第二百三話:王都大改革! スラム農園と、消えゆく莫大な富
一夜にして十万ポイントという巨万の富を手に入れ、王都の裏社会すら震え上がらせた翌朝。
俺、ルークス・グルトは、『夕暮れ亭』の前に広がる広大なゴミ捨て場――もとい、空き地を見下ろしながら、王者の風格で腕を組んでいた。
「……よし、買うか」
懐には、輝く『王室御用達』の金看板。
ウィンドウの残高は『108,500pt』。
この圧倒的な資本力を背景に、俺は朝一番で地主(スラムを牛耳る強欲な悪徳商人)を呼び出し、交渉――という名の「通告」を行った。
「こ、これはルークス様! この土地を買い上げたいと!? しかしここはゴミ溜めで……」
「構わん。言い値で買おう。ただし、この看板に恥じない『適正価格』でな」
俺が金看板をチラつかせると、地主は「ひぃっ!」と悲鳴を上げ、相場の半値以下で土地の権利書を差し出した。権威とは素晴らしい。
「フェン、見ろ。今日からここが俺たちの『王都第一農園』だ」
「ふん。今はただの悪臭漂うゴミ山だがな。主よ、本当にここを野菜畑にするのか?」
「ああ。俺の『土壌改良』と『植物操作』があれば、一瞬で緑の楽園に変わるさ」
俺は自信満々に笑い、空き地の中心に立った。
ここを農地に変えれば、新鮮な野菜が無限に供給され、スラムの食糧事情は改善し、俺には感謝ポイントが雪崩のように入ってくる。完璧な永久機関だ。
俺は右手を地面にかざした。
「さあ、蘇れ大地よ! スキル発動――『土壌改良【中級】』!」
ブワッ!
魔力の波紋が広がり、腐ったゴミやヘドロが浄化され、黒々とした肥沃な土へと変わっていく。
悪臭が消え、大地の香りが広がる。
よし、完璧だ。消費ポイントは広範囲指定で『5,000pt』。安い投資だ。
――と、思った、その数秒後だった。
ボコッ、ボコボコッ……。
浄化されたはずの土の表面が、まるで沸騰するように泡立ち始めた。
次の瞬間、地面の底からドス黒い粘液が染み出し、あっという間に肥沃な土を飲み込んで、元のヘドロへと戻してしまったのだ。
「……は?」
俺は呆然とした。
何が起きた? スキルは成功したはずだ。なのに、なぜ元に戻る?
俺は慌てて『鑑定(Lv.MAX)』を地面に向けた。
【鑑定結果:王都の複合汚染地帯】
【状態:重度汚染】
【詳細:過去数百年にわたり投棄された生活排水、錬金術の失敗廃液、魔法実験の残滓、魔物の死骸などが地層深くまで浸透し、呪いにも似た『自動汚染サイクル』を形成している】
【警告:通常の浄化魔法では、数秒で再汚染されます】
「……マジかよ」
冷や汗が背中を伝う。
ここはただのゴミ捨て場じゃなかった。王都の歴史が生み出した、巨大な「毒の沼」そのものだったのだ。
表面を綺麗にしても、地下から湧き出る毒がすぐに全てを無に帰す。
「解決策は……あるのか?」
【推奨対策:『聖域結界(浄化属性)』による常時圧殺】
【維持コスト:毎時 1,000pt】
「毎時、千……!?」
俺は頭の中で素早く計算した。ブラック企業時代に培った、資金繰りの計算だ。
1時間で1,000pt。
24時間で24,000pt。
今の所持金は約10万pt。つまり、何もしなければ――
「よ、四日で破産するぞ……!?」
俺の顔から血の気が引いた。
永久機関どころか、とんでもない「金食い虫」を抱え込んでしまった。
だが、もう土地は買ってしまった。ここで撤退すれば、ただポイントをドブに捨てただけになる。
「……やるしかない。自転車操業を回すんだ!」
俺は震える指で『聖域結界』を購入し、展開した。
半透明のドームが土地を覆い、強引に汚染を抑え込む。
チャリン……チャリン……。
1秒ごとにポイントが減っていく音が、俺の心臓を削る。
「急げ! 一刻も早く畑を作って収益化しないと、死ぬぞ!」
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俺はスラムの住人たちを集めた。
『夕暮れ亭』の常連客や、その家族たちだ。
「みんな、聞いてくれ! この土地を開墾する! 給料は払う! 力を貸してくれ!」
だが、集まった人々の姿を見て、俺は言葉を失った。
彼らは皆、痩せこけ、目が窪み、立っているのがやっとの状態だった。長年の栄養失調と、スラムの劣悪な環境による病魔。
クワを振るうどころか、石一つ運ぶ体力すらない。
「……旦那様。俺ら、働きてぇけど……体が言うこと利かねぇんだ……」
一人の男が、申し訳なさそうに咳き込んだ。
これが現実だ。
「働かざる者食うべからず」? そんな綺麗事は、健康な奴らの理屈だ。ここでは、「食わせなければ、働くことすらできない」。
俺はウィンドウを見た。
結界の維持費で、既にポイントは減り続けている。
だが、ここでケチれば、労働力は確保できない。
「……くそっ、先行投資だ! 全部、未来のための投資だッ!」
俺は叫び、アイテム交換タブを連打した。
【アイテム交換:『下級ポーション(業務用樽)』 3,000pt】
【アイテム交換:『スタミナ増強・栄養食セット』 × 100人分 5,000pt】
【アイテム交換:『清潔な作業着』 × 100着 2,000pt】
一瞬で一万ポイントが消えた。
俺はポーションを水で薄め、栄養食と共に住民たちに配った。
「飲め! 食え! そして元気になって、俺のために働いてくれぇッ!」
「う、うめぇ……! なんだこれ、力が湧いてくるぞ!」
「痛みが……体の痛みが消えた!」
ポーションと飯を平らげた住民たちの顔に、生気が戻る。
彼らは涙を流しながら、俺に感謝した。
「ありがとう、ルークス様! 俺ら、死ぬ気で働きます!」
「この命、旦那様に預けるぜ!」
彼らは雄叫びを上げ、ガレキの撤去作業を開始した。その動きは見違えるほど力強い。
だが、俺の顔は引きつっていた。
【現在の所持ポイント:65,000pt】(※土地代、結界維持費、初期投資含む)
まだ昼前だというのに、もう四割も資産が溶けた。
このペースはまずい。本当にまずい。
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夕暮れ時。
住民たちの懸命な働きと、俺の『植物操作』の力で、汚染地帯の一角に、小さな「試作農園」が完成していた。
結界によって浄化された土の上には、瑞々しい葉を広げた「二十日大根」と「ほうれん草」が実っている。
王都の市場に並ぶ萎びた野菜とは比べ物にならない、生命の輝き。
「す、すげぇ……。本当に、こんなゴミ山で野菜が……」
「宝石みたいだ……」
作業を終えた住民たちが、泥だらけの手で野菜を愛おしそうに撫でている。
俺はその場で収穫したラディッシュを、彼らに振る舞った。
「食ってみろ。これが、お前たちが作った最初の成果だ」
男が一本かじり――そして、ボロボロと大粒の涙を流した。
「……あめぇ。……辛くて、甘くて……土の味がする……」
「ああ、美味い……本当に美味いよぉ……」
スラムに響く、咀嚼音と啜り泣く声。
それは、絶望に覆われていたこの場所に、初めて「生産」という光が灯った瞬間だった。
【通知:スラム住民の深い感謝と感動。……ボーナス +500pt】
【通知:初収穫ボーナス +1,000pt】
チャリン、とポイントが入る。
だが、焼け石に水だ。結界は今も毎時1,000ptを食らい続けている。
俺は皆に見えないよう、こっそりとウィンドウを確認した。
【現在の所持ポイント:32,400pt】
……やばい。
マジでやばい。
たった一日で、七割以上の資産が消し飛んだ。
王都の物価(維持費)をナメていた。スラムの闇は、俺の想像よりも遥かに深く、金がかかる。
明日も結界を維持し、みんなに飯を食わせるためには……もっと稼がなきゃいけない。
爆発的に、継続的に。
「……ははっ。まるで前世の決算期だな」
俺は乾いた笑いを漏らし、夕焼けに染まる農園を見つめた。
だが、その目は死んでいない。
この自転車操業、絶対に漕ぎ切ってみせる。
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そんな俺たちの様子を、遠く離れた建物の屋上から見つめる集団がいた。
純白のローブに身を包み、胸に聖なる十字の紋章を刻んだ者たち。
この国の国教、「聖教会」の神官たちだ。
「……見ろ。あの穢れた土地が、不自然な緑に覆われている」
リーダー格の男が、侮蔑と警戒の混じった声で呟く。
「神の定めた『腐敗の理』を、人為的にねじ曲げるとは……。あれは錬金術か? それとも、異端のドルイドの技か?」
「報告が必要ですな、司教様。……あの農民、ただの『王室御用達』ではないようです」
白いローブが風に翻る。
「自然の摂理を乱す者は、神の敵だ。……監視を続けよ」
ポイント残高の危機に頭を抱える俺は、まだ気づいていなかった。
宰相オルコとは違う、正義という名の新たな「壁」が迫っていることに。
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読者の皆様、第二百三話「王都大改革! スラム農園と、消えゆく莫大な富」をお読みいただきありがとうございました!
十万ポイントもあったのに……!
リアルすぎる「維持費」と「人件費」の壁。
最強の農民といえど、経営の難しさはモンスター以上!?
ここからどうやってV字回復するのか、ルークスの手腕にご期待ください!
次回、第二百四話。
「聖女の来訪と、枯渇するポイント」。
教会からの使者、そしてポイント節約のための「究極のドケチ農法」とは!?
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