしろ、ひんやりとした冷気に包まれ、瑞々しさを保ったまま、スライムの中心で浮遊している。


「こいつの体内は、天然の保冷車です。しかも揺れません。馬車がどれだけガタついても、スライムの体が衝撃を吸収してくれます。つまり、港で獲れた魚をこいつに放り込めば、獲れたての鮮度のまま、ここまで運べるってわけです。魔法石による冷却コストもゼロです」


 俺の説明を聞くうちに、クラウスさんの目の色が変わっていった。

 聖大根の時と同じ、狂気じみた「商人あきんど」の目だ。計算機そろばんを弾く音が聞こえてきそうだ。


「……鮮度を維持したままの、内陸部への海産物輸送。魔法石コストの削減。もしこれが実現すれば、王都の食文化が根底から覆ります。魚といえば干物か塩漬けしかなかった貴族たちが、金貨を積んででも欲しがるでしょう。……『刺身』という文化が、内陸でも流行るかもしれません」


 クラウスさんは、計算高い顔で眼鏡を押し上げた。


「やりましょう、ルークス様。すぐに港町の支店に手配します。専用の『スライム便』ラインを構築しましょう。……で、契約条件は?」

「売上の5%をポイント(商品価値換算)で。あと、俺の家への配送分は無料、かつ最優先で最高級品を回すこと。中トロ以上限定でね」

「……相変わらず、農民とは思えないえげつない交渉術ですね。承知いたしました!」


 商談成立。

 俺たちはガッチリと握手を交わした。

 これで、俺の懐は痛みもしない。完全な勝ち確ゲームだ。


 ◇


 それから一週間後。

 ついに、記念すべき「スライム便」の第一号がリーフ村に到着した。

 荷台には、巨大な透明な球体(成長した輸送用スライム)がいくつも積まれている。

 その中には――


「おおぉぉぉ……!! 赤い! 銀色! 輝いている!」


 俺は歓声を上げた。

 スライムの体内には、見事な本マグロのブロック、銀色に輝くキングサーモン、そして殻付きのホタテやボタンエビが、まるで水族館のように美しく保存されていた。

 スライムたちは「運んできたよ~」と言わんばかりに、プルプルと体を揺らしている。


「さっそく解体だ! マリアさん、聖大根のツマと、特製わさびの準備を!」

「はい、ルークス様! ……まあ、これが海の魚ですか。宝石みたいですねぇ」


 俺はスライムから食材を取り出し(スライムが嫌がらずに吐き出してくれるよう、事前に魔力餌で調教済みだ)、包丁を握った。

 職人ゴードンに打ってもらった、刺身包丁(ミスリル製)が唸る。


 まずはマグロのサク。

 包丁を入れる。

 スッ……と抵抗なく切れる身。包丁の表面に、上質な脂がねっとりと絡みつく。

 断面は鮮やかな赤とピンクのグラデーション。きめ細やかなサシが入っており、見ているだけで口の中が潤んでくる。

 スライムのアミノ酸熟成効果のおかげか、獲れたてよりも旨味が凝縮されているようだ。


 次にサーモン。

 オレンジ色の身は弾力があり、脂が乗ってテラテラと光っている。

 ホタテは殻を開くと、肉厚な貝柱が鎮座している。繊維の一本一本が立っているのがわかる。


 数分後。

 食卓には、夢にまで見た『特選・海鮮丼』が並んだ。

 酢飯(もちろん聖大根の酢を使用し、黄金小麦を混ぜた特別ブレンド)の上に、大トロ、中トロ、赤身、サーモン、イクラ、甘エビ、ホタテが、これでもかと敷き詰められている。

 醤油をかけると、脂がパッと弾け、琥珀色の輝きを放つ。


「い、いただきます……ッ!」


 俺は震える手で箸を持ち、わさび醤油を垂らした大トロを口に運んだ。

 

 ――とろける。


 舌の上に乗せた瞬間、体温で脂が解け出し、濃厚かつ上品な甘みが口いっぱいに広がる。

 噛む必要すらない。

 鼻に抜けるツンとしたわさびの香りと、酢飯の酸味が、脂の重さを中和し、次の一口を誘う。


「んんん~ッ!! 海だ! 口の中が太平洋だ! いや、アトランティスだ!」


 俺は涙を流して天井を仰いだ。

 生きててよかった。転生してよかった。

 この一口のために、俺は300万ポイント稼いだと言っても過言ではない。


「主よ、ズルいぞ! 我にも寄越せ! その赤いのを!」


 隣でヨダレを垂らしていたフェンにも、洗面器サイズの特大海鮮丼を出してやる。

 フェンは最初は「生魚か……? 猫じゃあるまいし」と怪しんでいたが、サーモンを一口食べた瞬間、目がカッと見開かれた。


「な、なんだこれは……! 肉とも違う、この滑らかな食感! 口の中で消えたぞ!? それにこのイクラという赤い玉……プチプチと弾けて、中から濃厚な味が……! 美味い! これならいくらでも入る!」


 フェンは猛烈な勢いでガツガツと平らげ、「おかわり!」と叫んだ。

 どうやら、陸の最強魔獣も、海の幸の虜になったようだ。


 その時。

 俺の視界の端に、システムログが流れた。


 【システム通知:新商品『スライム直送・海産物』の流通を確認】

 【ロイヤリティ収入発生:5,000pt】

 【ロイヤリティ収入発生:5,000pt】

 【ロイヤリティ収入発生:3,000pt……】


 どうやら、同時に王都へ運ばれた分も、飛ぶように売れているらしい。

 刺身を食べている間にも、チャリンチャリンとポイントが入ってくる。

 美味い飯を食って、金が増える。

 これぞ、最強のポイ活ライフだ。


 ◇


 宴の後。

 俺は満たされた腹をさすりながら、運び込まれた残りの荷物を整理していた。

 クラウス商会の手際で、魚以外にも珍しい海産物が色々と届いている。

 昆布、ワカメ、そして綺麗な貝殻や珊瑚などだ。


「ん? なんだこれ?」


 最後の一つのスライムの中に、魚に混じって、異質なものが紛れ込んでいるのに気づいた。

 それは、手のひらサイズの巻き貝だった。

 だが、ただの貝ではない。

 真珠のような乳白色で、表面には見たこともない幾何学模様が、人工的に刻まれている。

 そして何より、内側から淡い青色の光を放っていた。


「綺麗な貝だな……。お土産か?」


 俺は何気なくスライムからその貝を取り出し、耳に当ててみた。

 海に行くと、貝殻から波の音が聞こえるというあれだ。

 食後のリラックスタイムに丁度いい。


 だが、聞こえてきたのは、波の音ではなかった。


『…………て……』


 ノイズ混じりの、微かな声。

 鈴を転がすような、透き通った女性の声。


『……だれか……助け……て……』

『……海が……蝕まれて……いく……深淵アビスが……』


「!?」


 俺は驚いて貝殻を離した。

 空耳か? いや、はっきりと聞こえた。

 助けを求める悲痛な声。

 そして、その声と共に、貝殻の光が弱々しく明滅している。


 【鑑定結果】

 【人魚の歌貝メッセージボトル

 レアリティ:SR

 説明:人魚族が緊急時にのみ流す、救難信号。魔力を帯びた声が封入されている。


「主よ、どうした? 変な顔をして。デザートのプリンはまだか?」


 フェンが口の周りに米粒とイクラをつけたまま寄ってきた。


「……いや、なんでもない」


 俺は貝殻をそっとポケットにしまった。

 満腹の幸福感に水を差したくなかったし、気のせいだと思いたかった。

 だが、俺のスキル『危険察知』が、チリチリと微弱な反応を示していた。

 そして何より、さっきまで鳴り止まなかったポイントの通知音が、ピタリと止んだ気がした。


 この貝殻は、ただの漂流物じゃない。

 遠い海の彼方から、ルークス(俺)というイレギュラーな存在に助けを求めるために流れてきた、運命の招待状だ。


 新鮮な魚を求めた俺の欲望が、期せずして、次なる冒険への扉を開いてしまったのかもしれない。

 「不労所得でスローライフ」という俺の夢は、どうやら海流に流されてしまいそうだ。

 俺は窓の外、遠く離れた海の方角を見つめ、小さくため息をついた。


 ……まあ、美味い魚が食えるなら、人助けくらいしてやるか。

 ポイントはあるんだ。海の一つくらい、買い取ってやるさ。


【読者へのメッセージ】

第二百五十八話、お待たせいたしました!

今回は、ご指摘いただいていた「ポイント要素」を全開でお届けしました。

未回収ボーナスの大量獲得による「ポイ活の快感」。

そして、スライムを使った物流システムによる「不労所得の構築」。

ルークスの原点である「計算高さ」と「食への執着」を楽しんでいただけたでしょうか?

トロける中トロの味を想像して、お腹を空かせていただけたら本望です。

しかし、美味しい話だけで終わらないのがこの物語。

最後に届いた「人魚からのSOS」。

海の世界でも、何やら不穏な動きがあるようです。

ルークスは再び厄介事に巻き込まれてしまうのか?

次章「人魚族編」へのプロローグ、ここから始まります!

続きが気になる方は、ぜひブックマークと評価をお願いします!


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